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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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僕は彼女を彼女は僕を愛す


 男がいなくなった後もシオウは泣き続けた。

 男に殴られたこと、両親に約束したことを違えたこと、悪い事をしてしまった罪悪感、一人ぼっちで誰も傍にいないこと、そんな色々な感情がごちゃ混ぜになり自分でもただ怖くて泣いていた。


 そして、長い間泣き続けたシオウはその場で力尽きるように眠りにつく。

 身体を丸め、己の身を守る様に。


「・・・・・・・・・・・」

『おはようシオウ』


 次の日の朝、目が覚めるがシオウは動くことはなく、ただ茫然としていた。

 お姉さんの挨拶にも反応することはなく朝露で濡れる草を眺める。


『シオウ。挨拶をしましょう? おはよう』

「・・・・・・・・・・・」

『シオウ、お・は・よ・う』

「・・・・・はよう」


 根気強く何度も朝の挨拶を繰り返してくるお姉さんに根負けし、シオウはとっても小さな声で挨拶をする。


『うん、やっぱりシオウはいい子ね。ちゃんと挨拶できるじゃない』

「・・・・・・・いい子じゃない」

『何を言っているのよ。シオウはとってもいい子よ。いい子じゃない子は挨拶なんてしてくれないもの』

「違う・・・・ぼく・・・・悪い子になっちゃっ・・・・・・えぅ・・・」


 挨拶をしただけでいい子だと褒められるが、シオウは受け入れられずまた泣き出しそうになる。

 昨日自分が何をしたのか思いだして悲しくなり、両親の願い通りに良い子になれなかった自分を恥じているのだろう。


『私にとってシオウはとってもいい子よ。けどシオウは自分の事を悪い子だと思っているのよね? 何でかしら?』

「なんでって・・・なんでって・・・・・・・だってぼく・・・昨日・・・ぼくは」

『盗賊に扮した男達を殺した?』

「ひぐっ・・・ぅ・・・・う・・ん」


 改めて人から言われると現実味を帯びてしまう。

 殺した人が何も悪くない人達。

 そう言われているみたいで怖い。

 怖くて、怖くて、どうしていいかわからなく、ただただ涙があふれてくる。


『ほらほら泣かないの。そのことなら別に気にしなくていいんだから』

「気にしないなんて、ひっく・・・・・できないよぉ」


 悪人ではなく善人を殺した。

 それがどれだけシオウの心に深く傷をつけているのかわかっているはずなのに、お姉さんは昨日の事はなんでも無さそうに話す。


『本当に気にしなくていいのよ? だってあの人達武器持ってたじゃない』

「もって・・たけど・・・・」

『そうよ。彼等は武器を持っていた。鞘から剣を抜き、槍を持ち、弓を引き、人に石を投げていた。人に殺意を向けて、人を殺すために武器を向けていた彼等は善人なの?』

「しょうズズズッ・・そうだよ・・あの男の人が・・・家族殺されちゃったって・・・僕が助けたおじさんが殺したって・・・あの人が下民とか・・酷いこと言ってたもん」

『だから彼等は悪くない人でいい人だと?』

「だって、そうだもん・・・・」


 家族を奪われて怒るのは当然だ。

 やり返そうと思うのも当然だし、先に手を出した人が悪いに決まっている。

 やり返すのは当然とは言わないが、それでもあの男の人達は被害者でしかなく、悪い人達ではなかった。


『仮にあの男の人の話が本当だとして、シオウが助けたおじさんが悪い人だったとしても、武器を取り、殺意と憎悪で人を殺そうとした時点で彼等は悪い人であるのは変わらないと思うけど? たとえどんな理由があろうともね』


 だが、お姉さんの見解は違う様だ。


「・・・すんすん・・・・どういうこと?」

『シオウは人を殺すとき、ううん、魔物を退治するときや、獣を狩るとき恨みから剣を振るんじゃないでしょ? 相手を苦しめたいとか、憎いとか、痛めつけて遊びたいとか思ってないでしょ?』

「そんなの、あたり前だよ」


 魔物を退治するのは生きていくのに必要な物を買うために、そしてご飯を食べるために退治しているだけだ。

 獣を殺すときだってお腹を空かせて悲しくなりたくないし、お肉が食べたいからだ。

 殺したくて殺している訳じゃない。

 死にたくなくて、苦しみたくなくて、生きたいから殺しているだけだ。

 人は・・・・殺したくないけど、悪い人は放置しておくと大変なことになるとパパが言っていたから、できるだけ退治しようとは思っているけど・・・。


『そうよね。シオウは面白がって生物の命を奪ったりしないわよね。望んで人の命を奪ったことはないわよね。私情はあれども生きるために、自分が死なない為に、誰かを助けたい、守りたいって気持ちから命を奪うのよね』

