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【case .6】ぐるぐる迷路と恋心−4


 その日、リネットはフランツとともに夢の中にいた。

 フランツとともに壁を壊し続けて、早ひと月。何度壊しても再び出現する壁を、リネットはフランツとともに何度も何度も叩き壊し続けた。そしてついに最後の壁が目の前でガラガラと崩れ去るのを、リネットはフランツともに感慨深い気持ちで見つめていた。


――ついに……ついに夢から壁が消えた……。やりましたね……! フランツさんっ!


 目の前でガラガラと崩れ落ちた壁が、光の粒となって宙に浮かび上がり離散していく。それを呆然と見つめながら、リネットはかたわらのフランツに話しかけた。 


「はい……。僕、やりました……。変われました……。ありがとう……、リネットさん。あなたの助けのおかげで、僕は強くなれた……。ありがとう……本当に」


 そう言って微笑んだフランツの顔は、自信に輝いていた。もう仕事で誰かに手柄を奪われることもない、父親に何も言えず萎縮して落ち込むこともない。自分の心のままに、自分の足で力強く歩いていける。

 あとフランツに足りないものと言えば――。



『フランツからミリーへ

 ミリー、君に会いたい。会ってもう一度、プロポーズのやり直しをさせてほしい。

 バクの森でいつまでも君を待っています。 フランツ』

 

 ミリーにあてた新聞広告が掲載されて一週間たっても十日が過ぎても、ミリーからの反応はなかった。けれどついに二週間たったその日、運命の時はやってきたのだった。


「いよいよ明日……ですね! もうミリーさんからは連絡がないものとあきらめかけていましたけど、まさかここにきて『明日バクの森に行きます』なんて……。よかったですね! フランツさん……!!」


 一度は振られているのだから、正直再プロポーズが成功する確率は低い。けれどフランツは、希望を捨ててはいなかった。


「はいっ!! まずは第一歩です! ミリーにもしまだ他に好きな男がいなくて、わずかでもチャンスをくれるなら僕は……僕は死ぬ気で頑張るつもりです。ミリーを人生を賭けて幸せにしたい。どんなことからも全力で守れる男でありたい……。そしてふたりで人生を一緒に歩いていきたいんです! だから明日はその思いの丈を正直に、まっすぐにぶつけようと思いますっ!!」


 そう言い切ったフランツは、はじめて会った時のフランツとはまるで別人だった。自分の弱さや不安と真正面から向き合い、そして見事に乗り越えたのだ。そんなフランツを、リネットは頼もしげに見やった。


「頑張ってくださいっ! バクの森で働く者として、私もスタッフも皆全面的にパックアップしますっ。だから精一杯ミリーさんと向き合って再プロポーズ、頑張ってきてくださいっ。健闘を祈りますっ!!」


 そう励まし、送り出したのだった。


 翌日、ミリーは約束通りバクの森に現れた。そして戸惑いながらもバク型の大きなバルーンの中にフランツとともに乗り込んだ。


 ふわり……。


 風に乗って浮かび上がるバルーンにふたりを乗せ、いよいよ再プロポーズ大作戦はついにはじまったのだった。


「……どうだ? 首尾は」


 様子を見にきたファリアスに、リネットはゆるゆると首を横に振った。


「ここからでは話の様子までは聞こえないので……。うまくいったらフランツさんが合図を送ってくれる予定にはなってるんですけど……」


 これからウエディング事業を華々しくスタートさせようと考えていた矢先の、フランツの再プロポーズ劇。これがもしうまくいけば、今後のバクの森にとってもいい起爆剤になる。なんならフランツとミリーがバクの森ウエディングの第一号のカップルとなる可能性だってあるのだ。

 けれど、こちらが無理にけしかけるような真似は絶対にしたくない。フランツが真剣にミリーを愛しているからこそ、見守る側も真摯でいたい。リネットもファリアスもそう思っていた。


 リネットたちが不安げな表情で見守る中、バク型バルーンは空をぷかぷかと漂っていた。そしてじりじりと時間は過ぎていき、下で見守るリネットたちの顔に焦りが浮かびはじめた頃。


「あっ……!! 見てくださいっ。ファリアス様っ、バルーンの中から合図がっ!!」


 見れば上空から大きく手を振るフランツとミリーの姿があった。そしてバルーンの下方から、一斉に紙吹雪が舞い落ちはじめたのだった。


「ねぇっ!! あれ見てっ? あのバルーンから何か垂れ幕みたいなのが……。ええと、なになに……? 『再プロポーズ大成功!! 僕たち、結婚しますっ』??」


 空からひらひらと降ってくる紙吹雪と垂れ幕に書かれていた内容に、バクの森を訪れていた客たちが歓声と驚きの声を上げた。


「プロポーズですって!! 素敵っ。……ん? でも再がつくってことは……もしかして一度失敗してるってこと??」

「再だろうが再々だろうが、プロポーズなんて素敵っ! しかもあんなバルーンの中でプロポーズだなんて、憧れちゃうっ!!」

「いやぁ、最近の若者たちはやることが派手じゃのう! はっはっはっはっ。若いとはうらやましい」

「これも「あのバルーンで大好きな人と町を見下ろすなんて……、すごくロマンチックだわ。私もいつか誰かとあれに乗ってプロポーズを……」

「本当ねぇ……。いいなぁ……」もしかしてバクの森のウエディングの宣伝かしら……? それとも本物……??」


 その光景に、リネットも思わず歓喜の声を上げ飛び上がった。


「きゃああああっ!! やったっ、やりましたっ! ファリアス様っ、フランツさんやりましたよっ。ミリーさんがプロポーズを承諾してくれたみたいですっ」


 興奮のあまりファリアスの手をぶんぶんと大きく振り回せば、ファリアスが苦笑いを浮かべ空を見上げた。


「一時はどうなることかとハラハラしたが、ついにやったなっ! これでバクの森のウエディング第一号のカップルは彼らに決まりだっ。バクの森のウエディング事業のいい宣伝になるし、ふたりのウエディングパーティはとびっきり華やかに取り仕切るぞっ!! リネット」

「はいっ!! もちろんですっ。うんと素敵な門出にしましょうねっ。ファリアス様っ!!」


 上空から舞い落ちる紙吹雪と、バクの森に響く祝福の歓声。

 バク型バルーンをうらやましそうに見上げる人たちを見やり、リネットとファリアスは顔を見合わせくすりと笑った。


「さぁ、忙しくなるぞ……! もしかすると国中……いや、隣国にまで評判が届くくらいすごい挙式プランを考えないとな。バルーンもきっと話題になるだろうからさっそくそのプランも……」


 嬉々として事業の構想を練りはじめたファリアスを横目で見ながら、リネットは心から願った。

 いつか自分も堂々とファリアスに自分の恋心を伝えたい。そしていつか叶うなら、その隣に立ちたい。自分には人並みの魔力もないしこれといって目立つ取り柄もないけれど、ファリアスへの思いだけはフランツにも負けない自信がある。だからいつかきっと――。


 そんな決意を固め、リネットは空をぷかぷかと気持ちよさそうに漂うバルーンを笑顔で見上げるのだった。

 けれどそんな決意を打ち壊すようなとんでもない事態が、じわじわとリネットに近づいていたのだった。


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