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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
96/411

塔の中で


ちょっと長いです


 ヘンな形の壺に、ヘンテコな絵。

 手と足だけの石像に、魚の頭骨が何十匹も飾られていたりする。

 塔の中はそんなモノばかりで溢れかえっていた。


「おぉ!? ウンコパズルだって! へんなの~」

『変なのは同意するけど、それよりもう少し警戒しなさい。さっきの声の主だってどこにいるのかわからないのだから』

「は~い」

『それと忘れているようだけど、人がいるところでは心の中で会話すること!』

『いえっさ~』


 知らない人から声をかけられるまで普通に話していたのだから今更感があるが、それでも何もしないよりはマシだろう。

 バレているにしても、今後のやり取りをわざわざ口に出すこともあるまい。


「こちらにいらっしゃい、小さなお客人」

「おぉ? 」


 家主が何も言わないので中を歩き回り、ある部屋の前に来ると扉越しから声をかけられた。

 どうやら声の主はここにいるようだ。


『入ってみる?』

『ここまで来て無視するわけにもいかないでしょ? ただ入るにしてもちゃんと警戒しなさい』

『いえっさ~!』


 いつも通りの気が抜ける返事をした後、シオウは扉を開ける。


「こんばんわ小さなお客人。丁度パイが焼き上がったところだからお席に座りなさいな」


 部屋に入るとテーブルと椅子だけが置かれており、テーブルの上には大きなパイと温かな紅茶が置かれていた。

 パイや紅茶から湯気が立ち込めており、出来立てであるのが伺える。

 だが、その熱々の料理を運んだであろう人の姿も、声をかけて来た人の姿も見当たらない。

 台所とかも見当たらないぞ?


「う?・・・・・う?」


 話しかけて来た人の姿が見当たらない。そう思うのだがなぜか違和感を感じる。

 コシコシと目を擦りながら、なんとなく気になる場所に視線を向ける。


「おばあちゃん?」

『お婆ちゃん??』

「おやや、見えているのかい? 随分と感覚の鋭い子だねぇ」


 視界が何度もぶれるが確かにそこには背の高いお婆さんが椅子に座っていた。

 今も静かにお茶を飲んでいると言うのにその姿を見失いそうだ。


「私はマフデル。この塔に住まう隠遁の魔女じゃよ」

「魔女? 魔法使い?」

「そうだねぇ、魔法使い。確かにそうかもしれないねぇ。使うのは魔法ではなく魔術だけどねぇ」

「・・・・ふ~ん・・・・・・うぅん」


 やはりジッと見つめていてもおばあちゃんの姿がぶれるので、目をコシコシと擦る。


『・・・・・大丈夫』

『うん、けど時々おばあちゃん消えちゃう。なんでだろ?』

『・・・・何かされている感じはないわね。多分そのお婆さんは無意識に周りと同化しているのね。まるで空気と変わらず、そこにあるのが当たり前と言う存在になっているのよ。目に見えているけど、認識することはできない。まるで原子レベルまで小さくそして細かくバラバラの存在。そんな風に魔術で己の存在を散らしているのでしょうね』

