幼馴染が国家反逆罪に問われた件について
サランへには幼馴染が存在する。勇者として旅立って数年。彼女の名声を聞きながら、そのうちついていこうと、必死に鍛錬する日々だったのだが。そんな彼女は大犯罪者となり、サランへは無実を証明するための旅に出るのだが……
「サランへ、ちょっといろいろあって。事情は聞かないで……とりあえずこの紙に名前を書いてほしいの」
「おい、借用書じゃねえか。今度はどこのだれを助けようとしたんだよ。ほら、いってみなさい。おい、顔背けてないで言ってみろ!!」
「ご、ごめんなさい~~~」
なんやかんやで、彼女の罪を晴らすまで、進み続ける話である。
幼馴染のランシアが勇者として旅立って早一年。彼女が国家反逆罪に問われ逃亡中との知らせが入ってきた。
シンカク村の財政難が確定した、夏真っ盛りの出来事である。
もし、ランシアが村にやってきたら懸賞金を得ようと準備し、そして壊滅した後である。
「サランへ、おぬしが行動すればこの村の財政は潤う。助けると思って、な?どうじゃ?」
「すみません、心中をともにすると誓った幼馴染は裏切れません」
そして現在、勇者兼犯罪者の彼女を捕まえるため。最後の手段を試そうとしていた。
「もうあの子が勇者に選ばれて2年じゃ……お前にとっては変わらぬ鍛錬の日々でも、コノエは激動の日々。彼女自身も変わっとるかも知らんが……」
「大丈夫です。助けてって言われたら助けるのが俺の流儀です。彼女がどんな羽目になっても一緒にいますよ」
「最近わしの助けてコールはいつ断った?」
「ついさっき」
「このガキ……!!」
荒ぶる村長、そっと顔を逸らす彼。サランへは、勇者とは昔から親しい間柄であるため。こうして説得をしてくれてと言われている。
「とりあえず、現状あやつに対して、村を破壊することなく。出て行って貰うには、お前さんに説得してもらうしかない」
「仮に、仮になんですが……牢獄にぶち込んで罪の精算させるのがいいんじゃないんですか?」
サランへにとっては、この幼馴染の罪状の重さは理解できていない。言い分は何はどうあれ、「国家反逆罪」なのだ。
「いいか、この罪に問われるということは。有権者たちの派遣勇者たちが、ランシアを排除する大義名分を得た」
「排除って……魔王みたいに殺されるんです?」
「うむ、本来ならば魔王連邦が指定した世界の敵を排除するのが、勇者の役目。これに当てはまった以上は」
「陥れる策が走っているし、資金があるのでどうにもならないってことか……」
「権力者たちは彼女をどうにかして排除したいんじゃろう。しかもこれ幸いと、真偽はどうあれ不祥事とかいろいろおっかぶせておる」
対面に座るサランへに、長方形の用紙が差し出される。どれぐらい気合を入れて書かれたかは知らないが、かなり力が入れられており、彼女のもつ美貌が伝わってくる。
ここ数年で会っていなかったが。可愛さがさらに洗練された。間違いなく、ランシアの手配書。
そして、その下に複数枚重ねてある紙片が。罪状をまとめた紙だ。
国家反逆罪は当然として。ほかの罪状が、恋慕を抱く青年には直視しづらい文面で。
「国家遺跡の破壊、建築物破壊はまあアンシアのパワーなら納得しますけど……なんか男女の罪状も並んでいません?」
「そうじゃな」
「しかもいろんな権力者たちと関係を築いたような罪状が」
「女ってのは数年で変わるもんじゃな」
「……つまり?」
「サランへ以外の男と【ラブ】を築いた経験があるというわけじゃ」
脳みそが、揺らぐ。極度のストレス。感じたことのない喪失感と足元から立ち上る震え。
ラブ、それは愛。ラブ。それは物語の約束事。勇者であるランシアなら当たり前かもしれない。
だけど。サランへ以外との男と一緒にいるそれが。彼の心に衝撃波をまき散らかした。
「あ……?」
彼の頭の中にランシアとの思い出が駆け巡る。
この村の掟に従い、いつも一緒に修行していたあの日々。彼女が困っているとすぐに手を差し伸べて笑顔になるまで構ってあげた青春を。
勇者のように、困ってた村人を助けていた思い出。ひっそりと夜に二人で水浴びをして、共有した秘密だね。とクスクス笑いあった。淡い思い出。彼女が旅立ってもいつか追いつくと宣言して、心にランシアを思って邁進した年月。
そのすべてがゆらぎ。彼の脳は限界だった。限界ゆえの瀕死状態における、走馬灯。
簡単に言うと、ストレスフルMAX。
「あぎぁぁぁぁぴぃぃぃぃ……」
「しまった。壊れた!!!! 青年には厳しい現実じゃったか! しもうたのう。とりあえず、運ぶぞ!好都合じゃ!」
心も体もうつろなまま、彼は意識を失って、どこかへ運ばれていった。
●
この村には、日々の作業が終わると村人全員が集まる食堂がある。観光客が訪れるとそこが宿屋になり、味も休み心地も最高。ベスト・オブ・シンカクで選ばれるなら、ここしかない。
そんな村の中心地の建物にて、彼は。
「よし、おきるんじゃ。とりあえず中に奴はおる」
「ふえ……」
