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「マダムロザリー!!」

「まったくお前はいつもいつも余計なことを……」


 相変わらずの水と油のふたりに、リネットが苦笑した。


「まぁまぁ、ふたりともここはひとつ和やかに……。ところでマダム、仕事はもう一段落したんですか? ドレスの問い合わせが殺到しててんてこ舞いだったって聞きましたけど?」


 ミリーのドレスは、招待客はもちろんバクの森に偶然居合わせた女性客たちの話題をさらった。


 試着はできるのか、製作にはどれくらいの費用と日数がかかるのか、どんなライナップがあるのかなどと、客たちが一斉にマダムのもとに押しかけたらしい。


「え? まだお客さんはちっとも途切れてないわよ? ふふっ! あんまりにも問い合わせが多くて疲れちゃったから、アニタに任せて逃げ出してきちゃったの。まさかこんなに人気になるなんて、自分の実力がこわいわぁ!」


 マダムがわざとらしくぶるりと体を震わせウインクしたのを見て、リネットは噴き出した。


「あのドレスも小物も本当に素敵だもの。無理ないわ! 私だって思わず憧れちゃうもの。ココナちゃんだって!」


 見ればココナもキラキラと目を輝かせて、マダムを憧れの眼差しで見つめていた。ここにきてマダムのファンがまたひとり、増えたようである。


 そしてマダムはマダムで。


「そうだわっ! 結婚式と言えばリングガール、リングボーイなんてのもいたわねっ。こうなったら小さな子用のドレスやタキシードも作ってみようかしらっ? カインも巻き込んでしまえばいいしっ」


 かわいらしいココナの姿に、また新しいアイディアを思いついたらしい。顔をぱぁっと輝かせやる気をみなぎらせるマダムに、ミゲルが名乗りを上げた。


「なら俺がモデルになってやるよっ! ココナと一緒にさっ。ふたりできれいな格好して模擬挙式でもすれば、いい宣伝になるだろっ。ほら、俺ここの宣伝担当だからさっ!! まかせといてくれよっ。なっ、ココナ!」

「うんっ!! ココナ、きれいなドレス着たいっ!! 花嫁さんのお手伝いもしてみたいっ!!」


 ノリノリのふたりの姿に、ファリアスがため息を吐き出した。


「一体いつの間に、ミゲルはバクの森の宣伝担当になったんだ……? リネットの相談所の宣伝がお前の担当じゃなかったか……?」


 言われてみれば、その通りである。


「ふふっ! まぁふたりのかわいさと元気のよさがあれば、宣伝効果は抜群ですしいいんじゃないですか? きっと子ども向けのお誕生日パーティとか何かのお祝いの席にも、バクの森が大人気になるかもしれませんよ?」

「ふむ……。それはそうだな」


 まんざらでもない顔で、ファリアスまでもが新たな事業の広がりに夢をはせはじめた。

 そんなにぎやかなやりとりを見ながら、リネットが満足げに息を吐き出した。


「いいですよねぇ。誰かの人生の幸せな瞬間に立ち会える仕事って……。とってもいい気分! 心の中がぽかぽかして、こっちまで幸せになるみたいで……」


 希望と少しの不安と、けれどそれをはるかに上回る喜びにあふれた人生の一ページ。

 そんなとっておきの瞬間にこうして立ち会えることは、きっとこの上ない幸せだ。


 しみじみとそうつぶやけば。


「ん……あぁ、そうだな。えーと、幸せな瞬間と言えば、実は私も君に大事な話があってだな……。一段落したらその話をしようとずっと思っていたんだが……」

「大事な話?」

「ほら、君は船の上で私に言っただろう? 『このまま相棒のままでいい』と……。そのことについてなんだが……」

「……?」


 言いにくそうにもごもごと口ごもりながら顔を赤らめるファリアスに、リネットが首を傾げた。


「ええ。言いましたけど……、それがどうかしましたか?」


 あの時とリネットの気持ちは何ら変わってはいない。

 ファリアスに恋をしている。それは紛れもなく事実だし正真正銘大好きだけれど、今の関係のままでも充分に幸せだ。


「そのことなんだが……。実はひとつとっておきの提案があるんだ! 私と君の未来に関する、とっておきの提案が……!!」


 その瞬間、リネットは思った。この話の流れには、どうも覚えがあるぞ――と。

 まさかという気持ちで、おそるおそるファリアスに問いかけた。


「もしかして……ファリアス様、また何か新しい契約を提案するつもりじゃあ……?? なんかこの感じ、覚えがあるんですけど……」


 一度目は、専属バクにならないかという契約だった。

 そして二度目は、バクの森に相談所を開設する代わりに自分の専属秘書兼相棒にならないか、と持ちかけられた。

 なら、三度目は――?


 そんな予感にそっとファリアスの顔をのぞき込めば――。



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