俺はあいつを思い出せない。
俺はあいつを思い出せない。
記憶の隅に微かに存在するあいつは誰なんだ?
俺はあいつを知らない。
顔にはもやが掛かり俺は思い出せない。
名前は頭に微かに残っている。
だが思い出せない。
一つ分かるのは俺はあいつに恨まれている事だけだ。
2階で寛ぐ俺を呼ぶ母の声。
俺は下に降りて夕食を食べた。
何時もながらの日常。
俺は今日も母に聞いた。
俺の記憶に微かに存在するあいつを知ってるんだろと。
だが母は聞かなかったふりをする。
父も俺の疑問が飛び火しない様に話を変えてきた。
妹もそうだ。
知っていて何故隠すのだ?
俺は不思議でならなかった。
何故?俺はあいつに何かをしてしまったのか?
俺の記憶には微かな空白が存在した。
俺は9歳の時の記憶が存在しない。
失われた記憶。
俺は失われた記憶をどうしても知りたかった。
完成間近のパズルにほんの少しのたった1ピースが欠けている状態。
これを探さないでどうするんだ。
俺は完全に俺では無い。
俺は未完成なんだ。
俺は自分を完成させたい。
俺は自分を完成させないと自分を自分だとは到底思えないんだ。
俺は怖かった。
1ピースのパズルを忘れるのが非常に怖かった。
毎日怯えながら暮らすのは御免なんだ。
俺は俺を未完成なまま終わらせたくは無い!
俺は必死に母に訴えた。
だが俺の言葉に耳を傾けてくれなかった。
父と母はどうしようもない何も出来ない自分に涙を流していた。
不甲斐ない。
俺は親を泣かす不幸者かもしれない。
だけど俺は幾ら蔑まれようが!
幾ら親を泣かそうが!
幾ら自分をどん底に落とそうが!
知る権利はある筈なんだ…
俺は9歳の俺を知りたい。
記憶の残るあいつを思い出したい。
じゃないと俺は完成しないしあいつが報われない気がするんだ。
俺は記憶をパズルの最期の1ピースをどうても見つけ出してやる。
俺は夕食を食べ終え何時も通りに一日を終えた。
翌朝。
俺は目を覚まし朝食を食べ終えた。
学校に行く為の支度を済ませ家を出た。
出迎えてくれたのは俺の幼稚園からの幼馴染である加藤。
こいつにも相談した事は幾度とあったが答えてはくれなかった。
お前の為にはならないと一蹴されて。
今日は久しぶりに聞いてみた。
「お前はそんなに知りたいのか?」
俺はああと頷く。
加藤は渋い顔をしてこう言った。
"お前の為にならない。知らない方が絶対に良い"
ふざけるのも程々にしてくれ!
俺は怒りで体が強ばった。
俺の為にならないだと?
ふざけてるのか!?
俺はついカッとなり加藤の胸ぐらを掴んでこう言った。
「自分を理解出来ない俺の気持ちがお前に分かるのか!?俺はな知りたいんだよ!知らなくちゃいけないんだよ!じゃないと何時まで経っても俺は俺になれないんだ!」
加藤はそんな俺の顔を強く殴った。
俺は何が起きたのか理解するのに時間を要した。
「俺は俺になれない!?寝言は寝て言え!この世の中にはな知って後悔する事実は星の数程存在する、お前があれを思い出せば…お前は必ず……死んでしまう……知ってはならない!今すぐ忘れろ!事実は時に死をも誘うんだよ!」
加藤は涙ながらに俺にそう訴えた。
俺は初めて見るこいつの涙に動揺を隠せなかった。
こいつは泣く様なたまじゃない。
そんな奴が俺の為に涙を流すのか?
最期のピースはどれだけ強大なんだ?
俺は俺を殺そうとしているのか?
俺は知らず知らずの内に己の首を絞めようとしていたのか?
母さんと父さんそして妹も何も答えてくれない理由は俺を殺す行為その物だからか?
