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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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後悔の逃走


「助かったぞい小僧! 感謝いたすぞい!」


 無事馬車を守れたので満足したシオウは、そのまま森へ戻ろうとしたのだが、高価鎧の一人に呼び止められ、今はその馬車に乗っていたおじさんからお礼の言葉を貰っている。


『DeDeDe大王の単発火力なめんじゃねぇ!』

『ウスノロデカペンギンの攻撃なんか聞くかよ。オラッ! コンボで沈めてやる!』

『きかねぇよ! つかDeDeDeはペンギンじゃねぇし! アヒルだし!』

『はぁ? どう見てもペンギンだろ』

『けどくちばしはアヒルだろう?』

『いや全体像見ろよ。どう見てもペンギンだろ』

『いやいや、マウスを見ろmouthを! どう見てもアヒル以外ないだろ』

『いいやペンギンだ!』

『何言ってんだ! どう見てもアヒルだろ!』

『なんだと!』

『なんだよ!!』

『『ぐぬぬぬぬぬぬっ』』

『・・・張り合ってる所悪いがDeDeDeは架空の生物だからなって聞いちゃいねぇ』


 そしてなぜかおじさんの口調を耳にした瞬間から、そんなやり取りが頭の中に流れ込んできた。

 いったい何を伝えたいのかわからないが、これも何か意味がある事なのかもしれない。


「おじさん。僕小僧じゃないよ。シオウって名前だよ」


 まあ、それはさておきシオウは小僧呼ばわりすることに不満を覚え、名を名乗る。


「おじさんとはなんと失礼な! この方を誰と心得るっ!」


 だが、口調が悪かったのか高価鎧の一人に怒られてしまった。


「よいよいよいぞい。いちいちそんな事で目くじらを立てるでないぞい」

「はっ! 失礼致しました!!」


 今のやり取りでそれなりに身分の高い人なのだと理解した。

 だが、その身分の高い人は気さくな良い人なのか、失礼なシオウの言動にも気にも止めない。

 どうやら気持ちのいい人のようだ。


「しかし君は凄く強いぞいね。オジサン感心したぞい」

「そ、そんなことないよ~」

「謙遜するでないぞい。そなたほどの強き者を儂は見たことがないぞい。もっと胸を張っていいぞい」

「そっかなぁ~」

「ぞいぞい。そなたはここにいる護衛達よりも強き者ぞい。よくもまあその年でそれだけの力を身に着けたモノぞい。死に物狂いで努力いたのであろうぞいな。儂が親ならば鼻が高いぞい」

「えへ、えへへへへ~」


 誰かに称賛されるなどお姉ちゃん以外で初めてのことであり、ちょっと照れる。

 だけど存外悪くないので、もっと褒めて欲しい。


「ご歓談中失礼致します領主様。生き残りを発見しました。如何なさいますか」


 おじさんに褒められていると、新たな高価鎧の一人が現れた。

 なんかおじさんのことを領主とか言っている。

 やっぱりこのおじさん偉い人だったんだ。


「ぞいな・・・・・うむ、運よく生き残れたそのものの幸運に免じて一度だけ我自ら取り調べをしてやるぞい。今すぐ連れてくるぞい」


 ただ何でそんな偉い領主様が自ら尋問するのか疑問でならない。

 普通そういう仕事は他の人に任せて結果だけ後で聞くのが普通だと思うのだが・・・。


「りょうしゅさま?」

「ぞいぞい。そうだぞい。儂はこの先の街を取り仕切る領主ぞい。とても偉いのだぞい。だがそなたは今まで通りオジサンって呼んで良いぞい。強き者はそれだけの価値があるから許してやるぞい」

「う?・・・うん」


 なんか今変な事を言われた気がした。

 口調が可笑しいおじさんだから変な風に聞こえただけかな?


「連れてきました!」


 そうしているうちに護衛の一人が、縄で縛られた盗賊を連れて来た。


「おぉ、来たぞい。すまんがちいと待っとってくれぞい」


 おじさんはそう言うと盗賊の元へと歩いて行った。

 薄汚れた顔にスキンヘッドの頭に鋭い眼光。

 少し顔色が悪く、日頃から食事をとっていないのかやせ細った男が盗賊のようだ。


(思っていた盗賊と違う・・・)


 盗賊を見てシオウは想像とは違うことにちょっと残念に思う。

 想像では毛むくじゃらの髭に、グワハハハハハッ! とか笑っていそうな怪物みたいな姿だったのだ。

 そう言う野蛮そうな人相だと思っていただけに、そこら辺にいそうな人ではなかった。

 確かに目付きは悪いが、それ以外はそこら辺のモブと言っても差し支えない風貌だ。


「さて、貴様に問うぞい。ここに転がっている下民以外に仲間はどれほどおるぞい? そして貴様は誰の指図を受けたのか言うぞい」

(・・・ん?)

