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ゆめみるしょうじょとサタンさんのプレゼント

作者: K-ma

「――さま。お嬢様、起きてください」


 あたしの眠りを邪魔するのはだあれ?


「なんだ……じいやか。あたしはまだねていたいの」


 寝る子は育つとかいう話を聞いたわ。まだまだあたしは育ちざかりなんだから、もう少しくらい眠っていてもいいじゃない。


「まだお日様が仕事をしてるうちから寝ていると夜に寝れなくなってしまいますよ。さあ、起きてください」

「そんなのおひさまのつごうじゃない! あたしにはかんけいないわ」

「だからと言って、私の授業中に寝るのはおやめください」

「……だってれきしのべんきょうなんてつまらないんだもの」

「お嬢様、貴女は領主の家に生まれたのですから、こういった歴史のことも知っておくべきなのです」

「ふわぁ……わかったわ。おきればいいんでしょ、おきれば」


 大きなあくびをしながら体を伸ばす。この時の体がほぐれる感触が好きなのよね。


「ほら、よだれが垂れてお顔が汚れていますよ」

「ちょっとじいや、さわらないでよ! かれーしゅうがうつるわ!」

「加齢臭なんて移りません! それに、じいやなんて呼ばれる年齢じゃありませんし、私はまだ二十代です」

「ひつじといったら、じいやなのがどうりでしょうが!」

「それを言うなら、ひつじではなく、執事です。そしてその道理は全くわかりません。まったく……私はそんなに老けて見えますか?」

「だってしらがが、はえてきてるじゃない。ほらっ」


 あたしはじいやの白い髪の毛をつまんで抜いてやった。


「ちょっと、やめてください! 黒いのも抜いてしまってるじゃないですか!」

「しらがなんてはやしているじいやがわるいのよ」

「誰のせいで若白髪が生えてきたと思っているんですか? それに白髪程度で加齢臭なんてしません」

「だってこのまえメイドがはなしているのをきいたわ。じいやは、じじくさいって。じじくさいってことはかれーしゅうがするってことでしょ?」

「ほう、そんなことをどのメイドが? あと、じじくさいと加齢臭は関係ありませんからね」

「えっと、なんてなまえだったかしら……ほら、あのソバカスのこよ。あのこがじいやのしゅみはじじくさいっていってたわ」

「ほう……将棋はじじくさいと?」

「あたしがいったんじゃないわ! メイドがいってたの!」


 まあ、あたしもあの将棋ってボードゲーム、なんて書いているのかもわからないし、あんな風に台の前に座って考え込んでいるのは、じじくさいって言われてもなんとなくわかる気がするのだけれど……それは言わないでおくわ。


「ソバカスの娘といえば、あの新人のことですか……少し話をしてこなければなりませんね」

「いってらしゃーい」


 あたしはじいやに手をふり、ふたたび眠りにつくことにするわ。


「って、なにをまた寝ようとしているんですか! 起きて真面目に授業を受けてください」


 じいやがあたしを揺さぶる。あたしの眠りを邪魔するなんて!


「かれーしゅうがうつるっていってるでしょ!」

「だから加齢臭なんてありません。お嬢様、そんなに言うなら加齢臭がどんなものか説明してご覧なさい」

「……カレーのにおい?」

「違います。加齢臭はそんな美味しそうな匂いはしません。よくわからない言葉を使うのはおやめください」

「ともかく、かれーしゅうは、かれーしゅうなの!」


 なんだかカレーが食べたくなってきたわ……


「かれーしゅう……カレーしゅー。……カレーシューってどうかしら? これはうれるわ!」

「……もしかしてシュークリームのクリームがカレーになっているものですか?」

「そうよ!」

「その食べ物は既に存在してますよ」

「なっ! あたしのさきをいっているひとがいるなんて……というかよくそんなことをしっているわね?」

「執事ですから……」

「そんなだからじいやなのよ。ともかくカレーがたべたいわ。ばんごはんはカレーにしてちょーだい」

「いえ、今晩のメニューはチキンですので……」

「なら、チキンカレーでよろしく」

「そうではなくてですね……もしかしてお嬢様、今日がなんの日か忘れていますか?」


 今日? なにかあったかしら?


