世界の事情と身内の事情
次の日。
私たちは住処へ帰るために。ディアさん達は他の仲間と合流するために移動するところです。
あの後は皆酔っ払い寝てしまったので、私も毛布を用意して眠りました。
そして翌朝、双方荷物をまとめて別れの挨拶をしています。
女性たちからは再度勧誘されましたが、丁重にお断りしておきました。
「皆さん、お気をつけてくださいね」
「嬢ちゃんらもな。それとコレ、ありがとうな」
「悪用はしないでくださいよ? ま、義賊の貴方に言うのも変ですけど」
「無論じゃよ」
ディアさんがコレと言っているのは、私が追加で渡した魔道具破壊の魔道具です。それも、複数回使用可能なものです。
ちなみに、この世界には複数回使用できる魔道具破壊の魔道具なんてものは極々少数しか存在しません。
そして、そのほとんどが国が管理しています。
その魔道具を合計三つ渡しました。
ただ、魔道具ひとつが何回使用可能かは教えていません。
もしかしたら二回使ったら壊れるかもしれませんし、百回使っても壊れないかもしれません。
まあ、コレに関しては教えるつもりはありません。
ちゃんと考えて使ってほしいですからね。
「こちらこそ色々と情報を教えてもらってありがとうございます」
「いやいや、お前さんは何かと巻き込まれそうじゃからな」
「……何ですか、その予言は」
「転移者・転生者は総じて厄介事に巻き込まれやすいからの。ま、頑張れ」
できるなら巻き込まれたくないのですが、何となく私自身も巻き込まれるんだろうなと感じています。野性の勘でしょうか?
ディアさんから受け取ったのは、この国だけでなく周辺の国々で起こっている、あるいは起こりそうな厄介事のリストです。
中には貴族同士の揉め事や国同士の戦争、商会の暗躍、平民のクーデターetc……。
正直、貴族同士の揉め事にはすでに巻き込まれている気がするんですが、この際考えないことにします。
しかし、目を通した中で一番気になったものは
「魔王の再来と勇者の召還、ですか」
魔王とは魔物の中に突然現れる変異種のことです。
魔物の中には人の姿をしていて、人と同様に思考し話すことができる種が存在します。
吸血鬼や人魚、アラクネーと言った魔物等がそれに含まれます。
まぁ、その一部は魔物ではなく魔人種として特別に認定されている個体も存在するわけですが。
魔王と呼ばれる魔物は、過去にもたびたび出現しており、その全てが恐ろしく強く極悪非道だったと伝えられています。
今回現れた魔王もその例に漏れていないようです。
「ちなみにじゃが、勇者召喚の際には有名な冒険者が勇者の戦闘指南役として呼ばれる予定らしいぞ?」
「どこからの情報なのかは聞きませんよ? どうせ誤魔化されるでしょうし」
「ほっほっほ。すまんの」
ぜんぜん心のこもっていない謝罪です。
まあ、私には関係のない話でしょうけどね。……関係ないですよね?
