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嘘吐き魔法使い③



 なんだかんだでフレミアの分の許可証も手に入ったので、俺たち二人は魔の森へとやってきていた。


「さあ、今度こそドラゴンを探しに行くわよ!」


「元気よく行こうとしてるのはいいけど、今日は森の奥までは行かないからな?」


「なんでよ!?」


「当然だろ。ここまで来るのに半日近く費やしてるんだ」


 あのあともリカさんが許可証の発行を渋りに渋ったため、もう昼を大分回ってしまっている。


「森の奥まで行くのには、どんなに早く進むにしても半日は欲しい。帰り道のことも考えれば、今から行けば夜になる。夜の森がどれだけ恐ろしいかは、言うまでもないよな?」


「けど、あたしには時間がないのよ」


 俺の言い分の正しさは理解できるのだろう。そう零したフレミアには、いつもの元気さがなかった。


「あたしは今日、目的を果たさないといけないの。そうじゃなければ……」


「……どうしても、急がないといけない理由があるのか?」


 ギルドマスターから、フレミアの家のことは聞いたが、そこに時間制限のようなものは感じられなかった。だがフレミアの焦り様は尋常ではなかった。まるで誰かの命がかかっているかのようだ。


 もしも本当に誰かの命がかかっているなら、俺は危険でも魔の森の奥へ行く覚悟があった。その態度に色々と思うところはあるが、小さな女の子を一人で森の奥へ行かせるわけにはいかない。


「教えてくれ、フレミア。急いでる理由はなんだ?」


「…………」


 フレミアは俺の眼差しから、真剣であることを察したらしい。


 言いにくそうに口ごもったあと、観念したように急ぐ理由を口にした。


「今日、宿に泊まるお金がないの」


「死活問題だな」


 薄々勘付いてはいたが、この子、アホの子だ!


「王都に知り合いは?」


「いない」


「稼ぐあては?」


「ない」


「馬鹿なの?」


「ば、馬鹿じゃないもん!」


「だとしても、いくらなんでも考えなさすぎだろ。いくら王都だからって、夜にフレミアみたいな小さな女の子が一人で出歩けるほど治安はよくないんだぞ? 最近だと連続殺人とかも起こってるし」


「うぐっ、だってお父様があんなこと言うから」


「おい、家出かよ」


 すっとフレミアは目を逸らす。いくらなんでもお金を持ってなさ過ぎだと思ったら、どうも親と喧嘩して着の身着のままで家出してきたらしい。


「わかった。今日は森の浅い部分で、お互いの戦闘スタイルのすりあわせをしつつ、モンスターの素材を狩って宿代を稼ごう」


「だ、ダメよ。契約で素材を売ったお金はライのものって決めたじゃない」


「けどお金ないんだろ? 稼ぐあてもないんだろ?」


「街では写本とか雑貨屋のお手伝いをしてお金を稼いでたし、ここでもそれで!」


「知り合いも伝手もないんじゃ無理だろ。いいから、悪いと思うんならたくさんモンスターを狩ってくれ。さすがに俺も二人分の宿泊費を出すほどお人好しじゃないんでな、足手まといになったら本気で夜の街に一人で放り出すからな?」


「足手まといになんかならないわ!」


 フレミアは小走りで森の中に入っていくと、俺に背中を向けたまま、ぽつりと言った。


「けど気遣ってくれてありがと」


 どういたしまして、と心の中でつぶやいて、俺も魔の森に足を踏み入れた。 





 剣を振るう。


 ぎゃぴぃ、と甲高い声をあげて討伐推奨レベル十三の獣型モンスター、ウルフェンが倒れ伏す。返す刃で、後ろから迫っていたもう一匹の首もはね飛ばした。


「とまぁ、こんな感じで俺の得物は剣だ。この程度のモンスターなら楽勝だな」


「……素直に驚いたわ」


 フレミアは俺の戦いようを見て、目をぱちぱちと瞬かせた。


「Eランクって聞いてたから、正直戦闘にはまったく期待してなかったけど、あなた結構強いじゃない。Cランクくらいの力はあるんじゃないの?」


「ありがとよ。ちなみに、これまで倒したことのある最高の討伐推奨レベルは、三十五のカウンターベアーだ」


「そういえば、ギルドマスターがそんなこと言ってたわね。さすがにそれは信じがたいけど、足手まといにならないのは理解したわ。――それなら、今度はあたしの実力を見せる番ね!」