「……今晩はクリスマスイブですよ。なので七面鳥を用意しています」

「クリスマス! なんでもっとはやくいってくれなかったの! はやくじゅんびをしなくちゃいけないわ!」

「準備ですか?」

「そうよ。クリスマスってことはサンタさんがくるのよ? だったらじゅんびをしなくちゃいけないでしょう?」

「ああ、クリスマスの飾りつけやクリスマスツリー、大きな靴下などを揃えるということですね」

「は? なにをいっているのよ」

「はて? 他に準備をするようなものがありましたか?」

「じいや、あみを……じょうぶなあみをよういしなさい」

「丈夫な網ですか? そんなもの何に使うんです?」

「わなよ」

「罠?」

「ええ、ことしこそサンタさんのすがたをみてやるわ! いえ、むしろわなにかけてつかまえてしまうのよ」

「罠にかけて捕まえるって……念のために確認しますが、どうしてそんなことを考えるんですか?」

「きまっているじゃない! えんとつからしんにゅーしてくるようなやつは、じゅうきょふほーしんにゅーのつみでおなわにつかせるのよ! あたしはりょーしゅのむすめなんだからざいにんをとらえるのはぎむ……そうよぎむなのよ!」


 本音はサンタさんの袋の中のプレゼントを独り占めしたいだけなのだけれどね……


「……お嬢様、悪いお顔をしていますよ? 住居不法侵入だ、罪人がどうこう言っていますが、プレゼントを独り占めしたいとか思っているのでしょう?」

「なっ、あたしのこころをよむなんて! ひつじにはそんなのうりょくがあるというの?」

「ひつじではなく執事です。さあさあ、馬鹿なことを言っていないで授業に戻りましょうね」

「バカとはなによ? あたしはほんきよ! おべんきょうなんてやってられないわ。さあ、あみをよういしてちょーだい!」

「……はあ、網を用意したらちゃんと勉強にもどってくれますか?」

「ええ、あたしのへやのだんろにわなをしかけてくれたらね」

「……若干要求が上がっているのは気のせいでしょうか?」

「きのせいね。さあ、いそぎましょう。じかんなんてあっというまなの!」



 ◇



 本当にあっという間だったわ。あたしの部屋の暖炉には、じいやが仕掛けた罠が張られているの。煙突から誰かが入ってきたら一発で一網打尽! そんな罠よ。


「……こないわね」


 そしてあたしは真夜中まで寝ずの番。サンタさんが罠にかかるのをこの目で見届けるためにね。あれからいっぱい昼寝したからまだしばらくは起きていられるハズよ。お勉強? そんなの睡眠学習で済ませたわ。


「……トイレいきたい」


 罠を仕掛けた関係で暖炉には火をいれていない。そのせいでいつもより部屋のなかが寒いのと、眠気覚ましにがぶ飲みしてたコーヒーがあたしに牙をむいたようね? コーヒーの癖に生意気だわ。仕方ない、目を離すのはしゃくだけど御手洗いにいかなくちゃ。



 ◇



 部屋に戻って来ると罠が発動していたわ!


「ちょっと! みのがしちゃったじゃないの!」


 あたしは暖炉に近づいて網の中を確認した。


「……むう。なんだこれは? 身動きがとれないではないか!」


 じいやが仕掛けた罠はがっちり機能しているようね。月明かりのなかに浮かぶのは、網にかかっている赤い人影……あれ? サンタさんってこんななの?


「あなたはサンタさん?」

「む? 違う、私はサタンだ。サタン・クランプス。お嬢さん、この網を外してくれないか?」


 ……サンタさんじゃなくてサタンさん? 親戚の方かしら? まあ、サンタさんじゃないなら網をかける必要もないかしら……サンタさんが来る前にどいてもらわないといけないわね。


