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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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すれ違い


 丸一日クリッカーをしながら考え続け、シオウはダンジョンで魔物を倒して美味しいご飯を手に入れることに決めた。

 魔物への恐怖はあるが、それでもお腹が減って苦しむよりはマシと結論付けたからだ。


 結局は空腹の恐怖に負けただけなのだが、生存本能としては間違った判断とは言えないだろう。

 なので、シオウは着の身着のままダンジョンに訪れたのだが・・


「だめだめ。君みたいな子供を入れられるわけないだろ」


 ダンジョン入り口を警備している兵士に止められ中に入れずにいた。


「ぼ、ぼく、もう8歳になったよ! ステータスだってあるよ! 中に入ってもいいでしょ!」

「バカ言ってんじゃないよ。一人で入ったら死んでしまうぞ。いいから帰りなさい」

「や、やだよ! ここで魔物倒してご飯食べるんだもん!」

「あのな~」


 シオウの一歩も引かないと言う姿に、兵士は頭を痛そうにする。


 駆け出しの探索者でさえ安いナイフや皮鎧を装備しているモノだ。

 それに比べて、シオウは何も持っておらず言葉通り着の身着のままの姿。

 あまりにお粗末としか言えない。

 いやお粗末を通り越して、ただの自殺志願者にしか見えない。

 シオウの姿を見れば貧民区で生まれ育ったことは誰の目からも明らかであり、子供ながらに貧民区から這いあがるために、一攫千金を狙えるダンジョンに夢見ていることは誰にでも予想できただろう。


 もしも今ここにいる兵士が心無い兵士であれば、犯罪者予備軍である貧民区のガキが勝手にダンジョン内で死んでくれるのは願ったりかなったりだと思い止めることはなかっただろう。

 貧民の子供にまで優しく接することができる兵士であったのは、シオウにとって運が良かったのか悪かったのかは判断しかねる。


「君じゃ何も倒せやしないよ。いいから家に帰りなさい。それでも入りたいと言うなら、保護者連れてきなさい。それなら通してあげるから」

「ほごしゃ~?」

「ん? あぁ保護者がわからないのか?・・あれだ親だよ。お父さんとかお母さんとかだよ」


「親・・・ママとパパ」

「そう、それだ。君のママとパパを連れてきなさい。そうすれば入れてあげるから」

「・・・・・・・・」


 兵士の言葉にシオウは下唇を噛みながら、悔しそうに兵士を睨みつけ、そのまま何も言わずに駈け出した。

 貧民区に住むほとんどの子供に親はいない。

 この前シオウに突っ掛かって来た三兄弟は運がいいことに両親と共に暮らしているが、そんなのは稀だ。


 貧民区に住む子供の多くは親が死んでいるか、育てきれずに捨てられる。

 子供は一人になった瞬間、野垂れ死ぬか人買いに捕まり売られるかのどれかだ。


 そんな貧民区の状況を兵士は知っていた。

 知っていたからこそ保護者を連れて来いと言ったのだ。

 子供が一人ぼっちで貧民区で生きていけないことを知っていた故、保護者がいると勘違いしたからだ。


 そして、シオウに保護者の意味を説明した時、ママとパパと口に出したのでやはり親持ちの子供かと兵士は勘違いした。

 シオウはただ保護者の意味を確認しただけであったのだが、兵士がそれに気が付くのはなかった。

 睨みつけた理由も、大好きなママとパパはもういないのに、連れて来いと酷い事を言った兵士にムカついたからだ。

 

 そんな感じでシオウと兵士は少しずつすれ違う。


 もう少し言葉を交わすことができたならば避けられたことだったが、それが避けられるほどシオウは利口でも無ければ、亡くなった親を思い出して、悲しい感情に満ちた心が冷静に対処できることでもなかった。




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