「ま、また会った時にはまた力を貸してくれ」
「また会うことがあったら、考えます」
「……きっとまた会うさ」
「何か言いました?」
「いや。また会えたら考えてくれ」
ディアさんはぼそりと呟きました。
普通の人なら聞こえない音量でしたが、獣人……もとい魔狼である私には聞こえています。
しかし、ディアさん自身は聞こえていないつもりで話していたので、聞こえていないふりをしておきます。
「それじゃあな」
「それでは」
その後は無駄に話すこともなく別れました。
私はフォレスの街のほうへ歩いていきます。
いつもなら走っていくのですが、今は例の少女二人と一緒に向かっているので歩いています。
それに、エルフの少女は両手両足がないのでもう一人の少女が背負っている状態です。
「フェリル様、このたびはありがとうございます! 精一杯お役に立つっす!」
「私も、できる限りがんばります」
最初に喋った体育会系っぽい話し方の少女が人族です。名前を聞いたのですが、もともと孤児だったらしく、名前はないとのことです。
少女から「フェリル様に名前を付けて欲しいっす!」と言われたので、考えた末にイジェンと案を出しました。
少女改めイジェンはこの名前を気に入ってくれたようで、心なしか足取りが軽くなったように見えます。
もう一人のエルフの少女は名前をエルフィアというようです。
イジェンとは対照的で物静かというか、あまり感情を表に出さない少女みたいです。
基本的に無表情ですし、話し方もあまり感情が感じられません。
そんな二人をためしに鑑定してみましたが、こんな感じでした。
~ステータス~
名前:イジェン
Lv1
種族:人間
性別:女
年齢:15
~スキル~
[状態異常完全無効]
~称号~
なし
~ステータス~
名前:エルフィア
Lv3
種族:エルフ
性別:女
年齢:16
~スキル~
[精霊魔法Lv3][弓術Lv2]
~称号~
【エルフ族族長の娘】
イジェンは元もと孤児ということもあってかレベルは上がっていませんね。
しかし、持っているスキルは一つだけですが、その一つがユニークスキルです。
スキルには二つの種類があります。それは通常のスキルとユニークスキルです。
この二つのスキルは明らかに後者のほうが効果が強く、同時に扱いにくいものも多くあります。
また、通常のスキルはレベルの概念が存在しますが、ユニークスキルのほうはレベルは関係ないという特徴もあります。
かくいう私が神から貰ったスキルも全てユニークスキルです。
スキルのレベルが高ければ高いほど、そのスキルは強力になっていきます。
例えば一般的なスキルとして剣術というものがありますが、Lv1なら剣を扱うときに多少のステータス上昇といった効果しかありません。
しかしLv5ともなると、ステータスの上昇は数倍にもなり、さらには剣に関する技といったものが使えます。
仮にLv10ともなれば、剣の一振りで10メートルを超える巨人を切り裂くとも言われるほどです。
ユニークスキルはレベルはないものの、使いこなせれば通常のスキルを軽く超すほどの強さを持てるといわれています。
しかし、ユニークスキルを持っている人は一万人に一人とも、十万人に一人とも言われるほどに少ないのです。
二人の持っているスキルを鑑定してみます。
[状態異常完全無効]所有者に対して害のある状態異常を受け付けなくなる。本人が望んだ場合はこのスキルは無効化できるが、それでも命に関わる程は酷くはならない。
[精霊魔法]精霊と契約した際に使用できる特殊な魔法。通常の魔法と違い、所有者の体内の魔力だけでなく、空気中などにある対外的な魔力を使用して魔法を扱うことができる。レベルが上がればより高位の精霊と契約が可能。
[弓術]弓を扱う際に補正がかかる。
こうして見ると[状態異常完全無効]がやはり強力ですね。
通常の状態異常に関するスキルは[~~耐性]という名前になり、Lv10になってようやくスキルの名前になっている状態異常を完全に無効化できるというものなのです。
また、レベルを上げるためには状態異常に罹る必要があり、[毒耐性]ならば毒を受け続ける必要がありますから。
その点[状態異常完全無効]はそう言った手間もなく全ての状態異常耐性のLv10相当、あるいはそれ以上の効果を持っているのですから。
エルフィアはユニークスキルは持っていないものの、エルフ族特有の[精霊魔法]を持っています。
[精霊魔法]はその名の通りで、所有者の代わりに精霊が魔法を使用したり、時には精霊自身が戦闘を行うこともある特殊な魔法です。
それと、称号にある【精霊族族長の娘】ですか。
なんだか言い方は悪いですけど、厄介ごとに巻き込まれそうな予感しかしませんね……。
まあ取り合えず仲間ができたことですし、これからは今までとは違う日常になっていきそうです。
……できることなら面倒ごとには会いたくはないんですけれどね。
その後私たちは夕方になる前には住処へと到着するのでした。
一先ずは盗賊討伐編は終了です。
次回から新章に入ります。
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