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最強の冒険者①



「むかつくな」


 冒険者ギルドを出たところで思わずもれた俺のつぶやきに、パーティーメンバーの三人も同意の頷きを返した。


「そうだよな。あの人、朝は不特定狩猟クエストの許可は出せませんって突っぱねてたのに、あれって絶対あのEランク冒険者をかばったんだぜ?」


「だよな。なんだよ、ギルド職員が公私混同かよ」


「ギルドマスターに訴えてやろうぜ!」


「違ぇよ。いやたしかにあのエルフ女もむかつくけど、俺が言ってるのはあの万年Eランク冒険者の方だって」


 今日の朝、たまたま受付の列で見かけた二十歳くらいの男。

 五年間も冒険者をしているのに、未だ最下層のEランクという逆に驚くべき冒険者だ。


「普通、五年間もEランクとか、恥ずかしくて冒険者なんてやってられないだろ。俺なら田舎に戻って畑でも耕すね」


「ラッセルの家、耕せるような畑もうないじゃん。だから俺ら王都に出て来たんじゃん」


「うっせーよ! もしもの話だよ!」


 俺たち全員が同じ村の幼馴染みで、農家の次男坊、三男坊だ。

 家の畑は長男が継ぐため、働き口を求めてこの王都までやってきた。ずっとあんな田舎でくすぶってるのが嫌だったのだ。


 絶対にのし上がってやる。そう誓い合った俺たちは話し合い、前もってパーティー内の役割を決め、それぞれが冒険者になれる十五歳になるまで訓練に励んだ。


 毎朝の素振り百回と、近くの森でのモンスター討伐の成果もあって、冒険者になる頃には全員がレベル十を超えていた。あとは数件の依頼を達成すれば、Dランクに上がれるところまで来ている。


 俺たちは、努力をしているのだ。


 なのに……


「なんだよ、あいつ。強くなる努力もしてない癖に、あのエルフ女にちやほやされて。うらやま――じゃなくて、むかつくぜ!」


「わかるぜ。本当、あの冒険者がうらやましいよなぁ」


「リカリアーナさん、綺麗だからな。すっげぇ美人だからな」


「エルフの人とか、俺、王都に来て初めて見たよ。伝説だと思ってた」


 ギルドの受付嬢の一人、リカリアーナ・リスティマイヤ。輝くような銀髪に、凛々しい切れ長の瞳が美しいエルフの女性。冒険者になったばかりの新人からは、あまりにも綺麗すぎてとても話しかけられない、といった理由から避けられているギルド職員だ。


 そんな彼女が懇意にしている冒険者がいるとは噂で聞いていたが、まさかそれがあんな万年Eランクの雑魚だったとは。


「くそっ、俺の方が絶対強くていい男なのによ。今に見てろ。あの嘘吐きとは違うってことを、この不特定狩猟クエストの成果で見せてやるぜ! 目指すはカウンターベアー討伐だ!」


「いや無理だろ」


「無理だな」


「普通に死ぬわ」


「わかってるよ! そういう勢いでだってことだよ!」


 討伐推奨レベル三十五のカウンターベアーが討伐できないことは俺もわかってる。もしも遭遇したら、全速力で逃げるしかないだろう。彼我のレベル差も考慮せずに挑戦するなんてのは、自殺志願者か、あるいは物語の英雄だけができることだ。


 そう言う意味では、少しだけ不思議だった。


 なんであの冒険者は、そんなすぐにばれるような嘘を吐いたのだろう? 嘘を吐くなら吐くで、もう少し現実味のある嘘を吐けばいいのに。






       ◇◆◇






 魔の森に入る。


「陽がもうすぐ暮れるから、あんまり奥へは行けないな」


 午前中に個別クエストをこなしているため、残された時間は少なかった。今日は様子見程度に留め、本番は明日にすればいいだろう。幸い、許可証の期限は今日から三日間となっている。 


