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第2話:はじめての戦闘

「それってどういう」


そう聞き返した時だった。


「ギャギャギャギャギャギャ」


鳴き声だろうか、とても不快な音が聞こえてきた。


「な、なんだいまの」

「あぁ、気にしなくても平気だよ。この森に棲んでるキノコの鳴き声だから」

「キノコ!?」

「うん、興味があるなら見に行ってみる?」

「危なくないのか、それ」


少なくともギャギャギャなんて鳴くキノコは元の世界にはいなかった、それだけで不気味であるし危険を感じる。よもや人食いキノコとかモンスター敵なアレなのではなかろうか。


「大丈夫だよ、あの鳴き声は獲物を見つけて食べようとしてる時のものだから」

「やっぱり肉食かよ!? それのどこが大丈夫なんだ!」

「あいつらバカだから、獲物みつけたらそれ食べ終わるまで他のものに目がいかないんだ。一度食事したら三日はその場で寝てるし」

「ちなみに何食べるんだ?」


半ば予想しつつ、素人の予想など外れるだろうと願いながら聞いてみた。


「人間」


素人の予想も馬鹿にしたものではなかった。


「それ、今まさに誰か襲われてるってことだろ! なに冷静に話してるんだよ!」

「え、だって他人事だし」

「そもそも争いごとは起きないんじゃなかったのか?」

「食事は、争いとは、言わない」


言われてみればその通り。

どこの世界に"いざ尋常に勝負!" やら"バトルスタート!"などと言いながらする食事があるというのか。

いや、あるかもしれないな、異世界がひとつあったのだからバトルマンガのような異世界もあるかもしれない。少なくともここは違うらしいが。


「と、とりあえず助けに行くことってできるのか?」

「ん? まぁ鳴き声の方角はわかってるし、わたしならムシャムシャキノコくらいわけないけど」

「じゃあ行ってみよう、それで助けられそうなら助けてくれ」


日本で育ったやさしい高校生の善意からの提案、ではなかった。

少し話を聞いただけだが現状自分達以外に味方はいない。

そしてこの自称女神は仮にも世界の敵認定されていたようで、味方を探すことも困難だろう。

ならこれはチャンスなのだ、命を助けて恩を売り、味方を増やすための。

日常的にトラブルに見舞われてきた桃也はいざというとき頼れる存在の重要性を知っていた。


「いいよ、トラブルは大歓迎♪」


対する女神も人助けで動くわけではない。

いまたしかに人が襲われているのだろう、放置しておけばそのまま食われる。

だがそれでお終い、この世界ではいつものことだ。

しかしそこに手を出せばどうなるか?

