1. 集団告白
サキュバスに生まれた少年の食生活の話です。エッチなシーンは一切ありません!
佐久蓮ユウトは15歳。
高校受験を終え、数時間前に中学の卒業式を終えた。ごく普通の15歳である。 特にイケメンということもなく、中肉中背。平均的な体格で、目立つところはなにもない。
帰宅して自室でゲームをしながら動画を流してくつろいでいると、母が呼ぶ声がした。
「ユウト、お客さんよ。学校のお友達ですって」
友達なんて俺にいたかな……。
ユウトは不審に思いながらも立ち上がった。
学校ではユウトは微妙な立ち位置にいた。
女子に避けられているが、かといって男子にも遠巻きにされるのだ。心当たりはない。
元々一人でゲームするのが性に合ってるので、あまり困らなかったが『友達』というのは本当に心当たりがない。
部活も帰宅部だったし、習い事も受験前の一年だけ塾に通っていただけだし……。
玄関に出ると、そこには同じ中学の制服の知らない男子生徒がいた。
「あ、あの! 佐久蓮先輩! ずっと好きでした!高校に行っても俺、先輩と一緒にいたいです! お付き合いしてください!」
花束とともに、差し出される手。
「あの……君は、誰?」
「環境美化委員会の後輩の高橋です! ずっと好きでしたっ!」
あ、そういえばいたな。二年の時に係決めじゃんけんに負けて環境美化委員、つまりゴミ拾い係をやったのだがその時に少し話した記憶がある。
でも、別に特別な何かをしてあげたわけではないし、話題も天気の話や近所のコンビニの話など無難なことしか話さなかったはずだ。
恋愛感情に至るようなものではなかったと記憶している。
「ええと、あの、俺は女の子が好きで、男に興味なくて……」
「大丈夫です! 一緒にいるうちに好きになってもらえるように頑張りますから!」
(どうしよう、熱意がありすぎる)
自分が女の子だったらもしかしたら了承したかもしれない。高橋くんは中二にしては背が高く、顔もかっこよくスマートだ。
しかし、ユウトが好きなのは女の子だ。
幼稚園時代の初恋の観海ちゃん、小学生の頃の隣の席だった雪原栞さん、中一の時に転校していった榎原ひまりちゃん、同じクラスの吉田美織さん。好きになった人の名前は全部覚えている。
ただ、全員告白したものの全員に即振られている。理由はよくわからない。観海ちゃん以外同じ趣旨のことを言われたのは気になったが。
『ごめんなさい、私には無理。でも、貴方にはもっと素敵な人がいるから……きっと、すぐそこに』
全員揃って同じ内容のことを言って、誰もはっきりとしたことを告げてくれなかった。解せない。
「本当にごめんなさい。他の人を探してください」
気を持たせるよりは、ときっぱりと頭を下げてお断りの意思を示す。
しかし。
後ろからドタドタと廊下を走る音。それも一人ではない、複数だ。
「こらああああああ、高橋、てめぇ抜け駆けしやがって!」
「そうだよ高橋君、みんな一緒に告白しようって決めてたじゃないか!」
「ひどいよ高橋! 佐久蓮君ファンクラブのメンバーとしてあるまじき……」
「くそっ、こんなことなら昨日の夜コンビニで声をかければよかった!」
(うん????????)
