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これにて完結です。

最後までお付き合いくださいました読者の皆様、誠にありがとうございました。



「つまり……その……」

「はい……?」

「だから……私たちの、だな……」

「……私たちの?」

「えーと……、だから……相棒は相棒でも、だな。少し今とは形を変えて、今一歩踏み込んだもっと強固な揺るぎない関係の契約を……」

「強固な……揺るぎない、契約……、って?」


 歯切れの悪い物言いに、そろそろじりじりと焦れてきた頃。ファリアスが、何やらおもむろにごそごそとポケットの中を探り出した。


「つまり……こういうことだっ!!」


 ファリアスの手の中にあったのは、手のひらにすっぽりと収まるくらいの小さな箱。

 パカリと開いた中身を見て、リネットはしばし驚きに固まった。


「……!! これは……まさか……!?」


 明るい日差しを反射して、箱の中でキラリと光るもの。


「これを……君との新しい契約の証にぜひ受け取ってはもらえないかと思ってだな……」

「この指輪を……? それってもしかして、つまり……け……」


 ファリアスが指輪をつまみ上げ、リネットの前にそっと差し出した。


「リネット……!! どうかこの指輪を証として、私と生涯絶対に離れることのない唯一の相棒になってくれないかっ!? 私は君とこの先の人生を一緒に歩んでいきたいんだっ!!」

「ファリアス……様!?」


 思わぬ三度目の提案に、リネットの顔も真っ赤に色づいた。


「え……えええええっ!? で……でも……! 私……魔力なしだし……、バクだし……それに……」


 リネットの胸の音が、カチリ、と軽やかな音を立てた。

 同時に、心地よいリズムを刻んでカチカチと音楽を奏で出す。


「私が……ファリアス様と、結婚……。お父様とお母様みたいに、幸せな夫婦に……? 生涯絶対に離れない、唯一の相棒に……??」


 どうにももじもじとする気恥ずかしさと今ここで踊り出したい程の喜びが、胸にせり上がる。

 

 見つめ合うふたり。その間で輝くふたりの新しい契約の証となる指輪。

 それに今まさに指が届かんとした、その時だった。

 

「姉様ーっ! リネット姉様ーっ!! 遊びにきましたよっ」

「ディル!? えっ!? お父様、お母様も……なんでここにっ!?」


 なぜか遠くから元気いっぱいにかけてくる弟と仲良く手をつないで歩いてくる両親の姿を認め、リネットはぴょんっと勢いよく飛び上がった。


「はっはっはっはっ! 仕事も一段落ついたから、ちょっと湯にでも使って疲れた腰をあたためようかと思ってな。せっかくならお前が頑張っているところを見にきたんだが……。ん……? もしかして何か大事な話の邪魔をしたかい?」

「ふふっ! 私もドレス製作で随分目を酷使しましたからねぇ。肩こりが和らぐかと……。あら、ファリアス様ったら随分顔が赤いけど、風邪でも……?」

「僕は姉様とファリアス様に会いたくてきましたっ!! 僕もゆくゆくはここの仕事を手伝いたいしっ。そのために色々とお勉強させてもらおうと思って! だっていずれはファリアス様、リネット姉様と結婚するんでしょう?」


 その爆弾発言に指輪をつまんでいたファリアスの手がつるり、と滑った。


「あっ……!! 指輪がっ……!?」

「ええっっ!」

 

 さんさんと降り注ぐあたたかな陽の光に、指輪が宙を舞い一際美しくきらめいた。


「た……大変だっ! 指輪がどこかへ飛んでいったっ! 頼むっ。皆探してくれっ!! あれがないと、新しい契約が……!!」


 慌てふためき地面に這いつくばるファリアスに、その場にいた一同が顔を見合わせ事態をのみ込んだ。そして――。


「おいっ! そっちはどうだっ? あったか!? 草の間に隠れてるかもしれないからなっ。かき分けてよぅく探すんだぞっ?」

「わかってるよ。お父様! でもこんなに広くちゃどこを探したらいいのか……。リネット姉様とファリアス様の大事な指輪なのにっ……!!」

「大丈夫っ! 皆で一生懸命探せば、きっと見つかるわっ! あきらめちゃだめよっ!!」


 壇上では、フランツとミリーのウエディングがにぎやかに続く。


 その後ろでは、ミゲルとハルト、ココナもマダムロザリーも地面に這いつくばり指輪の大捜索がはじまった。騒ぎを聞きつけ、戻ってきたユイール家の面々までも。


 焦りをにじませ必死に消えた指輪を探すファリアスに、ふとリネットがささやいた。


「ファリアス様? そう言えば昨日ユリシアから手紙が届いたんです。レイナルドもユリシアも、ユリシアの妹さんも元気で仲良くやってるみたいですよ? それと、レイナルドからファリアス様に伝言があるって」


 指輪を探すファリアスの手が、ぴたりと止まった。


「レイナルドが……? 一体何だ……?」


「ふふっ! 『お前とバクの結婚式には、冷やかしついでに祝いにかけつけてやる。日取りが決まったら絶対に教えろよ』だそうですよ?」

「は……!?」

「……で、招待状はいつ頃出しますか? ファリアス様。私と結婚するんですよね? なら、急いだ方がいいかも。じゃないとここで結婚式を挙げたいって押しかけるお客さんたちで、あっという間に予約が埋まっちゃうかもしれませんからねっ!!」


 いたずらっぽくそう微笑んで片目をパチリとつむってみせれば、ファリアスの顔が再び青から一気に赤に変わった。


「それじゃあ……、受けてくれるのか……? 私と……その……この先もずっと人生をともにしてくれるんだな……? 結婚してくれるんだなっ??」


 はにかみながらコクリとうなずけば、ファリアスが歓喜に身を震わせた。そして。


「よかった……!! よしっ、となれば早速新しい契約書を作らねば……!! よぅしっ!!」

「え!? わざわざ契約書、作るんですかっ?? 婚姻届じゃだめなのっ??」

「ん? あー、まぁ……私と君とは契約からはじまった関係だからな! こうなったらきっちり契約書を交わすのも一興だろう!」

「ふふっ! そう……ですかね??」


 いかにもファリアスらしい答えに、リネットが大きく噴き出した。それにつられて、さらにファリアスも笑う。


 大事な指輪を失くしたはずなのに、なぜそんなに楽しそうなのか、と訝しむ皆をよそに、ふたりは新しい契約の締結に胸を弾ませた。


 が――。

 なんと、ふたりのウエディングが実現したのはそれから二年も先のことだった。


 バクの森でのウエディング事業は爆発的に当たった。それまでこれほどまでに広大な式場が他になかったせいもあるし、温泉宿泊施設つきという招待客にとってももってこいの施設だったせいもある。

 なんといっても、マダムのドレスが数年先まで予約でびっしりに埋まるほど人気が出たのだ。子ども用のとびきりかわいらしい衣装やお祝いプランも、もちろんのこと。


 それとともに夢バク相談所も、連日盛況となった。なぜか、結婚式を控え心が揺れ動く未来の新郎新婦たちが殺到したのだ。


 よってリネットもファリアスも、自分たちのウエディングなど考える暇などまったくないほどに忙殺されることとなったのだった。

 しかも、ふたりの未来に暗雲を呼ぶような新たな大問題まで発生したりして――。


 そんな紆余曲折を経て、ようやくふたりは新しい結婚という愛にあふれた契約関係に歩み出したのだった。

 その経緯は、また別の機会に――。



  〈 おしまい 〉


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