表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

第2章 秘密の時間と忍び寄る影

第2章 秘密の時間と忍び寄る影


 


 その夜から、わたくしたちは月明かりの下で過ごす時間を増やしました。

 宮殿の庭園は、誰にも邪魔されず、まるでわたくしたちだけの世界のように感じられました。


   「レティシア様、今日はどんな一日でしたか?」

 カイルが優しく尋ねると、わたくしは少し照れながらも答えます。


   「貴方に会えると思うと、一日が楽しみで仕方ありませんの」

 彼の頬が赤く染まり、微笑む様子を見ていると、わたくしも自然と笑みがこぼれました。


  しかし、そんな幸せな時間にも影が忍び寄っていました。

 貴族たちの間で囁かれる噂、そして、王都の権力争いの渦中にいるわたくしの家族の問題。


   「レティシア様、お気をつけてください。宮殿内には、あなたの評判を落とそうとする者がいます」

 忠実な侍女の言葉に、わたくしは固く頷きました。


   「わたくしは負けませんわ。カイルが傍にいてくださる限り」

 そう誓い、カイルの手を握り返しました。


 ふたりの間に芽生えた愛は、ただ甘いだけではなく、未来への決意と強さも秘めていたのです。


---


ある晩、宮殿の大広間で行われた舞踏会。

 煌びやかなシャンデリアの灯りが踊り子たちを照らし、華やかな笑い声が響き渡っていました。


  わたくしは絹のドレスを纏い、貴族たちの中で静かに微笑んでいました。

 しかし、その華やかな空間の中にも、鋭い視線がわたくしに注がれていることに気づきました。


   「レティシア様、今宵のご様子はいかがです?」

 知らぬ間に隣に立った伯爵が、皮肉を含んだ微笑みで話しかけてきます。


   「貴女の評判は、そろそろ城中に広まっているようですよ。騎士カイルとの関係も、噂になっているとか」

 その言葉にわたくしは一瞬息を呑み、しかし冷静に答えました。


   「噂とは、風のようなもの。時に美しく、時に危険ですわね」

 伯爵は軽く笑い、「そうですね」とだけ返すと、別の話題に移っていきました。


  しかし、その言葉は重く胸にのしかかり、カイルのことを思わずにいられませんでした。

 果たして、わたくしたちの未来はこの困難を乗り越えられるのでしょうか。


  舞踏会の終わり、わたくしは庭園へと向かい、月明かりの下で一人、考え込んでいました。

 すると、カイルが静かに近づき、そっとわたくしの手を握ってくれました。


   「どんな噂も、俺が全部受け止める。君が笑っていられるよう、必ず守る」

 その言葉に、わたくしは胸が熱くなり、涙がこぼれそうになりました。


   「ありがとう、カイル。あなたがいれば、わたくしは怖くない」

 そう囁くと、彼はわたくしの髪にそっと触れ、ゆっくりと微笑みました。


  その夜、わたくしたちは固い絆で結ばれたのでございます。

 未来がどうなろうとも、この愛だけは揺るがないのだと、心に誓いながら。



---


舞踏会の喧騒が遠ざかり、宮殿の庭園は再び静けさを取り戻しておりました。

 煌めく星々と月明かりだけが、わたくしたちを見守っているようでございます。


   「レティシア様」

 そっと近づくカイルの声に、わたくしは振り返りました。

 彼の瞳には、舞踏会の疲れを忘れさせるほどの優しさが宿っておりました。


   「貴方の側にいると、どんな不安も小さく感じられますわ」

 わたくしはそう告げ、少し恥ずかしそうに目を伏せました。


   カイルは微笑みながら、そっとわたくしの頬に手を当てました。

 「僕もだ、レティシア。君の笑顔が、何よりも大切だ」

  その言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じました。


   「……でも、わたくしたちの関係は、まだ誰にも知られてはいけませんのね」

 わたくしの声は、どこか切なげに揺れておりました。


   「そうだね。だが、君と僕の間に嘘はない」

 彼はゆっくりと手を伸ばし、わたくしの手を握りました。


   「いつか、誇りを持って君の傍に立てる日が来るまで」

 カイルの瞳は強く、揺るぎない決意を映しておりました。


  わたくしは小さく頷き、彼の手をしっかりと握り返しました。

 「その日まで、わたくしは貴方を信じ続けますわ」


   