俺は分からなくなった。
俺は俺を更に見失ってしまいそうだ。
加藤は涙を拭い走って何処かへ行ってしまった。
俺はあれから起き上がり漠然とながら学校に向け歩を進めた。
あれから学校に行くと加藤の席は空いていた。
何でだ?あいつは俺よりも先に着いていないとおかしい。
俺は漠然とした不安を覚えつつも席についた。
放課後。
あいつは最後まで来なかった。
俺は妙な不安に駆られ加藤の家に行った。
すると加藤はどうやら帰っていないらしい。
とても不安そうな様子であった。
俺は心を落ち着けるべく川辺に来た。
川辺に着いた途端空気はガラッと変わった。
変な嗅いだ事のない悪臭。
俺はその臭いを辿り悪臭の元を見た。
俺は膝から崩れ落ちた。
信じられない光景。
否信じたくない光景を。
首を切り落とされた死体。
顔は大きな釘で壁に固定されておりそれは誰の顔か分からないものであった。
が俺は一瞬にして理解した。
加藤の遺体であると。
それを加藤と理解するのに寸分の時を要さなかった。
壁には血の様な紅い文字で、Answer is mouth for katoと描かれていた。
俺は無意識に打ち付けられた首に向かって歩を進める。
加藤の口を開き中にある四つ折りにされた写真らしき物を取り出した。
写真は計2枚。
俺はその内の一枚を開いた。
そこにはあいつらしき人物の顔が写っていた。
最期の1ピースの半分が今確かに頭に埋まった。
俺をとてつもない拒否反応が襲った。
最期の一枚を開くなと本能が必死に止めていた。
俺は震える指で最期の写真の一枚を開いた。
信じられなかった。
信じたくなかった。
知るんじゃなかった。
ああそうか。
加藤、父さん、母さん、萌結。
あんたらが俺を必死になって止める理由が分かった。
これなら全ての辻褄が合う。
加藤悪かったな。
お前は俺の性であいつの犠牲になってしまった。。
俺を必死に守ってくれたんだよな加藤お前は。
そして前田。
お前はそんなに俺が恨めしいのか?
そうだよな。
当然だ。
俺はお前を酷く虐めたな。
お前を全裸にして教室に行かせ親を泣かせた。
その後お前が酷いいじめを受けたのを知って母親は自殺をした。
母親の最期の言葉はごめんねだったんだろ?
ごめんな前田。
俺が悪かったよ。
俺はとんでもないクズだ。
写真には痣や血塗れで全裸にされ陰囊を潰された前田であった。
俺に近付く足音。
俺は振り返り笑顔でこう言った。
ごめんな
鳴り響くサイレンの音。
警察はその光景を見て言葉を無くした。
そこには陰囊を切り落とされ口に詰められた遺体と壁に打ち付けられた頭。
正に地獄であった。
後にこの事件は歴史に深く刻まれた。
犯人はその後自ら自主しその後死刑判決を下された。
12人の殺害によって。
その後とある事件関係者の家族が家を燃やし一家心中を図ってしまったそうだ。
虐めをしたものに待つのは後悔のみ。
それはとても重く鋭い。
それは己を殺す凶器と化してしまう。
後悔をしない様に誠実に生きる事。
それが人の正しい在り方だ。
仲間がピンチの時は助け自分がピンチの時は仲間に助けて貰う。
それが一番平和だ。
恨みを買えば誰も助けて等はくれない。
それが人の世の摂理だ。
俺は次はもう少しまともに生きてみよう。
そうすれば誰も傷付きはしない。
俺は俺を知れて良かった。
後悔はない。
前田。
すまない。
そしてありがとう。
俺の過ちを思い出させてくれて。
俺は地獄できっちり苦しんでくるよ。
俺はあいつを思い出せて良かった。
俺は俺を知れて良かった。
俺はこれでやっと終われる。
次は誠実に生きてみるよ。
来世があるかは分からない。
だが来世がまた俺なら次はお前とは友達だ。
その時は一緒に笑って青春を謳歌しよう。
またな。俺。そして前田。
最期までお読み頂き感謝です( ̄▽ ̄;)
ストーリーを構築するのはやはり楽しい。
今回はあまり伏線を貼れませんでしたが一応満足が行く形で物語を閉じれました。
やはり描いてて思うのが自分は長くストーリーを描くのが苦手なんだなと。
本当は一万文字目指すんですがどうしても短く終わってしまう…
直して行きたい所です。
最近は短編を描くのにハマっていますので暫くは短編しか描きませんがその内長編物も描く所存で御座います。
ではまた次回お会い出来ましたら光栄でございまする。