「駄目じゃ。幼児退行しておるな。しょうがない叩き込め」
「サーイエッサー」
村長の指示のもと、村人たちがサランへを食堂へと叩きこんだ。
「ぶべっ」
「……ぬ!?なに!?刺客!?」
扉を跳ねのける勢いで、入ってきた男に。中でただ一人食事をしていた少女が立ち上がる。
「ねえ、そんなへこたれた感じで。私を葬れるとおおもいd……あれ」
「あうあうあー……ん!?」
叩き込まれても治らなかったひ弱な心が、少女を視覚に入れると。彼の脳みそが起動する。
どのような疑念や失望があっても前の女を忘れないのが男。
「ら、ランシア……やっぱ死の間際にみるなら君の美貌だよ」
「ンっ……その言葉遣いといい。顔つき……よかったぁ。サランへ。久しぶり」
警戒色のある顔から力が抜ける。その少女は喜色を顔に浮かべながら。床に倒れたサランへに向かって手を伸ばす。
「え、マジでランシア? 俺のほくろの位置言える?」
「出会って数秒でこの返しか……懐かしいなぁ。鎖骨とお臍に一個ずつあるよね」
「ほ、ほんものだ……」
サランへは手を握り返し――脳裏に過去の経験がよぎる。
「その質問。私以外だったらすっごく失礼なんだから。もう、よいしょ……っと」
彼女が、この村で勇者に選ばれた要素として。神から授かった能力もあったが。
一番は、埒外の膂力であった。
「ああああぁぁぁぁランシアぁぁぁぁ!?」
「ぎゃああ、しまったぁぁきがぬけたぁぁ!!」
ランシアはおっちょこちょいである。
サランへの恋心がなかったら、まず近づかない。歩く人災で有名だった。
●
「いやぁごめん。気の抜けた落差っていうの?そういうのがドカッと来ちゃってさぁ」
「……俺、お前と心中する気満々でやってきたけど。意外と明るくていつも通りで安心したよ」
「いやぁ愛されガールはトラブルの花があるほうが似合うでしょ?」
「そりゃ似合うにきまってる……いや違う違う。このペースに飲まれてる場合じゃない」
「ほえ?」
ちゅるりと、スパゲッティの麺をすすり、顔にケチャップの斑点がついた女の言い分である。
サランへは昔のノリで全肯定しそうになるが、いやいや違うと頭を振る。
「なあランシア。この紙を見てくれこれにはおまえの罪状が書かれている」
「ンっ……グん。サランへ聞いちゃうそれ?」
「聞くに決まってる。死活問題だ」
「うーん……あ、この罪状に乗ってるこの人。トープス公国の王子様の口癖だよ。死活問題」
「ほかの男の名をだすなぁ!!」
ビキっと、サランへの勢いによって罅が入る机。その様子に驚いて、勢いよくはじけ飛ぶ彼女が持つコップ。力の差は歴然。その状況にちょっとイラっとするがとりあえず重要なことを聞く。
「なあランシア。この罪状。心当たり……あるか?」
「ん……おお全部いったことある国だし。全員と友達だよ?」
「……さよなら!!!」
「ちょ。サランへ君!?落ち着いて!!」
迷いなく逃げ出しそうになるサランへの手を。彼女が無理やり掴む。
手の痣が間違いなく残る会心の一撃である。
「大丈夫!友達だよ?勇者だからね。困った人を見つけて、そのたびに手伝ってただけだよ」
「ほんと?」
「うん」
「こう、裸と裸の付き合いは……」
「いや別にないなぁ」
「……よかったぁぁぁぁ」
幼馴染に身も心も破壊されそうだったがなんとか繋ぎ止められた。
「もう、そんな関係じゃないよ。君の真似して、必死に親身になって助けてたの」
「俺の真似?」
「うん、サランへの真似。ずっと君がこの村で助けてくれた思い出を参考に交流してたの」
「は?」
「どう?えらいでしょ」
渾身のどや顔を決める、ランシア。
ただ、言われたことが信じることができなかった。
あの、過去の行動を? 彼がやってきた過去の所業を思い出す。
とりあえず、助けて助けて。彼女に寄り添って助けていた。そこまでは勇者の真似事として、助けていた面が大きい。なんなら人助けを積極的にしていた。
ただ、思春期にもかかわらず。恥ずかしくも彼女をほめる単語なぞ、絵物語のセリフしかないのである。
つまり
「君の瞳がきれいだから、助けたんだよ。とか、私が言われてうれしかった事を言ってたよ」
「……い、いろんな人にそういって褒めてたすけてたの?」
「そうだよ、心の中を吐露する関係にはなったけど、君ほどときめいた記憶はなかったね」
そして何気に、うれしいことが判明した気がするが。新たな問題が浮上したことが発覚した。
「俺が、撒いた種って、こと……!?」
「はははまさかぁ。それより、私から提案があるんだけど。ちょっと聞いてく?」
「やばい、これは。相当やばいかも。ごめんとりあえずスグ好感度減らしたい……!!」
「もうしょうがないわね。サランへ、私の手を取って」
優しい顔で彼女はささやく。
「……私と一緒に逃避行しない? 大丈夫、完了した暁には世界平和がまってるから、ね? お願い……」
「いいけど……いいけどさぁ。俺が惚れてなかったら、お前これ、ぜったい断ってたからな!?」
こうして、逃避行はきまり。村長が通報するのは確定した。