旅で出会う人達は皆異常なのですよ
塔のお婆さんに挨拶を終えたシオウは、すぐに東へと向かった。
昨日会ったお婆さんの姿ではなくおじさんの姿になっていた事には驚いたが、起き抜けはむくみが酷くて人相が変わってしまうとの事なので、それなら仕方がないと納得した。
お年寄りも女の人って大変なんだなぁ。
勿論、そんな言葉に騙されているシオウにお姉さんが物凄いツッコミを入れていたが、気にしてはいけない。
ああ、それと出ていく旨を伝えたらお土産をくれた。
何でも勝負に勝っておいて何も差し出さないのはお婆さんのプライドが許さないとのことだ。
森苺パイと森クルミパイとミートパイとチーズパイ。そしてカボンのパイにパポリカやネンギなどのいっぱいのお野菜が入ったパイなどの、各種パイの詰め合わせを渡された。
パイ以外作れないのかと思うだろうし、無駄に嵩張るので邪魔でしかないと普通は思うだろうが、ことシオウの場合は金より食い物を貰えることを心から嬉しそうにしていた。
ただ、ミートパイはなんか嫌な感じがしたので、それだけは突き返している。
何の肉を使ったミートパイなのかは知らないが、それは食べちゃダメだと本能が感じ取ったらしい。
こういう変に野生の勘が働くのは流石一人で貧民区を生き抜いていただけのことはある。
「お姉ちゃん! あの山越えたら国境見えるかな!」
『流石にもうちょっと先じゃない? 帝国なんて言っているのだし、そこらの小国より領土広そうだもの』
「そっか~、遠いなぁ~・・・もぐもぐ」
お土産のクルミパイを齧りながら東へ向かう。
クルミパイはサクサクとしていて香ばしく、更には口の中の水分を奪っていくので移動しながら食べるにはちょっと不適切な食べ物だが、本人は気にも留めない。
喉が渇いたならば水を飲めばいいだけなのだから。
「もぐもぐもぐもぐ・・・・もむ?」
だが乾いた口に潤いを与えようと水袋を取り出すも、中身がかなり心もとない事に気が付いた。
チャポンチャポンとかなり軽い音が響く。
「ごっくん・・・・・お姉ちゃん。お水なくなってる」
『なくなってるではなく、飲んじゃったんでしょ。まったく少しは計画的に飲みなさいよね』
「だって~、パイを食べるとお口の中カラカラになるんだも~ん」
『なら水場に着くまで食べるのを我慢なさい。けど今更そんなこと言っても仕方がないわね。仕方ないわから水場を探すわよ』
「いえっさ~」
『それと次からはそんなにガブガブ水を飲まない事。わかった』
「いいえ・・・っさ~」
『なんだか否定的な返事してない?』
「い、いいえっさ~」
しらな~いと言いたげに空になりかけの水袋を煽りながら、そっぽを向く。
あからさまに嘘をついていることがわかりつつも、お姉さんはただため息を吐くだけにとどめた。
多分食に関しては何を言っても聞きそうにないからだ。
なんだろう。
食に関して貪欲であるため、本当に食べ物に毒でも混ぜられたら普通に死んでしまいそうで心配だ。
いかに野生の勘が働くと言っても絶対ではないのだから。
『これは少しでも早くクリッカーのステージをクリアして貰った方が良さそうね。高ステージに上がれば上がるほど、耐性が上がって毒水だって飲めるようになるのだから』
「おぉ!? 毒水! 美味しいかな!」
『重要なのはそこじゃないんだけどなぁ』
普通は嫌悪感を示すところだが、泥水を飲んでいた経験があるシオウにとってはむしろ飲める水が増えることは嬉しい事だった。
ちなみに泥水は美味しくなかったよ。
『全くこの子は・・・・ん? シオウ。誰かいるわ。ここからは心の中で話しなさい』
「う?・・・・・・『うん』」
お姉さんの忠告を受けて周囲を伺ってみれば確かにシオウの行く先に人を見つけた。
弓を持っている所を見るに狩人のようだ。
『・・・ちょっと怖い感じがする・・・・・迂回していい?』
『そうね。シオウが怖い感じと言うなら近づかないに越したことは・・・気付かれたわよ』
『うえっ!?』
狩人に視線を向ければこちらの視線を向けており、なぜか手招きをしている。
『・・・・・逃げていいかな?』
『いいけど、狩人はこの森に詳しそうだから、逃げ切るのに苦労しそうね』
『そうなの?』
『ええ、地の利をちゃんと理解しているかどうか。そういった情報は戦闘以外にも逃走時にはとても必要なことなのよ。情報を制する者は全てを制するなんて言葉もあるほどだものね』
『要するに食べられる草を知っているか知らないかって感じ?』
『まあ、そんな感じかな?・・・・それよりどうする? あれいつまでも放っておくわけにもいかないわよ?』
『う~・・・・・・逃げたら、逃げきれると思う?』
『逃げきれるけど、絶対矢を射ってくるわよ。この国の人達ってそう言うこと平然とやりそうだもの』
『え~? まっさか~。そこまでは・・・・・ねぇ』
流石に攻撃はしてこないと思うなぁ。
いくらこの国の人が好戦的な人達ばかりだからって。
『・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・』