「その前にウルフェンの毛皮をはぎ取るぞ」


「ちょっと、人の話はしっかり聞きなさい! あとそのレベルのモンスターの素材なんて無視よ無視!」


「けど、わざわざ毛皮に傷をつけないよう気を遣って倒したんだし」


「いいの! これからあたしがもっと強くてお金になるモンスターを倒すんだから! ほら、行くわよ!」


 フレミアに背中をぐいぐいと押され、ウルフェンから引きはがされる。


 そこまで言うんだったら、実力を見せてもらうとしようか。


 少し進んで行った先に、ちょうどモンスターがいた。討伐推奨レベル十八の猿人、エンプジンだ。三体ほど固まっており、こちらに気付いていない様子で動きを止めている。


「ちょうどいいわね」


 フレミアは近くの木の陰に身を潜ませつつ、俺に見てなさいと言わんばかりの視線を送った。


 俺も頷いて、フレミアとは違う木の陰に隠れる。さあ、お手並み拝見だ。


「オープン」


 まずフレミアは自分のステータス画面を呼び出すと、それを確認した。


 戦闘職ならば当たり前の確認作業。だが彼女は確認だけで終わらせない。指を滑らせると、ステータス画面に表示された一点に触れる。それは彼女の使える魔法が表示された箇所だった。


「マジックセレクト」


 フレミアは自身のステータスに表示されたひとつの魔法に指で触れる。するとステータス画面によく似た魔法の画面がもうひとつ現れる。マジックウィンドウと称される、魔法発動のために必要な画面だ。


「大地よ。目覚めのときは来た。その産声を上げよ」


 フレミアはマジックウィンドウの左から右へと指を滑らせるように移動させながら、そこに表示された詠唱を唱えていき、最後にその魔法の名を唱えると同時に、画面に向かって右手を突き出した。


「ロックジャベリン!」


 瞬間、マジックウィンドウとステータス画面が共に光となって弾け、その輝きの中から石の槍が勢いよくエンプジンめがけて射出された。


 弓使いの矢よりも巨大で鋭い石の槍は、エンプジン二体をもろとも背後から串刺しにし、その衝撃で二体の上半身と下半身を切り離す。


 ロックジャベリン。地属性の魔法で二番目に覚えられるまだ初期の魔法だが、知力のステータスが高いのだろう。かなりの威力である。


 だがそれでも、フレミアのロックジャベリンは三体目のエンプジンにはなんの痛痒も与えなかった。仲間を殺されたエンプジンは怒り、フレミアへと勢いよく駆け寄ってくる。


 俺は剣の柄に手を触れた。


 魔法使いの魔法の威力は、たしかに並の戦士の一撃よりも遥かに上だ。だが魔法使いには魔法を使う際に、一度ステータスを経由し、表示された詠唱を唱えなければならないという弱点が存在する。つまり攻撃に時間がかかるのだ。


 だからこそ、戦いにおいては前衛に時間を稼がせるのが鉄則。だから俺も前に出てエンプジンの相手をしようとしたのだが、狙われているフレミアは動じることなく再び「オープン」と口にしてステータスを表示した。


「ロックジャベリン」


 そして今度は詠唱を挟むことなく、魔法の名を口にして手を前に突き出した。


 光が弾けて再び石の槍が射出される。それは近付いてきていたエンプジンの身体の半分以上をえぐって、近くの木に突き刺さった。


「どう? あたしにかかれば、ざっとこんなものよ」


 フレミアはずり落ちたとんがり帽子の位置を整えつつ、俺に褒めろと言わんばかりの視線を送ってきた。

 

 けどまあ、たしかにすごい。


「同一魔法の連続使用時における詠唱破棄。お前、魔法スキルだけじゃなくて、魔導師スキルまで持ってるのか」


「そのとおりよ! これが魔導師スキルの熟練度三〇〇ボーナススキル『連続魔法』よ! 魔力は倍消費するけど、魔法使いの弱点である詠唱時間の長さをある程度カバーできるわ。ふふんっ、すごいでしょう?」