たしかに桃也が内心考えているように味方が増えるかもしれない、かもしれない、だ。

もしかしたらそこからさらに問題が起きるかもしれない。

そして問題というのは得てして争いの元になるのだった。


「よし、じゃあ案内してくれでぃ、でぃすこるであ?」

「言いにくいならエリスでいいよ。こっちもわたしの呼び名だから」


神様というのは名前が複数あるらしい。


「面倒じゃないのか?」

「ハンドルネーム使い分けるようなものだよ」


世俗的な神様だった。


「なるほど。おれは桃也だ、改めてよろしくエリス」

「よろしくトーヤ♪」


笑顔で握手するふたり、この世界に争乱を巻き起こすはた迷惑なタッグが誕生した歴史的瞬間である。


「きゃああああああああああああああああああああ!!」


女性の悲鳴が響きわたるなか固い握手を交わすふたり。


「やっべ忘れてた!」

「やっぱり見捨てる?」

「見捨てないから!」


エリスの先導で森の中を進む。

意外というかやはりというか、所詮は叫び声が聞こえる程度の距離だ。

何分もかからずふたりは目的のものをみつけることができた。


「あ、あっ、あぁっ……」


顔を真っ青にし、汗だくになりながら地面にへたりこむ少女がいた。

その眼前、1mほどの大きな脳みそがいた。


「キモッ!?」

「うん、きもいよね」


脳みそ、正解には脳みそのようなキノコはそれだけでも気持ち悪い風体なのだが、ぱっと見で左脳と右脳の分かれ目のような場所に縦に口が付いていた。

しかも人のような歯でガチガチと音を鳴らしていた。


「な、なぁあれキノコなのか?」

「トーヤの世界にもああいうキノコあるけど、知らない?」

「知らんかったし知りたくなかった」


2人の眼前でその脳みそキノコ、エリスがいうところのムシャムシャキノコが怯える少女へとゆっくりと近づいて行く。

少女は座り込んだまま後ずさりするが到底逃げ切れる速度ではない。

その様子を見て、ふと気になることがあった。


「なぁ、あの娘なんで腰のナイフ抜かないんだ?」

「さっき言ったじゃない、この世界はもう些細な諍いすら起きないんだって」

「は?」

「生活のための狩りならするけど、それ以外では殺生できない、しようという発想が浮かばない。だからいまのこの世界はとてもとても平和だよ」

「なんだよそれ」


たしかにそれは平和だろう。

生活に必要な殺生しかしない、些細な諍いもしようとすら思わない。

科学的に発展しているトーヤの世界ですら未だに到達できていない精神的な極地であるかもしれない。

しかしこれはとても歪な平和だ。

その歪さで目の前の少女は無抵抗に食い殺されようとしている。


「エリス、あのキノコ倒せるなら、倒してくれないか」


この女神は争いが糧だといっていた、ならばそれを起こそうとしているキノコを倒すことはしてくれないのではないか。

そんな不安を抱えながらの願いはしかし肯定される。


「ん、いいよ?」

「え、いいのか? だって争いが起きて欲しいんだろ?」

「あれがしてるのはただの狩り、でもわたしがあれを殺せば争いになるじゃない」


にぃ、と三日月のように口を歪め、とても、そうとても恐ろしい笑顔を浮かべるエリス。

あぁ、本当にこいつは人間じゃないんだなと一瞬で理解してしまう、そういう笑み。

その笑みを湛えたままにエリスは怯える少女と迫るキノコの間に割って入った。


「え!?」

「ギャ?」


硬直するひとりと一本。

それを見ているのかいないのか、エリスは虚空に右手をかざすと静かに呟いた。


武装(エクソピュースモス)


瞬間、エリスの手の中に巨大な戦斧があらわれる。

持ち手の長さは3m、刃渡り40cmはあろうかという両刃のポールアックスだ。

無骨な外見でありながら華美な装飾を施されたそれは飾り物のように見えるが、その本質はやはり武器だった。

エリスの右腕によって振られたそれはキノコの手前の地面に振り下ろされ、数十センチほどの土をえぐる。

トーヤは実際に武器が振るわれるところなど見たことが無かったが、それが十分な威力を持ち、直撃すればあのキノコなど一撃で両断されるだろうことは想像に難くなかった。


そう、直撃すればである。


斧を振り下ろしてからエリスに動きが無い。

正確にはその場の全員が突然のことに身動きがとれないでいたのだが、その突然のこと(斧をふりおろした)をしたエリスまで動かないのはどういうことなのか。

トーヤが考えようとした時だった。


「ぬ」

「ぬ?」

「抜けない……」

「は?」


思わず間抜けな声を出したとしても、きっと許されたのではないか。

後にトーヤはそう語ったという。


「ぬ、抜けないって」

「というか、重くて持ち上がらない……」

「はあああああああ!? それお前の、おま、お前が出した武器だろ!?」

「そうだけど! そうなんだけど! 重いものは重いの!」


冷静になろう。

トーヤがキノコから少女を助けて欲しいといった。

了承したエリスがその間に割って入り何らかの方法で戦斧を取り出し地面にたたきつけた。

すばらしい威力だった。

重くて持ち上がらないらしい。

……。


「なっんじゃそりゃああああああああああ!?」


暖かな陽光が降り注ぐ森の中、トーヤの叫びが響き渡った。

ようやく名乗った主人公とヒロインです。

ふたりとも基本はトーヤとエリスの表記で進みます。


そして駄女神さまっぷりを発揮しはじめたエリスの未来はどっちだ、まて次回。

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