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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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森の中で食の知識を


 人の手が入ってない森はとても歩きにくいがそれは地面を歩いた場合の話である。

 猿などは木々を伝い、時には飛んで森を進むものだ。


 そしてここにも普通の猿より身体の大きな生物が、ガシャガシャと音をたてながら木々を伝い、森を進んでいた。

 普通の猿よりも動きが早く、尾の代わりに大量の武器を背負い、片手に焼いた肉を持っている生物・・・それは


「うききききっ~」


 まあシオウしかいないだけれど。


『疲れてはいないでしょうけど、もう少し進んだら一息入れなさいね。森の中は何が起こるかわからないのだから、体力は余裕を持っておきなさい』

「うっきー!・・・じゅる」

『返事は“はい”でしょ? それと移動中に物は食べちゃダメよ。休憩の時にしなさい』

「はいっきー!!」

『・・・またヘンなことを』


 猿真似をしながら森を進むシオウに呆れるお姉ちゃん。

 ホントにこの子は一人でも結構楽しそうな事をしているなと思う。


 森を進み続けるシオウの目的地はこの国ではない他国だ。

 とはいっても他国がどこにあるのか、そもそもこの世界の地図などシオウの頭の中には入っていないので、ただ東へと向かっているだけ。

 一方向に進んでいればその内他国に着くだろうという安易な考えの元進んでいるだけだ。

 まぁそれでもたどり着けるだろうが、森の中を進むなど普通考えるものではない。


「うききうき~! うき~・・うき? お姉ちゃん! 見て見て! あそこに蜂さんがいっぱいいるよ!」

『あら本当。近くに巣があるんじゃない?』

「おぉ! ならハチミツあるかも! 食べたい!」

『う~ん、蜜蜂じゃないかもしれないから蜂蜜あるかわからないわよ?』

「大丈夫! ブンブン言ってるからあるよ!」

『どの蜂もそんなふうに鳴くモノだと思うけど・・・・まあいいわ。今のシオウの身体なら蜂の針なんて刺さらないし、仮に刺さっても免疫力が高くてアナフィラキシーを起こす心配もないでしょ』

「あな??」

『気にしなくていいわ。それよりお肉持ったまま行くつもりな「ぱくんっ!」一口で食べない! のどに詰まったらどうするの!』

「むががむもちゃもちゃむぐうぐ!」

『食べながらしゃべらない!』

「むが~い」


 まあ片手に持っていた巨大な肉を一口で食べながら大量の蜂に群がられて蜂蜜探しをしている生物に、普通を求めるのはいささか無理な話なのだろう。






「ふは~~~~~、おいしかった~~~」


 運よく見つけた蜂が蜜蜂だったおかげで蜜を手に入れることができたシオウ。

 今は蜂蜜を食べ終えベタベタになった手を舐めている所だ。

 かなりの量の蜂蜜を食べたし、時々真っ白な蜂の子が出てくるがそれも残さず食べた。

 蜂の子って結構うまいんだね。

 貧民区にいるときは冬を越すために秋にはイナゴやコウロギを捕まえて食べたり、冬になったら、樹に潜んでいる昆虫や幼虫を食べたりして飢えを凌いでいたけど、あの昆虫達より蜂の子はプチっとした食感と濃厚な味わいがあってとても美味しかった。


『お肉と甘い物ばかり食べてると身体に悪いからお野菜も食べなさいね』

「は~い。けどお野菜なんて持ってなから違う国に行ってからね」


 残念なことに野菜は買ってきてない。

 生野菜は微妙に嵩張るし、長持ちもしないから。


『それなら安心なさい。注意深く見れば食べられるお野菜があるわ』

「そうなの?・・・う~ん? 僕の知ってるお野菜どこにもないけど・・・」


 ぐるりと周りを見回してみるが、お店で売っているような野菜は見当たらない。

 

『お店で売っているような物はないわよ。けれど比較的森で木の実や野草を採取する人達なら知っているお野菜があるわ。ほら、左の蔦に むかんご があるじゃない』

「むかんご?」


 お姉ちゃんに指示されて左を向けば、小指ほどの茶色い小さな芋のようなモノが何粒も蔦にくっついていた。

 これがむかんごというやつだろうか?


