1 転生してしまった!
よろしくお願いします。読んでくださると嬉しいです。
「アメリアまた熱が出たんだね。可哀想に…」
額に置かれる大きな手がひんやりとして気持ちがいい。
この声は幼馴染のルカスかしら。
私アメリア・バーグマンは子どもの頃から体が弱かった。普段からよく熱を出し、季節の変わり目には体調を崩し命の危険に晒されている。
ルカスが額に手を置く夢を見るなんて今回は余程重症のようだ。
だって彼はこの間婚約したばかりなのだから。
幼馴染の私とは距離をおくのが普通だ。ここにいるはずがない。
目を開けることもできず、私の意識は暗い闇の中へ引きずりこまれた。
高熱に魘された私の頭に前世の記憶がなだれ込んできた。前世で仕事の隙間時間によく読んでいたWEB小説「さよなら婚約者様、そんなに病弱な幼馴染が大切ならわたくし身を引きますわ」の情報だった。
小説の中のアメリアは病弱なことをいいことに何度も幼馴染のルカスを呼び出し、彼らのデートの邪魔をして、相手の女性を傷つけ婚約を壊してしまう最低な女だ。
その後はお約束のざまあが待っている。
よりにもよってそのアメリアに転生してしまうとは何ということだろう。
このままでは貴族家の婚約を壊す馬鹿な女になってしまう。そんなことはしたくない。それどころか破滅するなんて嫌だ。
熱が引き何とか体を起こせるようになった私は自分の置かれた状況にゾッとした。
実際にそんなことをするつもりはない。
しかしいくら常識のある行動を取っていても小説の強制力が働いたとしたら私とルカスは破滅する。
もう既にルカスはお見舞いに来ている。あれは夢ではなかった。なんということだろう!
約束のある日ではなかったことを祈ろう。
小説だとざまあされて候爵令息であるルカスは貴族ではいられなくなり、伯爵令嬢の私も修道院へ送られる展開だった。体の弱い修道女などあっという間に儚くなる。
そんなことにならないように対策を立てなくては。
ルカスからできるだけ距離を取ろう。
そう決めたのに目に入ったのは、部屋の隅に飾られた彼がくれたというお見舞いのピンクのガーベラの花だった。
いつもは見ているだけで癒される花が断罪の象徴に思えて私はブルッと震えた。
これって既にストーリーが始まっているの?私は焦りを感じた。
御礼状は出そう。感謝を告げその上て私より婚約者様を大事にしてくださいと書いておこう。
こうして私のルカスから距離を取る作戦は幕を開けた。
我がバーグマン伯爵家は大きな商会を抱えていて裕福だ。病弱な娘を療養させるだけのお金には困っていない。後継は三才年下の弟がいる。
出来れば元気になりたいが、このまま病弱だと領地で静かに暮らすという形で一生を終えても構わないと思っている。どうせ長くは生きられない。
残りの人生は花を愛でたり本を読んだりしてゆっくり過ごしたい。
他人の婚約者様を狙うなんてドロドロした感情はいらない。平和が一番。
しょっちゅう体調を崩しているのだ。心の安寧は大事だ。
◇◇◇
私とルカスは母親同士が仲が良く、小さな頃からお茶会に行く度に顔を合わせていた。ルカスは一つ年下の私を妹のように面倒を見てくれていた。お互い情はあるが恋心ではない。
それなのに私のせいでルカスが婚約破棄になるなんて我慢できない。
そんな結果になってたまるものですか。
娘のように可愛がって貰った向こうのご両親にも顔向け出来ない。
何より愛する家族の評判を落としバーグマン伯爵家が社会的に消えてしまうかもしれないのだ。
是が非でも回避しなくてはと私は拳を握り締めた。
ソファーに座りぼんやりしているとメイドのアンが明るく声を掛けてきた。
「お嬢様気分転換に散歩でもいかがですか?今日は暑くもなく寒くもない良い気温でございますよ」
アンは五才年上の姉のような存在のメイドだ。
「そうね、お日様に当たろうかしら」
花の咲き乱れるお庭を歩いていると陽射しが暖かくて気持ちがいい。
「お嬢様、そう言えば新しい療養施設がサウス領に出来たそうでございますよ。最新医療設備が導入されているらしいです」
隣で日傘を差し掛けてくれるアンが言う。
「えっ?その話を詳しく聞かせてくれる?」
私はアンが持っている情報に飛びついた。