「ほら、これでとれたわ」

「おお、ありがとうお嬢さん。まさか私を捕らえられるような罠があるなんて思ってもいなかったよ……」

「うちのひつじのわななんだからとうぜんよ」


 立ち上がったサタンさんは、赤い服にナイトキャップ、ちょっと太めのおじいさん……なんて姿ではなく、赤黒い肌に尖った角を生やした細めの体型をしていた。


「悪巧みの匂いがしたからやって来たのだが……煙突に罠とはね。なんのための罠だったんだい?」

「サンタさんをつかまえようとしたの。そしたらサタンさんがくるんだもの……おかげでわながだいなしだわ」

「おお、それは悪いことをしてしまったね? お詫びに私がなにかプレゼントをあげようか?」

「しらないひとからものをもらうなっていわれているわ。けっこうよ」

「知らない人から物を貰ってはダメなのだったら、サンタさんからもプレゼントを貰えないんじゃないのかい?」

「サンタさんはゆーめいじんだからもんだいないの」

「……サタンは有名人じゃないと?」

「わるいけどきいたことのないなまえだわ」

「ふむ……お嬢さんは世界で一番出回っている本を知っているかな?」

「せいしょのことかしら?」

「そう、聖書だ。そして世界で一番出回っているその聖書には私、サタンの名前が出てくるのだが、それでも有名じゃないと?」

「サタンさんってそんなにゆうめーなひとだったのね。しらなかったわ」

「と言うことで、お詫びを受け取ってくれるかな?」

「わかったわ。それで? なにをくれるの?」

「なにがいい? とりあえず欲しいものをなんでもいいから言ってみるといい。大抵のものは揃えられるからね。サンタ程度に遅れをとるようなサタンさんではないということを教えてあげよう」

「うーん……ほしいものなんていくらでもあるから、きめきれないわ」

「……そうかい。だったらこんな物はいかがかな?」


 サタンさんが黒い袋からなにかを出してきたわ。というか、あの袋ってどこから出したのかしら? さっきまで手ぶらだった気がするのだけれど……


「……それはなあに?」

「これは夢を叶える魔法の薬さ」


 サタンさんが取り出したのは丸くて小さな錠剤。薬ということだけど色が虹色なので余計に口にいれたくないわ……でも夢を叶えるってどういうことかしら?


「そのおくすりをのんだら、あたしのせかいせーふくのゆめもかなうっていうの?」

「おや、お嬢さん。そんな大きな夢をお持ちで? ですが残念。これは夢は夢でも、眠っているときに見る夢を現実にしてしまう薬なんだ。ようはこの薬を飲んでから見た夢は全部正夢になるんだよ」

「みたゆめぜんぶが、まさゆめに?」

「そうさ。もし世界征服の夢を見ることが出来ればお嬢さんのおっきなその夢も現実にできてしまうね」


 そんな薬があるなんて! 寝るのが大好きなあたしにぴったりの薬じゃない。


「わかったわ。サタンさん、あたしのゆめをかなえてちょーだい!!」


 あたしはサタンさんから薬を受けとるとそれを飲み込んだ。これであとは眠って夢を見れば、それが正夢になるのよね?


「……ねむくないわ」


 さんざん眠ってコーヒーで眠気覚ましをしたせいで、まだ眠れそうにないわね……


「ではサービスだ。私が眠りにつく手伝いをしてあげよう」


 サタンさんがあたしのおでこに指を当てると、とたんに睡魔が襲ってきた。


「では、私はここで失礼させてもらうよ。はてさて、叶えたい夢は見られるかな?」


 あたしの意識は眠りに落ちた……



 ◆



 辛い。その夢は辛くておいしい。そんな夢だった……



 ◆



「――さま。お嬢様、起きてください」

「むにゃ……もうたべられないわ……」

「なにを寝ぼけているんです? 起きてください」

「……ん? じいや?」


 目が覚めるとあたしの部屋にはじいやがいた。サタンさんの姿はない。


「ゆめ……あんまりおもいだせないわね」


 夢を見たことは覚えているけれど、それがどんな内容だったかハッキリ思い出せない。少なくとも世界征服なんて夢じゃなかったわ。


「夢ですか? そういえば先程、寝ぼけてもう食べられないなどといってましたね」


 そう、あたしはなにかを食べた夢を見た気がするの。


「からくておいしい。そんなゆめだったきがするわ……あら? このにおいは?」


 じいやから普段と違う匂いがする……


「カレーしゅー?」

「ええ、カレーの匂いですよ。今日の料理はカレーです」


 加齢臭じゃない。確かにこれはカレー臭だ。


「まさゆめになったのかしら?」


 辛くておいしい夢は、カレーを食べる夢だったのかしら? 確かめる手段がないわね。それに、カレーの夢が正夢になったのか、それともカレーの匂いでカレーの夢を見たのかもわからないわ。

 あの薬……本当に効果があるのかしら?



