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同じ一日の繰り返し

作者: 冷瑞葵
掲載日:2025/12/01

 なんてことない今日を繰り返す。


 目が覚めるのは朝6時46分。そこから二度寝をかまして7時15分。

 制服はいつも通り。朝ご飯はトーストと目玉焼きとバナナ。


 朝の気温は11℃、最高気温は18℃の予報。

 家を出るのは8時3分。ホームルームの2分前に教室に駆け込む。


 隣の席の友人と挨拶をする。その14秒後に先生が入ってくる。

 眠気を堪えて授業を受け、昼ご飯は3人の友人と一緒に。弁当の中身は白米と唐揚げとポテトサラダ。最初に食べるのは唐揚げ。

 午後一の古典の授業は開始26分後から19分間寝てしまう。


(タイムループってやつだよな)


 この思考を開始するのは午後2時59分。48秒後に指名されるのでそれを待ってから思考を再開する。


(こういうのって、もっと劇的な1日を繰り返すものじゃないの?)


 部活動は休み。授業が終わった後は3人の友人に別れを言って、1人で帰路につく。

 校門を出るのは午後3時48分。


(変えようと思っても何も変えられないし)


 駅につき3時56分の電車に乗る。運よく席が空いて、塾帰りらしき小学生とスーツケースを持った男性との間に座る。

 発車ギリギリにクラスメイトが駆け込んできて、お互い気まずく会釈する。


(この後だって何が起こるでもないし)


 すぐ降りなければならないのに眠気がやってくる。これもいつも通り。乗り換えの駅に到着した途端に目が覚めるから問題ない。いつも通り。

 全部、全部いつも通り。


 いつだったか、もう何百日も前のことなので詳しくは忘れてしまったけれど、この数分の仮眠の間に夢を見た。


 自分の目の前に誰かが立っている。どこかで見たことがあるような、ないような、夢から覚めてしまえばすっかり忘れてしまう印象に残らない顔だった。


「進みたい?」


 相手はそう尋ねてきた。意味がわからなかったけど、単純に眠かったので「進みたくない」と答えた。

 そうしたら相手は満足そうに頷いて消えてしまった。


 あれがいけなかったのかなぁと目を閉じて考える。それくらいしか思い当たるところがないのだ。


 あれに似た夢はその後も何度か見た。

 ――何度か、というのは、毎回ではないということで。つまり、この仮眠中だけは「いつも」の繰り返しではなかった。


 たしかこれまでに3回。

 1回目はさっき言った通り「進みたくない」と答えた。2回目は混乱して何も答えられなかった。

 3回目は質問に答えず、「あなたは誰?」と聞いた。相手は「今日だよ」と答えた。


 そして、今。

 夢の世界に落ちた僕の目の前には特徴のないあの人物が立っている。「今日」だ。


「進みたい?」


 4度目の質問。その瞬間にすべてを理解した気がした。

 僕の行く末を遮るように立つ「今日」は僕の返答を心配そうに待っている。


「進みたい」


 そう答えた。相手は寂しそうな顔をしたけれど、素直に道を譲ってくれた。


 前に一歩踏み出すと経験のない感覚が足の裏から伝わってくる。

 一歩、一歩と前に進むごとに景色が変化し、地面が広がり、視界が開けていく。知らないものがたくさんある。


 もうずっと忘れていた感覚だ。


「さよなら、『今日』」

「うん、さようなら」


 やがて視界に靄が広がっていく。手足に現実感が戻ってきて、夢から目覚めるのだと直感する。


 どこからか聞き馴染んだ駅の音楽が聞こえてきてハッと目を覚ます。最寄り駅についたのだ。

 隣に座っているのはくたびれたサラリーマンと白髪夫人だった。


 慌てて電車を降り、スマートフォンで今日の日付を確認する。


「『明日』だ!」


 思わず叫んでしまい、道行く人から奇異な目で見られる。ここ数百日で初めてのことだ。


 僕は久しぶりの感情でいっぱいになって、輝く未知の世界の中で大きな大きな伸びをした。夕日が朝焼けのように街を照らしてくれている。

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