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実は女だった系変身ヒロイン幼馴染vsあさおん系魔法少女幼馴染vs何も知らない俺

記憶の中で、最初に思い出せる子供のころの夢は、正義の味方だった。

毎日のようにつるんで遊んでいた3人組。周りには「ゆゆゆ」なんて呼ばれもして、仲のいい幼馴染として評判だった俺たちは、よく戦隊ヒーローものや仮面をかぶったヒーローもののごっこ遊びや話を飽きもせずに繰り返していた。


――そんな幼少時代も月日が流れ。


「お前……女だったのか……?」

 曰く、男だと思っていた幼馴染と3年ぶりに再会すれば、女だと発覚し。

「お前……女っぽくなってね……?」

 曰く、昨日まで多少女々しくも確実に男だった幼馴染が女になって現れた。

 それだけでも卒倒しそうな程に狂った状態なのに、彼女(?)達にはまだ秘密があるようで……



 これは、そんな俺たちの、高校デビューの物語。

 高校生。

 青春という単語を聞いて、真っ先に思い浮かべる年代。色恋沙汰にも興味が生まれている年頃。晴れ晴れしい高校時代の、始まりの日。つまり、今日が入学式。

 そんな多感な日に、声をかけてきたのは端的に言えば美少女。同じ高校だろう。自分の男性用の制服と所々意匠を同じくした、ブレザータイプの制服を身にまとい、肩口で切りそろえられた烏の濡れ羽色と称して差し支えない程の目を引くあでやかな黒髪、少し気の強そうな顔立ちだが、中学卒業したてのあどけなさを含んだ、10人に聞けば10人が可愛いと評価するであろう美少女。

 そんな見知らぬ美少女が、中学時代に彼女なんか一人もできなかった平凡以下の自分に声をかける理由が見つからず固まっていると、彼女は慣れ親しんだ友人と話すように言葉を続けてくる。


「久しぶり。3年ぶりだね、ユージ」

「…………?え、俺?呼ばれた?……ごめん、キミダレ?」

「な、はぁ!?こ、この、薄情もの……!3年ぶり程度で幼馴染の顔を忘れるなんて!!!」


 目の前の美少女は、心底心外、といった様子で憤慨しだす。美少女は怒っていても可愛いななんてことを頭の片隅で思いながら、それ以外の脳の容量全てをフル動員して思考をめぐらす。ユージと自分の名前を呼ばれたからには、知り合いで間違いない。しかし、彼女は、自分の事を俺の幼馴染と称した。


 はて。俺に幼馴染と呼べる人間は2人しかいない。

 一人はユーキ。優希。喧嘩が弱っちいくせに人一倍正義感が強く上級生や大人相手でも、物おじせず自分が正しいと思ったら突っかかる性格だ。小学校卒業と同時に引っ越してしまい、高校入学を機にこちらに戻ってくるらしく、久々に会えるのを楽しみにしていたところだ。

 もう一人はユート。由斗。大人しい文系&草食系男子の極みといった様子の性格で、中学時代はもっぱらコイツと一緒に居た。3年間同じクラスで今日も一緒に入学式へ行こうと待っていたところだ。


「いや、普通にユーキだよ。思ってる事が口に出る悪癖、治ってないね」


 ユーキにもユートにも治せ治せと言われているが、癖ってのはなかなか治るものじゃないんだ。いや、そんなことよりも。

 自らをユーキだと名乗った美少女。いやいやそんな筈がない。だってアイツは男のはず……いや、確認したことはないが、いっつも短パンでスカートなんか履いてることなかったし、髪はベリーショートヘアーで女っぽさなんて欠片もなかった。一人称は「僕」とか「俺」だったし。確かに中性的な顔立ちをしていたが、いや、まさかそんな。

 眼前の美少女と、記憶の中のユーキを比べてみる。


 顔立ち。確かに似ている。小学生のユーキに姉が居ると言われたら即座に納得する。だがあいつは一人っ子だった。

 雰囲気や仕草。全然似てない。アイツは普通に男っぽい立ち住まいだった。目の前の少女は、まだあどけなさを含んでるといえ女性らしい立ち住まいだ。

 半信半疑、という表情をしていると、深いため息をつきながら彼女は


「何で疑うのか全ッッくわかんないけど、だったらここで隣のお姉さん事件の真相でも話して……」

「スミマセンデシタッッッ!!!!」


 危うく往来の真ん中で土下座をするところだった。やめろ、その言葉を発するな。黒歴史なんだ。言いふらさないって約束したじゃないか。

 しかし、隣のお姉さん事件の真相を知っているのはユーキとユートだけだ。つまりは……


「ユーキ、お前……女だったのか……?」

「うそでしょ」


 美少女の絶望顔に僅かに嗜虐心が沸くが、それ以上にいままで男だと思っていた幼馴染が女だったという事実を受け入れられないでいた。


「え、うそでしょ!?男だと思ってたの?いや、確かに男子っぽい事してたし、女扱いされたくないから多少は意識してたけど、気を効かせてくれたんじゃなくて、男だと思ってたの??」

