魔女兼探偵はスローライフをおくりたい!
私が前職の仕事やめたすぎて現実逃避で書いた短編です。ただ朝のんびりしたいだけの話。
まぶしい、とカーテンから透けて見える光に腕を目にあてて影を作る。
うーん、とごろりと横になり、むにゃむにゃと言葉にならない言葉が口から零れた。
今日やりたいことに考えをめぐらすと段々意識が鮮明になってくる。
「よし、そろそろ起きよう!」
布団からごろりとダイナミックに転がる。足を滑らせた。
だけれどよくあることなので床にはフカフカのカーペットが一年中敷いてある。
「ふぁ、コーヒーでも飲んでシャキッとしなきゃ」
時計を見るともう朝の8時、自分にしては早起きな方だが村の人からしたら大寝坊だ。
みんな畑仕事とか家畜の世話とかで朝早いから。
それでなくともこの村では明かりは貴重だから早めに寝てしまうため朝は早い。
歌を歌いながら気分よくお湯をそそいでコーヒーをドリップする。
コーヒーの淹れたての良い香りが部屋にいっぱいにした。
私は笑顔で玄関に出ると郵便受けに手紙がないかをチェックする。まぁきた事はないのだけれど。
新聞を取り、周りに人がいないことをいいことにパジャマ姿のままあくびしながら背伸びする。
「んあ~、ねむ~いっ!」
目の前には色とりどりの花が咲いているのと小道がある程度であとは木、木、木!!!
まぁ、山のふもとにある家だし田舎だから仕方あるまい。
杖を取り出し、水の呪文を唱え杖を軽く振るう。
ミスト状の水が花壇の上から出てくるのを確認するともう一度あくびする。
そろそろコーヒーができているだろう、早く飲んで頭をすっきりさせねば。
靴を脱いで家に上がる。
スリッパは木の床では滑るので素足で少しギシギシする床を歩く。
木の匂いと土の湿った匂いにまじってコーヒーのいい香りが鼻に届く。
それにうっとりしながら今日の朝食に思いを馳せる。
今日は厚く切ったパンをこんがり焼いてベーコンエッグをのせて食べよう。
「あたたっ!」
つい考えにとらわれてドアのふちに小指をぶつけた。
「ううううううう~!!!」
意外に痛いのでしゃがんでジタバタと思いっきり痛がった。
これは一人暮らしだから出来る行動である。
「牛乳、こぼした、、」
コーヒー好きには邪道といわれそうだけれど私は子供舌だから牛乳をいっぱい入れる。
砂糖は多めに入れると太りそうだからひかえめにしてるが。
布巾で牛乳の瓶をふいてテーブルも雑にぬぐう。
どうせ朝食食べるときにパンくずとかで汚れるのでテキトーでいいや。
今日の朝食はこの間マギニさんの家から貰った新鮮な野菜のサラダに
厚切りしたベーコンと卵で作ったベーコンエッグと厚切りのパン2枚
一枚のパンにはベーコンエッグで、もう一枚は薄めに切って前に作った木苺のジャムとバターで食べる。
勿論飲み物はコーヒー、正しくはコーヒー牛乳か。
「はぁ」
私はコーヒーを飲んで一息ついて一つ言葉を漏らした。
「魔女の生活っていいね~」
そう、私は魔女なのです。
まさか5年前には自分が魔女になってスローライフをおくるとは思ってなかった。
事件は遡る事5年前、私は大学を卒業して1年、就職につき、仕事にも大分なれた時に起こった。
会社に入って正直めっちゃやめたいって思っていた時期だった。
先輩怖いし、新卒が自分しかいなくて友達できないし、仕事で出来ないことも多くて辛かった。
しかもデザイン系の会社なので徹夜当たり前、むしろいいもの作るためならやろうみたいな傾向もうんざりしていた。
そんな時、私は行き成り異世界に迷い込んでしまった。
・・・自分でも超理論を言ったと思ってる、でも現実なのだから仕方ないだろう。
会社に行こうと家を出て駅に歩いていたのは覚えてる。
でも音楽聴きながら今日の予定と一週間の予定と納品予定日を考えていたから景色が変わっていたことに気づいてなかった。
海外の田舎の農村地帯っぽいなーとふと気づいて当たりを見渡したときには全然知らない土地だったのだ。
来た道をまっすぐ戻ってみたけれど歩けど歩けど見知った道は見えてこない。
焦って、携帯で会社に連絡しようとして画面をみたら圏外。一瞬頭が痛くなった。
まぁ遅刻には寛容な会社なので、まだこの時点では焦っていなかった。
でも日が暮れて、足が疲れて、携帯も繋がらなくて、すれ違う人が鋭い目つきでこちらをみて、不安になって私は泣いた、大号泣で、わんわんいい歳して鼻水たらしながら道の真ん中で泣いた。
「う゛あ゛あああああああ!!!!!うえ、うう、ぶえ、うええええ、ぶ、ぐえ、」
そうしたら年の取った女の人がなにか話しかけてきて
泣くことに一生懸命だった私はよく理解しきれずに手を引かれるまま付いていったのだ。
彼女は小さいこぢんまりとした可愛らしいログハウスに私を招いてくれた。
あったかいミルクを差し出して、飲め、といった。
そしてやわらかい布を渡して、顔をふけ、という。
