泣く子・怒る者・叫ぶ者
盗賊を担いでシオウは森の中を駆けた。
追っ手が放たれたと思っているのもあるが、それ以上に体が走りたくて仕方がなかったのだ。
僕は盗賊を討伐した。
悪い人をやっつけた。
悪い人だからやっつけなくちゃいけないし、生かしておいちゃいけないと思った。
だって悪い人は優しい人を、良い人達を傷付けるから。
幸せに生きている人達を不幸にするから。
だから悪い人は、人を殺す悪い人達は殺さなくちゃいけないと思った。
またシェミちゃんが泣いちゃうから。
またシェミちゃんが傷つくから。
僕の友達が、僕の大好きな人達が、僕の家族が殺されちゃうから。
だから人を殺す人は殺さなきゃいけない。
奪う人は殺さなきゃいけないと理解していた。
なのに・・・。
「僕は・・・・・悪くない人を・・・・殺した」
走りつかれたシオウはどさりと盗賊を地面に落とし、自分も膝をつく
人を殺すのは悪い人だけ。
人を殺す人。
人を殺そうとする人。
人殺しを楽しむ人。
人の尊厳を奪う人。
人が人でなくなった欲望の塊になった人。
そんな悪い人達だけを僕は手に掛けるつもりだった。
良い人は殺さない。
良い人を理由なく殺さない。
殺したくないのに・・・・殺しちゃった。
あの盗賊達。いや、多分普通の人だったんだ。
普通に生きて、普通に生活して、普通に日々を送っていた人達だったんだ。
なのに僕は彼等を殺した。
「悪い子になっちゃった・・・・・・ママとパパとのお約束が・・・いい子になるって・・・強くていい子になるお約束が・・・・・・うえ・・・・うええええええええええん」
真っ直ぐいい子に育ってと言う願いが。
優しい子に育ってと言う願いが。
誇りに高くあれと言う願いが。
亡くなった両親の願いが消えた。
ただの言葉であり、約束だってしていないが、大好きな父と母の願いを消してしまった。
二人が亡くなってから、覚えている言葉を、向けられた願いと想いに応えるために頑張ってきたのに、その願いが果たせなかったことが悲しく、そして二人に失望されるのがとても怖い。
「ごめんなさい。ごべんなざい。ごめんばはい」
シオウはひたすら謝る。
両親などどこにもいないと言うのに、ただ虚空に向けて泣きながら謝る。
今すぐママに抱きしめてもらいたい。
今すぐパパに抱っこしてもらいたい。
二人に大丈夫だと言って頭を撫でてもらいたい。
お願いだから今すぐ僕を許してほしい。
嫌いにならないって、大好きだって言って欲しいよぉ。
『大丈夫。大丈夫よ。大丈夫だから落ち着いて。シオウのママもパパもシオウの事嫌いになんてならないわ。シオウの事大好きだから絶対嫌いになんてならないから、だから大丈夫。ああもう、声だけじゃ足りないわ。声だけじゃ足りなわよ』
泣きじゃくる子供を抱きしめたいとお姉さんは思いながらも、それは叶わず。
指先だけでも触れたいと言うささやかな願いでさえも決して叶いはしない。
そのことがとても歯がゆく思いながら、お姉さんは必至にシオウに声をかけ続けた。
声をかける事しかできないが、それでも貴方の傍には私がいると、貴方を想う存在がここにいる事を知らせるために何度も何度も声をかけ続けた。
『あっ、マズイ。じか・・・・・・』
だがそんなささやかな願えでさえも終わりを訪れる。
お姉さんが話せる時間は十分。
お姉さんと話せる時間ではなくお姉さんが話せる時間のおかげで、想像以上に話せる時間が長かった。
だが、想像以上に長かっただけで永遠ではない。
(ふざけるな! 何よこの謎仕様! 今声をかけなきゃダメじゃないの! 今声をかけ続けなきゃ! この子に寄り添わなきゃダメじゃないの! なのに何で! 何で!!)
不満を発するがその声でさえ誰にも届くことはなく。
お姉さんはただ泣きじゃくるシオウを見続ける事しかできなかった。
ズ・・・・ズズズッ
そんなシオウの元に地面に落とされた盗賊が、いや、盗賊紛いに扮したただの男が手足を縛られた状態でなんとか立ち上がる。
そしてシオウの傍まで来ると
「ごめんなざい。ごめんばはい、ごべっ」
縛られた両手でシオウの頭を掴み、地面に叩きつけた。
そして叩きつけたうえに、何度も何度も殴りだす。
「テメェが! テメェが邪魔しなきゃ! あのクソ野郎を殺せたんだ! ふざけんなこのガキ! 死ね! 死んじまえクソガキッ!」
「うぅ、うぅぅ、ごめんなしゃい。ごへんなやい」
(ざけんなこのクソジジイ! シオウに助けられといて何でシオウを殴るのよ! この! 止めろ! 止めなさいよ!)
男に殴られ続けても今のシオウが傷を負うことはない。
だが、殴られるという行為そのものがシオウに痛みを覚えさせる。
子供の頃に振るわれた暴力はそれだけ心に傷をつけるのだ。
しかも、今殴っている相手はシオウが罪悪感を覚えている相手。
騎士達に殴られ続けた以上に、心に傷を負わせる。
(コイツ殺してやりたい! 今すぐ! このクソヤロウを殺したい!)
手があるなら絞め殺したい。
足があるなら蹴り殺したい。
口があるなら噛み殺したい。
シオウが殴られ続ける光景を見せられて、お姉さんは憎悪を抱かずにはいられなかった。
だがいかに怒りを抱こうと、お姉さんはシオウの能力の一部でしかなく、ただ殴られ続けるシオウを見る事しかできなかった。
いつしか男は殴り続けたことで溜飲が下がったのか、己が子供に何をしているのか気が付き、殴るのをやめた。
そして子供に暴力を振るっている事以外にもある事に気が付いた。
何度殴っても傷一つ追わないシオウの姿。
殴っても赤く腫れあがることも、鼻を殴りつけても鼻血さえ出ない。
故に不気味。
男の目にはシオウの姿は泣きじゃくる力ない子供の姿ではなく、気味の悪い化け物に見えてしまい、男はこれ以上関わり合いになりたくないと思い逃げ出すのだった。