「そう・・・・なのかな・・・」


 そんな大層な理由なのか自分でもわからないシオウ。

 ただ悪い人は平気で人を殺して、物を盗んで、色々な人に迷惑をかけて、悲しむ人がいっぱいできちゃうから退治しなくちゃいけない。そう教えられたから教えられたとおりに退治しただけだ。


『そうよ。シオウは生き物の命で遊ぶような子じゃない。むしろ奪うたびに苦しんでるでしょ? 美味しいお肉が得られても殺してしまった瞬間はとても悲しそうだもの』

「・・・そうなの?」

『ええ、そうよ』


 自分では気が付かないが、お姉ちゃんがそう言うならそうなのかなと思う。

 魔物を倒したときや獣を狩った時はお肉だー! としか考えてなかったような気がするけど・・・。


『それに比べて昨日シオウが殺した男達は、人の死に後悔せず、むしろおじさんの死を望んでいたわ。憎悪に囚われて、ただ怒りに任せて苦しめて痛めつけて殺す。そんな感情に囚われて、もう誰でもいいから殺してやる。そんな感じにも思えたわ』

「・・・・・・うん」


 それはなんとなく共感できる。

 男の人が物凄く怒っていた事は昨日イヤと言う程見た。

 領主のおじさんに向けた殺意も、僕を殴り続けたあの拳も・・・・・痛くなかったけど、それでも怖かった。


『誰かの命を奪うことが悪い事なんて言わない。私情を持ち込んで怨みで人を殺そうとするのが悪い事なんて言わない。けどそれが良い事だなんて思わないわ。結局そう言った感情は汚いものだもの。同情も共感もできるほどの事情があろうとも、命を奪うことを望み、苦痛を与えながら命を奪おうとする行為は、総じて悪いことよ。目的のために関係ない人を殺そうとするのも、頭に来たからと言って何度も殴りつけ殺そうとする人も全部悪いことだわ』


 昨日のことを言っているんだとすぐに理解したシオウだが、それでも納得することはできない。

 あの男の人と同じ境遇だった場合、自分だって同じように邪魔をした人に怒りをぶつけただろう。

 仲間だって殺されているんだし・・・。


『それに一台の馬車が何十人もの武器を持った男達に囲まれていた状況よ。そんな状況を見せられたら誰だって囲んでいる男達が悪者だって思うじゃない。風貌だって山賊みたいな格好だったし、兵士の様に統一された鎧を身に纏ってなかった時点で勘違いされてもおかしくないわ』


 着ている鎧も全てがバラバラで統一性が無く薄汚れていた。

 そんな集団が悪者ではないなどと、初見で見抜けるわけもない。


「けど・・・それでも僕がしたことは・・・」

『納得できないって言うんでしょ? なら後悔して泣き続けてもいいわ。私はただ、シオウは絶対悪くないって言い続けるだけ。私はシオウの事が大好きだよって、嫌いになんかならないよって言い続けるだけ。私はシオウが大好き。大好きだから貴方が後悔を乗り越える事を信じて待ち続けるわ。ずっと・・・・ずっとね』

「・・・・うぅ・・・お姉ちゃんは僕の事好きでいてくれるの?・・・悪い子になっちゃったのに」

『悪い子なんかになってないわ。私初めに言ったじゃない。シオウはいい子だって。いい子で優しくて頑張り屋の貴方を嫌いになんてなれるはずないわ』

「けど・・ママとパパは絶対僕のこと嫌いになっちゃったよ。お空に行ったとき絶対・・・絶対嫌いだって言われる・・・ひぐぅぅ」


 やはりそれが一番の原因のようだ。

 シオウにとって亡き両親との約束を破ったことが、どうしても許せないみたいだ。

 それがシオウにとって両親との大事な繋がりであり、支えであった。

 その繋がりを違えることは、シオウにとって過剰なストレスとなって襲い掛かっていた。


『なら好かれることをしましょう』

「うぐぅ・・・・すかれること?」

『ええ、今回シオウは悪い事をしてしまったと思っているんでしょ?』

「・・・・・・うん」

『だったらシオウのママとパパが褒めてくれることをしましょう。良い事をいっぱいして、いろんな人を助けて感謝されましょう。そうすればきっと嫌いだなんて言わないわ。流石私達の自慢の子だって、大好きだって言ってくれるわ』

「ほんと?」

『ええ、本当よ。それとも何もしないでずっとそのまま泣いてる? 悪い事をしてごめんなさいって言っているだけで何もしないでいる? それこそママもパパも呆れると思わよ。失敗しても歯を食いしばって頑張る子と、いつまでもうじうじ泣いている子。親ならどっちの方が自慢できて好きになれる子かなんて一目瞭然じゃない』