 ◇



 カレーはとってもおいしかったわ。じいやがカレーシューも作っているなんて思わなかったけどね。


「さて、まだあのくすりがホンモノかわからないわ。もっとためしてみましょうか」


 あたしはベッドにダイブ! 夢の世界へレッツゴー!


「……とはならないわね。やっぱり眠れないわ」


 眠れないけど眠りたい。そんなあたしはどうしたらいいのかな?


「たしか……ねむれないときは、ひつじをかぞえればいいって、きいたことがあるきがするわ」


 あたしは毛布にくるまり、羊を数え始める……


「ひつじがいっぴき。ひつじがにひき。ひつじがさんひき。ひつじがよんひき……」



 ◆



 夢のなかで羊が跳ねていた。なぜかじいやがまざっていた気がするけれど、きっと気のせいよね?



 ◆



「――さま。お嬢様、起きてください」

「むにゃ……あとごふんー」

「こんな昼間から寝ていないで、起きてください!」

「むぅーわかったわ。おきればいいんでしょ。おきれ――じいや!?」


 あたしを起こしていたのは羊だった!


「お嬢様、どうかしましたか?」

「ひつじだわ! じいやがひつじになってる!」

「私は前から執事ですよ? どうしたんですお嬢様?」

「ちがうの! そうじゃないわ。そのひつじでなくて、どうぶつのひつじなの!」


 確かに舌足らずなあたしは普段、しつじをひつじと言ってるけれど、今回は間違ってないわ。執事服を着た羊が目の前に居るの! しかも声はじいやの声で間違いないわ。


「なにを言っているんですか? 羊といえばじいやなのよと、いつも言っているのはお嬢様じゃないですか?」

「ちがうのよ。そんないみでいっていたわけじゃないわ!」

「? お嬢様、今日はなんだか変ですよ?」

「へんなのはそっちなの!」


 ……これはあの薬のせいかしら? いえ、あの薬のせい以外でじいやが羊になってしまうなんてあり得ないわ!

 あたしが見た夢のせいでなんだか大変なことになってしまったわ……



 ◇



 あれからどれくらいの時が過ぎたかしら……


「はあ……あめね」

「溜め息なんてついて、どうなされました?」

「……なんでもないわ」


 じいやがティーカップに紅茶を注ぎながらたずねてきた。よくもまあ、あんな手でティーポットを持てるものね……

 じいやは羊のままだ。手足が蹄であっても不思議なことに、その仕事ぶりはかわっていない。そしてあたし以外の人たちは、それが当たり前なのだと思っている。じいやが羊でもなんの疑問も持たないの……


「まあ、溜め息が出るのもわかります。こうも飴続きだと外にも出られませんから……」


 雨続きではない、本当に飴続きなの……あたしの見た夢のせいで、空からは雨の代わりに飴玉が降るようになったわ。パラパラなんて軽い音はしない。バラバラと大きな音を立て、大きな飴玉が空から降ってくるわ。

 他にもいろいろな夢が正夢になったの。あたしの夢がだんだんと世界を変えていっている……


「これじゃほんとにせかいせーふくしちゃいそうね……」


 世界征服といっても、もっと王様的な感じのイメージだったのよ? こんな世界征服は趣味じゃないわ。


「世界征服ですか? 兵でも募りますか? 女王様」

「ひつようないわ。さがっていなさい」

「はい」


 そしてあたしは女王になっていた。女王になる夢を見てしまった……その結果だわ。女王になったからといって、世界征服なんてしようと思わない。だって夢だけでも大変なことになっているのに、これ以上引っ掻きまわすなんて問題外だわ。


「はぁ……これからどーなっちゃうの……?」



 ◆



 バラバラ

 ガシャガシャ

 ドンガラガッシャン!!