 それはそれとして、モンスターを討伐すればするほど経験値は入るし、なにより今日の夕食が少し豪勢なものになる。俺たちは周囲を警戒しながら、森の中に分け入っていく。


「おい、ワームだ」


『偵察』のスキルを持つジョナサンの言葉に、俺たちは静かに戦闘態勢へ移行した。


「オープン」


 まずは自分のステータスを確認する。


 ラッセル・ラッド

 レベル:14

 経験値:4238  次のレベルまで残り930

【能力値】

 体力:389

 魔力:0

 筋力:64

 耐久:57

 敏捷:61

 器用:43

 知力:21

【スキル】

 槍士:C 熟練度190

 槍を武器として扱う才能。

 熟練度100ボーナス……槍装備時に筋力、敏捷ステータスアップ小。


 詩人:D 熟練度56

 詩を作り、唄う才能。



「よし、バッドステータスは喰らってない。体力も全快だな」


 魔の森には毒といった状態異常を付加してくるモンスターが存在する。


 実際に攻撃を喰らわなければ、歩いているだけでバッドステータスになることは滅多にないが、それでもゼロではない。モンスターの中には敵を感知する『偵察』スキルを無効化して忍び寄り、気付かないうちに毒針を打ち込んでくるモンスターも存在する。


 戦闘の前のステータスチェック。これは冒険者にかぎらず、どんな戦闘職でも必須の行為である。


 全員ステータスに不備はないようだった。

 俺たちは頷きあい、それぞれの武器を手にワームへとにじり寄る。


 ワームは討伐推奨レベル八のモンスターである。姿形は巨大な芋虫であり、口から吐く粘着力の高い糸と、その思いの外素早い突進での攻撃を得意とする。弱点は側面からの攻撃だ。


 体力と耐久値の高い剣士のオルバが、まず剣と盾を構えて前に出る。


 オルバに気付いたワームが、さっそく突進をしかけてきた。オルバは盾を身体の前に構え、この攻撃を受け止めた。


「今だ!」


 指示を出すと同時に、俺は横合いから飛び出した。


 まずはジョナサンの放った短弓の矢がワームの身体に突き刺さる。続いて、俺の槍ともう一人の剣士であるカリュンの剣が深々とワームの肉を抉った。


「おい、金糸袋は傷つけるなよ! ワームの素材で唯一金になる部分だからな!」


「わかってるよ!」


 俺の言葉に、カリュンは連続攻撃を仕掛けながら答える。


「おおっ!」


 オルバが盾の横から勢いよく剣で斬りつけたことで、ワームの体力がゼロになった。断末魔の声をあげて、ワームが地面に横たわったまま動かなくなる。


「よぉし、戦闘終了。全員、ステータスを確認しろ」


 戦闘の最後に抜かりなくステータスを確認する。これも大事なことだ。俺の場合、体力の消費はゼロ。九の経験値と、槍士スキルの熟練度が一上昇していた。


「あと熟練度を九上げれば、次のボーナススキルが手に入るな」


 スキルの熟練度が百上がるごとに、ボーナススキルが手に入る。槍士の熟練度200のボーナススキルは、強力な突き攻撃を放つことのできる『特技』だと聞いている。メインアタッカーである俺がこれを手に入れば、戦闘もずっと楽になるだろう。


 とはいえ、モンスターを倒せば必ず入ってくる経験値とは違い、スキルの熟練度は槍を振るい続け、技を磨き続けなければ上がらない。よほどの強敵と死闘を繰り広げれば別かも知れないが、今日明日で上がることはないだろう。無駄に努力する必要はない。


「なあ、俺、あと残り22でレベル上がるんだけど、今日そこまで付き合ってくれないか?」


 自分のステータスを確認したジョナサンが提案した。


「お前一人だけレベルがひとつ低いもんな。仕方ない、付き合ってやるか」


「うるせぇよ。盗賊職は前衛よりレベルが上がりにくいんだよ」


「はいはい、いつも感謝してるぜ」


 今日の目標が決まった。俺たちはワームの死骸から金糸袋だけはぎ取ると、軽口をたたき合いながら森の奥へとどんどんと進んでいった。


 進んでいってしまったのだ。




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