勧誘と報酬
あの後は特に何かトラブルが起きるわけでもなくアジトへ戻ってこれました。
そして始まった飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。
すでに宴会が始まって一時間は経っているので、男性陣はすでにへべれけ状態です。
対する数少ない女性陣は奴隷だった人達のケアをしながら食事をしています。
女性達の隷属の首輪は私が即席で作った魔道具でどうにか取り外すことができました。
ディアさんに渡したような全ての魔道具を破壊するなんて物は作るのに時間がかかりますが、隷属の首輪限定とするなら短時間で作れます。
勿論本来は魔道具を作るのにはもっと時間がかかりますが、私のチートスキルなら簡単です。
すでにディアさんに隠すことは諦めました。
あの人は観察力と言うか洞察力と言うか、こちらの嘘や隠していることを看破する力が強すぎます。
ちなみに私はというと、
「フェリルちゃん、私たちと一緒に行きましょうよ!」
「女性って見ての通り少ないから、歓迎するよ」
「フェリルちゃんの尻尾、凄い良い手触り」
と、女性陣から暑く勧誘されています。
丁重に断ってはいるのですが、なかなか諦めてくれません。
かれこれ三十分くらいずっとこの話をし続けています。
この義賊団、この場にいるのは大体七十人位で、女性は七人しかいません。
ディアさんいわく、仲間はここ以外にも居るそうなのですが、男女比は特に変わらないらしいです。
つまりは男女比は10:1。彼女たちが私をここまで勧誘してくるのも分かる気がします。
奴隷だった女性たちも今はこちら側で静かに食事を食べています。
女性達の中には無理矢理奴隷にされた人や、その際に家族を殺された人もいるので、女性たちが心のケアをしている状態です。
私はそういったことは出来ないので、得意な人たちに任せます。
「フェリルよ。少しいいかの?」
「ディアさん。すみません、少し行ってきます」
渡りに船。地獄に仏です!
……意味が違いますかね?取り合えず助かったと言うことです。
女性たちは名残惜しそうにしながらも、首領には逆らえないからか特にごねることもなく解放してくれました。
ディアさんに連れられてたどり着いたのは、洞窟の奥にある行き止まりのところです。
そこには盗賊団の溜め込んでいた財宝が置かれています。
「約束じゃからな。この中から好きなのを選んでくれ」
「確か、半分の約束ですよね」
「そうじゃよ。別に反故にはせんから安心せい」
約束に関しては信用しています。
今のところは、完全に悪人と言うわけでは無いと言うのは一緒に行動して分かったつもりですから。
早速目の前の財宝に目を移します。
選ぶとは言っても仕訳をしたときに、ある程度は目星はつけておいたんですけどね。
早速私が欲しいものを隣に移動していきます。
とは言ってもここにある魔道具の殆どは私でも作れる物ばかりなので、私が選ぶのは鉱石や魔物の素材が殆どになります。
私が選んだ物は、
・鉱石系(鉄・ミスリル・各属性石・オリハルコン)
・魔物素材系(魔石・風竜の爪・風竜の鱗)
・魔道具(呪術石)
鉱石系は元々私が欲しかったミスリルと魔道具を作る時に沢山消費する鉄。また、希少鉱石であるオリハルコンと属性石を選びました。
属性石は加工すれば基本は鉄と同じように加工できますが、加工品には確実にそれぞれの属性が付与されます。例えば火の属性石を剣に加工した場合は、火の魔剣になります。
とはいっても、ただ加工しただけだと、せいぜいがライターの火やホッカイロぐらいの効果しかありません。
でも、火属性の魔法を付与すると、効果が一気に増すのです。昔見たのだと、炎の魔剣と言われたもので、切った相手を燃やすという物がありました。
強力な魔剣ではありましたが、魔物相手となると素材がダメになってしまうのでもったいないと思っていましたが。
オリハルコンは世界の中でも最上位に位置する鉱石です。
その見た目からは想像できないほどに軽く、鉄やミスリルとは比べ物にならないほどの硬度があります。
鉱石の希少度を表すと、鉄〈ミスリル=各属性石〈〈オリハルコンとなります。
オリハルコンはなかなか発見されないらしくとても効果なのです。
基本的なオリハルコンの入手方法は鉱山からの採取か、オリハルコンゴーレムを倒して手に入れるかの二択しかありません。
しかし、前者の方法での入手はほぼ運任せになってしまいます。
なので世に出回っているオリハルコンのほとんどは元オリハルコンゴーレムなのです。
「やはり鉱石系はそれらを選んだのか。希少な物も多いからの」
「こういう時に補充しておかないといけないんですよ。お金もそんなに多く持ってないので」
これでも遠慮はしているんですよ?