 ◆



「ハッ!」


 眠っていたあたしは飛び起きた。とっても、とーっても嫌な夢を見た気がするわ……


「……みみせんしてから、ねたほうがよかったかしら?」


 外から聞こえていたバラバラと飴の降る音が、あたしの夢にも影響した可能性があるわ。

 そんな風に考えていると部屋の扉がバタンと開き、じいやが飛び込んできたの。


「大変なことになりました! 窓の外を御覧ください。兵隊が迫ってきております!」

「兵隊ですって?」


 窓に近づいて外を確認したあたしの見たものはおびただしい数の兵隊たち。あたしが見た悪夢が正夢になってしまった……


「あくむだわ。ゆめならさめて……もダメなのよね……」


 もしこれが夢だとしても、目覚めたところであたしは逃げられない。あたしが見た夢は現実になってしまうのだから……


「いかがされますか?」

「……あのかずよ? どうにかなるとおもう?」


 すごい数の兵隊たち。ガシャガシャと音を立てているのは兵隊が身に付けている重装備。頭には兜、体には鎧、手には槍や剣、盾をもっている。大地を踏みしめる四本の足。そう、その兵隊は人間ですらなかった。あれはアリだ。大型犬くらいの大きさの兵隊アリの軍隊が、列をなしてやって来ている。目的はきっと連日降り続いた飴だろう。

 途中の壁や建物も障害ですらないようで、バラバラに砕かれてしまっているようね。何人かが兵隊アリにかかんに立ち向かったようだけれど、あっという間に返り討ち。あんな化け物どうしようもないわ。


「……どうにもなりそうにありませんね。重武装した巨大なアリの大軍を相手に、私達が戦えるとは思いません」

「……こーふくしましょう」


 こうしてあたしたちの国はアリに占領された……



 ◇



「キリキリ、働ケ!」

「うぅ……すこしやすませてよ」


 あたしたちの末路はアリ以下の生活……働きアリのやっていたことをさせられることになってしまったの。


「女王様ガ待ッテオラレル。急グンダ」


 今やこの国のトップは女王アリだ。今あたしは女王アリの元まで飴玉を運ばされている。

 かごいっぱいの飴玉を、えっちら、おっちら運び続けないとならないの。


 ドンガラガッシャン!


 なん往復したのかわからなくなってきた頃、疲れたあたしはかごの飴玉を、辺りに一面にぶちまけて、その場で倒れちゃった……



 ◇



 気付けばそこは、アリに占領されたあとにあてがわれた寝床。かたい寝床のなかだった。あまりに疲れていたからかしら? 夢を見ることもなかった気がする……


「いつまでもこんなせいかつをしていたら、すぐにボロボロになっちゃう……」


 足腰がとっても痛いわ。かたい寝床のせいもあって、寝返りを打つだけでも身体中が悲鳴をあげてるの。


「あいたたた……」


 夢を見るたびにどんどん事態が悪化していく……あたしはもう、眠りたくない。眠って夢を見るのがとっても怖いの……


「でも、いつまでもねむらないなんてムリだわ……」


 疲れた身体は、まだ足りないと、眠りを要求してくるの。あたしは睡魔にあらがう……

 けれども、ここには眠気覚ましのコーヒーなんてものもないし、あたしの気力は限界だった。あたしはまた意識を手放した……




 ◆



 ボロボロ

 ヨボヨボ

 腰の曲がったお婆さん。



 ◆



 また悪夢をみちゃった……あたしが手のひらを見てみると、その手はしわくちゃになっていた。鏡を見なくてもわかるわ。あたしはどうやらヨボヨボのお婆さんになってしまったみたい……


「どうしてこんなことになっちゃったんだろ?」


 そう呟いたあたしの声は、しわがれた老人の声だった。間違いなくあたしは一気に年をとってしまったみたい……


「ほんとにボロボロのヨボヨボになっちゃたのね……」


 身体からは嗅いだことのない臭いがする。これがほんとの加齢臭……確かにこんな臭いはじいやからしないわ。



 ◇



 お婆さんになってしまったあたしは、飴玉を運ぶ仕事から外された。ヨボヨボになってしまった身体は思うように動かせない。

 一人で食事をとることもままならないわ。いいえ、そうじゃないわね……食事を用意するやり方なんて、人に任せっきりにしていたあたしにはわかるはずもなかったのだわ……

 ちゃんと料理も授業をサボらず習っておけばよかった……

 寝床でひとりぼっちのあたしを世話してくれる人もいない。誰も助けてくれないの……ここは地獄……アリが支配する地獄になってしまったんだわ……




 ◆



 その穴はどこまで続いているのだろう?