私は大号泣しながら顔を思いっきりふいた。化粧がにじんで大変なことになった。
その日私は気の済むまで泣いて、そのまま疲れてソファーで眠った。
老婆は魔女だった。
魔女、といってもこの世界では普通にいる存在らしい。
していることは色んな系統によって違うらしいが、こちらの魔女さんはお薬を作っているらしい。
あとはこの村の畑が駄目にならないように雨が降らないときは水を降らせたり、その他相談役などなど
私は自分の身に起こったことを涙交じりに話、鼻をすすった。
魔女は気のない相槌を打ちつつも最後まで忍耐強く私の脱線しまくる話を聞いてくれた。
「じゃあ帰り方を分からないわけか」
「あい・・・」
「・・・これも天の思し召しかねぇ・・・
丁度家に誰もいないし寂しかったところなんだよ
それにアンタ・・・ほっといたら野たれ死ぬだろ、夢見は悪くなりたくないね」
旦那さんは2年前に他界息子は30年前に都会に騎士になりに出て行ってそちらで結婚したとのこと。
定期的に帰ってくるらしいが、最近は孫も大きくなってその機会も中々ないらしい。
一緒に都に来て欲しいといわれたらしいが色々な事情などがあり、魔女は行きたくないといった。
私も知らない土地でこれからどうしていいのかも分からないので、魔女、アギーにお世話になることになったのだ。
アギーとの日々は、楽しかった。
勿論家族に会えない不安や悲しみで毎日涙を流したけれど会社に勤めるよりよっぽど充実していた。
魔法や薬つくりを習いながら畑仕事もした。
本当は魔法でなんとかなるのだけれど、それをすると自然に感謝することを忘れるので魔女はなるべく自分の手ですることにしているらしい。
町の人とも仲良くなり、外におつかいに出ると声を沢山の人にかけられるようになった。
アギーと私は年がおばあちゃんと孫くらい離れているけれど感覚がとても似ていた。
まるで友達のように私たちは関係を築いていった、と私は思っている。
だけれど1年前にアギーは亡くなった。
私とであったときからもう長くはないことは分かっていたようだ。
亡くなる一ヶ月前くらいから伏せるようになって、介護を必要になった。
アギーはいつも自分の体に悪態をついて、私にすまなさそうにしていたけれど私は謝って欲しくないのでいつもそんなときには言葉をかぶせた。
葬儀にはあまりにも私の泣き声がうるさすぎて出席できなかった。なので家で思いっきりわんわん泣いた。
黒い服を来て、アギーとの思い出の場所で泣いて、泣いて、泣いた。
アギーの息子夫妻は私の事情を知っており、そして最後を見届けてくれた私に感謝してこの家をくれようとした。
私は最初断るつもりだったのだけれど、涙ながらに何度も言われては断れなかった。
妥協案でこの家は私の持ち物としてでなく、借家として使わせてもらうことになった。
そうして私の一人のスローライフが始まったのだ。
「アスナー!!」
すやすや寝ていた私の元に大きな犬が飛び込んできた。
もとい、青年が私の家のドアを蹴破りやってきた。
私の知らない人や害そうとする人を排除する結界は張ってあるがどうやらこの青年にはきかないらしい。
その大きな破壊音で私は起き上がり、あくびをひとつする。
「クリス、なにィ?畑の肥料の話?それならお昼頃にお家にいくから・・・もうちょっと寝る」
目の前に明るい茶色の少し癖のある髪の毛の青年がドアップでこちらをのぞきこんでいる。
見慣れた顔なのでさほど驚かないのだけれどいつみても愛らしい顔立ちだ。
「それどころじゃないんだよ、助けてくれ!」
「むにゃ・・・」
クリスはひょいっと私を背中に俵のように持つとそのまま走っていった。
私は目が覚めぬまま、面倒くさくてそのまま流されて荷物のように運ばれた。
「で」
「犯人をみつけてくれ!」
「あ~、私は名探偵じゃなくってただの魔女なんだけどなぁ」
畑の真ん中で腕を組み、私はうんうんと唸る。
事件の発端はクリスが朝の仕事で畑に言ったところからはじまる。
いつもどおり畑仕事をしていたら
「ミステリーサークル・・・ですと?」
「なにわけわかんねーことを!俺の家の麦がああああああ」
畑の小さい一角に変な模様が出来ていた。
私の世界ではミステリー・サークルといわれる形だった。
それが今思い返すと、私の初めての事件だった。
…そんなこんなで何度も何度も町や色んな事件を解決していくうちに
王都で騎士をしてるアギーの孫が家にきて不審者だと思われて殺されかけたり
風の噂で王都から迎えがきて魔女業じゃなくて探偵業をすることになったり
何故かアギーの孫が事務所によく事件を持ってきて居座るようになったり
血なまぐさい王位継承のごたごたに巻き込まれたり、クリスがどさくさに家に居候したり
王子様におもちゃ扱いされたり、アギーの孫にツンデレ気味に求婚されるとはこの時は思っていなかったのであった。
続かないです。