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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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一休み


『お金・・・増えちゃった』


 お姉ちゃんの言う通り行動したら兵士達がお金を返してくれて、そしてなぜか自分達のお金もくれた。

 いらないと言っても聞いてもらえず、ずっと勘弁してくれと言うだけなので、仕方なく受け取ることにした。

 お姉ちゃんが別に悪い事じゃないわよと教えてくれたしね。

 多分受け取るのが正解なんだと・・・そう思うことにした。


『お金が増える分にはいいことよ。これでギルドに再登録料も心配しなくてよくなったし、いいこと尽くしじゃない』

『そうなんだけど・・・・なんだかなぁ』


 昔悪い大人達が今回みたいに人からお金を奪っていたのを見たことがある。

 だからなんかこれは良くない、そう思う。


『こういうやり方はイヤ?』

『うん・・・・なんだかヤダ。なんかね。お腹?が変なんだ。えっと、うまく言えないけどこれでご飯食べても美味しいけど美味しくないと思っちゃいそうなんだよ』

『そう・・・・なら次からはお金を渡されても受け取らないようにしましょうか』

『うん、そうする』


 なんとなくだがシオウの言いたいことがわかりお姉さんは了承する。


『まあ、今回は仕方がないからそれはありがたく使わせてもらいましょう。ギルドの再登録に宿代、それに新しい装備も買わないといけないんだから』

『宿? えっ!? お家に泊まれるの!?』


 ギルドの登録と装備を買った(貰った)ことはあるシオウだが、未だに宿を利用した経験はない。

 今までずっと野宿&路上&倉庫生活だったのだ。

 なので柔らかなベットの上で寝たことなどなかった。


『や、宿ってとっても高いんでしょ? ご飯が二、二十回? 三十回?・・えっと、いっぱい食べられるほど高いんでしょ?』


 貧民区にいた時にたまに食べていた安くて固いパン。

 そんなパンが何十個も食べれる料金を払わないと宿屋に泊まれない、高級な場所。

 宿屋とはそういうところだとシオウは認識している。


『あ~・・・まぁそれくらいの値段はするでしょうね。けどシオウは熟睡したことないでしょ? 身体や精神が強化されているとはいえ限界はあるわ。だから休めるうちにちゃんと休んでおかないとね』

『う? 夜はちゃんと寝てるよ?』

『ちゃんとは寝れていないでしょ』


 貧民区で育ったシオウは基本警戒心が強い。

 物音一つ聞こえればすぐに目が覚める。

 まだ幼い為、寝ぼけてすぐに行動することはできないが、それでもすぐに目が覚ましてしまう。

 故に一度眠れば何をしても起きない子供特有の熟睡というものを経験したことがない。

 なので身体に限界が来る前にここらでちゃんと休ませようとお姉さんは考えていた。

 それに生まれてこの方熟睡したことが無いのは、あまりにも不憫というお姉さんの親心でもあったりする。


『それにあの兵士達のせいで私とも話せる時間がかなり減ってしまったわ。今日は宿でゆっくり休んで、明日一緒にギルドに行きましょう? 一日くらいならゴロゴロしてご飯を食べるくらい資金に余裕はあるんだから』

『ご飯食べながらゴロゴロ?・・・・スライムつんつんしながらゴロゴロしていい?』

『ええ勿論。好きなだけクリッカーで遊んでいいし、柔らかなベッドの上でいっぱいゴロゴロネムネムしていいわよ』

『お、おぉ!! つんつんごろごろねむねむ!』


 なんだその夢のような生活はと言いたげにシオウは目を輝かせる。


『だから今日は宿屋でゆっくりしましょう? ね?』

『うん! そうする!』


 そして数秒前まで、宿なんてとても高くて手が届かないよと言わんばかりのシオウであったが、すぐに欲望に負け、いわれるがままに宿屋へと向かっていった。

 多分お姉さんが大丈夫と言ったからそう思っているのだろう。

 もはや自分の意志がないのではないかと言わんばかりの信用ぶりである。







「お、おぉぉぉぉっ!!」


 質素な部屋。

 ベッドと小さなテーブルと椅子があるだけのが質素な部屋の中でシオウは叫ぶ。


「うりゃ!」


 ベッドにダイブすれば、ふかふか・・・・とは程遠いが、地面よりも柔らかで冷たくない感触がそこにあった。

 椅子にドカリと座っても、机の上に寝そべっても誰にも怒られない。

 たったそれだけのことだが、それだけのことができる状況にシオウは感動していた。


 隙間風も無ければ、扉に鍵も掛けられる。

 扉の鍵は木製であるので防犯設備バッチリとは言い難いが、それでも扉に鍵が付いている時点でシオウにとってはハイテクであった。


「これが高級宿。しゅ、しゅごい」

『どう考えても高級宿ではないでしょ』


 冷静なツッコミもなんのその、シオウは狭い部屋の中で飛んだり跳ねたりと楽しそうにはしゃぎだす。

 ただまぁ


「うるせぇぞ! 静かにしやがれ!!」

「うひぃっ!?」


 部屋の中で暴れていれば当然怒り出す者もいる。

 そして運が悪いことに隣にはシオウと同じように部屋でゴロゴロ予定の者がいたため、怒鳴られてしまった。

 シオウは悪い事を隠す子供の様にびしりと動かなくなると、僕じゃないよと言わんばかりに布団にもぐり込んだ。


『まったく、はしゃぎ過ぎよ。楽しいのはわかるけどもう少し落ち着きなさいね』

「うん・・・・けどね。けどね。すっごく嬉しいだよ。こんなに寒くない所初めてなんだもん。虫だっていないんだよ」

『そうね。確かに今までの環境を思い返せば天と地ほどの差があるわよね』

「うん、すごく、すごく柔らかいんだ・・・・・まるで干し草の上で・・・・寝ているみたい・・・・・・とってもあったかくて・・・・眠く・・・・・・・・・・・・・すぅ」


 パタパタと足をばたつかせながらお姉さんと話していると、ここ数日の疲れがでたのか、シオウは静かな寝息を立て始めた。


 警戒心が強い故に外で熟睡できていなかったシオウ。

 この部屋は鍵というのがかかっているので、外よりは危険が少ないと本能が感じ取ったのだろう。


『よかった。ちゃんと寝ているわね』


 日頃から眠っていても半覚醒状態のシオウ。

 粗悪な寝具であっても、そこまで柔らかくないせんべい布団であっても、初めての寝具に警戒心が緩んだおかげか、やっと身体と心を休ませることができた。

 中々休ませられない状態に危機感を覚えていたお姉さんは静かに寝息を立てるシオウを見て安堵すると、これ以上話せる時間を減らすのは良くないと思い、己も眠る様にシオウの中で静観する。

 どうか少しでも静かに眠る時間が続きますようにと願いながら。

 そして


「おい! さっきから騒がしいバカはどこのどいつだ! 出てきやがれっ!!」


 その願いはものの数秒で打ち砕かれる事となった。


「・・んん・・・ん~・・・・・うるさいよぉ」

『チッ、空気読みなさいよ。実体化できれば今すぐ黙らせるのに』


 そしてそんな願いが敵わないことにお姉さんは口汚くなるのだが、ぎりぎりシオウの脳が覚醒する前だったので気付かれることは無かった。




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