第一話 記者会見
タスキは京子が話している間、黙って話を聞いていた。京子が話を終えるとおやすみと言い電話を切った。
京子の話はこういうことだった。
日本将棋連盟は今将棋ファンの数が減り危機的状況にある。この状況下、ホワイトエンジェルなのか某有名企業が買収にのりだした。連盟側は拒否をしているが、企業側は強気の姿勢らしい。もし買収に乗らなければある施策を用意している。来月までに前向きな返事が得られなければ記者会見を開くというものだった。
タスキには何がどうなっているのか見当もつかなかったが、将棋界の危機的状況が今後崩壊するところまで陥るのかもしれないと危機感を持たざるを得なかった。
その日二箱目のタバコの封を切ると一本加えて火をつけた。ゆっくりと吐き出した煙が目にしみた。(なにしろ来月の記者会見を待つだけか)
某年8月、東京の有名ホテルで記者会見がとりおこなわれた。会見側の出席者は将棋連盟会長、副会長、CNAという企業の社長、広報部長という顔ぶれだった。司会進行役のCNAの若手社員らしき女性が記者会見の概要を記者たちに伝えると、会見は始まった。
タスキは自宅に京子を呼び、二人でテレビでその会見を見ることにした。
テレビの向こうでCNA社長がゆっくりと語り出した。
「我が社は将棋という文化が消えていくのを指をくわえてみてるわけにはいかない。コンピューター将棋には否定的ではないが、このままでは将棋界の衰退おろか、将棋人口の低下は抑えられない。それはなぜだと思う。そこの前の記者さんどう思うか述べてくれはしないか。」
ここで社長はマイクを置いた。
記者の1人が叫ぶように言った。
「将棋界のマンネリ化が原因ではないでしょうか。」
社長はうんうんと二度うなずくとまたマイクを手にし、
「ならば、、、どうだろう?新しい将棋界をスタートさせてみるのはいかがなものか。」
ここで社長は広報部長に合図すると会見者側の後ろにあったスクリーンに目を向けだ。スクリーンは地球のようなものを映し出していた。
「将棋と冒険の融合。そして、冒険者の中から見事成功したものに100億円の賞金を出す。」
社長がそう言うと、記者たちはざわめきだした。
「つまりだ。将棋には8つの駒が存在する。その一つ一つを世界各地にばらまく。すべてを集めたものに東京で将棋の三番勝負をする。対戦相手はこの場では明かせない。見事全員に買ったものに賞金を与える。我々がこれからしようとしていることについては以上だ。参加応募資格はなしとする。」
社長はここまで話し終えると、司会進行役は将棋連盟会長にマイクを持たせた。会長は苦渋の表情で話し出した。
「つまりは、、さきほどのCNA社長のおっしゃっていた通りの現状です。ただ、将棋連盟自体は存続します。」
ここでマイクを置き会長は席を立ち逃げるようにその場をあとにした。
タスキは京子と顔を見合わせた。
「どうなってるの?これ。」
京子はまんまるの目でタスキに聞いた。
「何かうさん臭いけど、もうしばらく様子を見るしかないんじゃないかな。」
「そうね、詳しいことがわかったらまた連絡するね。」
そう言い残し、京子は帰って行った。