表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れぬ有能貴公子は、安眠保証付きのモフモフをご所望です!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
さらわれたバク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/72


「今日からリネットは眠る時以外は俺の部屋で一日を過ごすことにした。だからユリシア、お前は用がある時以外はもう部屋にこなくていい」


 レイナルドと共同戦線の密約を交わした日の午後、レイナルドはベイラとユリシアにそう通告した。当然のことながらその通告に、ベイラとユリシアは猛反発した。


「な……何を勝手なことを……! ラスコトール様がユリシアをあなたの世話係にと命じたのですよ? それを今になってこなくていいなどと……。しかもリネット様とはまだ婚約も正式に整ってはいないのです。なのに同じ部屋でそんなに長く過ごすなど……!」


 ベイラがこめかみに筋を浮かべながらそう反論するのを、レイナルドは淡々とした表情で見やった。


「……同じ部屋で過ごすと、何か問題でもあるのか? まさかこの両足で俺がリネットに何かするとでも?」


 ベッドの上に投げ出された両足にちらと視線をやり、レイナルドは冷ややかに笑った。


「それに、俺だって一応ここの主の息子なんだ。それくらいのわがままは許されていいだろう。リネットは俺の婚約者なんだ。リネットも俺との結婚を承諾してくれた。となれば、何の問題もないと思うが?」

「リネット様が……結婚を承諾……? それは本当なのですか? リネット様」


 ベイラの目には明らかに疑いの色が浮かんでいた。当然だ。つい数日前まで早く国に帰せだのこれはれっきとした犯罪だなどと大騒ぎしていた人間が、突如しおらしくレイナルドとの結婚を承諾しこの屋敷で監禁される人生を受け入れるとは思えないだろう。


 リネットはぐっとお腹に力を入れ、覚悟を決めた。


「私……レイナルド様の夢を食べるうちに気持ちが変わったんです……! あんまりにもレイナルド様がかわいそうで……あんな辛い夢を繰り返し見ているだなんて、とてもこのまま放っておけないと思ったんです! だから……夢食いの力を持って生まれた私なら、レイナルド様のこれからを少しは楽にしてあげられるって思って……!! それが私の天命だと思うんですっ」

「天命……? しかし……」


 ベイラはしばし考え込んだ。

 その目にまだ疑いが色濃くにじんでいるのを見てとったリネットは、すかさずレイナルドの手を取りぎゅっと握りしめた。


「私、レイナルド様のことを一日も早くもっと知りたいんです! お世話だっていずれは伴侶となる私が全部ひとりでできた方がいいに決まってるし、レイナルド様もそうしてほしいって!!」


 「そうですよねっ!」とレイナルドの顔を媚びた表情でのぞきみれば、なぜかレイナルドの耳が赤く染まった。けれどすぐに何度も大きくうなずいてみせたのだった。

 その様子を見て観念したのか、ベイラは嘆息すると。


「……いいでしょう。その代わり、食事はこれまで通り自室でとっていただきます」

「なぜですか? レイナルド様と一緒がいいです。家族ってそういうものでしょう? それとも何か一緒に食事をとってはいけない理由でも……?」


 リネットのその問いかけに、ベイラがぐっと言葉を詰まらせた。


(ふっふっふっふっ……。これからも私の食事に薬を盛る気満々ね。私が残さず薬を摂取したか自分の目でちゃんと確認したんだろうけど、そうはいかないんだから!)


 わざときょとんと間抜けな顔でベイラにもう一度「どうして? ベイラ」と問いかければ、ベイラの顔が悔しそうに歪んだ。


「くっ……。わ、わかりました……。では三度の食事もレイナルド様の部屋に運ばせることにいたします……」

「そう! ありがとう、ベイラ。これでレイナルド様と色々お話しながら、関係を深められるわ。なんていったって、これから長い人生を一緒に歩むんだもの。お互いのことをちゃんと知り合っておかなくては。ね? レイナルド様」


 こうしてこの日から、リネットとレイナルドの脱出計画ははじまったのだった。



 その翌日、リネットはとある疑問をレイナルドに投げかけた。


「あのふたりの休み? 言われてみれば、少なくともベイラが休んでいるのは見たことがないな。あぁ、だがユリシアなら確か第二と第四木曜の午後は休みなはずだ」

「となるとあのふたりがいない隙にお屋敷を逃げ出すのは難しいそうですね……。せめてあのふたりとラスコトールが同時に屋敷を空ける機会がないと脱出なんてとても……」

「うーむ……。確かにな……」


 ラスコトールは仕事でしょっちゅう屋敷を留守にするからいいとして、問題は常に自分たちを監視するために張り付いているベイラとユリシアの存在だった。この屋敷にはその他に使用人はいないし、そのふたりさえ外に追い出してしまえばもしかしたらと思ったのだが。現実はそうは甘くないらしい。


