宿と来客
二人とも無事に商業ギルドのギルドカードを受けとります。
商業ギルドは冒険者ギルドのカードと違って、ランクは存在しません。
ただギルドへの貢献度、つまりはどれだけ儲けを出してその分の税を納めたかで便宜が図られることがあります。
例えばさっき使っていた個室ですが、本来は一回の使用で銀貨一枚支払うところが無料になったりします。
それ以外でもギルド経由で何かを購入するときに、多少の割引等がされることがあります。
「冒険者ギルドのカードと比べると、なんか派手じゃないっすね」
「うん。質素」
「商業ギルドのカードは、特にランクとかもありませんからね」
冒険者ギルドのカードはランクや称号といった、その人の力を示すための要素が大部分をしめているので、より高いランクになるほど見た目でわかるように豪華になっていきます。
対して商業ギルドのカードは、基本的な利用法方が営業許可の確認なので全てのカードを統一して、一目で商業ギルドのカードだと分かるようにしてあります。
そのためランクも存在せず、カードには名前や年齢といった必要最小限の個人情報が書かれているだけになっています。
「さてと、これで二人の登録はしまいだ。しっかし、フェリルよ。お前さんの仲間、頭よすぎないか?」
「そうですか?」
「ギルドで出した試験の問題、全問正解だったぞ」
「しっかりと教えましたからね」
この世界では一般市民の識字率はかなり低く、それに伴って計算もできる人は少ないのが現状です。
一応過去の勇者達のおかげで大幅に改善はされたようですが、それでもまだ読み書きができない人は多くいます。
そんな中で二人の満点合格者が出たんですから、それは驚かれますよね。
教えた身としては少し誇らしいです!
今日は特にギルドで買い物をするわけでもないので、カードを受け取ったらすぐにギルドを出ます。
さっきギルドで私達を見ていた、おそらく帝国から来たであろう商人達がつけてくるかと思いましたが、尾行してくる気配が感じられません。
うまく隠れているのかと思いましたが、そんな気配もないです。気にしすぎてましたかね?
「さて、今日の目的も全部達成できたので、宿屋を探しますか」
「今日はこの街に泊まるんすか?」
「今の時間なら、日が落ちる前に帰れると思いますけど」
たしかにまだ夕暮れ時ですから走れば変えれるでしょうけど、まだ予定があるんですよね。
予定とは行っても私個人の予定ですけど。
私個人の予定で動いている間、二人にはのんびり過ごしてもらおうと思っています。
家にいてものんびりできるとは思いますけど、せっかくなのでショッピング等をさせてあげたかったので街に泊まることにしました。
まぁ、二人にいったら全力で遠慮されると思うので今は伝えませんけど。
実際今だって、宿屋に泊まってお金を使うよりは家に帰った方がいいって思ってそうですしね。
「明日は私の用事があるので泊まった方が楽なんですよ」
「そうなんすか」
「わかりました」
よかった。すんなり納得してくれました。
しかし、宿屋を探すと行ってもどこにしましょうか?