二人の鼓動が重なる夜、月は優しく微笑みかけてくれているようでした。



---


翌日、宮殿の廊下を歩いていると、ふと耳に入ったのは冷たい囁きでした。

 「騎士カイルが令嬢に肩入れしすぎているらしいぞ。あれでは規律違反だ」

 「侯爵家と騎士団の間に波風が立つかもしれん」


  わたくしの心はざわめき、胸の奥で何かが重く沈みました。

 カイルが責められるのは、わたくしのせいなのかと、不安がよぎります。


  しかし、その夜。庭園で待つカイルの顔を見ると、彼は微笑んで言いました。

 「心配しなくていい。君のためなら、どんな批判も受け止める」


  わたくしはその言葉に救われると同時に、改めて彼の強さを感じました。

 「ありがとう、カイル。わたくしも、貴方のために強くなりますわ」


  その言葉に、彼は真剣な眼差しでわたくしを見つめ、静かに誓いました。

 「共に立ち向かおう、レティシア」


闇が迫っても、ふたりの絆は揺るがない。

 そんな確かな未来を胸に抱きしめながら、月明かりの下でふたりは寄り添ったのでございます。


---


「共に立ち向かおう、レティシア」

 そう誓ってくれたカイルの言葉に、わたくしの胸はしんと震えました。

 この想いが、いかに強く、深く、誰にも譲れぬものであるかを――今、確かに知りましたの。


   風がやさしく髪を撫で、月が、わたくしたちの影を淡く重ねてゆく。

 その静けさが、余計に心を締めつけました。


   ――わたくし、この人が、好き。

 身分も過去も未来も関係なく。

 ただこの人の心に触れたくて、傍にいたくて。

 いま、わたくしは……。


   「カイル」

 わたくしは彼の名前をそっと呼び、まっすぐに見つめました。


   「……? どうかしましたか」

 彼が穏やかに問いかける、その瞬間。


   わたくしは、彼の頬に手を添え、そっと身体を寄せました。

 そして――ほんの少し、背伸びをして。


   「――好きですわ、カイル」

 その囁きとともに、わたくしは彼の唇に、静かにキスを落としました。


   柔らかなぬくもり。

 それは、とても短くて、けれど永遠のように愛おしい瞬間。


   彼は驚いたように瞬きをし、わたくしを見つめ返しました。

 「……レティシア」

 その瞳には、驚きよりも深い感動が浮かんでおりました。


   「ずるいですわよね、貴方から言ってくれないから……わたくしから、いただきましたの」

 照れ隠しのように笑うわたくしに、カイルは目を細めて微笑み、今度はそっと――その額に、口づけを落としてくれました。


   「ありがとう。……君のすべてを、何よりも大切にする」

   その言葉に、涙が溢れそうになるのをこらえながら、わたくしは静かに頷きました。


  夜空は澄みわたり、星たちがまるで祝福するように瞬いていました。

 誰にも言えない秘密の恋は、確かなかたちで、ふたりの心を結んだのでございます――。



---


ふたりの間に言葉はもう要りませんでした。

 ただ、静かな鼓動が、互いの胸の奥で重なり合ってゆくのを感じておりました。


   「レティシア……」

 カイルはそっと、わたくしの名を呼びました。

 まるで、それだけで想いのすべてを伝えようとするように。


  わたくしもまた、黙ってその胸に身を預けました。

 温かく、広く、強く――どこまでも優しいその腕が、わたくしを包み込みます。


   「わたくし……この腕が、すべてを拒んでも、信じますわ」

 その囁きに、彼はわたくしの背を抱き寄せ、そっと頷きました。


  言葉は風に溶けて、夜空の星たちが見守る中。

 ふたりはただ、寄り添い、抱きしめ合いました。


  この時だけは、誰の目も、誰の声も、届かない。

 世界にふたりだけの静寂。


   ――それは、恋が「秘密」から「約束」へと変わる夜でした。


最後まで読んでくれてありがとうございます!


改行が変になってないか心配です!笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