 魔法スキルとは魔法を習得できるスキルであって、魔法を使う際の補助となるボーナススキルの類は覚えられない。熟練度を上げても覚えるのは新しい魔法だ。各種魔法の威力等を補助するには、別途、魔導師スキルを初めとした魔法使い系の職業スキルが必要だ。これを持っているといないとでは、魔法使いとしての戦闘力がかなり違ってくるという。


「高い魔法スキルだけならともかく、魔導師スキルも一緒に持ってるのは、あたしの通ってる学校でもあたしだけなんだからね!」


 ほほーう。


「フレミアのその服装って、どこかの魔法学校の制服じゃないのか? さすがに魔法学校なら、もう少しくらい魔導師スキル同時持ちはいるだろ?」


「えっ? あ、えと、そうね。よく覚えてないけど、もしかしたらそうだったかも知れないわね」


「やっぱり魔法学校の生徒だったのか。ちなみにどこの魔法学校なんだ?」


「そんなことより!」


 フレミアは俺の問いかけを遮るように叫んだ。


「この程度で驚いてもらったら困るわ。今のはあたしの持つDランクの地属性魔法スキルだもの」


 これ幸いと話題を変えたフレミアの先には、森の奥からやってくるエンプジンたちの親玉、鈍い鋼の全身甲冑に身を包んだエンプジンジェネラルがいた。


「そしてこれから見せるのが、あたしのAランクの火属性魔法スキルよ! オープン!」


 ステータスを呼びだし、フレミアはマジックウィンドウを開いて詠唱を始めた。


「炎よ。熱く猛りて、赤々と燃え上がれ」


 使おうとしているのは、恐らく火属性魔法スキルの第二魔法。ロックジャベリンと同等の魔法だ。


 けれど片やDランクでありこちらはAランク。そのランク差の意味を考えれば、結果は同等であるはずもない。


「フレイムブロウ!」


 その魔法の名と共に、絶対の自信をこめてフレミアは手を突き出した。


 視界が紅蓮に埋め尽くされる。


 炎が獲物に食らいつく獣のあぎとのごとく、エンプジンジェネラルの身体を飲み込んだ。周囲の木々もまとめて紅に染めていく炎の中で、その巨体が燃え尽きていく。炎が消え去ったあとには、半ば炭と化した金属装備と木々が残るばかりだ。


「ふふん、見たかしら? エンプジンジェネラルを一撃よ、一撃」


「いやすげぇな」


 フレミアの言葉を信じるなら、彼女のレベルは二十八。そしてエンプジンジェネラルの討伐推奨レベルも二十八である。つまり彼女の本気の魔法は、同レベルの敵の体力を一撃で燃やし尽くしてしまうほどなのだ。


「すごい。こんな魔法を見たのは生まれて初めてかも」


「まあね! マルドゥナの魔法使いとしては当然よね!」


 あまり魔法使いと縁がなかったのもあって手放しで褒めると、どんどんとフレミアの胸がそっていく。そのまま後ろに倒れるのを見届けるのも面白そうだが、それより先にひとつ言っておかないといけないことがある。


「けど注意しておかないといけないことがある」


「もしかして森の中で炎の魔法を使うなってこと? 大丈夫よ。そのあたりはきちんと調整してるし、魔の森の木は燃えにくいから火事になるなんてことはないわ」


「いやそこじゃなくて」


 俺はガラクタ同然となったエンプジンジェネラルの装備を指さして、


「エンプジンジェネラルの装備、いいやつはかなりの値段で売れるのに、まとめて燃やしてどうすんだよ?」


「あ」


「ちなみにエンプジンの方はまったく売れる素材がないから、今のところまだ稼ぎはゼロな」


「だ、大丈夫よ!」


 頬に一筋の汗をかきつつも、それでもフレミアはそう言い切った。


「これからガツンと稼いでみせるんだから!」






「なんでよぉおおおおお――ッ!?」


 冒険者ギルドの買取受付カウンターの前で、フレミアが大声で叫んだ。


 彼女はたった数枚のコインを握りしめ、ばんばんとカウンターを叩く。


「あれだけ倒して手に入れてきた素材が、たったこれだけにしかならないってどういうことよ!? 手数料だとしても限度があるわ! いやがらせ!? それともピンハネなの!?」


