対悪魔と新武器
悪魔は大きく分けて三つの種類に分けられます。
下級種・中級種・上級種の三つで、ランク的には下からC・B・Aとなります。
特徴は下級種は獣や虫の姿をしていたりしていて、悪魔の中でももっとも数が多く、人の要素が入っていないのが特徴です。
中級種は人をベースに、獣や昆虫といった多種多様な生物の要素が組合わさった見た目をしています。
そして上級種は完全に人の見た目をしているのが特徴です。
今会場に現れた悪魔はその見た目から中級種、つまりはBランク相当の存在だと言うことです。
以前に倒したCランクのゴブリンキングを倒しているからと言って安心はできません。
ゴブリンキングは確かにCランクのモンスターではありますが、
位置付け的にはCランクの下位のモンスター。
対して中級種の悪魔はBランクの上位。その個体によってはAランクの下位とも言われるほどのモンスターです。
正直、これほどまでのモンスターとは対峙したことはありません。
「キンバリー様、私からは今すぐ逃げることをおすすめします」
「確かに、あれはヤバいな。正直に言うと、悪寒が止まらん」
顔色が若干悪くなっているキンバリー様ですが、一瞬も悪魔から視線をそらしてはいません。
恐らくあの悪魔から目を話した瞬間、殺されてしまうと感じているからでしょう。
実際、あの悪魔にはそれができるだけの力がありそうですし。
「フェリル、無謀だとは分かっているが答えてくれ」
「なんですか?」
「お前ならあの悪魔を倒せるか?」
悪魔はまだ動いてはいません。
贈り物が置いてあったテーブルの上に立ったままです。
しかし、その視線は会場にいる人達を品定めしているかのようです。
つまりは、どういう基準があるかは分かりませんが、あの悪魔の気分次第でこの膠着状態も終わるということでしょう。
そうなる前に、あの悪魔の情報を集めます。
~ステータス~
名前:シェナキア
Lv50
種族:悪魔
性別:なし
年齢:126
~スキル~
[闇魔法Lv5][火魔法Lv3][風魔法Lv3]
~称号~
【殺戮者】
鑑定してみると、改めてヤバい相手だと分かります。
街の周辺にいるモンスターの平均的なレベルが20前後。
街から離れるほどにレベルは高くなっていきますが、それでもレベルが40を越えるモンスターはそうはいません。
だと言うのに、目の前にいる悪魔のレベルは50。
この場にいる人達にとっても、そして私にとってもレベル的には格上の相手です。
「多分ですけど、勝てるとは思います。でもその場合、キンバリー様の護衛は不可能になってしまいます」
自惚れでも過信でもなく、あの悪魔には勝てるでしょう。
確かにレベル的には負けてますが、悪魔と魔狼のモンスターとしての格では私の方が勝っています。
例えば同じ人形のモンスターでも、レベルが同じなEランクのモンスターであるゴブリンとCランクのオーガではオーがの方が強くなります。
ですのでそのモンスターの危険度というのはレベルの高さだけではなく、モンスターのランクも合わせて導き出されるのです。
目の前の悪魔がBランク相当なのに対し、魔狼の一般的なランクの区分はAランク上位からSランク相当。
机上の空論になってしまいますが、私に分があります。
とは言っても、不安要素はまだまだ残って……
「……っ!」
遂に悪魔が私たちを視界にとらえます。
モンスター特有の赤い目が私を、そしてキンバリー様を見つめてきます。
すると悪魔はニヤリと笑ったかと思うと、魔法による風の刃を飛ばしてきました。
風の刃がキンバリー様目掛けて飛んできますが、キンバリー様を抱えて横に移動しどうにか回避します。
回避したのもつかの間、再び風の刃が私達を襲ってきます。
「フェリル! ヤツの狙いは私のようだ!」
「みたいですね」
さっきの攻撃でもそうでしたが、あの悪魔はキンバリー様を狙っているようです。
最初の攻撃の時も、近くに私や他の貴族がいたのにも関わらず、キンバリー様だけに風の刃を飛ばしてきました。
今も私が抱えているキンバリー様だけを狙って、風の刃が飛んできています。
「フェリル。ヤツを倒してくれるか?」
「……私があの悪魔と戦う場合、キンバリー様の護衛は出来なくなりますよ?」
「構わん。 あの悪魔さえ倒せば攻撃されることもなくなるからな」
「それは、そうですけど」
「それに、私も魔法は使えるし、腕に自信はあるからな」
Bランクのモンスターの魔法攻撃ですから、いくら魔法の腕に自信があったとしても、いずれは防御を突破されてしまうでしょう。
しかし、私があの悪魔と戦闘に入ってさえしまえば、キンバリー様への攻撃も中断されるでしょう。
その分、私が攻撃の魔とになるでしょうけどね……。
牽制のためにスカートの中に隠していたナイフを一本、悪魔目掛けて投げつけます。
普通のナイフならば中級種の悪魔には傷もつけられないでしょうが、あのナイフには切れ味上昇の効果と、麻痺付与の効果を付与しておきました。
見た目はただのナイフですから、あの悪魔も気づいてはいません。
生半可な武器は通用しないという自信の防御力の高さのせいか、悪魔は回避しません。
その結果が、自身の左肩に深々とナイフが突き刺さるというものになりました。
『なに!?』
左肩に刺さったナイフを唖然とした様子で見ていた悪魔は次の瞬間、怒りに顔を歪めます。
しかし、すぐに麻痺の効果が現れ悪魔の動きが鈍くなります。