「・・・・・・・・・・・・」


 お姉さんのその言葉を聞いて、グシグシと目を擦りシオウは起き上がる。

 口をへの字に曲げ必死に泣きたいのを我慢しながら。


『泣くのは我慢しなくていいわ。好きなだけ泣いて良いの・・・・けど、我慢して強くなろうとしているのはとても偉いわよ』

「ずずっ! ずずずずずっ! ズズズズズズッ!!・・・・すう~~~~・・・うえう」


 口から呼吸すると思わず我慢している泣き声を漏らしそうになる為、必死に鼻から息を吸おうとする。

 まあ結局は鼻水が詰まっているので、口から呼吸しては泣き声を漏らしてしまうが。

 そんなシオウの行動にお姉さんはどこかおかしそうにクスクス笑うと、愛おしそうに柔らかな声で話かけた。


『シオウ。今日はいつも良り長話し過ぎて、お話しできる時間がもう半分も残ってないの。だからいざと言う時の為にそろそろお話は終わるわよ』

「えう・・・い、いやだ」

『わがままを言わないで頑張って。耐えきれないほど寂しくなったら話しかけるから・・・ね?』

「うぅ・・・・・・・・・・・・・うん」

『いい子ね・・・じゃあ最後にもう一度大事な事を伝えるわよ・・・・・・・私はシオウ大好きよ。貴方のママにもパパにも負けないくらい貴方のことが大事で大好きよ。嫌いになんて絶対なってあげないから安心しなさい。わかった』

「う?・・・・・・うん!」


 ストレートに大好きだと言われた為か、一人ぼっちにされるのが嫌で泣きそうになっていた顔がすぐに笑顔になる。


『ふふ、そうよかった・・・・それじゃあ』

「あっ! まって!」

『うん? なあに?』

「え、えっとね、えっとね・・・・あのね・・・」


 ぽりぽりと首を掻きながら視線をあっちこっちに向け出すシオウ。

 地面を蹴ったりと意味のわからない行動をしていたが、何か覚悟を決めたのかビシッと姿勢を正す。


「ぼ、僕もお姉ちゃん大好きだからねっ!」

『あら・・・・・ふふふっ』


 どうやら好意を伝えることの恥ずかしさからくる行動だったようだ。


『とっても嬉しいわ。ありがとうシオウ』

「うん! え、えへへ・・・・えへへへへ~」


 受け入れてもらえたことへの喜びと、誰かに好きだと伝える恥ずかしさが混ざり合い、なんとも言えない気持ちになりながら、笑みを浮かべる。


『それじゃあまたね大好きなシオウ』

「う、うん! またね! だ、大好きな! お姉ちゃん!」


 もはや互いに大好きだと言わなければいけないような雰囲気を出しながら、二人の会話はそこで終わった。

 なんだかバカップルを見せられている気分であるが、多分二人が向けている感情はそれぞれ違うものだろう。


 シオウは純粋に家族である優しい姉に親愛を向けるものである。

 対してお姉ちゃんのほうは、己を生み出した主であり、守るべき保護対象者とみていた。

 体は強制的に大きくなってもまだまだ幼い八歳児のシオウ。

 素直で純粋であるため、放っておくと誰かに騙されてしまいそうなほど危なっかしい。

 だから私が守らなければと、お姉さんは保護欲を駆り立てられているのだろう。


「・・・・・・・・・お姉ちゃん?・・・・・・・・・・・うりゅ」

『はいはい、ちゃんといますから大丈夫よ。だから泣きそうにならないの』

「・・・あい」

『それに寂しいならスライム達を呼び出して一緒にいなさいな。そうすれば少しは寂しさを紛らわせるでしょ? それと顔を洗ってご飯を食べなさいよ。昨日何も食べないまま寝ちゃったんだから』

「ご飯・・・・あっ! ねえ! ご飯採取に行こうよ!」

『今日はダメ。ご飯は前回取って来た物と購入してある保存食ですませなさい。今日はゆっくり休むのよ』

「・・採取したいなぁ~」

『ダメったらダメ。わかった?』

「む~~~・・・・・・・は~い」

『はい、いい子。我慢できて偉いわね」

「えへへへへ」

『ああ、あとお日様が昇るのは向かって右よ。休んで欲しいけど、どうしても進みたいならそちらの方に行きなさいね。それじゃあ』

「あっ・・・・・・」

『?? どうしたの?』

「あの、えっと・・・・だ、大好きは?」

『そうね・・・・・それは今日一日いい子にできたらまた言ってあげるわ』

「むーーーーっ!」

『ふふ、唸ってもダ~メ。じゃあね』

「むーーむーーーっ!!」


 それ故に二人は恋愛感情よりも家族愛に近い好意を寄せているのだろう。


 そしてその日のシオウは、またお姉ちゃんから大好きだと言われたいがために、言いつけを守り、丸一日クリッカーで暇をつぶすのだった。

 大好きと言うそれだけの言葉は、人の愛情を求めているシオウにとってはとても重要な言葉だったのだろう。




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― 新着の感想 ―
[一言]  1章はとにかく素晴らしい。完璧だと思いました。  2章は45話までは良かったですが、46話「カミナリおっさん」の強制ソロプレイには違和しか感じません。  普通に『ピアス作ればパーティで入…
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