『下民?・・・・』


 盗賊は問われても何も話さずただ領主のおじさんを睨みつける。

 それが気に食わなかったのか、領主のおじさんは周りの護衛に目配せし、盗賊を殴らせ始めた。


 腹や顔面を殴る護衛の姿に、シオウはイヤそうに顔を顰めた。

 悪い人だから殴られても仕方ないし、武器を振りかざし襲うのだから殺されても仕方がない。

 それは理解しているが、無駄に痛めつけるとか・・・そう言うのはイヤだ。

 全裸にして吊るすくらいでいいと思う。


 それに今おじさんが言った言葉に、下民と言う言葉がなぜか引っ掛る。

 お姉ちゃんも同じように引っ掛りを覚えたのか、少し困惑していた。


「やめるぞい」


 おじさんの一言で護衛の動きが止まり、またおじさんが目配せをするだけで護衛は何をすべきか理解し盗賊を足蹴にし、地面に這いつくばらせ背中を踏んだ。


 ホント・・・見ているだけで気分が悪くなる。

 仕方がない事とは言え、その行動には好感を持てない。


「意地を張っていても良い事なんてないぞい。諦めて話してしまうぞい。その方が楽になるぞい。それとも家族まで不幸にされたいのか?」

「ふっ・・・・ざけるな! お前が! お前がぁ!!」

「領主様の問にだけ答えんかっ!!」

「ぐっあぁぁぁぁぁっ!?」

「あまり痛めつけるでないぞい。話したくとも話せなくなるではないか」

「はっ! 申し訳ありません!」


 躊躇なく足に剣を突き刺す護衛。

 盗賊相手だからなのかちょっと過激すぎる。


『・・・・・・・・・・・・・シオウもう行きましょう。盗賊退治も護衛の人達は助けたのだからもう用はすんだでしょ? 長居は無用よ』

『?? 行き成りどうしたのお姉ちゃん』

『いいから。ここからはどうせ見なくていい世界よ。だから行きましょう』

『う、うん』


 お姉ちゃんの声がいつもよりちょっと冷たく、有無を言わさぬ感じであった為シオウは彼等から離れることに決めた。

 おじさんに挨拶したり、盗賊達に投げつけた武器とかも回収した方がいいのかと思ったが、そんなことはしなくていいからさっさと離れなさいと急かされたので、言われるがまま離れる。

 だが、


「くっそ、くそ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソッ! お前が、お前が俺達の家族を! 友を! 殺しやがったくせにっ!」


 充分離れる前に能力で強化された聴力が盗賊の声を拾うこととなり、盗賊が血を吐くように吐き出した言葉に足を止める事となった。


「なんぞ昔遊んだオモチャであったか。なんぞい。つまらん。では貴様以外に遊べそうな輩がおらんと言うことぞい」

「何がオモチャだ! 何が遊びだ! 俺達は普通に暮らしていただけだろ! 何も悪いことしてねぇのに何で遊び半分で殺されなきゃならねぇんだ! ふざけんな! クソ! クソクソッ! 死ね! クソ豚野郎! くたばれっ! くたばりやがれっ! クソ悪党がぁぁぁ!」

「この国では力が無い者が悪ぞい。下民よ。貴様は力を得られなかった。それは貴様が悪いのだぞい。人を騙してでも、人を蹴落としてでも金を求め、権力を求め、力を求め、奪って殺して己の価値を高めていく。ここはそういう国ぞい。力無き者は搾取され、淘汰されのは必然ぞい。故に貴様が弱いのが悪いぞい」

「ふざけるな! 俺達だって何もしてこなかったわけじゃない! 俺達だって! 俺達だってっ! 努力はしていた! だが、だが、才ある者に勝てる訳ねぇだろ・・」

「ならば才無き者は死ぬだけのことぞい。凡人はこの国では搾取される続け死ぬ存在ぞい。前を進めぬ者は奪われるのが当然ぞい。貴様の家族も、友も、才が無い時点で奴隷と変わらぬぞい。死に物狂いに這い上がろうとせず、平和などという甘い世界に浸っていた報いぞい。命を賭けて駆け上らぬ貴様等は、上を見ぬ者達は強者の快楽となり死ぬが定めぞい」

