帝国王子とメイド服
グランバス帝国。
大国の中でも国力を比べた場合、上位に数えられる程の力を持っている。
特に軍事力においては最強だとも言われているほどの実力を持っています。
「キンバリー殿。来客中失礼! 少々お話が……」
そんな帝国の王子が今まさに目の前に居るわけですけど。
さすが王子だけあって容姿端麗ですね。
それに身に付けている宝石類もただの宝石じゃなく、護身用の魔道具ですしね。
あれ一つだけでも軽く金貨が十枚以上は飛んでいくでしょうね。
「お客人。突然失礼し……」
「……?」
「美しい」
「は?」
「お嬢さん。よければ僕と結婚を前提に付き合っていただけませんか?」
何を言ってるんでしょうかこの人は。
私は鑑定を使ったからこの人が帝国の王子だと知っているからそこまで混乱はせずにすみましたけど、普通の人なら突然求婚を迫られた状況ですからね。
思わずキンバリー様を見てしまいますが、キンバリー様も突然のことに呆気にとられて……はいませんね。
掌で顔をおおって呆れてしまっています。
私たちが固まっていると、一緒に入ってきた騎士の人が止めてくれました。
「アラン様。そういった言動はお控えください。帝国の王子なんですから、それに見合った言動を心掛けてください」
「そうは言ってもね。目の前にこんなに美しい女性が居るんだよ? 声を掛けなければ失礼じゃないか」
「そんなわけないでしょ。色ボケ王子」
「……最後、何て言った?」
「何も」
明らかに王子と騎士との会話のようには聞こえません。
普通騎士が王子にそんな口を利けば、まず間違いなく処罰されてしまうでしょう。
それなりに二人は仲がいいんでしょうか?
あと、声の高さ的にどうやら騎士の人は女性のようですね。
この世界はどちらかと言えば男尊女卑の傾向がまだ根強く残っています。
ですので、騎士や政治に関わる人なんかは男性ばかりで、女性でそういった人が居れば噂になるぐらいです。
「すまんなフェリル。この方は帝国の王子で、ルーティアラン殿だ。訳あって私の屋敷に滞在して貰っている」
「気軽にアランと呼んでくれ!」
なんと言うか、良い意味で王子っぽく無いですね。
世間一般の王子、というか貴族階級の人と言えば平民に対してここまで気軽に話し掛けてはこないと言うのが、世間一般のイメージですからね。
むしろここまでフレンドリーだと、何か裏があるんじゃないかと変に勘ぐってしまいます。
「フェリル様、でよろしいですか」
「え? あ、はい」
「アラン様は美しい女性が好きなだけの色ボケバカなだけですから。あまり深く考えるだけ無駄ですよ?」
「カレン? 流石の僕もそこまで言われたら泣くよ?」
「事実でしょう?」
騎士の女性はカレンと言う名前のようですね。
アラン様はカレンさんの言葉に反論できず、目線をそらしてしまいました。
「ところでアラン殿。どうなされたのですかな?」
「え? あぁ、そろそろ王都へ出発しようと思ってな。その相談に来たんだ」
「私としてはもう少し様子を見た方がいいと思いますが」
どうやら以前私と義賊の人達で壊滅させた盗賊たちのせいで、アラン様たちは立ち往生しているようです。
その盗賊たちはすでに壊滅してるんですけど、義賊と関わってたなんてことは流石に公言できませんからね。
街中でも盗賊討伐の類いの話しは出てなかったですし、冒険者ギルドでもそういった話題はあがってなかったですしね。
キンバリー様やアラン様には申し訳ないですけど、黙っていさせて貰いましょう。
「ま、別にいつまでに王都に行かなきゃならないって訳じゃないからな」
「私の騎士たちにも盗賊の討伐を命じてますから。さほど時間は掛からずに済むと思いますよ」
「ならは、気楽に待たせて貰おう」
途中で予期せぬ乱入なんてものもありましたが、ひとまずは話し合いも終わりました。
とは言ってもこれで終わりではなく、まだやることは残ってますけど。
それは衣装合わせです。
流石にパーティーにこの服で出るわけには行かないので、侍女の服を着なくてはいけません。
そのため、別室でこの屋敷の侍女の人と服合わせをしています。
「サイズは大丈夫そうね。どこかきついところはあるかしら?」
「きつくはないですけど……」
……足元がスースーして、落ち着かないです。
この世界に来て二十年。女性として生きてきましたけど、前世では男だったせいもあって、スカートの類いは着たことがなかったので、すごく恥ずかしいです。