『・・・・ふ~ん』


 よくわからないが要するに存在感がないと言うことで納得する。

 存在感がない・・・・・・なんだろう。そう考えると可哀想に思えてくる。

 一人ぼっちなのかなぁ・・・・・・ボッチなのかなぁ。


「不思議な子だねぇ。まだ会って間もないと言うのにそんな同情的な視線を送ってくるお客人は初めてだよ。それにこうも私の隠遁を見破られては隠遁の魔女の名折れだねぇ」

「?? ごめんなさい?」

「別に怒っちゃいないよ。それよりこっちへおいで」

「う?・・・『座ってもいい?』」

『ここまで来てお誘いを拒否することはできないわ。貴方のためにわざわざ用意してくれたみたいだし』

『そうだよね! なら座る! お菓子お菓子!』

『全く、ちゃんと警戒しなさいよ』

『わかってる~!』


 お姉さんに忠告されながら僅かな警戒心を残しながら席に着く。

 無警戒に見えるがこれでも貧民区で一人生き残って来たのだ。

 全くの無警戒な訳がない・・・・・


「森苺で作ったパイだよ。たんとおあがり」

「おぉぉぉぉっ! あんがと!」

『ちゃんと警戒しなさいってば!』

『バリバリのバリッにちゃんと警戒しているよっ!! パイの味が変じゃないのもちゃんと確認してるよ! とっても美味しいよ!!』

『全然警戒してないじゃないの・・・はぁ』


 そう、ちゃんと警戒していると思いたい。


「紅茶は砂糖とミルクをたっぷり入れてあげようかねぇ。甘い方がええじゃろ?」

「なんでもいいよ! 僕は苦くても辛くてもしょっぱくてもなんでも食べるもん! お腹痛くないなら何でも食べるもん!」

「そうかい。好き嫌いなく食べられることはいいことだねぇ」


 そしてなぜか二人は初対面だと言うのに、甘いパイを食べ、甘いお茶を飲み、軽い談笑を交わす。

 そんな和やかな雰囲気でゆっくりと時間は流れていった。


「ごちそうさまでしたっ!」

「はい、お粗末様」


 用意されたパイを全て平らげて、風船の様に膨れ上がったお腹を撫でながらご満悦のシオウ。

 この子には遠慮と言う物がないのかと思うだろうが、一応訂正しておくと一切れ食べ終えた後、もっと食べたいなどとねだったりしていない。

 ちゃんと取り分けられた分だけを食べて我慢していた。


 だが、お婆さんがもっと食べるかと聞いてくるので素直に頷いただけだ。

 決して、物欲しそうな目でパイを見つめたり、取り分けられたパイを食べきってこの世の終わりみたいな顔をしていた訳ではない・・・・と思う。


「けぷ~・・・・くるしいや」

「よかったらお風呂も沸いているから入っていくかい? 泊る所がないなら泊っていってもええよ」

「おぉ? いいの?」

「勿論。好きなだけ泊っていくとええ」

「う~?・・・・うん」


 何だがこうも親切にされるとちょっと警戒してしまう。

 悪意というか、そう言う嫌な感じはしないが・・・・・・。


『流石にこれは変よね』

『うん・・・けどこのおばあちゃんから怖い感じがしないよ?』

『それはシオウの直感?』

『うん。あのね。貧民区にいた時に感じた怖い雰囲気? 気配? 臭い? よくわからないけどそう言うのを感じないの』

『なるほどね。けどこの人が悪い人じゃないからといって、いい人とは限らないわ。だから警戒だけは怠らないでね』

『いえっさ~』


 そしてお姉さんとお話したシオウは、いつでもその場から逃げ出せるように椅子を引く。

 そんなシオウの変化に気が付いたのかお婆さんはどこかおかしそうに笑いだした。


「そんな警戒せんでも何もしないよ。敗者は黙って勝者に従うだけさ。それがこの国の法だからねぇ」

「う? 勝者?」


 なんだかその言い回しだと僕がお婆さんと勝負をしたような感じだ。

 お婆さんと戦ってなんていないのに・・・。


「そうだよ。とはいってもお客人はこの国の人じゃないからそこら辺は疎いのだろうねぇ。私達にとっては当たり前の法なのだがねぇ」

「!? なんで僕がこの国の人じゃないってわかったの!?」

「なんでも何も見ていればわかるよ。お客人のような真っ直ぐな子はこの国にはいないからねぇ。どの子も性格ひん曲がった子達ばかりさ」


 そうなの!?

 なら僕も今すぐ曲がらないと!・・・いけないのかなぁ?

 国に入っては国に従え! そんな感じの言葉を以前どこかで聞いたことがあるから。


『シオウは別にそのままでいいわよ。と言うかそのままでいてください。お願いします』

『う? わかった!』


 なんか知らないけどお姉ちゃんが懇願してくるので、曲がらないことに決めた。

 真っ直ぐだ。ひたすら真っ直ぐ伸びることにする!

 おばあちゃんが住んでいる塔の様に!

