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嘘吐き魔法使い①



 心機一転、冒険者稼業をがんばろうと思った日から数日後のことだ。


「あなたがライ・オルガス?」


 不特定狩猟クエストで使う許可証をリカさんに発行してもらっていると、後ろから誰かに話しかけられた。


 振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。


 知らない女の子だ。王都の冒険者ギルドでは見かけたことがない子である。


 年齢は十二、三歳ほどか。まだ幼さの残る小柄な女の子で、空のように真っ青な髪を二つ結びにして背中に流している。服装はやや薄汚れた黒いローブ。頭にも同じく黒いとんがり帽子を被っている。


「これまた、わかりやすい魔法使いの女の子だな」


 黒いローブにとんがり帽子というのは、一昔前の魔法使いの正装として流行っていたものだ。流行の最先端である王都では廃れつつある格好だが、地方に行けばまだこのような格好が魔法学校の制服として指定されている学校もあると聞く。年齢からすると、どこかの魔法学校の学生と言ったところだろうか。


「俺になにか用か? お嬢ちゃん」


 視線を合わせるために少し屈むと、彼女は人形のような顔を不愉快そうに歪めた。


「子供扱いしないで。あたしはもう今年で十六歳。立派な淑女よ」


「これは失敬」


 国から成人として認められるのは十八歳だが、世間では十五歳になると働き始める人も多く、対外的には一人前と認められることも多い。俺は子供に対する姿勢をやめた。


「その淑女さんが俺になんの用なんだ? 俺の名前を知ってるみたいだけど」


「ええ。つい先ほど聞いたばかりだけどね」


 少女はクエストボードの近くにいた冒険者たちに視線を向ける。


 そこには最近知り合いになった冒険者パーティーがいた。

 俺の視線に気付くと手を大きく振ってあいさつしてきたので、俺も軽く手を挙げてあいさつを返す。


「彼ら以外にも何人かの冒険者に聞いたけど、このギルドで一番魔の森に詳しい冒険者はあなただって言うじゃない」


「まあ、ほぼ毎日のように通ってるからな。それがどうかしたか?」


「ふむ」


 少女は考え込むように口元に手をあてると、俺の姿をジロジロとぶしつけに観察してきた。


「……装備もみすぼらしいし、あまり強そうには見えないけど、あなた冒険者ランクはいくつなのかしら?」


「Eランクだよ」


 隠す必要性はない、というより、他の冒険者に聞かれたらすぐにわかってしまうため、正直に答える。


「Eランクぅ? 一番下の冒険者ランクじゃない」


 そしてこの先の彼女の反応もわかっていた。案の定、訝しげな目で見られる。


「本当に魔の森に入ったことがあるの? あそこに入る許可がギルドから下りるのは、Cランク以上の冒険者が主だって聞いたけど」


「本当だよ。実際に、ほら」


 すでに許可証を完成させ、ことの成り行きを見守っていたリカさんから、魔の森に入る許可証をもらって少女に見せる。


「どうやら本当みたいね。Eランクだけど探索に強いスキルを持ってる、というところかしら」


「まあ、そんなところだ」


「そう。それなら及第点よ。どちらにせよ、モンスターの相手はあたしが努めてあげるつもりだったし、道案内さえ出来ればEランク冒険者でも構わないわ」


 少女はバサリとローブの裾を翻すと、俺に対して人差し指に突きつけた。


「ライ・オルガス! あなたにこのあたし、偉大なる大魔法使いを先祖に持つ未来の大魔法使い、フレミア・マルドゥナの大いなる偉業の手伝いをさせてあげるわ! 光栄に思いなさい!」


