お姉ちゃんは敗北の味を知る
『ステージクリア! ステージ33に上がります! くわえて貴方の全てが上昇します!』
「やった~! あがった~!」
森の中で一夜を過ごしたシオウは、目が覚めると朝の準備運動がてらクリッカー画面に打ち込みをしていると、不意に機械じみた声が聞えてきた。
相変わらずステージクリアするたびに身体能力などが上昇しており、軽く人外じみてきているが、そんな恩恵よりも
『おめでとうシオウ。よく頑張ったわね』
ステージをクリアするたびに褒めてくれるお姉ちゃんの言葉が嬉しかったりする。
いつからかステージをクリアすると褒めてくれるようになった。
褒めてと言えば多分褒めてくれるだろうが、そんなお願いはしたくないし、そんなので褒められても嬉しくない。
なので、純粋に褒めてくれるこの状況が大好きだ。
「えへへ・・・えへへへへへへ」
ニコニコと笑いながら、照れ隠しするようにベシベシとクリッカー画面を叩く。
画面上に映るスライム村のスライム達も相変わらず喜び跳ねているので、なんか皆に褒められているかのように思え嬉しい。
そんなんじゃないとはわかっていても、喜びは抑えられなかった。
「えへへへへ。ねぇお姉ちゃん。僕ステージクリアしたってことはまた強くなったんでしょ? ならあの騎士達にも勝てるかなぁ?」
先日兵士達と戦ってみて、自分が結構強いのではないかと思うようになったシオウ。
別に浮かれている訳でも、騎士達の実力を甘く見ている訳でもない。
だが、鉄の武器を破壊することができ、更には兵士達の動きがとっても遅く感じる不思議現象を知ったのだ。
ちょっとくらい自信が付いても仕方がない。
『う~ん、流石にそれは無理ね。彼等は数少ない特級探索者並の魔装の使いだもの。彼等に勝つには最低でもステージ50までクリアしないと』
「うえ!?」
勝てないまでも少しは戦えるだろうと思っていただけにちょっとショック。
というかステージ50なんてまだまだ先だよ。
あの騎士達そんなに強かったの?
『素の身体能力だけならシオウの方が上よ。けれど彼等はシオウとは比べられないほど場数を踏んでいるわ。経験が貴方の身体能力を凌駕するのよ。それに彼等はかなり上位の魔装の使い手のようだからね』
「ま・・・ずそう?」
『誰が感想を求めましたか。魔装です。ま・そ・う!』
全くこの子は行き成り何を言っているのか。
お腹でも減ったのかしら。
『魔装と言うのは魔力を己の身体や武器に纏わせる技のことよ。あれをやられるとどんなに頑丈な身体であってもダメージを負わされるから厄介なのよね』
「ふ~ん・・・・・あっ、だから僕が固くなっていてもあんなに痛かったんだね! この武器にだって負けないくらいカチコチだったのに、なんでアイツ等に殴られて痛かったのわからなかったけど、そう言うことだったんだね!」
『ええそうよ、どんなに固くても・・・・・いえ、頑丈でもと言い換えましょうか。ちょっと変にとらえかねないわ』
「う?」
『なんでもないわ。気にしないで』
若干下ネタ的な事を考えてしまったお姉ちゃんだが、すぐに自分は何を考えているのかと首を振り変な事を頭から追い出す。
前回あられもない姿にさせられた兵士達や、シオウが毎度毎度楽しそうに男のアレを指差したり、自分のをつついたりするのが原因かもしれない。
『話を戻すけどその魔装と言う技を使われると、いかに頑丈な肉体であっても防ぎようがないのよ。魔装は己の魔力を相手の魔力に干渉させ、かき乱し暴走させるの。微々たる量であっても他人の魔力が混ざると言うことは毒が混ざると言う事。そして魔力の混ざり具合で身体は痛みを覚え、感じた痛み通りに体は変化し怪我を負う。確かシオウの手足に風穴を開けていた騎士がいたでしょ? 本来ならば指先が肉も骨も貫くなんてできないのにそれができたのは、己の指先に魔力を集めシオウの身体に触れる瞬間、魔力に干渉したのが原因でだったの。本来身体にけがを負わせることができなくても、その者の魔力をかき乱すことで肉体を損傷させたと思わせることができるのよ』
「・・・・・・うあ~?」