取りあえず、前に泊まったことのあるところに行ってみましょう。
早速宿屋に向かっていきます。
途中で屋台で大量に料理を買いながら宿屋へと到着します。
宿屋『青い鳥』
異世界で青い鳥と言えば幸運の意味があったからか、こういった名前になったんでしょう。
割りとこの世界では、勇者にあやかって異世界の言葉を使った施設や、日本人のような名前をつけることが多々あります。
「いらっしゃい! ってフェリルじゃないかい! 久しぶりだねぇ」
カウンターにいた中年の女性が元気よく対応してくれます。
彼女はこの宿屋の女将で名前をアリーさんといい、旦那さんのニールさんと二人仲良くこの宿屋を切り盛りしています。
アリーさんの気前のよさと料理を担当しているニールさんの美味しい料理で、この宿屋は隠れた名店と化しています。
「お久しぶりです。三人なんですけど、空いてます?」
「今なら三人部屋が空いてるよ。しかし、少し見ない間に賑やかになったもんだね」
「色々とあったもので。取りあえず二泊の予定です」
「色々ね。まぁ、深く聞きはしないよ。あいよ、二泊だね。あたしはアリーって名前だよ。何かあったら気軽に言っていいからね」
「「よろしくお願いします」」
特に問題が起こることもなく泊まることができました。
早速二階の部屋に移動します。
「疲れたっす~!」
「イジェン。フェリル様の前ですよ」
「気にしなくていいですよ。頭を使って疲れたでしょうし、ゆっくり休んでください」
イジェンは部屋につくなりベットにダイブします。
エルフィアはそんなイジェンを注意していましたが、私の言葉を素直に聞いてくれてベットに腰かけます。
「フェリル様、この後のご予定は?」
「どこかに出掛けるんすか?」
「いえ、今のところは予定はないですよ。後は夕食までのんびりしてましょう」
「「はい!」」
夕食と聞いて二人ともより一層元気な声で返事しましたね。
まぁ、少食であるよりは沢山食べた方が健康的でいいと思いますけどね。
しかし、夕食前にちょっとした来客がありそうですけど。
「ちょっといいかい?」
「なんですか、アリーさん」
「フェリルにお客さんが来てるんだけど、どうしようか?」
部屋のドアがノックされアリーさんから来客を告げられます。
宿屋では宿泊客のプライバシーを守るため、誰が宿泊しているかは誰にも話しません。
仮に今みたいに来客があった場合は一人が来客の対応をして、もう一人が名指しされた人の部屋に行って客人に教えてもいいかを聞く流れになっています。
「どんな人ですか?」
「金髪の男だね。サムって名前だよ」
「サム、サム。あぁ!」
ありふれた名前だから忘れかけてましたけど、この街の領主のキンバリー様。その部下の騎士の人がサムって名前でした!
サムさんが来たってことは依頼の件ですかね?
「わかりました。一応本人か確認に行ってきますね」
「はいっす!」
「はい」
アリーさんと一緒に受付まで向かいます。
階段から受付を見ると、確かにサムさんがニールさんと話しています。
念のため鑑定もしてみましたが、ちゃんと本人です。
「サムさん。お久しぶりです」
「これはフェリル殿。お久しぶりです」
「今日はどうしたんですか?」
「こちらの手紙を貴女に渡すよう言われて来たんです」
「手紙ですか?」
早速中身を見ていきます。
横からアリーさんが「ラブレターかい?」とからかってきましたが、しっかりと否定しておきます。
差出人はやはりキンバリー様で、その中身は依頼に関することが書かれていました。
その中には面接の日時も記されていて、ご丁寧に地図まで付けてくれていました。
面接は形だけだとはいえ、少し緊張しますね。
「ありがとうございます。確かに受けとりました」
「はい。それでは失礼いたします」
サムさんは私が中身を見たのを確認すると、足早に宿屋から出ていってしまいました。
まぁ依頼の関係上、親しく話しているのを沢山の人に見られるのはまずいですからね。
アリーさんとニールさんにお礼を行って部屋に戻ります。
戻ってすぐにもう一度手紙を読み返します。
面接は明日の午後一時からとある屋敷にて行う。
面接は来た人から順番に一人ひとり行っていく。
この面接は形だけのものだが、他の冒険者達に怪しまれないように私も参加する。
と、簡潔にはこういったことが書かれてましたね。
あとは面接が終わった後、他の冒険者は解散予定だが、私はキンバリー様の家へ向かうといったことですね。
明日はイジェンとエルフィアにはショッピングをしてきてもらって、私は予定通り面接を受けてきましょうかね。
そろそろキンバリー様の依頼の件で動きがあると思ってたので、事前に予定を組んでおいて正解でした。
さて、明日からも頑張りますか。
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