蜘蛛と となりのトカゲ
バルコニーから空を見上げると、
そこにいたのは、
長くて細い、
ラピスラズリみたいな蜘蛛。
レースみたいな巣の上で、
朝日にキラキラ、光ってる。
手すりの上には、トカゲも。
しっぽはくねくね、目はきょろきょろ。
蜘蛛はそっと、すりすり。
張りたての糸を、ちょんちょん、ぴんっ。
おどるように、、かろやかに
丈夫な糸も、ていねいに整えて。
蜘蛛のおうちはね、たいせつな台所でもあるんだ。
不思議そうに、
トカゲが蜘蛛を見つめている。
……「どうやって空に浮かんでいるの?」
「見て、とっても強い糸なんだよ」
「ほんとだぁ。ダンスもできるんだものね。」
トカゲはうらやましそうに、蜘蛛を見あげた。
ある日の午後。
トカゲは手すりで、ごろーん。
「ふあ〜」と伸びをした。
ぺちっ。
あらら。しっぽが、蜘蛛の巣にふれてしまったみたい。
小さな虫や花粉がくっついて、
トカゲはくるっとしっぽをふった。
すると――
パクっ。
「あ、ぼく、虫、食べちゃった?」
蜘蛛はびっくり。
「あぁ、私のごちそうなのに。
でもいいよ。もう食べちゃったんだから。
でもね…ほら糸が切れちゃった。
これは私のおうち。
だから大事にしてるんだ。」
トカゲはしっぽをぷるぷる。
「わざとじゃなかったけど…ごめんね。」
蜘蛛はにっこり。
「ふふ、うん。
わかってくれたから、もういいよ。」
いつの間にか。夕暮れのじかん。
トカゲが体をくねらせながら、しっぽを見つめる。
「ねぇ、見て!しっぽに、なんかくっついてるよ。蚊かな?」
蜘蛛は脚を止め、少し首をかしげてのぞき込んだ。
「あ、そうだよ。ごちそうがついてる。」
「やっぱりだ! あ、うんと…これ、あげるね。」
今日のごめんねを、あらためてトカゲが差し出すと、
蜘蛛も照れくさそうに笑った。
小さなできごとが、
ふたりをつなぐ糸になっていった。
「ふたつめの朝、
蜘蛛はいつものように、ちょんちょん、
すりすり。
巣をたしかめて、ていねいに整える。
トカゲは壁にぴたっと貼りついて、
少し上からのぞきこんだ。
『今日は、なにを食べるの?』
トカゲがぽつりとたずねる。」
「『今日はね、とくべつ。甘い朝露をいただくんだ』
蜘蛛はそう言った。
小さなしずくが、光の粒みたいに巣に散らばる。
脚でそっとたぐり寄せて、ぺろり。
それは命のしずく。
巣にひかる宝石みたいな、ごちそうだった。」
「『もしよかったら、君もいっしょにどう?』
蜘蛛がちいさな声でたずねる。
トカゲは、ぱちぱちと目をまるくした。
しっぽが、くねりと動いた。」
「『ありがとう』
トカゲは、ちょこんと笑った。
ふたりは朝の光の中、
きらめく露を見あげた。」
「のどかなお昼をすぎたころ。
ぽーぽ、ぽっぽぽー。
どこかで鳩の声。
すると――
バルコニーに、ばさばさっと鳩がやってきた!
トカゲはしっぽをぷるぷる。
蜘蛛はもっと大あわて。
『ひゃあ! お、おちるー!』
ぎゅっと目をつぶった、そのとき。
……ん? あれ?
『だいじょうぶ! ほら、いつものしっぽの糸が出てるよ』
ぶらさがる蜘蛛を見て、
トカゲは、蜘蛛も、こわがるんだって、知った。
なんだかうれしかった。」
「鳩はまるい目でふたりを見ていたけれど、
やがて羽をふるわせて、ばさばさっと飛び立った。
ふうっと息をはいて、
ふたりはその後ろ姿をじっと見おくった。
胸の奥が、ぽっとふくらんだ。
空の色はすんで、
やさしい光がまた落ちてきた。
蜘蛛はおもむろに糸をすりすり。
トカゲも、ぴたっと手すりをたしかめる。
ひとやすみしに来ただけだったみたい。
空の向こうに帰ったのかな。
きっとそうだね。
おうちに何もなくて、ほっとしたね。
こわかったけど――
なんだか不思議にたのしくて、
ふたりはわらいあった。」
「夜になり、空に星がひかりはじめる。
蜘蛛は巣のまんなかで小さく丸まり、
トカゲは手すりで、しっぽをゆらり。
目をとじると、
今日のできごとが、つぎつぎ、
思い出される。
静かにきらめく夜が
おやすみを言いはじめた。
やさしい気持ちに、ふたりも包まれていった。
おしまい。
なんとなく、で
絵本として描きました。
彼らを好きになったので
もう少し続けていけたらと
思っています。