 そう決意したシオウは、ビシッ! と行き成り姿勢を正す。

 行き成り訳のわからない行動に、お婆さんは生暖かい視線を向けるが、真っ直ぐ伸びる事に気を取られているシオウはそんな視線など気にしなかった。


「ねぇねぇ、そう言えばさっき勝者とか敗者って言ってたけど、あれどういうこと? 僕おばあちゃんと戦ってないよ?」

「ああ、あれは私が勝手に勝負を仕掛けたのだよ。その結果私が負けてしまったからこうしてお茶をごちそうして、この塔に泊まることを許した。そいうことだよ」

「・・・・う?」


 いったいいつ勝負を仕掛けられたのか全くわからず首を傾げるシオウ。


「私はこの塔に住まう隠遁の魔女。私の住まう塔を見つけることは叶わず、私の姿を見つける事も叶わない。もし私の塔を見つけることができたならばもてなそう。もし私を見つけることができたのならば全てを明け渡そう。しかし塔を見つけども、私を見つけられない半端者であるならばいつの日かその命を奪わせてもらおう」


 行き成り意味のわからないことを言い出したお婆ちゃんは、懐からアイスピックの様に先の尖った武器を取り出す・・・そしてそれをすぐにテーブルの上に置き、手放した。


「お客人がこの塔を見つけられた瞬間から勝負は始まっていたのだよ。そして、お茶会の席で私を見つけることができなかった場合は、お茶会をすませた後に死を与えようとしていたのだよ」

