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アイス……愛する…ル?

作者: 企画開発部


 私は、推しのブログを毎日確認している。いわゆる推し活をしている女子大生だ。

 尊い私の推しは、夏にアイスを堪能しているらしかった。毎日、毎日……違う味のアイスと共に推しの笑顔がアップされている。

 だが、しかし!私は言いたい!!

「ここは、田舎なんじゃーーーーーーーっ」

 つもるところ、東京に住んでいる推しの食べいてるアイスが、私の地元のスーパーには売られていないのである。

『あ、これはコンビニ限定だよ★』

 とか、言われてもコンビニまで徒歩30分以上かかるのである。そして、たどり着いたところで、推しと同じアイスはもちろん売っていない……。

 ライブツアーもお金がなくて回れない、グッズすら全部買えない私に、せめて推しと同じアイスを食べさせてくれたっていいじゃないか………。なにより、それに類似するような商品さえ、ない。

「………ない。ない!ない!!!」

 私は、地団駄レベル50を習得してしまいそうな勢いだ。

 しかも、よりによって見つかったところで、推しが食べているのは、日本で1番高いアイス。

「わーーーん!なんで、なんでっなんで!!」

「お客さん…スーパーの棚を荒らすのやめてもらっていいですか?」

 そこに、幼馴染がスーパーの制服を着てやってきた。

「お前は何をしてるんだよ」

「コレ!コレ入荷させて!!」

 私は、スマホのブログの写真を幼馴染の顔に押し付けた。

「見えねぇって…………これは、入荷した」

「え?!じゃ、なんでないの!!」

 まさか、まさか、ファンの人がこぞって全て買ってしまった後だったのか?!?!

「これは……たしか、4月限定の味のはず」

「へ?!」

 いまは、真夏の7月である。

「そんな、3ヶ月も前の商品なんて、どこいっても売ってねぇよ」

「そ、そんなぁ………じゃ、なんでブログ7月にアップしてるの……………バカなの?」

 私は、スーパーの床に膝から崩れ落ちた。

「小売業に優しい芸能人なんだろうな」

「なに、言ってるの…?」

 床にヘタレこんだ私が顔だけを上に上げた。

「スーパーの人員は限られている。人気の芸能人が「コレ、ここで買えます!」のたびに、品物が棚からなくなり、「アレ置いてないんですか?」、「いますぐ出してください」の押収…お前ら消費者は俺等の気持ちを考えたことあんのか?」

「誰のおかげで賃金もらってると思ってるの?」

 幼馴染の冷たい反応に腹が立った私は立ち上がりながら胸ぐらを掴んだ。

「給料を払ってるのは店長であって、お前じゃない。目当てのものがなかったなら、帰りな?」

「ふんだ」

 私は、何も買わずにスーパーを後にした。


 自転車を使って、アイスが売られていそうなドラッグストアを回りたいけれど…そもそも、私は自転車に乗れないし…。

「うーん…………」

 3ヶ月前くらいなら、あまり商品が売れない店舗になら、まだ商品が残っていそうな気さえするのに、どうしても見つけることがかなわなかった。なんて、なんて絶望なの………。

 昔、推しのラジオで私が送ったハガキが一度だけ読まれたことがあって、寒い季節に自動販売機の『キャラメルミルクティーがオススメです!だってー今度、見つけたら飲んでみるねぇ』って、言ってもらえたけれど、こんなに地域差があるのだとしたら、向こうも同じ商品を手にするというのは、案外簡単ではなかったのかもしれない。

 私は、押しと同じ気持ちになりたくて、その年はずっとキャラメルミルクティーの缶を飲んでいた時期があったりした事が懐かしい。

 相手にとってみれば、私なんかたくさんのファンの中の1人………でしかないのに…。名前も顔も覚えられていない、ただの一般人なんだもんね。

 気持ちが届かないことが悲しいなんて思ったことはない。だって、相手が私を認知する日なんて、そもそも無いんだから。


「こんにちは、お邪魔します」

 どうやら、スーパーのバイトを終わった幼馴染が、私の家にやってきたようだ。

 階段をのぼるトントントンという足音が聞こえてきたかと思うと、ノックもせずに私の部屋を開けた。無遠慮な生き物がよ。

「結局、なにも買わずに帰っただろ」

「帰れって言ったのは、そっちでしょ」

 なんで、いきなりの喧嘩腰?と言いたげな顔をされる。

「ほれ、来月から発売される新作」

 そこには、まだ店頭に出回っていないアイスを透明な袋にぶら下げてきていた。

「私が欲しいのはソレじゃないもん」

「お前ってほんと(可愛げない女だな」

 私の机に二つのアイスが並ぶ。どっちを選ぶんだと言いたげな幼馴染に負けて、私は片方を選んだ。

「………贅沢ぶどう」

「いま、世間はジェラートが流行ってるらしいぞ」

 でも、私が食べたいのはコレじゃないんだっ

「好きな相手が、早めにブログに載せてくれないんだとするなら、こっちが新作を先に食べればいいんじゃね?」

「なに言ってるの?相手が食べるかどうかも分からないのに、そんなギャンブルみたいな事出来るわけないでしょ…」

 パッケージを開けて一口食べる。

「…すっぱい」

 推しと同じアイスが食べられないだけなのに、私は涙が出てきてしまった。

「おい、コッチと取り替えるか?」

 幼馴染がピスタチオクリームのアイスを差し出す。たしかに、どちらも女子が好きそうな味だ。

「…………………いい」

 相手の提案を断った。

「お前、こないだから何やってんだ?夜中に毎晩電気つきっぱなしで」

「謎解き…」

「は?」

 幼馴染は、隣の家に住んでいて、勉強机の窓をはさんで、向こう側が幼馴染の部屋なのだ。

「最近、推しとクイズ番組のタイアップで謎解きの問題が解けなくて……」

「貸してみろよ」

「いい!いいの!私が解くのっ!」

 幼馴染が机の上の紙を覗こうとするので、サッと後ろ手に隠した。

「なんでもいいけど、ちゃんと寝ろよ」

 きっと幼馴染は、私の生活が推しで埋められていることに呆れ果てているのだろう。

「うん…………アイス、ありがと」

 幼馴染が持ってきたアイスは、あっという間になくなってしまった。ご丁寧にも、それを片付けながら幼馴染は自分の家に帰っていった。


 私の推し活は終わらない。

 永遠の片想いは、永遠に私の生命を繋いでくれる。推しが生きてさえいてくれれば、私も明日を生きられる。ただ、それだけなんだ。




 


「おい、お前の推しが俺の大学の文化祭に来ることになったぞ」

「え、何それ……憎い。死んで…」

「いやいや、お前も俺の大学来ればいいだろ」

「え、何それ!天才かっ!!!」

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