「この茶色いの?」

『ええそうよ。それは芋科の仲間でむかんごって言うのよ。だから食べても大丈夫。それとその下には大きなむかんごの、そうねお母さんお芋が地面に埋まっているわ』

「おぉ! なら掘る!」


 大きな芋があると聞かされれば掘る以外に選択はない。

 なので掘ろうとしたのだが、


『待って、今は掘らないで』


 お姉ちゃんに止められた。


「なんで~? この地面の下にご飯があるんでしょ?」

『掘り起こすにも時間がかかる・・・・かどうかはわからないけど、服が泥だらけになっちゃうし、そもそも食べる分だけを採取するなら目の前にあるむかんごだけでいいわ。他にも採取できる物はあるしね』

「え~! けどおっきなお芋食べたいよ!」

『そう? 私は別に構わないけど、そうなると今日の夕食がお芋だけになるけどいいの? 他にも美味しそうなものが取れるかもしれないのに?』

「う? 他にも食べられるのがあるの?」

『ええ、取れるわね』

「・・・・わかった。なら諦める」


 流石に夕食が芋だけと言うのは味気ない。そう思い掘るのは諦める。

 お母さんお芋を掘るのはまたの機会にしよう。


「それじゃあ、むかんごを袋半分くらいまで取っておきなさい。生食できるけど塩ゆでにした方がもっと美味しくなるから我慢なさいね』

「うん! 我慢! 任せて!」


 美味しいと言う言葉にシオウはポケットから袋を取り出すと、食べたいのを我慢しながらむかんごを採取していく。

 軽く触れるだけでぽろぽろと落ちてしまうむかんご、普通ならば何粒か地面にこぼしてしまうところだが、そこは無駄に高い身体能力を生かして一粒も取り零すこと無く全てのむかんごを袋に入れていった。

 食が関わるとハイスペックな動きを見せるシオウである。


『シオウ。そろそろむかんごは取らなくていいわ。そればっかり取っても仕方ないしね。今度は右奥にある植物を取りなさい。丸い葉で真ん中がツンとなっているモノよ』

「う? これはな~に?」

『オオウバコッンよ。根っこ以外全部食べれるから取っておきなさい』

「は~い」


 そして、お姉ちゃんの指示の下シオウは森の恵みを次々と手に入れていった。

 そのおかげと言うか教えのおかげでシオウは少しずつ大自然の中で食べられる野草や木の実がどれかを覚えていった。


『紫色の木の実もあるわね。あれも食べられるわよ。名前はクラッ! って言う、なぜか怒られる変な名前の木の実よ。食べ過ぎると口の中が紫色になってしまって、汚れた口を服の袖で拭ってお母さんに怒られたのが名前の由来らしいわ』

「へ~」

『それとこの季節は川の近くの方で野草が取れるから、水の音が聞こえたらそっちに向かってね。方角が少しずれても後で修正してあげるから』

「わかった~。けど川の近くでなんのお野菜が取れるの?」

『そうね。例えばユキガシタや、ダイモロウジソウ。ちょっとした崖なんかあればイワタバタバコが取れるわ。下処理が必要でおひたしにするか揚げるかの調理法しか思いつかないし、もしかしたらシオウの舌に合わないかもしれないけど大事な栄養だから我慢して食べなさいね』

「大丈夫! ご飯は残さないよ! 食べてお腹痛くならないなら全部食べるもんね!」

『うん、ならよかった』


 初めて聞く野草や木の実の名前。

 一気に説明をされても普通は覚えきれないのだが、こと食べ物が関わると異常なまでに優秀になるシオウ。

 説明された言葉を一字一句聞き間違えることなく覚えていき、必死に川の音を探りながら木の実や野草を採取していった。


 あまりに夢中になっている姿に、お前この国を出ていくために他国を目指していたんじゃないのかよ。山菜取りなどしてないでさっさと先を進めよ! と言うツッコミを言いたくなるが、今は置いておこう。

 別にシオウにとってはそこまで急ぐ旅でもないのだから。


 それに知識が深めるのことは良い事だ。

 お金がなくとも食べ物が得られる知識は、お金以上に代えがたい宝なのだから。


「お姉ちゃんキノコあるよ? これ食べられる?」

『毒があるけどシオウなら食べられるわよ』

「僕なら? なら他の人は食べちゃダメなの?」

『ええそうよ。シオウは能力のおかげで身体能力以外にも病気や毒などの耐性が上がっているわ。流石にベニテンググダケとかの猛毒はまだ食べられないけど、クリッカーのステージをどんどん上がっていけばその内猛毒の食材でも問題なく食べられるようになるわ』

「それって・・・・僕だけ食べられる物が増えるってこと?」

『そう言うことね』

「っーーーーーー!! それいいね! もうお腹空いて悲しくなる日が無くなるってことだよね! 食べられる物が増えるってそう言うことだよね! よーし! 後でもっと訓練しようっと! そしていっぱいステージクリアして食べられないの失くしてやる!」

『ええ、そのいきよ』


 ただし、シオウが得ている知識はシオウのみが使える知識である為、他の人に教えようとしても全く使えないだろう。

 だって最終的には猛毒のフグンでも美味しく食べられるようになるのだから。




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