『なによこのクソ物騒なババアは』

『・・・・お姉ちゃんお口悪いのダメだよ』

『あら、ごめんなさいね。ちょっと本気で意味が分からない生物に会っちゃったから』


 教育に悪いと思いつつも、思わず口に出てしまったお姉さん。

 しかしお姉さんの気持ちもわからないではない。

 だって普通に考えて行き成り殺し合いを前提に勝手に勝負を仕掛けるとか異常でしかない。


「そう言うことだから勝負は私の負け。ここにある物全てはお客人の物よ。好きにするとええ」

「う?・・・・・・うん?」


 突然のことで理解が追い付かないシオウ。

 そりゃあ、行き成り全部くれると言われても困るというモノだ。


『どうするシオウ。なんか行き成りここ貰っちゃったみたいだけど・・・』

『ここって、この塔もってこと?』

『多分そうでしょうね・・・けどお婆さんの言葉が真実か確かめるためにも何か物をねだってみたら?』

『う~?・・・・・・・・わかった~』


 お姉さんと話すことで理解はしたシオウはお婆さんに視線を向ける。


「じゃあ! ここに来る前に見つけたウンコパズル頂戴! あれ解いてみたい!」

『ちょっ!?』


 そして一番要らなそうな物をチョイスするシオウ。

 お前それ絶対最後まで大事にしないだろ。


「アレに目を付けるとはお目が高い子だねぇ。あのパズルはこの世で一つしかないモノだよ」


 そりゃあ普通に考えて排泄物パズルが世に出回っている訳もない。

 仮に排泄物パズルを生み出したところで、そんな無駄な物に金を支払う阿呆は少ないと思う。


「こ、この世で一つしかないもの!? しゅ、しゅごい。うんこしゅごい」

『全然凄くないわよ! シオウ! ねだるならもっと使えるモノにしなさい! まだ目の前のコップやお皿を貰った方がマシよ!』

『う~? けどこの世で一つしかって・・・・・』

『だったら後でこの世で一つしかないモノをいくらでも用意してあげるから、そんなの貰おうとしないで!』

『む~~~~・・・・は~い』


 せっかく欲しい物をチョイスしたというのになぜか怒られてしまった。

 まあお姉ちゃんを怒らせてまで欲しい物でもないので、おばあちゃんにやっぱりウンコパズルは諦める事を伝える。


「さて、他に欲しい物があるかい? それともこの塔ごと全部貰っていくかい? そうなると私はお客人の許可が無いと住めなくなるから出て行かなくてはならなくなるねぇ」


 それはそれとして、どうやらこのおばあちゃんは勝負に負けた代償としてこの塔を含めて全てを明け渡すつもりのようだ。


「うえ? 僕お家に帰るからいらないよ。ご飯も食べさせてもらえたし、もう十分だよ」


 ガラクタばかりではあるが、土地も屋敷(塔)も無償でくれると言うのだから普通は心揺れるものである。

 だが、差し出される価値を知ってか知らずか、シオウはマイペースにお婆さんが差し出すモノを受け取ることは無かった。


「おやいいのかい? お金だってそれなりにあるのだよ?」


 いつの間にか用意されたのか、テーブルの上に置かれる金貨の山。

 金貨など生まれて初めて見たシオウは、純粋にすげぇ~とは思いはしても、それ以外の感情は思い浮ばなかった。

 だってそれはシオウのお金ではなくお婆さんのお金だ。

 自分で頑張って働いたお金じゃないし、くれると言われてもなんかそれは違う気がする。

 それよりお金より飯くれと思う・・・・・それに


「お金貰っても使えないよ。僕この国の街に寄りたくないもん」


 そう、シオウはこの国の街にはもう寄りたくないと考えていた。

 夜風に晒されず雨を凌げる屋根もあり、暖かいお湯だってお金を払えば持ってきてもらえる宿屋は最高だったが、そこに住む住人達は物凄く怖い人達ばかりだった。


 人の物を取ったり、騙したりするのはまあ見慣れているのでいいとしても、武器を躊躇なく振り回したりする人は、流石に貧民区でも早々見ない。

 はっきりいって貧民区の方がまだ安全と言えよう。


「だから荷物になるモノもいらないし、おばあちゃんのお家を貰っても住まないからいらないよ」


 なので純粋に何もいらないと言うことを伝える。

 仮に何か貰うとしたら日持ちしそうな食材くらいだろうなと考えていると、なにが面白かったのか、おばあちゃんは静かに笑い出した。


「純粋な子でも欲はあると思ったんだがねぇ。残念ながら当てが外れてしまったか。悲しいねぇ」

「?? ごめんなさい?」

「ふふ、謝る必要はないよ。けど残念だ。最後の勝負にも負けてしまうとは」

「?? か、勝った~? わ~い?」

『このクソババアはまた勝手に貴方に勝負を吹っかけていたようね。しかもまたルール説明しないままに』

『お姉ちゃんお口悪~い! ダメなんだ~!』


 しかりつけるシオウだが、今回お姉さんは反応せず、ただ不機嫌そうにお婆さんを睨みつけた。


『シオウ。このクソババ『お口悪いのめーーーっ!』・・・・・こほん、お婆さんがどんな勝負を仕掛けたのか聞きなさい。そして勝者である私達に今後一切勝負を挑まないように命じなさい。受け入れるかどうかは知らないけれど、此方はこれ以上そちらのアホな遊びに付き合う気はない事を明確に示すのよ』

『いえっさ~』


 なんかお姉ちゃんが不良になっているなぁと思いながら、素直にお姉ちゃんの言葉に従い問いかけると、おばあちゃんはすんなり勝負の内容を話し、これ以上シオウに変な勝負を吹っかけないことを約束してくれた。

 なんか普通に素直・・なんで?


