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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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イイを探して


 死体の埋葬を終えたその日、シオウはお姉さんの言われるがまま南東に足を進めた。

 何か良いことがあると言う言葉を信じて。

 だが残念なことに、お姉さんが指示した方角に良いことは起こらなかった。

 自生している果実や野草も見つからず、獣の気配さえ少ない。

 はっきり言って、向かう方角を間違えた。

 絶対いいことなど起こらないと思うほどに。


 まあ、それは仕方がないだろう。

 ただお姉さんはシオウに暴力を振るった男に会わせたくなかった。

 その想いから出たデマカセなのだから。


「いいこと~!」


 だがそんなデマカセを疑うことはないシオウ。

 お姉さんが気のせいだったかもしれないと、ごめんねと謝罪しても止まることはなく、絶対こっちに良い事があるはずだ! と言って聞かない。

 もう日が暮れそうだと言うのに寝床を探すこともせず、ひたすら進み続けた。


 お姉さんを信用している・・・というより大好きなお姉さんの言葉を嘘にはしたくないと思っているようで、意地になっているようだ。

 そして、お姉さんが止めるのも聞かずに日が沈んでも進み続け、そしてそれを見つける事となった。


「お姉ちゃん! あれ見て! 凄いのあった! あれが多分イイ事! だよね!」

『そうね。絶対そうよ。だからいい加減寝床の準備をしなさい。夜更かしは「イイ事ーッ!!」聞きなさいよ全く・・・・はぁ』


 周りの木々よりも高く、少しさびれた塔。

 それを見つけたシオウはお姉さんの言葉など聞かずに塔に向かって走り出す。

 いつもは聞き分けがいいのにとため息を吐きながら、今度からは安易に変な事を言わないようにしようと思うお姉さんである。







「ほあ~~~~、たっけぇぇぇ」


 見上げる塔は空を突き刺すように真っ直ぐと伸びている。

 生きてきた中でこれほど高い塔は初めて見た。


『スカイ東京タワーツリーの完成なのだ!』

『ゲームで変なの建築するなよ。つかそんなの作る暇があるなら夏休みの宿題しろ』

『これは我の夏休みの自由研究であるのだが?』

『これで何が研究できたんだよ? 何も研究できてないだろ』

『ふははははっ・・・・・・人って三日以上徹夜しても死なないんだよ。凄い研究だとは思わんかね』

『まさかの人体実験かよ!? つかお前いったい何日寝てねぇんだよ!?』

『ふ、ふはははははっ! もう覚えておらぬ!』

『だからそんな可笑しなテンションなのか。つか寝ろ! 今すぐ寝ろ! まじで死ぬぞ!』

『我は死なぬ! 例え封印されようとも暗黒竜たる我はいつの日か必ず復活してみせる! みておれ人間ども! いつの日か駆逐してや・・・ぐぅ』


「お姉ちゃん。今日の寝床ここにすればいいかな?」

『貴方はよくシカトできるわね。頭の中うるさくないの?』

「う? 全然」


 そして毎度のことながら、可笑しな声が聞こえてくるが、毎度のことなので気にならないシオウ。

 多分この子は周りが騒がしくしていても、一人のんびり好きな事ができる子なのだろう。

 皆でカラオケに行っても多分黙々と自分の好きな事をするタイプだ。


「それより屋根のある寝床だよ! 扉も壁もあるから今日はゆっくり寝れそう! やたーーっ!」


 流石お姉ちゃん。本当にイイ事があったんだと喜ぶ。

 この塔があったのはたまたまであるし、何より見つかるまで見つける力技であるのだが、お姉さんは特にそのことをツッコムことはない。

 下手な事を言ってまた暴走されても困るからだ。


 そして、シオウは塔の中に入ろうと扉に手をかける。

 だが、当然扉には鍵がかかっており開くことはなかった。


「う~?? 開かな~い!」


 力いっぱい引っ張れば多分開けることはできるだろうが、流石に扉を壊すなんてできる訳もない。

 というか、鍵がかかっていると言うことは誰かの家なのではないかと思う。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。もしかしてここって誰かのお家?」

『お家かどうかはわからないけど、鍵がかかっているのなら誰かの持ち物であるのは間違いないわね』

「え~、そうなの~。はぁ、残念」


 誰も住んでい無さそうだし、さびれているし、所々ボロボロだから誰も住んでいないと思ったのに、そうでは無いようだ。

 せっかくいい寝床を見つけられたと思ったのに・・。


「じゃあ他の場所探さないとだね」

『そうね・・・なんかごめんね。結局いい事が起こらなくて』

「そ、そんな事無いよ! 僕こんな大きなお家見た事無いもん! 横におっきいのは見たことあるけど、縦におっきいお家は初めて見たもん! 街の灯台より長いんだよ! 凄いよねこのお家! これが見られて僕嬉しいよ!」

「そうかい? なら家に入ってみるかい? 小さなお客人」

「うん!・・・・う?」


 入れないので塔から離れていくシオウだが、その背中に声をかけるように塔から声をかけられた。


「あれ?」


 振り返ってみるがそこには誰もいない。

 周りを見渡しても誰もいない。

 気のせいだったのかと首を傾げる。


「塔に入りたいなら隣の倉庫からお入りよ」


 だがやはり声が聞こえる。

 誰もいないのになぜだろう?


「まさか幽霊!」

『シオウ。幽霊ではなく多分あれから声が聞こえるのよ。あれ伝声管じゃない?』

「でんせんかん?」


 聞きなれない言葉に首を傾げながら、視線を向ければラッパのようなモノが塔についていることに気付く。

 あれがでんせんかんと言うやつかな?


「幽霊じゃないよ。ほら、こっちへおいで」

『不気味ねぇ・・・どうする?』

「う?・・・・・・う~ん」


 お姉さんの言う通り確かに不気味だ。

 まるで悪魔が囁いているかのように不気味である。


「とっても甘くて美味しいお菓子もあるよ。ほらおいで~」

「お菓子!? いくっ!!」

『あっ! コラッ! シオウ! 今のはどう見てもあからさまでしょう! ちょっとか警戒しなさい!』

「いえっさ~! お菓子! いえっさ~! 甘いお菓子!」

『これは・・・だめね』


 だが、結局は食べ物につられてしまうのであった。

 貧民区にいた頃はここまであからさまでは無かったのだが、最近美味しい物を食しているせいか、もっと美味しいものが食べたいと言う欲求にのまれるようになったのかもしれない。




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