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第1話:はじめての自己紹介

綺麗だ。

それが最初の印象。

すごくかわいい。

それが次の印象。


「さて、手っ取り早く近くの村でも滅ぼしちゃおうか?」

「こいつろくでもないな」


それが最新の印象だった。


「ろくでもないとはなにさ、ありがとう!」

「喜ぶのかよ、やっぱりろくでもないな」


改めて目の前の少女を見やる。

まず目を惹くのはその髪だろう。

浅葱色の長髪を後ろで編んでたらし、それとは別に耳の上ほどで束ねたおさげ。

三つ編みとツインテを両方やってみましたという感じの髪は、それを解けばどれほどの長さになるだろうか。

太陽光を反射し輝く髪、それに負けないほど光を跳ね返す白い肌。

そして若干ツリ目がちながらも整った美しい黄金の瞳。


あぁ、人の姿をしたナニカなんだろうと思わせるに十分な神々しさを放っている。

いるのだが。

上半身は肌にぴっちりとはりつくような黒いノースリーブのシャツ、下半身はフリルのついたミニスカートというアンバランスないでたちで若干台無しになっている気がしないでもない。


「村を滅ぼすのはだめかい?」

「なんでいいと思ったんだよ……」

「そうか、なるほど。生き残りがいたほうが騒ぎが大きくなるもんね、さすが」

「さすが、じゃねえよ! あんたは何がしたいんだ!」

「え?」

「え?」


会話が止まってしまった。

仕方なく桃也とうやは先ほどまでの会話を思い出そうとしてみる。


彼女はこういったはずだ。


『さぁ、一緒にこの世界を争乱の渦に叩き込みましょう♪』


うん、間違いなくいったはずだ。

そして先ほどの村を滅ぼそうという言葉。

もしかして自分はやばい相手と話をしているのではなかろうか、桃也はようやくそのことに思い至った。

もっとも依然として"妄想にとりつかれてる電波さん"もしくは"クスリをやってる本格的なやばい人"程度の想像力しか働いていないのだが。


「キミキミ、わたしを無視して思いにふけるのはやめてほしいな? 無視はさみしいよ?」

「あ、いやすまん。ちょっとこの頭のおかしい女をどう対応するか悩んでて」

「キミは中々に失礼なことをいうね、気に入ったよ」

「それならよかった、それじゃおれはこれで」


だめだこいつ、なんとかできそうにない。

そう感じきびすを返す、早く帰ってみたかったアニメでもみよう。今が何時かはわからないが幸い録画はしてある、リアルタイムで見られないかもしれないがそれで手を打とう。

そう考えて桃也は森の中を歩き始めようとした。


「って、ここどこだよ」


あの暗い場所で目を覚ます直前まで彼は自室でだらだらとすごしていた。

勉強をするでも、ゲームをするでもなく、漫画をぱらぱらめくってはやめ、おかしをつまみ、自分のベッドの上でだらだらしていたのだ。だらだライフを送っていたのだ。

しかし今は明るい日差しを受けながら、森の清らかな空気に包まれていた。


「ここはクルディス国の南東、モルの大森林のど真ん中だよ♪」


頭のやばい少女が桃也の顔を覗き込みながら言う。

近づかれて改めてわかったこととしては思ったよりも背はたかい、160cm前半だろうか? と まつ毛長いなぁというくらい。


「え、どこそれは」

「キミの居た世界の座標と照らし合わせると東京アキバの電気街口から徒歩10分くらいのところかな」

「おれの家世田谷区なんだけど」


アキバは千代田区である。

いや、そんなことよりも気にするべきは他のことだろう。


「え、なに、ここ異世界とかそういう場所なの?」

「そうだよ、ちょっとキミのこと召還()んでみた」

「なに勝手なことしてくれてるの!?」

「勝手じゃないよ! 手伝ってくれるって言ったよ!」


たしかに言った記憶はあるが、異世界に行っても良いと言った記憶はない。


「そもそもここが本当に異世界だっていう証拠はあるのか、東京にだって森はあるんだぞ」


東京と聞くと多くの人がビル街を思い起こすだろう、それは間違っていないのだがそのイメージは日本の首都の中心部の話である。山だって川だって一応あるのだ。


「すこし過ごせばいずれわかると思うけど、とりあえずわたしじゃだめ?」


かわいらしく(悔しいことに認めざるを得ない)首をかしげる美少女を改めてみる。

染めたとは思えない自然な髪の色、美しい黄金の瞳は良く見ると瞳孔が縦長で、肌も恐ろしいほど白いにもかかわらず絶妙に生気を感じさせ化粧品の類で誤魔化していないことをうかがわせた。

なるほどたしかに人外にしかみえなかった。


「わかった、細かいことはおいておこう。おれはお前を手伝うといったし、そのことに二言はない。なにをすればいいんだ?」

「とりあえず村をほろぼし」

「却下だ」


被せ気味にいわれ、頬を膨らませる少女。ちょっと、いやかなりかわいい。

だからといって『村を滅ぼそう♪』『おっけ♪』とはいかないしいけない。


「あー、確認したいんだがおまえは村を滅ぼすのが目的なのか?」

「んー、いや、違うよ」

「そうか、よかった」


正直なところ、ほっとした。

その場の勢いとはいえ手を貸すといった手前やっぱり無理です、とは言いたくはない。

それにこの良く分からない場所で協力者足りえる存在と敵対したくもなかった。


「わたしの目的はこの世界に争乱を巻き起こして力を取り戻すことだから」


ほっとしたのは錯覚だった。

正確には錯覚ではなかったが、一瞬でも安堵したせいでより大きな絶望が押し寄せてきた感じだ。


「ちょ、ちょっとまて、おちつけ」

「わたしは落ち着いてるけど」

「わかった、落ち着いてないのはおれだ。冷静になりたいから詳しく話しを聞かせてくれ」


少女の話をまとめるとこうだ。


曰く、自分は争乱を糧に生きる不和の女神である。


曰く、ちょっとやりすぎて一度滅ぼされかけてしまった。


曰く、神とは概念であり、滅ぼされても次の神が生まれる。しかし自分の自我は消滅し、それは別神となる。だから可能な限り消滅したくはない。


曰く、自分が実質滅ぼされたことにより人々から争うという概念そのものが消え平穏になった。この世界で争いが起きれば、それを糧として力をとりもどすことができる。


「正直もうだめかなー、消滅したくないけど大した力残ってないし抗えないなぁと思っていたところに」

「争いごとに丁度よさそうなトラブルメーカーをみつけた、と」


火の無いところに煙をたたせ、実際大火事にするにはたしかに適任かもしれない。

自分で言っていて悲しくなるけれど。


「な、なぁその争いって村を滅ぼすとかそういうレベルじゃないとだめなのか?」

「ん? いやお菓子たべたーい、そんなお金うちにはありません! とかの親子のじゃれあいでもいいんだけど」

「その程度でいいのに村滅ぼそうとすんなよ!」


水溜りに波紋を起こしたいだけで爆弾なげこむようなものだった。


「仕方ないんだよ、いまのこの世界にはその程度の諍いすら起きないんだもの」

「え?」


どうやら水溜り自体がないらしかった。


自己紹介するといったな、あれはウソだ!

正確にヒロインのほうはしましたが主人公は名乗ってすらいません。

そのことに気がついてすらいません。


次回、初戦闘です。

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