「じゃあ、リカさん。行ってきます」


「行ってらっしゃい。お気をつけて」


「ちょっ!?」


 リカさんにあいさつだけしてクエストに出発する。さあ、今日もがんばるぞー。


「待ちなさいよ! なんで無視するのよ!」


 しかし自称未来の大魔法使い様に回り込まれてしまう。


「あたしの名前、聞いてなかったの? フレミア・マルドゥナ! あのマルドゥナ家の人間なのよ!」


「悪いな。聞いたことない。……まあ、貴族だってのはなんとなくわかったけど」


 マルドゥナ家がどれだけの家柄なのかは知らないが、平民を下に見るその物言いは、まさに典型的な貴族のものだ。これは厄介なお嬢様に絡まれてしまったものである。


 そしてそのマルドゥナ家のお嬢様は、俺のお前なんぞ知らない発言を受けて、


「……うぅ」


 目尻に涙をたっぷり浮かべて、今にも泣きそうになっていた。


「名前を知らなかっただけでなんで泣きべそかいてるんだよ?」


「な、泣いてなんかいないわ! このフレミア・マルドゥナが、へ、平民に忘れられているだけで泣くはずがないでしょう!」


 ゴシゴシと袖で涙を拭うと、フレミアは赤くなった目で俺をにらんできた。


「よ~く思い出しなさい。マルドゥナよ、マルドゥナ。絶対にどこかで聞いたことがあるはずよ」


「と言われてもだな」


 生憎と俺は貴族の名前をほとんど知らない。覚えているのは、かの『大剣聖』ヴァン・ヘルメス卿とうちのギルドマスターの名前くらいだ。


「ん? けど、マルドゥナか。たしかにどこかで聞いたような気が」


「そうでしょう! そうでしょうとも! 誰もが一度は耳にしたことがあるはずなのよ!」


 フレミアは自慢げに平らな胸をはって、むふん、と鼻息を荒くする。

 

「なにせ我が家は、長年にわたって王家を支えてきた宮廷魔導師の一族! その名は建国の歴史の中にだって語られてるわ!」


「ああ」


 語られていると聞いて思い出す。マルドゥナ。どこかが聞いたことがあると思ったら、昔、シスターが寝物語に話してくれたお話に登場する魔法使いの名前だ。


 たしかそのお話は元々絵本だったはず。で、その絵本のタイトルにもなった魔法使いの役柄は、そう。


「恐れなさい! 敬いなさい! そう、我らこそは伝説のドラゴンと戦ってステータスを看破し、その脅威を世界に伝えた一族! その名も――」


「嘘吐きマルドゥナか!」


 ぽん、と手を叩いてその異名を口にする。

 口にしてからしまったと思ったが遅かった。


 笑顔から一転、再びその両目を潤ませながら、フレミアは叫んだ。


「う、嘘吐きじゃないもん! ご先祖様は本当にドラゴンと戦ったんだからぁ!」






      ◇◆◇





 嘘吐きマルドゥナというのは、子供向けの寝物語としてはかなり有名な話だ。


 その話を簡単に要約するとこんな感じになる。


 昔々、あるところにマルドゥナという魔法使いがいました。

 マルドゥナは王様に仕える魔法使いでしたが、いつもぐーたらしている怠け者でした。 


 そんなある日、マルドゥナは居眠りをしすぎて、大事な会議をすっぽかしてしまいました。


 これは王様に怒られてしまう。

 そう思ったマルドゥナは、咄嗟に嘘を吐きました。


 街の近くにドラゴンが出たのです。私はこれを追い払うために出かけて遅れてしまったのですよ。


 そう言って、マルドゥナは自分のスキルで見通したという、ドラゴンのステータスを紙に記して王様に見せました。


 ドラゴンのステータスを見た王様は驚きました。

 これまで見たことも聞いたこともない、恐ろしいステータスだったからです。


 王様はマルドゥナを讃えました。よくぞ一人でドラゴンを追い払ってくれた。マルドゥナはまんまと罰を免れました。


 その数日後、街の近くでモンスターが暴れているという報告が王様の耳に届きました。


 ちょうど騎士団は街を離れていていません。困った王様は、マルドゥナを呼びました。


 いくら強いといっても、ドラゴンに比べれば話にならない程度でしかありません。ドラゴンを追い払ったマルドゥナなら、簡単に倒せるだろうと言い、王様はマルドゥナにモンスター退治に行かせました。


 断ることもできず、泣きながらマルドゥナはモンスターに挑みましたが、もちろん勝てませんでした。騎士団が駆けつけたとき、すでにマルドゥナはモンスターにぺろりと食べられてしまっていました。