「ち、違います! 人聞きの悪いことを叫ばないでください!」


「ならどうして!? 討伐推奨レベル二十超えのモンスターも何体かいたのよ!?」


 本日買取を担当していた哀れなギルド職員のお兄さんは、今にも噛みついてきそうなフレミアの剣幕に怯えつつ説明する。


「本日あなたが持ち込まれた素材はですね、たしかにそれなりに珍しいものも含まれていましたが、需要がまったくないものになるんです。だからお値段の方はそちらが適正となりまして」


「か、カラーリザードの鱗は!? あれって細工の装飾に使えるから、そこそこな値段で取引されてるはずでしょ!?」


「実はつい先日、カラーリザードの異常繁殖があり、多くの冒険者の手をかりて討伐したばかりになりまして。一時的に買取価格が大幅に下がってるのです」


「嘘っ!? じゃあ、本当にこれだけにしかならないの?」


「はい。申し訳御座いませんが」


「やっぱりかぁ」


 口をあんぐり開けて呆然とするフレミアだったが、俺は今日倒したモンスターの数々から、この結果は予想できていた。


 エンプジンジェネラルを倒したあとも、フレミアと一緒に魔の森の浅い箇所でたくさんモンスターを狩ったのだが、そのことごとくがお金にならないモンスターばかりだった。中にはカラーリザードの鱗のように、いつもならお金になる素材もあったのだが、よくよく思い出してみると、なにかしらの理由があって買取価格が下がっているものばかりだった。


 フレミアと二人がかりだったので、いつも以上にモンスターは狩れたと思うのだが、結果を見れば俺のいつもの稼ぎの十分の一にも満たない金額だ。


「足らない。二人で分けたら、ううん、分けなくても宿泊費に足らない……」


 とぼとぼと肩を落としてフレミアは戻ってくる。

 ギルドに戻ってきたときは「これで王都滞在中の宿泊費は余裕ね!」と、うきうきと落ち着きがなかったのだが、今はまったくの逆だった。


 フレミアは俺の前まで来ると、帽子のつばを両手でつかんで顔を隠し、ちらちらと上目遣いで見てきた。


「ライ。あのね、きっとあたしたちの努力を踏みにじるギルドの陰謀だと思うんだけど、買取価格がね」


 その目にじわりと涙が浮かぶ。


「少なかったわ。すごく、すごく少なかったわ」


「もういい。なにも言うな」


「ご、ごめんなさい、これ、あたしの所為だわ」


「謝ることないって。今日はたまたま運が悪かった。それだけだ」


「違うのよ。本当に、あたしの所為なのよ。――オープン」


 フレミアは殊勝な態度になって、俺に自分のステータスを見せてきた。



 フレミア・マルドゥナ

 レベル:28

 経験値:38452  次のレベルまで残り2106

【能力値】

 体力:678

 魔力:1106

 筋力:81

 耐久:89

 敏捷:78

 器用:123

 知力:225

【スキル】

 魔導師:B 熟練度341

 魔法を扱う才能。

 熟練度100ボーナス……魔力、知力のステータスUP小。

    200ボーナス……魔力の消費量減少

    300ボーナス……同一魔法連続使用時に詠唱破棄が可能。魔力消費は倍。


 火属性魔法:A 熟練度366

 火炎の魔法を扱える。


 地属性魔法:D 熟練度276

 大地の魔法を扱える。


 悪運:B 熟練度175

 死を回避する力。

 熟練度100ボーナス……戦闘時の幸運UP。金運DOWN。


【マジック】

 ファイアボール……炎の玉を撃ち出す。消費魔力20。

 フレイムブロウ……前面に火炎を展開する。消費魔力65。

 フレイムブレイク……大地より猛烈な勢いで炎を噴き上げる。消費魔力250。

 ストーンアロー……こぶし大の石を撃ち出す。消費魔力20。

 ロックジャベリン……石の槍を射出する。消費魔力65。


 