 ソコにあるのは擂り鉢状のくぼみ、その真ん中には穴がある。

 すべてを飲み込むその穴の底、ソコにいるのはだれだろう?



 ◆



 アリに占領された国は崩壊した。あたしが見た夢は蟻地獄。蟻地獄に飲み込まれたのはアリだけじゃない。足元から全てが崩れて飲み込まれたの。


「あなたは……」

「おやおや? 誰かと思えばあの時のお嬢さんかい? なにやらすっかり老け込みましたね」


 砂に飲み込まれたあたしの目の前にいたのは、あの時の薬をくれたサタンさん……


「ここはどこ……?」

「ここは地獄の底ですよ」

「ジゴクのソコ……サタンさんはどうしてこんなところに?」

「おや? 知りませんでしたか? 私は悪魔。悪魔が地獄にいてもなにもおかしくないでしょう?」

「あくまですって?」

「ええ、悪魔です。聖書にもその名が出てくる悪魔サタン。そんなことも知らないのですね」


 全然知らなかったわそんなこと……ちゃんと勉強をしていたら、知っていて当たり前のことだったのかしら? でもそんなこと今さらだわ。あたしはもう地獄に落ちてきてしまったのだから……

 けれども、このままじゃあたしの気がすまないわ。


「いっぱつ……いっぱつなぐってもいいかしら?」

「どうぞご自由に。ただその身体ではまともに動けないのではないかな?」

「……」


 あたしは今お婆さんの身体だったわね……これじゃあ、殴れたとしてもあたしの骨のほうが折れちゃいそう……


「ふむ、チャンスをあげようか? 夢でめちゃくちゃになったのをもとに戻してあげよう」

「ほんとに?」

「ただし、貴女は選ばないといけないよ。自分一人が助かるか、自分以外が助かるかをね」

「なぜそんなことを?」

「悪魔だって仕事があるんだ。あの時のはサービス、プレゼントだったけど、今回はしっかりお代はいただくよ」

「そんな! あたしにはどっちもえらべないわ!」

「そうかい? 残念だよ、お嬢さん。だったらこのまま、この地獄の底で、終わりの時を迎えるといいよ」


 そう言ってサタンさんはどこかにいってしまった……


「あたし、このまましんじゃうの……?」


 あたしのなにがいけなかったんだろう?

 サタンさんにお薬をもらってしまったこと?

 それとも、サンタさんを捕まえようとしたから?

 やっぱり、じいやの言いつけを守らなかったから?

 あたしが悪い子だったから?

 あたしが良い子だったらこんなことにならなかったの?


「しにたくないよ……おとうさん……おかあさん……じいや……」


 地獄の底で、あたしの意識がだんだんと遠のいていった……



 ◆



 懐かしくて暖かい、最後の夢はかつての思い出……



 ◆


「――さま。お嬢様、起きてください」


 あたしを起こす声がする……


「ん……じいや……? あれここは?」


 あたりを見渡すと、そこはあたしの部屋で、あたしを起こしたのはじいやだった。羊のじいやじゃなくて、執事のじいや、慣れ親しんだじいやの姿がそこにあったの!


「まだお日様が仕事をしてるうちから寝ていると夜に寝れなくなってしまいますよ。さあ、起きてください」


 それはあの日に聞いた言葉だった。あたしは思わずじいやに抱きついた。


「おっと。どうされたんですか、お嬢様? いつもなら加齢臭が移るとか言っておられるのに……」

「ほんとにいつものじいやだわ……ぐすっ」


 涙ぐむあたしの姿も、お婆さんのものじゃなくなっていた。最後に見た夢、過去の思い出。あれが正夢になったから、全部もとに戻ったのかしら?


