テンプレと模擬戦(イジェン)
こちらへニヤニヤと薄笑いを浮かべながら近寄ってくる男たち。
今までこのギルドでは見たことのない顔ばかりなので、おそらくは帝国から来た冒険者たちの中の一組でしょうね。
「ここは手前等みたいな亜人やガキが来る場所じゃねえぞ。とっとと出てけよ」
「そうだ。お前らみたいなガキどもが居たんじゃ、冒険者の恥になるんだよ」
「て言うか、こんな奴らが出入りしてるんじゃ、この国の冒険者たちもたいしたことないんだな」
……ずいぶんと勝手なことを言いますね。
いくら昔の帝国では人間以外は下等だと考えられていたとしても、ここまでハッキリと主張してくるとは思いませんでした。
男たちの発言で、ギルド内の雰囲気が険悪なものに変わりました。
帝国から来た人が多いとは言っても、千人も二千人も来るわけではありません。
更には、来た人たちの全員が冒険者な訳ではなく、その大半は商人達です。
なので帝国の冒険者の数は数十人程度であり、この街のギルド所属の冒険者よりも圧倒的に少ないのです。
更に言ってしまえば、彼らの強さはCランク相当。Cランクの一般的な依頼はこなせるが、それ以上のランクの依頼はまずこなせないであろうといったレベルです。
そして今現在ギルド内にいるこの街の冒険者の殆どが、Cランクで止めている冒険者が殆ど。
かくいう私も、貴族関連の依頼を受けないようにCランクで止めています。
実力も人数も負けているのに、未だに私たちに罵詈雑言を浴びせている男たち五人。
周りから放たれている、殺気ともとれる威圧感を感じとることもできていません。
もう無視した方が楽な気がしてきます。
しかし、こういう輩はほおっておけばまた絡んでくるでしょうね。
どうにかして今後も絡んでこないようにしたいところですが。
どうしましょう?
「どうした?だんまりかよ!」
「俺らにビビって震えてんじゃねえのか?」
なにかいい考えは。
「土下座したら許してやらんこともないぜ!」
「もちろん服を脱いでな!」
「お前、ナイスだな!」
……なにか。
「ほらさっさと脱げよ!」
「ぬーげ!ぬーげ!」
「俺たちが手伝ってやろうか!?」
……。もういいや。
「五月蝿いですよ」
「……あ?」
「五月蝿いって言ったんですよ。耳遠いんですか?」
男たちは、私が言い返してくるとは思わなかったのか一瞬呆けた顔をしましたが、直ぐに顔を真っ赤にして怒鳴り始めます。
「何だと!?」
「弱いテメェら亜人の、しかもガキが!もう謝ったって許してやらねぇぞ!」
「弱い?正直貴方たちが相手なら、私たち三人の誰でも勝てますよ?」
私の発言にイジェンとエルフィアは驚いた顔で私を見ますが、嘘でも誇張でもなく本当にそうだと思っています。
二人とも私特製の、二人専用の魔道具を装備させているので、そこらの冒険者よりは強いはずですから。
強い道具を使った強さは、本物の強さではないと言う人がいますが、私は違うと思っています。
どんなに強い武器や道具であったとしても、まともに使えなければ意味はありません。
高ランクの冒険者なんかは、自分専用の武器や防具・道具を使っていますし、仮にそういった人達の中には強力な武器や防具で成り立っている人も居るのですから。
要は使い方次第なんです。
「テメェら、ブッ殺す!」
男たちは各々の武器を構えていきます。
しかし、
「ギルド内での戦闘行為は禁止ですよ!もしもそのまま戦闘した場合、ランクの降格かギルドカードの没収になりますよ!」
ギルド職員のクレアさんからの注意が入ります。
それを聞いて男たちはさすがに不味いと思ったのか、武器を納めます。
しかし私たちを睨む目は依然として強く、むしろ更に強まりました。
ここで終わってしまうと、後々面倒事がおきますね。確実に。
具体的に言えば、路地裏や街の外での闇討ちですね。
それは出来れば回避したいので、私から提案しておきますか。
「なんでしたら、模擬戦で決着をつけますか?」
私の提案はすんなりと通りました。
向こうも模擬戦ならば、遠慮なく私たちを痛め付けられると考えたのか、むしろ乗り気でした。
一応の模擬戦でのルールは、
・相手を死なせる行為は禁止(死なせた場合、例え故意でなかったとしてもギルドカードを剥奪)
・武器や防具と言ったものは自由。
・魔法は広範囲に影響のあるものは禁止
・イジェンとエルフィアは一対一、私は一対三での模擬戦とする(誰をぶつけるかは男たちの自由)
・模擬戦はひとり一回まで
私が三人を相手するといった時、初めはふざけるなと怒鳴ってきましたが、複数人で私を痛め付けられると考えたのか、にやにやと笑いながらこのルールを承認しました。
と言うわけで、今はギルドの地下にある練習場に来ています。
周りには他の冒険者が見学に来ています。
そして、その殆どが私たちに何かあった場合に助けには入れるように、いつでも動けるようにしています。
ありがたいですけど、今回はその心配も大丈夫そうですけどね。
最初はイジェンの模擬戦です。
イジェンのの武器、というよりも手に持っているものは彼女の姿が完全に隠れるほどの大楯です。
勿論私が作った魔道具なので色々と付与しています。
まずは軽量化で大楯その物の重さを自在に変えることができます。常に軽量化で軽くしていると、重い攻撃を受けてしまえばイジェン自身も吹き飛ばされてしまいます。
更には大楯の内側からは、大楯の向こう側が見えるようにしています。これで視界もちゃんと確保できます。
一先ずはこれくらいですね。後々改良は重ねていきますけど。
対する男たちからは、杖を持ったローブ姿の男が出てきます。
イジェンの大楯を見て、接近戦ではなく遠距離からの攻撃を考えているようですね。
確かに一見すればイジェンの大楯は重そうで、遠距離からの攻撃は防げても距離を詰めることは不可能だと考えますよね。
「イジェン。教えた通り遠慮なくやってみてください」
「了解っす!」
「ヘッヘッへ。じわじわとなぶってやるよ!」
「それでは、開始!」
クレアさんの声で模擬戦が始まります。
ローブ姿の男は早速魔法の詠唱を始めます。
しかし、
「行くっす!」
「なに!?」
イジェンが大楯を持っているとは思えないようなスピードで男に接近していきます。
因みにイジェンには大楯以外にも、腕力や脚力が上昇する効果つきの魔道具を幾つか渡しています。
それにしても、いくら驚いたとしても詠唱を途中で止めるのはダメでしょう。
折角あと少しで魔法が発動しそうだったのに、また最初から詠唱のしなおしになっちゃいますよ。
まぁ、もう意味ないですけどね。
「くそ!ちょっと待て!」
「待たないっす!せいやっ!」
イジェンは大楯をグローブに見立ててパンチを打ち込みます。
それも途中で大楯の重さを元に戻し、パンチの威力を増大させるおまけ付きで。
男はイジェンに待つよう話しかけましたが、そのかい虚しくパンチをくらい数メートルは吹っ飛んでいきます。
数回地面にバウンドした後ようやく男は止まります。
が、ピクリとも動きません。
ギルドの職員が駆け寄り肩を叩きますが、気を失っているため反応はありません。
クレアさんもそれを確認します。
「ダースは失神のため戦闘の続行は不可能と判断します。よって、イジェンの勝ち!」
「やったっす~!」
イジェンは危なげなく勝ちましたね。
それにしても、相手の名前ダースって言ったんですね。興味ありませんけど。
さて、次はエルフィアの番ですね。