魔狼と冒険者
『……んぅ』
眠気が残るなかゆっくりと身体を起こしていく。
目を開けるとそこは森の中だった。
『……あれ?』
なぜ森の中にいるのかを考える。そして、神様との転生についての会話を思い出す。
それと同時に血の気が引いていくのを感じた。
何故なら、さっきから声を発する旅に「ガウ」と言う声が聞こえるし、異様に視線が低く感じられるからだ。
『まさか…』
俺は直ぐに周りを見渡し、近くにあった泉に自分の姿を写してみる。
『マジすか』
そこには人間の俺ではなく、青い毛並みの狼が写っていた。
大きさは一般的な犬の大人の大きさぐらいだろうか。瞳は紅く鋭い感じがする。
『これ、どうすればいいんですかね?』
ふとステータスのことが気になり開こうとしたが、突然近くの茂みが揺れ人間が三人現れた。
「あれ?こんなところにウルフがいる?」
「本当だな。ついでに狩っておくか」
「面倒ですけど、そうしますか」
男達は物騒なことを話している。
俺は敵意はないことを話そうとしたが、何を話しても「ガウガウ」としか発せず、それを威嚇だと勘違いしたのか男たちはそれぞれ剣を構えた。
これはダメだ。
そう判断すると俺は一目散に逃げ出す。
後ろでは男たちが追いかけてくる足音が聞こえてくるが、さすが狼。どんどん引き離していく。
やがて男たちの声も聞こえなくなり、念のためさらに数分走ったあと足を止める。
『ここまで来れば大丈夫ですかね』
しかし、ここからどうするか。
とりあえずステータスを開いてみる。
~ステータス~
名前:未設定
Lv1
種族:魔狼
性別:女
年齢:0
~スキル~
[魔道具作製][治癒の天使][武の才能][完全鑑定][完全隠蔽][アイテムボックス][先見の魔眼][人化の術][環境適応][???]
まあ、種族については驚きはしない。神様からの話でも人間以外になるような話しはしていましたしね。
でも、性別が女性になっているのはどうなんでしょうね!?これは訴えてもいいですよね!
怒りは収まりませんが、ここでいくら怒っても仕方ないのでスキルの確認でもしましょうか。
スキルを見ていると不思議とどれがどういったスキルなのか理解することができた。
これは十中八九[完全鑑定]のスキルのお陰でしょうね。
さて、肝心のスキルの説明はこういった感じでしたね。
[魔道具作製]魔力を消費し魔法が付与された道具を作り出す。高度な魔法や複数の魔法を付与すると必要な魔力量が増加していく。
[治癒の天使]触れた相手の病気や怪我、欠損などを治癒させることが出来る。病気や怪我の重さによっては治癒まで時間がかかる。
[武の才能]戦闘の際に達人以上の動きをすることが出来るようになる。武器だけでなく格闘術も反映される。
[完全鑑定]鑑定したものの情報を例え偽装がかけられていようとも正しい情報の方を知ることが出来る。
[完全隠蔽]ステータス内の情報を他者から見られないようにし、更に別な情報へ書き換えることもできる。
[アイテムボックス]魔法で作り出した空間に生き物以外の全てを収納することが出来る。容量は無限。また、中の時間の経過は使用者が進ませるか止めておくかを設定できる。
[先見の魔眼]多くの魔力を使用し、未来を見ることが出来る。見た未来はその後の行動次第で変えていくことが出来る。
[人化の術]自身の年齢以下の人の姿になることが出来る。
[環境適応]どんな過酷な環境、状況にも適応し使用者を守る。
[???]エラー。
最後のスキルがものすごく気になるけど、次に気になるのが[人化の術]だ。
これがあればさっきみたいに襲われることもないだろう。
早速使ってみる。
『人化の術!』
スキルを使ってみると俺の体が光り始める。体が変化していくのを感じ、三秒ほどで人化が完了する。
しかし、俺は何故か赤ん坊の姿で人化が終了してしまっていた。
『……あれ?』
なぜだ?もう一度スキルを確認してみると、『自分の年齢以下の人の姿に』と書かれてあり、謎が解ける。
今の俺はステータスにも書いてあるように0歳なのだ。それでじゃ赤ん坊にしかなれないだろう。
『これは、しばらくは狼の姿で生きていくしかないかな?』
不思議と取り乱すこともなく冷静に考えている自分に驚いている。
おそらくだが[環境適応]のスキルはこういった感情の面でも作用するのだろう。
それから暫くは狼の姿で森の中で生きていくことになった。
食事は森の中ということもあり動物も多く困ることはなかった。
幸い転生した魔狼というのは鑑定してみると、『人と狼のモンスターの間に位置する存在。ウルフ種の中でも最上位の種として分類されている』とされ、この森の中なら脅威となるモンスターは存在しなかった。
そうして森の中で生活し続けて二十年程が経ったのだった。