「うるせぇぇぇぇ! アアアアァァァッ! 殺してやる! 殺してやる!!」


 意味のわからないことを言っている・・・と言いたいところだが、恐らく領主のおじさんが言っていることはこの国の在り方なのだろう。


 力があるモノが全て。

 力があるモノが正しい。

 ここはそういう国だと、騎士達が言っていたような気がする。


 強いことは良い事であり、弱いことは悪い事。

 シンプルな国であり、わかりやすい国であり、生きやすくも生きずらい国。

 それがこの帝国なのだと思いながら、シオウはただ二人のやり取りをフワフワした脳で漠然と聞いていた。


『シオウ! シオウ! 聞かなくていい! 聞かなくていいから早く行きなさい!』


 近いのにどこか遠くからお姉ちゃんの声が聞こえる。

 早く旅の続きをと言われているが、どうしてか身体が動かない。

 さっきから身体が雲の様にフワフワして、足に力が入らない。

 ちゃんと立っているはずなのに、地面の感触だってあるのに、なんかよくわからない。


「なんとも弱者特有の言葉ぞい。弱き事を嘆くのでもなく、力無き己を恥じることもなく、力ある者の嫉妬しかせぬのか。なんとも嘆かわしい事ぞい。これだから田舎者は本国と比べて帝国の意思が弱まり弱者しかいないのだぞい。まあよい、貴様の話は聞いてやったぞい。存分に憂さも晴れたであろう? なれば今度はこっちの質問に答えるがよいぞい」

「死ね! 死ね死ね死ね! クソ豚野郎がっ!」

「ふむ・・これはダメぞいな。おいまずは足の爪を剥がし、指を折り、肉を削ぎ、骨を抜き取るぞい。それでも何も吐かないのであれば同じように手を。それでも吐かぬのであれば二つある物を一つにするぞい。ちゃんと恐怖を刻みながらやるぞいよ」


 そう言うとおじさんは盗賊から離れ、少し離れたシオウの元へと歩み寄った。

 そして盗賊はと言うと、おじさんが離れた瞬間兵士達に靴を脱がされ抑えつけられた。

 先程おじさんが言ったことをやるつもりだ。

 足の爪を剥がすつもりだ。


「お小僧待たせたぞい。いや、シオウだったか? まあ、それはさておき、こちらも助けてもらった礼をさせてもらうぞい。力ある者に、上を目指す者に敬意を称するべきであるぞいからな。さて、何が良いぞい。金か、土地か、女か、物か、なんでも好きなことを言うがよいぞい。儂が用意できる範囲ではあるが、礼をさせてもらうぞい」

『シオウ! しっかりしなさい! シオウッ!!』

「あ・・・あ・・・」


 おじさんとお姉ちゃんが話しかけてくるが、その声はシオウに届かず、ただシオウは足を引きずるように盗賊の元へと歩み出した。

 そしていざ盗賊の爪が剥ぎ取らせそうになった瞬間


「あ・・あ・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ! だめーーーーっ!」


 地面にヒビが入るほどの力で地面を蹴り、盗賊を押さえつける護衛達を殴る・・・・いや、殴ることはできず、できるだけ怪我をさせないように意識しながら突き飛ばした。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」


 疲れている訳ではないが、勝手に呼吸が荒くなり心臓がバクバクとうるさく音を立てる。


「何をしているぞい。儂等と敵対するつもりぞい」


 シオウの奇行を目にしたおじさんの雰囲気が変わる。

 先程まで優しそうなおじさんだったのに、敵対するつもりと思われた瞬間、眼光が鋭くなる。

 怖くはない。

 騎士達と比べておじさんの睨みなど恐怖の対象には入らない。

 ここにいる護衛全員も倒そうと思えば問題なくできる。


「こ、この人は、傷付けちゃダメッ! この人は・・この人達は・・・」


 だが、シオウはそれを選択することは無く、縛られている盗賊を抱えると、森に向かって逃げ出した。

 全く意味のわからない行動。

 自分で討伐した者を今度は助けると言う奇行。

 その行動が理解できずおじさんはただ森に駆けて行ったシオウを見送った。


 先程シオウに礼をすると約束した。

 ならばあの下民を傷付けないのが礼にあたるだろうと判断したから。

 故に追っ手などは出すことはなく、おじさんは護衛達に指示を出し、何事もなく帰路に就くのだった。





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