完全犯罪
このお話は「流星博士のタイムマシン」と少しリンクしています。
窃盗歴二十年。入った民家は六千件。
泥棒をやってずいぶん長いけれど、そろそろ足を洗いたいと思った。
だが、これからまっとうに生きろといわれても、今さら難しい。
どうせなら一気に大金をつかんで、一生優雅に暮らしたいものだ。
と、そこで、いいことを思いついた。
あの研究熱心な流星博士が、タイムマシンを発明したという。
研究以外はずぼらなヤツだから、家に侵入するのは簡単だ。
博士の留守中に忍び込んで、タイムマシンで過去にひとっとび。
それで何をするかって?
文明の利器を持って過去に行って大金持ちになる?
いやいや・・・わざわざこの便利な世の中を捨てて昔の世界で暮らそうなんて思わない。
だったらどうする?
昔のお金を現在に持ち込んで、それを売って大金持ちになるのだ。
偽金はバレたら刑務所行きだが、昔のお金なら番号がどうだとかも言われないだろうし、間違いなくホンモノだ。
この時代では盗みは働かないのだから、これぞ完全犯罪ってやつだ。
俺は早速タイムマシンに乗って、過去に行くことにした。
(操作なんて簡単なもんだった。タイムマシンのそばに手書きの説明書が添えてあったんだから)
時代はそうだな、古すぎると誰もわからないから五百年ほど前にしよう。
俺はそこでまた盗みを働き、現金を大量にせしめた。
プロだから、見つかるような真似はしない。
大昔の、今は博物館にしかないようなお札をバッグいっぱいに詰め込んで、俺はそ知らぬふりをして現代に戻ってきた。
タイムマシンは同じ時間に戻ってきたのだから、もちろん博士はまだ外出中だ。
俺は早速、こいつを山中で掘り当てたようなフリをして、警察に持ち込んだ。
泥棒が警察に行くなんておかしい?いやいや、灯台下暗しってやつでね、自分のものと証明されたほうが、後で売るのも楽ってもんだ。どうせ持ち主なんてほかにいないんだから。
五百年前の紙幣、見つかる!
このニュースは一気に全国のマスコミに報道された。
俺は新聞に、犯罪者としてじゃなく、有名人として載ることとなった。
だが、あまりに見つかった枚数が多すぎるというんで、怪しがった警察はそれを鑑定することにしたらしい。
ははは、鑑定するならしてみろ。ホンモノには間違いないんだから。
そしてしばらくの日が経って、今度は警察が物々しい雰囲気でたずねてきた。
「署までご同行願おうか」
まさか大昔の盗みが今更バレたわけはない・・・とは思うが。
「どうして?」
と聞くと、
「あの紙幣は、本物と材質やつくりは全く変わらないのだが、五百年前のものだというのに劣化が全く見られない。そこで精巧な偽札だと断定された。紙幣をどこで手に入れたのか、詳しい話を聞かせてもらおうか」
警察の疑いのまなざし。このままでは偽札作りの犯人にされてしまう!
「違うんだ!あれは偽札じゃなくて・・・」
俺は思わず、これがタイムマシンに乗って過去から手に入れたものだということを明かしてしまった。盗んだ、とは言ってないんだから、許してもらえるに違いない・・・。
その後、俺は不法侵入の罪で起訴された。
しかも、そこから芋づる式に過去六千件の窃盗が明かされることとなり、そのまま俺は刑務所に入る羽目になってしまったのだった・・・。
ああ、こんなことならおとなしく、過去に戻って一からやり直せばよかった!