オリハルコンだって、鉄の延べ棒のようになっている物が三十本あった内の十本を頂いただけです。
一本だけでも白金貨五枚、つまり五十万円の価値があります。
それが十本。つまりは五百万円ということです。
「風竜の素材は全部もらいますよ?」
「そうじゃな。ワシらが持っていても使い道はないからの」
風竜とはその名通り風を操る事に長けた上位種のドラゴンです。
ドラゴンには四つの階級が存在し、下から下位種・中位種・上位種・神級となっています。
どう区別されるかというと、下位種と中位種は言葉は通じません。しかし中位種になると己の得意とする属性に分かれることになります。火山に住むドラゴンなら火竜。湖や海なら水竜といった具合にです。
しかし、基本はほかの魔物と同じく意思疎通はできません。
上位種になると意思の疎通が図れるようになり、ドラゴン本体の力もより一層増します。
下位種はCランクの冒険者なら一人でも討伐可能。中位種はBランクの冒険者五人ほどで討伐可能なのです。
しかし、上位種となると五人組のAランクパーティが三組必要となるほどに脅威的な存在となります。
その理由としては二つあり、一つは上位種になることでドラゴンの力が格段に上がること。基本的には中位種だったころと比べると十倍になるといわれるほどです。
二つは意思の疎通が可能になるほどに知力が高くなることです。
中位種までは力任せの攻撃がほとんどで、動きも単一的なのでよく観察すれば回避することが容易なのです。
しかし、上位種はこちらの動きを読んだ攻撃や回避をしてくるのです。
なので上位種のドラゴンは危険視されています。
でも、上位種のドラゴンはよほどのことがない限りは人里を襲うことはありません。
なので上位種のドラゴンは基本的には刺激しないように放置されています。
まあ、中には人間に協力的な個体も存在するようですが。
最後の神級に関しては、実際にその姿を見た者はいないという伝説の存在です。
しかし、世界のいたるところに神級ドラゴンの爪だったり、ブレスの跡といった物が多く残されているのです。
ちなみに私が風竜の素材をすべて選んだ理由は、ディアさん達がこれを持っていても意味がないからです。
風竜の素材、というよりも上位種の素材は出回ることはなく、またそのほとんどの素材は王家が管理しています。
なので風竜の素材が売られているということが王族やその関係者に伝われば、必ずと言っていいほどに目を付けられます。
もちろんどんな素材であっても、冒険者が討伐したのなら所有権は冒険者にあります。たとえ王族であっても不当に冒険者の所有物を奪うことは禁止されています。
ギルドは独立した機関であり、王族や貴族であっても命令することはできません。そんなことをしてしまうと、今後はギルドに依頼を受理してもらえなくなります。
もしくは受理されても誰もその依頼を受けてもらえなくなることもあります。これに関しては冒険者達の自由ですが、その貴族に対する悪い噂がなぜか流れることがあるのです。
自分たちで加工しようにも、上位種の素材を加工できる人間なんてのはそうそういません。それに、加工にはそれなりの設備も必要になってくるので、ディアさん達には難しいでしょう。
そして、私が魔道具の中で唯一選んだ呪術石。
これは呪いの儀式に使われるものです。使い方は簡単で、呪いたい相手の髪や血を一定以上呪術石に取り込ませ、その後で魔力を流し込めばいいのです。
しかし、流し込む魔力量はとても膨大で、王族に仕えている王宮魔導士が十人いてようやくだと聞いたことがあります。
これはアイテムボックスの肥やしにするか、どうにか利用できないか考えることにします。
「私の取り分はこれで十分です」
「そうか? なんならもう少し持って行ってもいいんじゃぞ?」
「やめておきます。欲張りすぎると取り返しのつかないことになりそうなので」
「ま、程々が一番じゃな」
「そういう事です」
私の取り分をアイテムボックスへ全て入れます。
もうディアさんには私のことはほとんど話しているので、自重はしません。
ディアさんに話していないのは、私のチートスキルのことと、神様のことだけです。
皆の所へ戻るためにもと来た道を歩いていくと、私たちに近づいてくる人たちがいます。
洞窟の中は入り組んでいますが、音は反響するので分かります。
「よかった! やっと見つけたっす!」
「……見つけた」
私たちの所に来たのは魔晶病に罹っていたエルフの少女と、その隣にいた人間の少女でした。
ちなみに、体育会系っぽい話し方をするのが人間の少女で、エルフの少女はあまり感情が込められていないような話し方です。
エルフの少女はそれに加えて無表情でいるので、人形のよう見見えます。
ちなみに、魔晶病に罹っていて精神面に何かがあったわけでなく、元からこの話し方のようです。
「どうしたんですか?」
「はい! ここに来る前に貴女に言われた件で返事をしに来たっす!」
「わたしも」
「是非、私たちを引き取ってほしいっす!」
「わたしも同じく。お願いします」
私に家族、というよりも仲間ができました。
ディアさんの許可も得ているので、何も問題はありません……よね?」