シオウが同意を求めたのにお姉さんは返事をしない。
そしてシオウも返事を返してこないお姉さんに文句を言うことはなかった。
自分で聞いていて、ここの国の奴等なら遠慮することなく突拍子もない事をやってきそうだと考えているからだろう。
『・・・ちょっと話してヤバくなったら逃げるで・・・・・・・いいかな?』
『それでもいいけど・・・・・・先手必勝でシオウの得意技、急所突きをくらわせてもいいわよ?』
『それは相手が悪い人だったら! ちょっと怖くてもいい人はいるんだから行き成り暴力はダメなんだよ! それと急所突きじゃなくてチンチンパンチだからね!』
『その技名はちょっと恥ずかしいからやめなさいよ。カッコ悪いわよ?』
『ヤダッ! チンチンパンチがいい! もしくは珍宝撲殺玉撃破がいい!』
『なんか変な中二病の技名に感化されてない?・・・はぁ、もうチンチンパンチでいいわよ。それより行くならさっさと行きなさい。あの狩人ゆっくりとだけど矢に手を伸ばしているから』
『うえっ!?・・ほ、本当だ!? す、しゅぐ行かなきゃ!』
『はいはい、十分警戒するのよ』
『いえっさ~!!』
そして、今にも矢を射かねない狩人の元へと向かった。
いや、ホントこの国の人達はちょっとおかしいだろと思う。
呼んでも来ないなら殺してしまえとか、怖すぎるよ。
『・・・ホント・・・碌な目に合わないわね』
『そうだね。けどお腹いっぱい食べられたからラッキーな方だよね?』
案の定狩人の元へ行ってから碌な目に合わないシオウである。
いったい何をされたのかと言うと、まあ、ただ一緒に食事をとっただけだ。
勿論ただの食事ではなく、どう見ても見た目ヤバイ物が入っているとわかるほどの毒々しい色のスープであった。
そんな料理を狩人と一緒に食べたのだ。
何故そんなスープを食べなければいけないのか疑問に思って聞いてみれば、この森はその狩人が狩りをするテリトリーであり、狩人の許しが無い限り森に入ることは許されないとされているらしい。
そして、狩人の許しなく森に入った者は、狩人に殺されるか毒飯を食い悶え苦しむかのどちらかを選ばせられる。
このルールは狩人の独自のルールだが、この近辺ではこの狩人以上に優秀な狩人がいないので、文句を言える人がいないとか。
ホント可笑しな国だよなぁ。
まあ、そんなことがあって一緒に毒々しい料理を食べ、ちゃんと食べたから見逃されたのだ。
クリッカーで毒への耐性が上がっていなかったら今頃おなかがピーちゃんだったよ。
『毒飯食わされてラッキーなわけないでしょ。まったく、ホントに今後の事考えるとクリッカーをクリアしていって少しでも抗体を強化していかないと心配で仕方がないわ』
『う! じゃあ頑張ってクリッカーする! 頑張って頑張って何でも食えるようになる!』
『やる気になって貰えるのは嬉しいけど、本来貴方が授かった能力はなんでも食べられるように願われて授けられた力じゃないからね。いやまあ所有者が能力をどう使おうが、何のために力を得よとするのかは止めないけど・・・。・・・・けどなんか違うのよねぇ』
『う? よくわかんないけど頑張るぞ! その内腐った生ごみ食べてもお腹壊さなくなってみせる! あははっ! なんかそう考えると凄いね! このクリッカーって凄いね! 食べられる物多くなるね! 夢が広がるね!!』
『夢を広げるならそんなモノ食べなくていい夢を持ちなさいよ。はぁ、シオウの価値観も大概可笑しいから困るわ・・・・・絶対修正して真人間にしますからね!』
『・・・・・う??』
真人間宣言されても自分は至って普通の価値観を持った人間であると自負しているシオウは首を傾げる。
己が変だと言うことに自分ではわからないらしい。
『まあいいや。それじゃあ早速あそぼ~『待ちなさいシオウ』・・・と?』
せっかくやる気が出て来たと言うのに、行き成り止められる。
『な~に? どうしたの~?』
『どうしたのじゃないわ。人よ』
『えっ・・・・・・・あっ、ホントだ』
そしてまた進む先には人がいた。
今度の人は大きな斧を持ち、木を切り倒そうとしている樵さん。
身体も大きくて筋肉がはち切れん・・・いや爆発しそうなほどの筋肉がそこにあった。
人族なのにオーガとかの種族に見える。そんな樵がいた。
『に、逃げよう!』
『そうね。と言いたいところだけど、こっちに気が付いてい手招きしているわよ』
『う、うわぁ~』
先程と同じ光景を見せられてちょっと顔が引きつる。
狩人とのかかわりは別に毒のスープをごちそうになっただけだが、今度の相手は今にも爆発しそうな筋肉の持ち主だ。
しかも鋭利で大きな斧を構えている。
そんな見た目も直感も怖いと思う人物には近寄りたくない。
そう思うのだが、
『・・・・逃げたら追いかけてくるかな?』
『言わなきゃわからない?』
『・・・・・いってきます』
『ええ、頑張って。十分警戒しなさいよ』
『・・・いえっさ・・・はぁ~』
この国の人達は絶対逃がしてくれないことがわかっているので、シオウはびくびくと怖がりながら手招きする樵の元へと向かっていった。