本来なら麻痺の効果で動けなくなるはずなのですが、Bランクのモンスターともなると数秒だけ動きが鈍くなる程度にしか効いていません。
それでも、その数秒があれば十分です。
「分かりました。任せてください」
抱えていたキンバリー様をおろし、すぐさま悪魔へと向かっていきます。
流石に接近する頃には麻痺の効果もなくなっていて、反撃をしてきます。
私との距離が近いからか、悪魔は右腕の鋏で挟もうとしてきます。
私は身体を深く沈み込ませ、回避しつつナイフを振ります。
しかし、さっきの麻痺の件があるせいで悪魔も私のナイフの攻撃を回避します。
そこからはお互いに相手の攻撃を避けてからカウンターを狙う、という動作が繰り返されます。
私と悪魔で違うのは、悪魔は最初の位置から動いていないのに対し、私は前後左右や上から下からと、縦横無尽に動き回っている点です。
『やりにくいな。不愉快だ』
「それはどうも。不愉快に感じたのなら帰って貰いたいんですけどね」
『図に乗るなよ、小娘が。殺してやる』
「別に図に乗ってはいないですよ。まぁ、その小娘相手に攻撃も当てられてないあなたに殺すって言われても、怖くはないですね」
『……楽に死ねると思うな!』
簡単に挑発に乗ってくれましたね。
それなりの力を持っている中級種の悪魔ともなれば、苦戦したという経験も少ないでしょう。
鑑定でもあの悪魔の年齢が126歳となっていましたから、見た目が小娘の私の挑発にも乗ってくれると思っていました。
この悪魔との戦闘で一番警戒すべき点は、魔法攻撃です。
私なら余裕で避けれますが、まだ会場内にいる人達は避けることは出来ないでしょう。
だからこそ接近戦を挑み、冷静さを欠くように挑発をしているのです。
そのかいもあって悪魔の攻撃は殴るか挟むか、馬の脚で踏みつけてくるかの単調なものになっています。
……とは言っても、このままだとお互いに決定打がないので一進一退の状態が続いてしまうんですよね。
そしてその場合、悪魔も冷静さを取り戻してしまってまた魔法を使ってくるでしょう。
「出し惜しみはしていられませんね」
そろそろ勝負に出ます。
まず、足を滑らせた風を装って体制を崩します。
悪魔はそんな私を見て醜悪な笑みを浮かべると、鋏を使って私の首を捻り飛ばそうとしてきます。
ナイフで鋏の攻撃を受け流すと、今度は馬の脚で蹴りあげてきます。
今度は受け流したり避けたりではなく、ナイフで正面から受け止めます。
流石に完全に受け止めることはできず、私の身体は天井近くまで浮かされてしまいました。
『消えろ!』
悪魔はここぞとばかりに火球の魔法を撃ち込んできます。
私は苦し紛れな体を装い、悪魔目掛けてナイフを連続で投げつけます。
悪魔の放った火球と私が投げたナイフがぶつかり合い、小さな爆発が発生します。
その爆発は悪魔の視界を一瞬だけ塞ぎ、私の姿を見失うこととなりました。
そして、その一瞬の間にアイテムボックスから奥の手を取り出します。
私の右手に握られたのは、以前の盗賊討伐の際に手にいれたミスリルやオリハルコンをふんだんに使用して作られたリボルバー形の拳銃です。
グリップ部分や各種パーツはミスリルを使用し、銃身や弾倉部分はオリハルコンで作製してあります。
拳銃とは言っても実弾を打ち出すわけではなく、魔力を銃弾に見立てて打ち出します。
更には属性石を素材にした銃弾を使用すれば、各属性の魔法攻撃も行うことが出来るようになっています
私は魔法が使えませんから、魔法の代わりになる魔道具を作ることが出来て一安心です、
「試し打ちはしてますけど実戦ではどの程度使えるのか、試してみましょう」
早速悪魔に狙いを定めて魔力の銃弾、魔弾を撃ち込みます。
この銃はグリップ部分に魔力を込めると、その魔力が弾倉内の銃弾に蓄積。
引き金を引くことで銃弾内の魔力を放出して、魔弾として打ち出すという仕組みです。
流石に魔弾の早さは実銃よりかは遅くなってしまいますが、それでも十分な早さで撃ち込めます。
悪魔目掛けて撃ち込んだ魔弾は数発は外れてしまったものの、身体と右腕の鋏に命中します。
身体の方は魔弾が当たった箇所は穴が開き、右腕の鋏の方は軽いヒビが入りました。
次は属性石の銃弾です。
火の魔弾は周囲への影響を考えると使えないので、土の魔弾を使用して岩の銃弾を撃ち込みます。
こちらは身体の方は魔弾が貫通し、鋏の方は砕け散ってしまいました。
『馬鹿な馬鹿な、馬鹿な! ありえないだろうがっ!』
「これで最後です」
最後に使う弾丸は風の魔弾。
しかしこの銃弾は属性石は使用しておらず、代わりに使用しているのは風竜の爪を加工したものです。
素材としての価値も属性石よりも風竜の爪の方が高く、込められている風の魔力も桁違いです。
ですから、他の銃弾と比べ威力が高くなることは明白です。
その分結構な魔力を使いますけどね。
打ち出された風の魔弾は刃と変化し、悪魔へと迫ります。
悪魔も負けじと風の刃を飛ばしてきます。
二つの風の刃がぶつかりますが、威力は私の方が強かったようで悪魔が放った刃を両断し、勢いが衰えることなく悪魔の身体を縦に切り裂きました。
そして悪魔は断末魔をあげる間もなく死に、その身体は霧のように霧散してしまいました。
後に残されたのは戦闘の跡が残るパーティー会場と、多くの貴族たちの私を見つめる視線だけでした。
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