ユウトの脳裏に宇宙が広がる。
幾人もの男子中高生と思しき少年たちと、なにか聞き取れないことをいっている。いや、日本語なのに何を言ってるんだか理解できない。ファンクラブってどういう意味だっけ? 抜け駆け? 殆どの人と面識がほぼないんだが???? ユウトの脳はショート寸前だった。
「ユウト君、好きだ! 結婚を前提として俺と付き合ってくれ!何なら俺の金目当てでも構わない!」
ユウトもこの人は知っていた。近所の有名人なのだ。近所の大地主で大病院の家の一人息子で登下校は車で送迎、顔も頭も良くて優しいと女子に大人気の先輩だ。ついでにいうとユウトの住むマンションの大家でもある。
でも、一回も喋ったことはないし、そもそも彼は今高校生だし、交友は一切ない。
「佐久蓮くん、いつもコンビニで見てました! コンビニのレジの俺です! 良ければ是非俺とお付き合いしてください!」
あー、この人いつも行くコンビニのレジのバイトの人だ。と気がついたがなんでそうなるの? ユウトには全く理解できなかった。
「佐久蓮! 俺が生涯お前を守る! 付き合ってくれ!」
この男も面識はないが知っていた。柔道で全国大会二位になった隣の隣のクラスの同級生の山田くんだ。身長190センチ、体重90キロの超中学生級の逸材として時々取材されているのを遠目で見たことがある。野球やバスケも得意でプロチームからのお誘いもあるらしい。NBAのスカウトマンが来たなんて噂まである。
「佐久蓮ユウトくん、僕は真剣に君のことを愛している。年齢差はあるが、大丈夫。君が成人するまでは清い付き合いでいることを約束する。僕と交際してくれないだろうか」
見覚えがあると思ったら、受験まで通っていた塾のアルバイトの先生だ。ただし、高校生のクラスを担当していたので実際の付き合いはない。この地方で一番の難関大学の難関学部に在籍して、論文が有名な雑誌に載り、有名企業の研究部に内定していると塾で誰かが話しているのを聞いたことがある。
全員が交互に自己アピールを繰り返してくるものの、ユウトには全く心当たりがなかった。どうしたものかと悩んでいると、騒がしさに気がついたのか母親が現れた。
「まあ、皆さん。ユウトのお友達?」
ユウトの母が外行きスマイルで対応すると、全員が母の顔を見て衝撃を受けている。母の顔になにかついているのか? と思うが、特にいつもと変わらない。
年齢よりは若く、そして割と美人めだとはおもうがそこまで衝撃を受けるほどのことだろうか。普段の顔を知ってるからなおさら疑問に思う。
「とりあえず、上がってお茶でもいかがかしら?」
母がそう誘うと、全員夢見心地の顔でリビングに入ってきた。
リビングルームのテーブルの前に、急ごしらえで追加の座卓を設置し母は全員にお茶とお茶菓子を出してくれた。
「うっす! アザッス!」
「さすが佐久蓮くんのご母堂……」
入ってきた少年たちが母を褒めちぎっている。普通の安いスーパーのお茶に、248円の大袋のお菓子なのにだ。
「一生の思い出になります…………!」
後輩の高橋くんが感無量の面持ちで、涙まで流している。ユウトは流石に困惑した。明らかに様子がおかしい。
「ユウト、お母さんこの子達と少しお話しするから、ちょっとお部屋でゲームでもして待っててくれる?」
「う、うん……」
もしかして母が話をつけてくれるのだろうか。俺が女の子を好きなのは母も知っているしな……。失恋して泣いてた時も母にはバレバレだったのだ。
自分一人では埒が明かないことを自覚しているユウトは母の好意に甘え、暫く部屋でいつものゲームを遊んでいた。
気がつくと、もう夕方である。まだ母は呼びに来ない。
いい加減話が終わったかな、と覗きにいくといつもより顔色の良い母の前で、うっとり夢見心地な男たちがうたた寝をしていた。
「みなさん、起きて。もう夕方ですよ、お家に帰らないと」
優しいユウトの母の言葉に男たちはハッとして飛び起きる。
「それでも俺達は諦めません!」
「ユウトくん、気が変わったらいつでも来てくれ……これ、名刺です」
「俺、佐久蓮先輩と同じ高校に行きますから!」
「俺も佐久蓮と同じ高校に転校しようかな……」
「ちょっと今から教員免許とれないか大学に相談してきます、お時間いただきありがとうございました!」
全員靴を履き、玄関を出ると礼儀正しく頭を下げて家へと戻っていった。
ユウトは狐につままれたような気分だった。さっきの話は一体何だったんだろう。
「ユウト、お母さんね、ユウトに隠してたことがあるの」
部屋に戻ると、母とテーブルで向かい合って母の出した紅茶を飲みながら話を聞くことになった。
「隠し事って何?」
「お母さんね、実はサキュバスなのよ……」