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眠れぬ有能貴公子は、安眠保証付きのモフモフをご所望です!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
そしてはじまる新しい物語

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【case .4】未亡人の自分探し−2


 数日後、リネットはバルデットとともに片道五時間もかけて遠く離れた山へと向かった。


「さぁ、着いたわよっ! うーん……! 緑のいい香りねぇっ。お天気も上々だし、やっぱり山はいいわねぇ!!」


 バルデットは高く澄み渡った空を見上げ、快活に笑った。


「さぁっ、じゃあ日が暮れないうちにさっそく登りましょっ! 行くわよ、リネットさんっ」

「は、はいっ!」


 意気揚々と足場の悪い山道を軽い足取りで登っていくバルデットの後ろを、リネットは必死でついていく。バルデットが山登りに必要な靴や服まですべて用意してくれたこともあって、装備は万端だ。けれど町で使う筋肉と山登りで使う筋肉はどうやら違うらしい。

 体力には自信のあるリネットだったが、ようやく中腹にたどり着いた頃にはヘロヘロだった。


「まぁ、若いのにだらしないわねぇ。もっと足を上げて歩かないとかえって疲れるわよ? ほら、もうちょっとで開けたところに出るわ。そうしたら休憩にしましょ! それまでもうひと踏ん張りよっ」

「は……はいぃぃぃぃ……」


 バルデットにはっぱをかけられ、息を切らせながらなんとかくねくねと曲がる山道を登っていくと。


「わぁぁぁ……!! きれい……!」


 目の前に突然現れた一面の花畑に、リネットは言葉を失った。清楚ながらどこか凛としたその花たちに、思わず疲れも忘れ見惚れる。


「きれいねぇ……。やっぱりきてよかったわ……」


 しみじみとつぶやいたバルデットは、一面に広がる花たちと大空を気持ちよさそうに舞う鳥を見つめ小さく笑った。


「私ね……、子どもの頃からずっと自由になりたかったの。鳥みたいに自由に羽ばたいて、のびのびと生きたいってそう思っていたわ。でも両親は私にごく普通の平凡な人生を送ることを望んだの。それが私、ずっと嫌だった……」

「バルデット夫人……」

「結婚して子どもを産んだらきっと幸せになれるかもって、少しは期待したわ……。でも結局子どもにも恵まれなくて、気がついたらひとりきり……」


 そうつぶやいたバルデットの横顔はとても寂しげだった。本当に結婚生活は不幸せだったのだろうかと首を傾げたくなるくらいに。けれどすぐに顔をくっと上げると、笑みを浮かべリネットを見やった。


「さぁっ! ここで少しだけ水分補給をしたら、またすぐに山頂目指して歩きだすわよっ!」

「ええっ!? も、もう……?」


 その後も歩き続けること一時間、ついにリネットは音を上げた。


「バル……デッド……夫人……! ちょっと……休憩……しま、せん……か? 私もう……」


 ぜいぜいと息を吐きながら先を行くバルデットに、そう声をかければ。


「また? まったく若いのにだらしないわねぇ……。ま、いいわ。じゃあちょっと早いけど、この辺りで昼食にしましょうか!」


 そう言ってバルデットはリュックから布にくるまれた包みを取り出した。

 中にはくるみが練り込まれたこんがりと焼けたパンに、新鮮な野菜と今にも肉汁が滴り落ちそうな薄切り肉、そこにチーズをたっぷり挟んだサンドイッチがどっさり入っていた。


「ふふっ。おいしそうでしょ? これ、私の自慢のサンドイッチなの。夫がよく言ってたわ。私の作るサンドイッチが世界で一番おいしいから、これだけは私が作ったものじゃないとって……」


 バルデットの頬が一瞬ふわりと緩み、そして寂しそうに陰った。


(バルデット夫人……、もしかして夫人はご主人のこと本当は……)

「……さ! たっぷり作ってきたからじゃんじゃん食べてちょうだいっ。そして山頂までどんどん登るわよっ!」

「は……はい! では、遠慮なく……いただきますっ!!」


 バルデットの自慢通り、サンドイッチはとてもおいしかった。おかげで元気を取り戻したリネットは、再びバルデットとともに山頂へと再び歩き出したのだった。そして――。


「うわぁ……!!」


 目の前の雄大な景色にリネットは歓声を上げた。青い空に山の稜線が美しく四方に広がるその光景はまるで神々しいまでの美しさで、眼下に見える町がまるでミニチュアのようだ。


「バルデットさんっ! すごいですねっ。私、こんな景色生まれてはじめて見ましたっ」


 感動のあまり目を潤ませながらそう声をかければ、バルデットの頬を一筋の涙が伝っていた。


「私、ついに若い時の夢を叶えたのね……。本当にきれい……。きてよかったわ」

「バルデット夫人……」

「こんなに素晴らしいならもっと早くに挑戦してみたらよかったわ……。でももしかしたら本当は、やろうと思えばいつだってできたのかも……。私があきらめていただけで……。いつだって手を伸ばせば、すぐ近くにあったのかもしれないわね……」


 その言葉の意味はよくわからなかったけれど、そうつぶやいたバルデットはとても穏やかできれいな笑みを浮かべていた。



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