『大丈夫?』
「う~ん・・・・・・・・・多分?」
長々と説明されたが、要するに魔力で攻撃されたと言うことだな。
うん、大丈夫理解できた・・・できたかなぁ。
「う~ん・・・あっ」
『あら、これは・・・・・・・またなんとも』
お姉ちゃんの説明を必死に理解しようとしていると、行き成りシオウの頭の中に映像が流れる。
その映像もお姉ちゃんは見ることができるのか、驚いたというより、呆れたような声を出していた。
『おらーーー!! 全ての気を解放するぜー!』
『おーーーーっ!! こっちは念の解放だぁ!』
『うおぉぉぉ!! 今ここで暗黒竜の封印を解く! 全てを焼き尽くせ! バーニングファイヤー!』
『おいっ! そこは暗黒竜なんだからブラックとか、ダークとかついた技名にしようぜ!』
『そうですよ。バーニングファイヤーってなんかヒーローものの主人公が使ってそうな技ではないですか』
『い、いいだろ。響きが好きなんだから』
『いいわけないだろ! 大事な設定なんだから壊すなよ! それに俺達身体強化するキャラでやってんのに、一人だけ放出系は止めろよな! それじゃあガチンコバトルするとお前が一発で負けちまうだろ!』
『そうです! 念を防げるのは念だけ・・・あっ、そうなると全員無条件でダメージ通ることになってしまいますから、気と魔力を身体に纏っていれば問題ないってことでいきましょう! だからダーク・ブリンガーさんも身体強化系のでお願いします。それとも暗黒竜は肉弾戦できない魔法職設定ですか? それなら遠くから撃っていてもらって構いませんよ?』
『なっ!? 暗黒竜の力をバカにするなよ! 暗黒竜にだって炎を身体に纏わせて戦う奥義があるんだ! 身体能力だって爆上がりするんだぞ!』
『だったらそれ使って勝負だ! ちゃんとダークっぽい技名付けろよ!』
『そうだぞ! ということで・・・やってやる! 行くぞー!!』
『こーーい!』
『かかってこーい!!』
『よーし行くぞー!・・えっと・・えっと・・・・・・・・・・バーニングファイヤーエクスタシー纏い! あっ、あとダークでブラック!』
『『ざつっ!?』』
そんな映像が流れていた。
いったい何を見せられているのかと思うだろうが、これはシオウの数多く保有している前世の記憶である。
たまに流れるのだよ。
そしてどれがシオウの前世なのかは、まあ語らずともわかるだろうし、わからずとも、
「おぉ~~!! バーニングファイヤーエクスタシー纏いのダークでブラック!」
何に感銘を受けているのかがわかる時点で、どれがシオウの前世であるかは理解できることだろう。
『・・・・・・・・・』
「う? バーニングファイヤーエクスタシー纏いのダークでブラック!!・・・・う? ダメだできない。なんで~??」
『そりゃあできないでしょうよ』
そんなふざけた掛け声一つでできてたまるかと思うのは当然である。
「む~、やっぱり奥義は難しい。バーニングファイヤーエクスタシー纏いのダークでブラックを習得するのはまだまだかかりそう」
『・・・その名前長いからやめなさい。それに今は魔装の話をしているのよ。ちゃんと理解できてないでしょ?』
「う? 要するにあの人達みたいに魔力を身体に纏えってことでしょ? 敵に攻撃する際は拳に魔力を集めて、防御する時もその箇所に魔力を集める。あの人達がやっているみたいに」
『いえ、あの人達そう言うことは一切やっていない・・・・・・・・加工されてる』
ちょっと目を離した隙に、彼等は己の戦いのシーンをビデオに収め、パソコンでCG加工を施していた。
そしてできた映像を皆満足げに見ているのを、シオウも見ていた。
うん、何だこの前世の記憶、さっさと消えてしまえ。
「うん! 大体理解した! 魔装って要するにアレみたいなものでしょ!」
『そうですけど。確かに物凄く近いのですけど・・・・・なんでしょうこの感じ。説明した時間を返せと言いたいわ』
シオウが魔装について理解してくれたのは嬉しいが、なんかこのふざけた記憶に負けたのが癪に障るお姉ちゃんなのであった。




