フォレスと帝国
少し雲は出ているものの、雨は降りそうにない空が広がっています。
次の日になり、準備を済ませた私たちは住処の外へ出ています。
「忘れ物はないですか? 忘れても取りには戻れませんよ」
「大丈夫です」
「大丈夫っす。……たぶん」
イジェンは少し不安ですが、エルフィアはしっかりと準備を済ませているようですね。
今日は二人を連れて街へ行く予定です。
街へ行く理由は三つです。
一つは街の人たちへの顔見せです。
これからは食材や衣服の調達のために二人を連れて、もしくは二人だけで街へ行くこともが多くなるでしょう。
なので、街の人たちにこの二人を紹介しておく必要があるのです。
それに、私が作る魔道具は高級品として扱われていて、商人の中には私のことを専属の魔道具作成しにしようと、無理矢理迫ってきたこともあります。
そんな人が二人のことを知れば、人質にするとか考える可能性があります。
なので、二人を冒険者・商業ギルドの人たちに会わせることで、味方を一人でも多く増やしておきたいのです。
二つ目に、二人を冒険者ギルドに登録したいのです。
理由は簡単で、ギルドカードは街に入るときの身分証になるからです。
身分証がないと、街にはいるのに銀貨一枚が必要になります。
しかし、ギルドカードがあればお金を払う必要がなくなるのです。
ギルドカードだけでなく商業ギルドで発行されるカードも同様です。
そして三つ目は、私たちの正式な武器防具を揃えておきたいと言うものです。
今私が使っている武器は私が魔道具作成で加工した物が殆どです。
しかし、本職の鍛冶師が作った物に比べると、明らかに劣っていると分かるのです。
例えば、私が作ったナイフと鍛冶師が作ったナイフとでは、確実に素の切れ味や強度は鍛冶師の作ったものが勝ります。
私が作ったものは、切れ味を上昇させたり、強度を高める魔法を付与しているので強いだけで、付与をするなら本職が作ったものにする方がいいのです。
そんなわけで、二人を連れて街へ向かっているのですが、今はのんびりと歩いて向かっている最中です。
いつもなら走っていくのですが、今はイジェンとエルフィアがいるので、走るわけにはいきません。
それに、
「エルフィア、手足の調子はどうですか?」
「大丈夫です。重さも全然感じませんし、むしろ前よりも動きやすいかと」
そう、エルフィアの義手と義足を、昨夜私が作っていた鉄製の物に交換したのです。
流石にそのまま着けると、ほとんどが鉄でできていて重いので、軽量化の付与をしています。
今後はさらに付与を重ねて行く予定ですが、今は軽量化のみです。
その後は特に何事もなく街の入り口へ着いたのですが、いつもに比べると人が多いような気がします。
「二人とも、もしも街中で迷子になったら首輪に魔力を流してくださいね」
「「はい(っす)」」
二人の首にはまだ隷属の首輪が着いていますが、すでに隷属に関する力は失われています。
代わりに、魔力を流すことで自身の居場所を他の首輪の装備者に教えることが出来るように改造してあります。
この場合の他の装備者と言うのは、私とイジェン・エルフィアの三人です。
私の着けている着衣の首輪にも同じ付与を取り付けました。
私の首輪にだけは、二人がどこにいるのかが何時でも分かるような付与を取り付けているのですがね。
そうこうしていると、ようやく門まで着きました。
「はい次の人、ってフェリルか。久しぶりだね」
「お久しぶりです」
門番の人と挨拶を交わしますが、なんだか気まずそうですね?
何かあったんでしょうか?
「後ろの二人は?」
「ちょっとわけありで……。」
簡単に二人のことについて説明します。
とは言っても、ディアさんのことなんかは話しませんけど。
「そうか、大変だったんだね。何か困ったことがあったら、気軽に来てくれ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますっす」
やっぱりこの門番さんはいい人ですね。
少し聞きたいことがあるんですが、並んでる人たちはまだまだ居るのでさっさと街中へ入ります。
街を見渡してみますが、やはり前と比べると人が多い気がします。
確か祭りもこの時期は無かった筈ですけど。
「フェリルじゃないかい。フェザーバードの串焼き、食べないかい?」
屋台のおばさんに声をかけられます。
ちょうどいいので串焼きを買いつつ、人が多い理由を尋ねます。
「帝国の王子様が来てるのさ。で、その王子様にくっつくようにして商人やら傭兵やらも来たみたいでね、そのせいだよ」
「なるほど。それでですか」
このフォレスは国境に近い街です。
その国境を越えると、そこにあるのは軍事力で言えばこの世界でも上位に入るグランバス帝国。
帝国は実力至上主義の国で、強さを示しさえすれば王城の騎士にすらなれると言われていました。
しかし数年前にクーデターが起こり、皇帝が変わってからは国が大きく変わったそうです。
今までは帝国では人間以外の種族は下等だと言う考えが一般的でしたが、今の皇帝によってそう言った考えは直されつつあるようです。
まあ、中には今までのように人間以外を下等な種族だと考えている人は多いようですけど。
人はそう簡単には変わりませんからね。
「あんたらも気を付けなよ。くっついて来たやつら、早速面倒事を起こしたらしいからね」
「面倒事?」
「あぁ。傭兵は酒場で暴れたって話だし、商人は獣人の子を奴隷にしようとしたって話さ。まったく、皇帝が変わっても馬鹿は消えないもんだね」
「それはそれは、気を付けます」
屋台のおばさんと別れ冒険者ギルドへ歩き始めます。
やはり人が多く、中には私たちを値踏みするように見てくる人も居ました。
これは本当に警戒しておかないといけませんね。
少し歩くとギルドが見えてきます。
中に入るといつもよりも人が多く、こちらを見る目が多く感じられます。
この街の人たちは私のことを知っているので、友好的な目で見てくれます。
そして私を見たあとは隣にいる二人を不思議そうに見ています。
そして、帝国から来たであろう見慣れない冒険者たちは、私たちのことを興味・嫌悪・欲望と、様々な視線が感じられます。
見たことのない人たちの視線の種類は、友好的なものが三割、興味なさげなのが一割、そして悪質なものが六割と言ったところでしょう。
このあとも周るところがあるので時間はかけたくないのですが、無理そうですね。
五人組の男たちがニヤニヤと笑いながら近づいてきてますし。
転移者・転生者は厄介事に巻き込まれやすいと言うのは、本当のようですね……。
全然嬉しくないです!