二人と住処
新章始まります!
テーブルの上に載っているのは鉄とミスリル、それと魔石が数個。
私は魔道具作成でこれらの物を加工し始めます。
するとテーブルの上にある素材はゆっくりと形を変えていき、最終的には右腕の形になります。
この義手はエルフィアのために作ったもので、魔力を流すことで動かすことができます。
そのため、内部に魔力との親和性が高いミスリルを血管のように細く張り巡らせていて、より動かしやすいように工夫しています。
更には、各部位に魔石をはめ込んでいて、魔力の循環をスムーズにさせてくれるようにしています。
イジェンとエルフィアが仲間になってから、早いもので既に二週間が経過しています。
二人には主に家事や、私が作った魔道具の試用をしてもらっています。
ちなみにエルフィアは今は木製の義手・義足を着けてもらっています。
本当は最初から金属製の物を渡そうとしたのですが、義手や義足を作ったことが無かったからか、納得のできるものが作れなかったのです。
なので、今は仮ということで木製の物を着けてもらっています。
「本当は[治癒の天使]を使えば、腕や足の欠損も治せるんですけどね」
このことはエルフィアにも、そしてイジェンにも話してはいます。
二人のことは大切な仲間だと思っているので、私の大体のことは話しています。
話していないことといえば私が転生者であるということぐらいですね。
この世界では転生者や転移者は王城等に保護されるという話は聞いていますが、中には自分勝手な貴族や犯罪者もいるでしょう。
二人にはそういった出来事に巻き込まれてほしくはないので、私が転生者だということは知らないほうがいいと考えています。
ちなみにエルフィアは、私が[治癒の天使]を使い欠損を治すことを拒否してきました。
理由を聞くと、
「私たちはフェリル様の奴隷という身分。あまりフェリル様の手を煩わせる訳にはいきません。それに、今後あの義賊の人達と会った時に誤魔化すことが難しいと思ったので。それに、義手や義足って何かカッコいい」
相変わらず淡々と話すので感情が読み取りずらいですが、最後のカッコいいというところはどことなく感情が一層こもっていたように聞こえましたね。
本人がそう考えているなら私から強制するようなことはするわけにはいきません。
しかし、二人には私たちは仲間であり、奴隷と主人という関係ではないとは話しておきました。
「フェリル様。食事の用意ができました」
「もうお昼っすよ!」
「あれ?もうそんな時間ですか?」
丁度魔道具の作成が終わった頃合いで二人が部屋のドアをノックします。
しかし、よほど熱中していたようであっという間にお昼になっていたようです。
やっぱり、自分以外の人がいるのはいいですね。
私が一人だった頃は魔道具作成に熱中しすぎて、一日中飲まず食わずで作業し続けてしまったこともありましたし。
「失礼します」
「失礼しまっす!」
部屋の中に二人が入ってきます。
最初に入ってきたのはエルフィアです。
最初にあった時には奴隷よろしく奇麗とは言えない服を着ていましたが、今は私が持っていた……正確にはフォレスの街の人達に似合うからと渡されていた服を着ています。
膝までの丈がある緑色のスカートと、白い半そでのシャツ。そこにスカートと同じ緑色の上着を羽織っています。
エルフというだけあって緑色の服が似合っています。
全体的に落ち着いた感じの服でまとめてあり、元の可愛さがより一層際立ったように感じられます。
次に入ってきたのはイジェンです。
背中まで伸びていた赤い髪はかなり短くなっており、ギリギリ耳が隠れる位まで切ってあります。
どうやら癖のある髪のようで、ところどころ癖っ毛が目立ち、イジェンの活発さがより一層際立っているようです。
来ている服は茶色いショートパンツに白いシャツ、その上に赤いパーカーを羽織っています。
可愛さよりも動きやすさを重視しているようですが、むしろイジェンのイメージを合っていて違和感がないです。
「エルフィアは大丈夫っすか? 何ならおんぶするっすよ?」
「大丈夫。ずいぶん慣れてきた。ありがとう」
二人は仲がとても良くいつも二人で一緒にいます。
そういえば、二人が盗賊のアジトで同じ部屋に入れられていた理由を聞いてみました。
どうやらエルフィアは盗賊たちのところに来てから魔晶病が発病したようで、それからはあの部屋に入れられていたようです。
しかし、奴隷を買う人の中には物好きもいますし、美人のエルフということもあってか殺されることもなく、ほかの奴隷と同じように食事をもらっていたようです。
しかし盗賊達は自分が魔晶病に罹りたくないから、他の奴隷たちに食事を運ばせていたようです。
最初は食事も自分で摂れていたようですが、症状が進行していくにつれて指も動かせなくなってしまい、誰かが介助するしかならなくなってしまったようです。
誰がその役をやるかで盗賊達が悩んでいたようですが、今まででエルフィアと多く関わっていたイジェンが結果として選ばれたようです。
彼らの中では、多くかかわった=魔晶病に罹りやすくなっていると考えたようですし。
しかし、イジェンは偶然にも[状態異常完全無効]のスキルを持っており、これは魔晶病にも効果があったようで、イジェンは無事だったようです。
それからは二人で一緒にいたそうで、今では姉妹のように見えるほどに仲が良くなったそうです。
取り合えず三人で食堂へ移動します。
ちなみにですが、この住処は大きく分けて三つの区画に分けられています。
まずは住処の入り口が含まれる居住区。この区にはキッチンやお風呂、寝室などが含まれています。
次に作業区。ここは主に私が魔道具を作る時に利用しています。魔道具によっては辺りに様々な影響を与えるものがあるので、ここの区画は頑丈に作られています。
そして最後が訓練区です。訓練と言ってはいますが、元の世界で言うところのスポーツジムみたいなものです。勿論、私の魔道具作成を使って機材は充実させてはいますが。
「さて、食べながらでいいので聞いてください」
二人は私の言葉通りに食事を続けながら私のほうを向きます。
最近は二人が食事を作ってくれるのでとても助かります。
「明日は町へ出かけます。なので二人とも一応準備しておいて下さい」
「わかりました」
「わかったっす」
二人は見てわかるほどに楽しみにしているようで、食事を食べるスピードが上がっています。
私もいろいろと準備をしておかないといかないので、食事が終わったらまた作業区へ向かいます。
イジェンとエルフィアの二人はあの後は食器を片付け、お風呂に入って寝たようです。
私はしばらく魔道具作成を続け、日付が変わったころにお風呂へ向かいます。
「ふぅ~」
湯船に浸かると自然と声が出てしまいます。
魔道具を作ると魔力をかなり消費するので、精神的に疲れが溜まってしまいます。
明日は早く街へ向かう予定なので、残念ですが長風呂はできません。
お風呂を出て脱衣所へ向かいます。
ふと脱衣所に設置してある鏡を見ます。
そこに移るのは、人に化けている魔狼の私。
この世界に来て、新しい私になって早二十年。
性別も変わったというのにずいぶん慣れたものだと、思わず笑ってしまいます。
しかし、かつての男としての私はあの事故で死んだのです。
今更未練がましく、うじうじしてもいられません。
どんな姿になっても、今を楽しもう。
そう私は自分自身に言い聞かせます。
今日はもう寝ましょう。
明日はおそらく、忙しくなるでしょうから。