「この国は強者がルールそのものだからねぇ。強者がこれはダメだと言うなら従わない訳にもいかないよ。それがこの国唯一の絶対的な法なのだからねぇ」

「・・・・う~ん」


 相変わらずの帝国独自の法律。

 どんなおバカな子でもわかりやすい法律ではあるが、理解できない。

 何でそんなバカな法律で国を維持できているのか疑問だよ。

 そしてどう見ても独裁政治の在り方で、もしも上がバカだったらすぐに終わっちゃうと思う。

 大丈夫なんだろうかこの国は・・・。


『独裁はんたーーーい!』

『我等に発言の自由をーっ!』

『男にも人権はあるぞーっ!』

『学園祭はーっ! エロサキュバスコスプレ喫茶にしろー!』

『際どいのをお願い致しまんす!』


 ほら頭の中の変な人達も独裁はダメだと言っている。


『谷間見せて下さーい! 俺モテないんですー!』

『ささやかな男の夢を叶えてくださーーい! 後生ですからーーーーーーっ!』

『『『『『・・・・キモッ』』』』』

『あ、あの僕は皆でダーク・ブリンガーのコスプレがしたいかなって・・・・女子達のは、ホワイトアンジュって可愛いコスプレを考えてみたんだけどどうかな? 露出し過ぎないように考えたし、可愛いのや、大人っぽくてカッコいいのも色々考えてみたんだ。これなら変なお客さんを呼び込むこともないし、材料費もそこまでかからないからみんなの負担になることはないと思うよ? それにコスプレしてれば単価を上げてもそこまで違和感持たれないと思うし、お客さんが少なかったとしてもギリギリ赤字にはならないと思うけど・・・・どうかな?』

『『『『『言っていることがキモいのに、このクラスの中でこの中二病が一番まともかよ・・・・・』』』』』


 なんか違う話のような気がするし、そもそも独裁政治の話はどこいったと思わないでもないが、気にしてはいけない。

 うん、そんな事よりおばあちゃんがまだ話しているからそちらに集中しよう。


「勿論強者といっても戦闘力が高いだけの者が優先されるわけじゃないよ。私の様に気配を消すことに特化した魔術師や、農業技術の高い者なんかも強者として国に認識されているよ。農民の上位者争いなんて畑の芋掘り勝負や、今年の収穫量なんかで競っていたりして、帝国一の農民にはそこらの騎士も面白半分で手を出すことを禁止されているほどさ」

「・・・・・・・へ~」


 全く以て意味はわからないが、おばあちゃんの話を聞いていく限りわかったのが、どの職業でもみんな競い合っており、どの職業のトップに対してもこの国の王様が保護していると言う。

 中には帝国の排泄場清掃強者なる意味のわからない人も保護対象のようだ。

 その人の身分は平民以下の奴隷なのだが、その保護対象者にされている間は平民並みの食事と生活を許されるとかなんとか。


 要するに優秀な人材にはそれなりの待遇と権限を与えられ、才も努力もしない者達はただ奪われて死ねと言う精神のようだ。

 ちなみに努力しても実を結ばないのであれば、それは何もしていないのと同じと思われており、同じように搾取されるようだ。


 うん、やっぱり好きになれない国だね。

 実力主義国家であるのは良いにしても、奪って殺すことを国が許可している時点で怖すぎる。

 そしてその決定を覆す方法がない独裁政治。

 今の政治体制を覆したいなら、王の座を奪わない限り覆されることはないだろう。


『やっぱりこの国は怖いからヤダなぁ。早く出ていきたい』

『そうね。シオウの性格とは合わない国っぽいわね。けど今日はこれ以上進まないようにしましょうね。流石に夜の森を歩くのは危険だもの』

『うん、そうだね・・・・・それでここに泊まらせてもらう?』

『それは・・・・どうしましょうか』


 シオウならそこら辺の草むらで寝ることも、木の上で眠ることも可能だろう。

 だが、せっかく夜風の当たらない暖かい家の中で眠れるというのはとても魅力的だ。

 屋根のない暮らしになれているとはいえ、疲労が溜まっていない訳ではないのだから。

 けれど、この可笑しい常識を持つお婆さんの家に泊まると言うのも、心配なお姉さんである。


『はんた・・・う~ん・・・けど・・・う~ん』


 なんとも煮え切らないお姉さんではあるが、まあそれも仕方がない事だろう。

 そしてそうしている間に、


『そうね。シオウがどうしたいか決め・・あっ!? やばっ!? もうお話しできる時間がないじゃない!? シオウの好きに決めなさい! 貴方がどんな選択をしても怒らないからね! けどどんな時でも警戒は緩めないで! 今度は食べ物に釣られて・・・・・・・』