 嘘吐きマルドゥナは、嘘を吐いたばかりに死んでしまったのです。


 おしまい。


「……今思うと、残酷な話だよな」


「そうよ。この絵本は結局、すぐに発禁になったわ。人のご先祖様を使って、嘘ばっかり書き連ねたんだから当たり前の話だけどね!」


『黄金の雄鶏亭』の一席。俺の向かいの席で、もぐもぐとシチューとパンを頬張りながら、フレミアは憤りを露わにする。


 俺の記憶がたしかなら、その絵本が発禁となった理由は、話を聞いた子供たちが、嘘を吐いたマルドゥナよりも騙された王様を馬鹿にすることが多かったからだったと思う。それマルドゥナのステータス見れば良かったんじゃないの? とは無邪気な子供たちのご指摘である。


 ただ、嘘を吐いてはいけないということを子供たちに教える教材として、絵本が燃やされても語り継がれ、今では一度も聞いたことがない子供はいないと言われるほどに定番となった。


 その嘘吐きマルドゥナにはモデルとなった実在の人物がいたと聞くが、それが目の前のお嬢様のご先祖様らしい。


「それで? そのフレミア・マルドゥナ様がどうして魔の森になんか行きたいんだ?」


「ちょっと待ちなさい。その説明の前に」


 口いっぱいに食事を詰め込むと、フレミアは近くを通りかかったロロナちゃんに空のお皿を差し出した。


「おかふぁり!」


「よく食べるな。そんなにここの食事が気に入ったのか?」


「もぎゅもぎゅごくん。そうね。まあ、なかなかと言ったところね」


「パンくずをほっぺに付けたまま言われてもなぁ」


 フレメアは顔を赤くすると、ごしごしと袖で口周りを拭って俺をにらみつけてきた。


「さっきと言い今と言い、あなた、貴族に対する口の利き方がなってないわ。あと淑女を運ぶときはお姫様をベッドに優しく連れて行くようにして運ぶように。あなたの運び方はまるで荷物かなにかを運ぶようだったわ」


 そりゃ本当にただのお荷物だったもの、とはさすがに口に出して言わなかった。


 お嬢様は脇に抱えられてここまで連れてこられたことが気に入らないらしいが、俺からしてみれば、泣いているのを無視せずに『黄金の雄鶏亭』まで連れてきて、こうして食事をごちそうしてあげてるだけ感謝して欲しいくらいである。


「まあ、いいわ。これまでの失態は、これからの活躍で挽回なさい。もう一皿シチューを食べたら、早速魔の森に出かけるわよ」


「だから、その前に行く理由を話してくれって」


「そうだったわね」


 フレミアは新しいシチューを受け取りつつ、やや真剣な顔をして話し始めた。


「どこかの馬鹿の所為で、嘘吐きマルドゥナなんて言われてるけど、あたしのご先祖様は本当にドラゴンと戦ったの。そしてその脅威を鑑定で読み取って国王陛下にお伝えしたわ」


 モンスターも含め、自分以外のステータスはいくつかのスキルで看破することができる。鑑定もそういったステータス看破スキルのひとつである。モンスターと戦う際、相手の体力等が可視化できる以外にも、物質の詳細を読み解くことができたるため、有用なスキルのひとつとして使い手は色々なところで引く手数多だ。


 リカさんを始め、ギルド職員の中にもこの鑑定スキル持ちが多くおり、新種のモンスターが発見されたときも、まずは鑑定スキル持ちがそのステータスを探り、その読み取ったステータスから推奨討伐レベル等を決めているという。


 同じことをフレミアのご先祖様はしたのだろう。伝説に登場するドラゴンのステータス。まさに脅威を測り、今後の対応に活かすためには最大の活躍をしたといえよう。


 フレミアもご先祖様のことを誇らしげに話していた。けれど、同じだけ悲しそうな顔をしていた。


 なぜならドラゴンのステータスなんてものは、現状、欠片も分かってないからだ。


「ドラゴンのステータスを読み取って伝えたわ。本当に、伝えたのよ。けれど時の国王陛下は信じてくれなかった。こんなものは嘘だと、そう言ってご先祖様を宮廷魔導師の地位から外したのよ」