「うーん……。ベイラはラスコトールと一緒に屋敷を離れることもそれなりにあるが、ユリシアか……。そうだ! ユリシアなら、多分その半休の日に山の上にある療養所に行っているはずだ」


 そう言ってレイナルドは窓の外に見える山の上を指さした。


「療養所……?」

「あぁ。詳しいことは知らないが、以前何度かこの窓からあの道を上っていくのを見たことがある。戻ってきた後、体から消毒液の匂いがしていたから間違いないだろう」

「ふむ……」


 言われてみれば、リネットはベイラとユリシアのことを何も知らない。知っているのはなぜかラスコトールに異常なまでに忠実で、その命のためならば犯罪もいとわないということだけ。けれどあらためて思い返してみると、ベイラのラスコトールに対する態度とユリシアのそれは少し違うような気もする。


(なんていうか……、ユリシアはラスコトールに対して忠実っていうより、ベイラにべったりって感じがするんだよね……?? もしかしてユリシアとベイラって何か特別な関係でもあるのかしら……?)


 なぜかそこに大切なヒントが隠されているような気がしてならなかった。


「敵に勝つにはまず相手を知らないと、ですよね! だったら……」


 翌朝、リネットは朝食を運んできたユリシアにとある頼みごとを持ちかけた。


「実は、あなたに町で買ってきてもらいたいものがあるの。でもできたらあなたの目でちゃんと品質を確かめた上で、できるだけ早く。……もしあなたのお休みが近いのなら、ぜひお願いしたいんだけど」


 レイナルドに少しでもきれいな自分を見てもらいたいから、今人気の口紅の中から自分に似合いそうな淡い色合いのものを買ってきて、と頼んだのだ。

 今日は第二木曜日の朝。もし今日が本当にユリシアの半休日なら、きっと午後に買いに出かけるに違いない。毎回必ず療養所に行くと決めているのなら、きっとその前後にあの山道を登る姿が見られるはず。


「……ベイラはあんまりお化粧には詳しくなさそうだし、私と年の近いあなたの方が適任だと思って。だめ?」


 愛想よくにっこりと微笑んでみせれば、渋々とユリシアはうなずいた。


「……では、本日の午後に買ってまいります。木曜の午後が私のお休みですので……」

「ありがとう、ユリシア! 助かるわっ。あ、それとなんだか恥ずかしいからこのことはベイラやラスコトール様には内緒にしておいてね? ふふっ」


 まんまと計画がうまく運んだことに内心ほくそ笑み、リネットはレイナルドふたり窓の外を観察していると。


「あっ!! 見てくださいっ。ユリシアがあそこにっ」


 おそらく町で口紅を買い求めた後なのだろう。小さな紙袋を下げたユリシアが、山道を上っていくのが見えた。


「ふむ。せっかく町に出たのにこうして向かっているってことは、療養院に入院しているのはユリシアにとって大事な者のようだな。家族とかもしくは恋人とか……」

「ですね! そんなに大事な人があそこにいるのなら、『病状が変わったからすぐに会いにくるように』とか偽の情報を伝えて屋敷からおびき出すこともできるかもしれませんね……」

「なるほど! それはいい案だ。まぁ、詳しい情報を手に入れるのも療養院からどうやって屋敷に連絡するかも今のところとんと見当もつかないが……」

「……。ま、まぁ細かいことは後々考えるとして……! これで少しは敵の目をかいくぐる可能性も出てきましたねっ」


 それから一時間ほどして山を下りてきたユリシアは、頼んだ口紅を私に部屋にやってきた。


「こちらでよろしいでしょうか?」


 その手の中にある口紅を満足げな表情で受け取ったリネットは、わざとらしく鼻をひくつかせた。


「あら……? ユリシア、あなたもしかしてけがでもしているの? なんだか消毒液の匂いがするけれど……」

「いいえ、町で買い物中に薬屋へも立ち寄りましたからそのせいでしょう。……では失礼します」


 そう言ってユリシアは仕事に戻っていった。

 

(やっぱり間違いないみたいね……あとは療養院にいる相手の病状とか名前とか、連絡手段なんかが調べられるといいんだけど……。うーん……)


 けれどその翌日、思いがけずその真相が明らかになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