『お姉ちゃん?・・・・寝ちゃった』


 本日お姉ちゃんとお話しできる時間が終わってしまった。

 なんか寂しいと思いつつ、お姉ちゃんが最後に言った言葉通り警戒を緩めず食べ物に釣られてみようと思う。

 あっ、違ったどうするか決めなきゃいけないんだった。


「さっきから一人で百面相しているねぇ。お話面白かったかい?」

「ううん、全然面白くないよ?」

「そ、そうかい」


 純粋に悪気もなく言い切るシオウ。

 その嘘偽りのない言葉にちょっと傷つくお婆さん。

 素直の過ぎるのも考え物である。


「それよりもう眠いからお庭は借りてもいい?」

「ええけど、部屋もちゃんと用意してあるよ。お風呂も入れるようにしてあるのに入らなんのかい?」

「うん、おばあちゃんのことちょっと怖くなってきたから一緒にいたくない。だからお家から出てくね」

「おやおや・・・・・・・・・・・・そうかい」


 かなり失礼な事を言ったのだが、なぜかお婆さんは楽しそうに笑みを浮かべるだけである。

 そんなお婆さんを尻目にシオウはさっさと席から立つと部屋を出ていく。

 そして、扉を閉める前に一度お婆さんに視線を向け、頭を下げる。


「ご馳走様でした! パイ美味しかったです!」

「ええ、またいらっしゃいな。今度はもうちょっと難しい遊びを用意しておくからねぇ」

「もう来ないよ! ばいばいっ!」


 そう言うと、逃げるように出て行った。

 そしてシオウが出て行ってから数分後、部屋から物が壊れる音が響いたとか。









「・・・・・ホントに勘の鋭い子だよ。まさか最後の仕掛けにまで気付くとはねぇ」


 シオウが出て行って数分後、お婆さんは心底残念そうに、テーブルの上に置いていたアイスピックのような武器に視線を向けた。

 視線を向けている武器は、まるで潜むようにゆっくりと転がる。

 そして誰にも気にも留めないようにただ静かにテーブルから落ちていき、床に突き刺さった。

 するとそれが引き金となったのか、先程までシオウが座っていた場所に太い針が天井や床から突き出された。

 更にはシオウが使っていたであろうお皿やフォークからも糸の様に細い針が突き出していた。

 確実にシオウを殺しに来ている仕掛けであり、シオウが出て行かなければもしかしたら死んでいたかもしれない。


「これは私の完敗だねぇ」


 感傷深げにそう呟きながらお茶を啜るお婆さん。

 だがそんな風に呟くお婆さんだが、同じようにお婆さんの身体は太い針で貫かれ、今もお茶をすすっているコップからは細い針を飛び出てはお婆さんの口を突き刺していた。

 なのに、お婆さんは気にする事はない。


「さて、新しいのに着替えるかねぇ」


 それもそのはず、今ここにいるお婆さんは本物ではない。

 なら本物のお婆さんはどこにいるのかと言うと、


ベリベリベリベリ


 この背の高いお婆さんの中に潜んでいたのだ。

 背の高いお婆さんのお腹を裂くようにしながら、体内から小さなお婆さんが現れる。

 なんともグロテスクな光景だと思うだろうが、ありがたいことにお婆さんの腹が裂かれても血が噴き出すことはなかった。

 どうやら背の高いお婆さんは魔術で作られた着ぐるみのような物であるようだ。

 ただし生物の肉体を触媒としているので、健全とは程遠いが。


「次はどれに着替えるか・・・・はぁ、そう言えばもう武骨な男共の素体しか残っていなかったねぇ。子供か女でないと肌触りが悪いから嫌なんだけど・・まぁ、仕方がないねぇ。我慢するか」


 そう言うと、お婆さんは少し年のいったおじさんの身体に入り込むのだった。


 強さこそが全て、優秀であれば、強者であれば、勝者であれば大抵のことは許される。

 自分の欲のままに動き、その責任を取るのであればこの国は全てを許す。

 そんな国だからこそただ優しく、人を甘えさせる人はいないのだろう。

 笑顔で会話をし、お菓子を振る舞ってくれる優しい人達の裏の顔は、ただ己の欲望を満たすための仮面でしかない。

 ここはそう言う国。


 この帝国は人を蹴落として這い上がり、隣人を食い物にして成長してきた強い者しか生きられない国。ガラダニア帝国である。




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