「そんなに理解しがたいステータスだったのか? レベルが一〇〇を優に超えてたとか、体力が何百万とあったりとか」


 フレミアは首を横に振る。


「じゃあ、ドラゴンのステータスを読み取れたは読み取れたけど、抵抗が強くて一部分しか読み取れなかったら信じてくれなかったとか?」


 相手のステータスを看破するスキルがあるように、そういったスキルから自分のステータスを隠蔽するスキルも存在する。特に強力なモンスターほどステータスを読み取れないらしいので、ドラゴンがそうでも不思議ではない。


「舐めないで。あたしのご先祖様は鑑定スキル九〇〇を超えた、当時最高の鑑定士だったのよ。たとえ相手がドラゴンといえど、完璧に読み取ったに決まってるわ」


「じゃあ、なんで信じてもらえなかったんだ?」


「それは……」


 フレミアは俺の顔をじっと見つめていたが、やがて怯えるように顔を背けてしまった。


「ふんっ、どうせ言ったところで信じてもらえないわ」


「まあなぁ」


 なにせ先ほど会ったばかりの関係である。頑なにフレミアはご先祖様は嘘を吐いていないと言っているが、実際のところはどうだろうか。


 ドラゴンはその強大さと、目撃情報があまりにも少ないことから伝説のモンスターとまで言われている。一応、うちの国では三百年前に、隣国では二十年前にドラゴンが現れ、猛威を振るったと伝えられているが、それが本当にドラゴンだったのかは騎士団でもギルドでも確認が取れていない。


 生き残った人間が少なすぎるのだ。さらになんとか生き残った人間も、なにかしら精神に異常を来していたりと、情報があてにならない状態だったらしい。


「とにかく、ご先祖様の偉業は誰にも信じてもらえなかったの。あたしは子孫として、ご先祖様に着せられた嘘吐きという汚名を晴らさないといけないわ」


「つまり魔の森にドラゴンを探しに行って、見つけたところで今度こそステータスを看破すると?」


「そのとおりよ。まあ、あたしは鑑定スキル持ってないから、ひとまずドラゴンを見つけ出すところまでね。見つけさえすれば、騎士団なりギルドなりがきっちりステータスを読み取ってくれるはずよ」


「大事なところが他人任せじゃねえか」


「ス、スキルがないものはしょうがないじゃない! それに、これは色々と熟考した末の行動なのよ! あなたは知らないでしょうけど、近年、この王都近隣の山や森でドラゴンの足跡っていうドラゴンの痕跡が数多く残ってるの。けど未だにドラゴンの影もつかめていない。となれば、普段は人目のつかない場所に潜んでいるに違いないわ。潜伏場所として、可能性が一番高いのは魔の森よ」


「けど俺は五年近く魔の森に通い詰めてるけど、これまでドラゴンなんて見たことないぞ?」


「それはそうでしょ。相手はドラゴンよ? あなたみたいなEランク冒険者が入れるような浅い場所で遭遇できるわけがないじゃない」


 こいつむかつく。最初見たときからわかってたけど。


「ドラゴンがいるとすれば、それは森の中心点。この国からも、隣国からも一番遠いその場所に決まってるわ」


「おいおい。森の中心部って、Aランク冒険者でも近寄らないような魔境だぞ? そんなところに行くつもりなのか?」


「安心なさい。あたしは魔法使いの名門であるマルドゥナの魔法使い。レベルは二十八だし、Aランクの魔法スキルも持ってるわ」


「Cランク冒険者相当の力はあるってことか。それでもなぁ」


「なによ、男の癖に意気地がないわね。それでも冒険者なの?」


 やれやれ、と小馬鹿にするように肩をすくめて、フレミアは俺を見た。


「魔の森に一番精通していると聞いたから期待してみれば、とんだ臆病者ね。そんなだからいつまで経ってもEランクなのよ」


「俺がEランクなのは弱いからじゃない。黙って聞いてれば、言いたい放題言ってくれるじゃないか」


「悔しければ行動で示しなさい。あなたに本当の意味で冒険をする勇気があるのならね」


「……上等だ」


 自分の目的のために煽られている自覚はあったが、年下の女の子にここまで言われて俺も黙っていられない。


 どうせ魔の森には行くつもりだったのだ。ならいつもより少し奥に行ってもいいだろう。中心部はさすがに厳しいだろうが、それは彼女だって同じだ。どうせモンスターを見たら怖じ気づくに決まってる。