来ている服は落ち着いた感じのメイド服です。
スカートもミニスカートではなく、膝下ぐらいまであります。
しかし護衛として参加するとなると、どこに武器を仕舞っておくか悩みますね。
アイテムボックスから直接出しても良いんですけど、それだと出す物を選んでから取り出すまで時間が僅かにかかってしまうので、どこかに隠しておきたいです。
「でしたら、太股辺りに隠しておけばいいんじゃないかしら。そうすればスカートで隠してるのも見えないし、取り出すのもポケットの中とかに比べたら楽なんじゃない?」
「なるほど。試してみますね」
「それじゃ、私は飲み物をとってくるわね」
「はい」
と、侍女さんの話を聞いて試してみます。
とりあえずは太股にナイフを片方に三本ずつ固定します。
部屋の中を歩いてみましたが、多少の違和感はあるものの支障無く動けました。
次にナイフを取り出してみます。
これはしっかりと練習をしないと、ナイフを取り出したときにスカートが捲れてしまいますね。
これは注意しないと。
試しに左右からナイフを一本ずつ取り出してみます。
「やあ! 調子はどうかな?」
「アラン殿! 女性が着替えている部屋には居るのは……」
……えっと、今の状況を確認してみます。
部屋のドアにはキンバリー様とアラン様が居ます。
そして、部屋の中には私が。
そして、試しにナイフを取り出した私は、やはりと言いますか上手くナイフを取り出すことは出来ず、大きくスカートが捲れてしまっている状態です。
すなわち、スカートの中が二人にも見えてしまっているわけでして。
「あー、そのなんだ。すまん」
「お嬢さん。とても可愛らしい下着だよ!」
顔が物凄く暑いです。
キンバリー様はまだ許せます。
でもアラン様にいたっては、いくら王子だとしても殺意が沸いてきてしまいます。
「お二方、早く出てってくださいっ!!」
とんだハプニングがありましたが、衣装合わせも終わりました。
パーティーの開催場所はまだワーテル子爵から教えられていないそうなので、三日後にもう一度ここに来ると言う流れになりました。
さっきのこともあったので目を合わせづらかったです。
アラン様は終始笑顔でしたけど。
とりあえずは、宿屋に帰ります。
まぁ、帰る前に商業ギルドに寄ってお手頃な貴金属をいくつか買っておきます。
依頼に役立ちそうな魔道具をいくつか作っておきたいので。
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「いったい何時になったら儂の荷物は戻ってくるんじゃ!」
苛立ちにまかせて投げられたワイングラスが壁に叩きつけられ、粉々に割れてしまう。
中に入っていたワインが決して安いと言えない絨毯や絵画を汚してしまうが、そんなことも気にならないくらいに儂の怒りはふつふつの沸き上がってくる。
しかし流石に六十を過ぎた身体には、いまの単調な動きですら息があがってしまう。
「ギルドの連中はまだ動かんのか! ワーテル家の命令だと言うのに」
「旦那様、ギルドはあくまてまも中立の立場ですから、貴族として命令してもあまり意味はないかと」
「そんなもの、多少の金を渡せばよいであろう!なんなら、冒険者どもに直接話をつけてこい!」
「はい、かしこまりました」
執事の男は顔に出してはいないが、冒険者に直接話をつけても無駄だろうと感じていた。
ワーテル家は冒険者界隈でも有名だ。それも、悪い方の意味で。
よっぽどお金に困っていたり情報に疎いものでない限りは、ワーテル家関連の依頼など受けないであろうことも。
「忌々しい盗賊どもめ。儂がブロッシュ商会から『あれ』を買うのにどれだけの金を出したと思ってるんだ」
まだ怒りが収まらん。しかし、急がなければ。
あと一週間しか時間がないのだからな。
「キンバリー、あの忌々しい坊主め。領主に相応しいのはこの儂じゃ。あんな坊主よりももっと上手くこの街を発展させて見せる」
儂の頭の中には自分が領主として成功している姿が浮かんでいる。
そして、さらに豪遊している自分の姿が。
「もうすぐ。もうすぐじゃ! グフフフフ」
儂は笑みを浮かべながら、新しいグラスに入れたワインを煽った。
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