「いや、それは、その」


 詰め寄るユーキ。怒りはごもっともだ。何年も男だと思っていたってのは失礼すぎる。いや、なんで気付かなかったんだ俺。あと美人って怒ると怖いんだな……


「ゆ、ユージ、おはよ……」


 その声は我が友ユート。いいタイミングだ。いや、ここを乗り越えても誤差かもしれないが、一瞬だけ誤魔化せる。ただ、お前もともと声高い方だった気がするけどいつも以上に高くね?と思いながら振り返った瞬間、その姿を見て固まる。


「えーーーーと、何から説明すればいいか分からないけど……」


 目の前に居たのは現在のユーキに負けず劣らずの美少女。いや、ベースは間違いなくユートなんだが、どこからどうみても女の子だ。多少は女顔だったといえ、ちゃんと男だったかんばせは、だれがどう見ても少女のそれになっており、短かった銀髪は、今のユーキより長く、自分たちと同じブレザー型の制服はしっかりと女性用のものでスカートからはすね毛の全くない綺麗な足が覗いている。そして胸元は、ブレザー越しでも小さくない主張をし、その卸したての制服を押し上げている。


「お前……女っぽくなってね……?」

「うそでしょ」


 俺と同じくユーキも現実を受け入れれてない様子でなんとかその言葉を絞り出した。


「ドウシタ。女装にでも目覚めたか……?」


 趣味は尊重するぞ。そんな趣味があることは10年弱の付き合いで全く知らなかったが、今まさにユーキを女だと気付かなかった数年を考え、自信はゼロだ。


「実は、朝起きたらこんな体になってて……」


 そんなことある??


「そんな……これも未確認生命体の仕業?本部に連絡しないと……」


 となりでいち早く正気にかえったユーキがブツブツ言ってる気がするが、内容は全く頭に入ってこない。2、3日前まで一緒に居た幼馴染が、急に女になっている衝撃を受ければ、誰だってショックで固まりそうなる。

 

「ま、魔物だーーーー!!!!」


 叫び声が響き、続いて悲鳴が響き渡る。

――魔物。“ニュースや特番でよく見る“、よくわからない化け物達の総称。姿かたちも、生態もばらばらだが、ほぼ共通の認識として、あいつらは、人を襲う。


「ヤバイ、結構近いかもしれん。逃げるぞ二人とも!」


 色々受け入れれていないが、とりあえず命の危険にはかえられない。とにかくまずは安全を確保するために急いで逃げるぞ。


「う、うん」


何故か微妙に歯切れが悪い二人に気付かず、急いで声が上がった方と反対側に向かって走ろうとする、が。


「グルルルルルル」


 思ったより近かった、なんてもんじゃない。もう手遅れなほど近かった。どこから飛んできたのか分からない程の跳躍で、目の前に飛び降りた魔物と目が合ってしまう。

 異様な動物のような魔物は、低いうなり声をあげたまま俺から目を離さない。まばらに人がいる中でなぜ俺に目を付けたのかはわからない。運が悪かったとしか言いようがないが、事実として目の前の魔物は俺を獲物としてロックオンしていた。


「……ユーキ、ユート。先に逃げろ!」

「ちょっと、何言って……」

「バカ、さっさとしろ!女のお前らより、俺の方が足早いんだ!」

「――ちゃんと、逃げなさいよ!」

「……ユージ、待ってて」


 怒鳴り声で逃げるように叫ぶと、二人は決意したように走っていく。振り返る余裕はない。目を離したらどうなるかわからない。

 別に勝とうだなんて思っていない。逃げてるうちにヒーローなりなんなりが助けに来るのを待つだけだ。

 ジリジリと距離を取ろうとするが、相手もジリジリと距離を詰めてくる。背を向けた瞬間、とびかかってくるという確信が持てる。

 何秒、何分経っただろうか。ジリジリとした攻防は、カツンと俺の踵がけった石の音というわずかなきっかけで崩れ去る。

音に反応するかのようにとびかかってくる魔物。不意を突かれて一瞬動きが遅れた俺が慌てて走り出そうとした瞬間――


「アクセス、術式起動。――ライトニングストーム!」

「我は否定するもの。その命、我が前に立つが能わず。雲のように散り、霧のように消えよ!《Dissipate/雲散霧消》!」


 二人の少女の声。

 その言葉が聞こえた瞬間、走り抜ける稲妻と、化け物を覆いつくす霧。

 凡人の自分には、魔物が一瞬で黒焦げになった瞬間、風に飛ばされる塵のように散っていく様しか見えなかった。


――助かった。


 その事に気付いた瞬間、腰が抜け、ぺたりと座り込む。


「あ、ありが……」


 戦隊ヒーローか変身ヒロインか魔法少女か知らないが、助けてくれた相手の顔を拝もうと振り返ろうとした瞬間――


「ぐえっ」


 首元をトンってやるアレ、本当に気絶するんだな……刈り取られる瞬間の意識の片隅で僅かに聞こえた気がした言葉を、俺は覚える事なく意識を手放していった。




「……うそでしょ」

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[良い点] 男の子だと思ってた子が女の子だったというラブコメかな? と思っていたのですが、がっつりSFアクション系でいい意味で度肝を抜かれました。 男だと思っていた子が実は女の子だったという展開、大…
[良い点] 実は女だった、というのは想像していたのですが、あさおん系がわからずにどんな感じなんだろう?? と思っていました! そうしたら! まさかの朝になったら系だったのですね〜 そうか、だからあさお…
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