「わかった。いいぞ。そのクエストを受けようじゃないか」


「決まりね」


 胸をなで下ろした様子で、冷めたシチューに手を付け始めるフレミア。ただ、行く前にひとつだけ決めておかなければならないことがある。


「それで? 報酬はいくらになるんだ?」


 彼女からの依頼で魔の森に入るのなら、それはいつもの不特定狩猟クエストではなく、個別クエストとなる。本来は依頼人からの依頼内容に応じて、ギルド側が最低報酬金額やランクを決めるものなのだが、そうなると受理にまで時間がかかるため、別に非正規の依頼ということでそれはそれでいいのだが、それでも報酬は最初に教えてもらわないといけない。


 そう思って聞いたのだが、なぜかフレミアはスプーンをシチューに突っ込んだところで固まり、だらだらと汗を流し始めていた。


「……おい。もしかして」


「ぼ、冒険者なのだから、報酬は栄誉だけで十分よね?」


「金、持ってないんだな」


 貴族といっても色々だ。領地があってお金がたくさんある大貴族もいれば、名前だけの貧乏貴族もいる。嘘吐き呼ばわりされて祖先が冷遇されているのだから、そりゃ、お金持ちなわけがないか。


「お前、それでよく冒険者ギルドを訪ねてこられたな? お金がないのに依頼はしたいって、ふざけるなってぶっ飛ばされても文句は言えないぞ?」


「くっ! お、お金くらい持ってるわよ!」


 フレミアは懐から古めかしい財布を取り出し、逆さにして中身をすべてテーブルの上にぶちまける。


 ちゃりんちゃりん、と音がして銀色の硬貨が何枚かと薄錆色の硬貨が何枚か転がり出る。


「食事代のお支払いですね」


「え?」


 テーブルの上のお金を見たロロナちゃんが、近寄ってきて数え始める。


「はい、ちょうど頂戴いたします。またのご利用お待ちしております」


 切ない。


 たくさん食べたとはいえ、貴族の財布の中身が二人分の食事代しかないなんて。


「う、うぅう」


 そしてまた泣きべそをかき始めるフレミア。なにこいつ? 最初は態度にいらっとしたけど、今はもう見ていて本当に哀れになってきたんだけど。


「わかった。わかったよ。直接報酬はいい」


「ほんと?」


 ぐすり、と鼻をすすりながらフレミアが上目遣いで見てくる。


「その代わり、道中で倒したモンスターの素材は全部俺がもらうぞ。そっちが倒した分も全部だ」


「それで構わないわ。貴族であるあたしが、冒険者みたいにモンスター討伐でお金を稼ぐわけにはいかないもの」


「決まりだな。それならやり方次第でこっちにも利益はある」


 言質をいただいたところで、俺は手を差し出した。

 フレミアもにんまりと微笑むと、差し出した手を小さな手でぎゅっと握った。


「もう一度名乗るわ。あたしは偉大なる大魔法使いを先祖に持つ未来の大魔法使い。フレミア・マルドゥナよ」


「ライ・オルガス。万年Eランクの冒険者だ。短い間だろうが、よろしく頼むぜ」


 そうして俺は久しぶりに誰かとパーティーを組んで冒険に行くことになった。


 しかもこれまで以上の冒険だ。

 目的は伝説のモンスターで、存在するかもわからない破壊の化身。だが本当に見つければ、俺たちの名前は高く高く国中に響き渡るだろう。


 俺は夢に近付くために。

 フレミアは先祖の汚名を晴らすために。


「さあ、ドラゴンを探しに行くわよ!」


 割となにも考えていない勢いだけでパーティーは結成されたのだ。



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