「泣いているのですか? どこか具合でも悪いのですか?」

「ううん、ちがうの……じいやがじいやなのがうれしいの」

「何度も言っていますが、じいやなんて呼ばれる年齢じゃありませんし、私はまだ二十代です」

「うん、しっているわ。あたしのせいで、わかしらがなのもしってるの。いつもこまらせてしまってゴメンなさい」

「? 今日のお嬢様はどうなされたのですか?」


 あたしが謝ったのがそんなにビックリすることなのかな? いえ、よくよく考えたらあたしはいままで、ちゃんと謝ったことがなかったわ。あたしって本当に悪い子だったわね……こんなんじゃサンタさんなんて来るはずもなかったんだわ。


「……今日ってなんの日?」

「クリスマスイブですけれど……もしかしてサンタさんに良い子アピールとかですか? クリスマスのときだけそんなことをしてもダメですよ。ちゃんと毎日良い子じゃないと」


 やっぱりあたしはクリスマスイブのあの日、罠にかかったサタンさんに会うその前に戻ってきたみたい。今からまたサンタさんを捕まえようとしたら、またサタンさんが現れたりするのかしら?


「ええ、そうね。これからはちゃんとおべんきょうもするし、ひとのいうこともちゃんときくわ。てはじめにりょうりでもおぼえようかしら?」


 でもあたしはもうあんなことはゴメンだわ。こうしてもう一度やり直せるというのならば、あたしは生まれ変わったつもりで一生懸命頑張るつもりでいるの。悪い子だったあたしは良い子を目指す。そう決めたのよ!


「本当にどうされたんです? なにかありましたか?」

「あたしはめがさめたの」


 夢から覚めた。ただそれだけじゃないわ。


「かくせいしたあたしのほんきをみせてあげる!!」


 覚醒したあたしの決意表明。本気をだすわ、これからは。


「ところでお嬢様、サンタさんに貰いたいプレゼントはなんですか?」

「プレゼント? そうね……フライパンとかがいいかな?」

「フライパンですか? 本当に料理を覚えるつもりなんですね」

「そうよ! それにフライパンなら……」


 悪魔が来てもあの頭、フライパンでブッ飛ばしてあげるのよ!!

 

 以上、ゆめみるしょうじょとサタンさんのプレゼントでした。


 この作品は冬の童話祭2016に参加する為に書いたものです。ちゃんと童話っぽくなっていたでしょうか?


 さて、ここから先はこの作品について、適当に書いていくので、そんなの要らないという人は読まなくても大丈夫ですよ。



 ◇



 この◇は時間経過的な感じで使わせてもらいました。◆こっちは夢をみたときに使っています。


 童話ということで感覚的にわかりそうな表現にしたかったんてすが、なかなか難しいものですね。


 まあ、こどもじゃ知らないような言葉も使ったりしているので今さらなきもしますが……


 あと、主人公のあたし、のセリフが全部ひらがな、なのは舌足らずな感じを出したかったからです。読みづらかったらすみません。



 内容について。黒いサンタクロースというのをご存じでしょうか?

 外国には良い子のところには赤いサンタクロースが、悪い子のところには黒いサンタクロースが来るそうですよ。

 赤いサンタはプレゼントを、黒いサンタは悪い子をしかったり、プレゼントではなく、木の枝をくれるそうです。

 この木の枝は親が悪い子を鞭うつ為にいれるのだとか……怖いですね。

 そんな黒いサンタの種類は国によってバリエーションがあるそうです。

 今回の作品に出したのはサタン・クランプスという名前の悪魔でしたね。

 クランプスというのがドイツやハンガリー、オーストリアでの黒いサンタクロースらしいです。

 見た目は悪魔そのもの、夢魔に似た生物ともいわれているらしいです。

 そんなわけでこの作品では、言うことを聞かないあたしのもとに、サンタさんではなく、サタン・クランプスさんがやって来るという形になりました。


 あとはなんですかね……えーと、将棋はじじくさくないです。作者の名前、K-maは将棋の駒、桂馬から来ております。覚えたら面白いですよ将棋。

 じじくさいといえばじいやは二十代と言っています。じいやは二十九歳、アラサーです。加齢臭は……どうなんですかね?

 加齢臭といえばカレーシューですよ。カレーシュー。ほんとに売っている店があるらしいですよ?

 この話を書いている途中で気になって検索したら普通に出てきました。

 一度くらいは食べてみたいですね。


 さて、なんだかあとがきがぐだぐたしてきたので、この辺りでしめときましょう。


 なろうで執筆を始めて2ヶ月の初心者の作品ですので、読みにくかったりする部分も多々あったかもしれません。最後までこの作品をよんでくれて、本当にありがとうございました。


 では、またどこかでお会いしましょう。

 

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