 魔法持ち特有の長いステータス画面には、とても珍しいものがいくつもあった。


 ひとつはスキルが四つあること。スキル数は平均としては一人二つほどである。多くて三つで、四つというのはかなり珍しい。


 さらにその四つのスキルのうち、ひとつがAランク、二つがBランクというランクの高さだ。この前山で会ったAランクふたつ持ちのじいさんもかなり珍しいが、フレミアはそれに負けず劣らずの珍しさである。


 そして極めつけは、『悪運』スキルである。


 今まで聞いたことも見たこともないレアスキル。幸運という基本能力値に表記されていないステータスへの影響というのは、数あるスキルの中でもとびきりの珍しさだ。戦闘時に幸運を呼び込む、というのも効果としてはかなりのものだろう。


 もっとも、それを補ってあまりあるマイナスがあるようだが。


「金運ダウンってこれ」


「ドラゴンと直接戦ったご先祖様の、その次に生まれた子にはね、それまでマルドゥナ家の子供には絶対あった鑑定スキルがなくなってたの。その代わりにあったのが、この悪運スキル。それ以降、代々マルドゥナ家の子には必ず悪運スキルがあったわ。そしてお金には縁がなくなったわ」


「もしかして、マルドゥナ家の没落の本当の理由って……」


「悪運スキルは上げたくなくても、熟練度は知らないうちに上がってるわ。大人になる頃には、きっと熟練度二〇〇ボーナスは堅いでしょうね。ちなみにそのボーナスの内容は、戦闘時の幸運アップ大。そして金運ダウン大よ」


 乾いた笑みを浮かべるフレミアを見つつ、ギルドマスターの言葉を思い出す。


 悪運のマルドゥナ。

 関わるなよ。貧乏になるぞ。とまで言われて、貴族社会では恐れられているらしい。


「死を回避し、戦闘時に幸運を呼び込むって触れ込みだけど、実際にそれを実感したことないのよね。けど金運が下がるっていうのはいつもいつも実感してるわ。なぜか財布の底にピンポイントで穴があくし、お父様やお母様がどれだけがんばって稼いでも不思議とお金は貯まらないし。戦闘の結果手に入れた素材なら大丈夫と思ったけど、ダメだったみたいね……」


「くぅっ」


 切ない。本当に切ない。思わずその頭を撫でてあげたくなってしまうくらいには、今のフレミアからはいつもの騒がしさや傲慢さが欠片も感じられなかった。


「き、気にするな。まったくお金にならなかったわけじゃないし、もしかしたら本当に偶々ってこともあるだろ?」


「けど結局、宿代が、ない、です……」


 俺はここ最近で稼いだ分のお金が残っているからなんとかなる。最悪、また親父さんとロロナちゃんに頭を下げて宿泊代をつけさせてもらえばいい。


 問題はこの可哀想なお嬢様なのだが。


「ひとつだけフレミアが泊まれるあてがあるぞ」


「もしかしてライの部屋に泊めてくれるの?」


 フレミアが顔を上げ、縋るような目で見てくる。


「悪い。俺の取ってる部屋、子供連れ禁止なんだ」


「じゃあ仕方……って、あたしもう十六歳だから!」


 淑女なのよと怒ってくるフレミアを宥めつつ、俺はそのある場所を紹介する。


 フレミアは最初少しだけ渋っていたが、他に行くあてもないので了承した。俺は彼女をその建物がわかるところまで連れて行く。


 教会によく似た白い建物。懐かしき我が実家、パルサ孤児院である。


「じゃあ、俺はここでさよならだ」


「え? 中まで一緒に来てくれないの?」


「悪いな。少し事情があって、今はあそこには顔が出せないんだ。けどミリエッタっていう若いシスターに、ライ・オルガスから紹介されたって言えば悪いようにはされないから」


「……わかったわ。また明日、森の前で」


「ああ。また明日な」


 フレミアがおっかなびっくりと、俺が前に暮らしていた孤児院の扉を叩き、中から赤毛のシスターが現れたのを見届けたあと、俺は宿には戻ることなく魔の森へと足を向けた。


 危険だがしょうがない。


「フレミアを泊まらせてもらうんだ。いつも以上に稼がないとな」


 ついでに明日のために、いくらかモンスターを減らしておこう。


 そう思いつつ、俺は暗い夜の森へと入っていった。




誤字脱字修正。

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