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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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脚本はお姉ちゃん 俳優は僕 観客は兵士


 街を囲むように石壁が積まれている。

 とはいっても家よりも高く積まれている訳ではなく、獣が侵入できないくらいの高さでしかない。

 大人ならば頑張れば乗り越えられそうな、そんな高さである。

 あれだね。

 只今建設途中・・・てきな感じだ。

 そして、そんな建設途中の街の入り口でシオウは


「俺等への心付けを忘れてるぞ」

「さっさと財布渡せ。そうすりゃ入れてやる」


 禄でもない兵士に絡まれていた。

 と言うか門番? に絡まれている。


 街に入るには小銀貨一枚払うだけでいいと言っていたので、パンパンに膨れ上がっている革袋から小銀貨を取り出すと、その膨れた革袋を見てそれを寄越せと兵士達が言ってくるのだ。

 中身までは流石に見られていないが、それなりに入っているだろうと思い奪いに来たようだ。

 こんなことして法的に許されるわけがない・・・・と思うだろうが、残念なことにここは帝国。

 強者であれば弱者から奪おうが殺そうが好きにしていい国だ。


 なので仮にこの兵士達が誰かを殺したところで罪には問われない。

 ただし人を殺し、奪い続ければ恨みを買うことに繋がり、その結果報復されても文句は言えないので、この兵士達も流石に無意味に人殺しをしない。

 この兵士達は弱そうな相手や、仮に殺しても足のつかなそうな者を襲うだけだ。


「さっさと渡せって言ってんだろうが! 殺されてぇのか!」


 要するに質の悪いチンピラ。

 その程度の兵士がドスの入った声で脅してくる。


「・・・・・・・・」


 いつもならば、大きな大人の声にビクつくのだが・・・何故だろう。

 全然怖くない。

 なんかこの兵士達の事が全然怖くないのだ。

 自分よりも大きな身体なのに・・・。


『それは最近まであの騎士達の相手をしていたからだと思うわよ。アイツ等と比べたら目の前にいる兵士なんて精肉店のお肉でしかないじゃない』

『僕精肉店のお肉の方が怖いよ? ときどき物凄く高いお肉とか売られているんだもん。お肉がね。たった一枚のお肉がね。僕の一食分以上のお値段するの。何十倍も高かったりするの。あれは怖かったよ・・・・そしてそれをいっぱい買っていくお客さんもいてとても怖かったよ』

『なんだか怖さのベクトルが違うような気がするけど・・・・まあいいわ』


 今思い出しただけでも恐ろしい。

 あんな食材が売られていることも、あんな食材を大量買いしていく人も恐ろしい。

 あんなの間違って注文でもしたら、お財布の中身がすっからかんになったうえで、悪い悪い罪人さんになっちゃうよ。


「おいガキ、悪いことは言わねぇからさっさと寄越しな。じゃねぇとコイツの拳が火を噴くぜ。なんてったってコイツはあの大岩を砕いた怪力の持ち主だからな」


 お姉ちゃんと話していると、もう片方の兵士がそんな事を言いつつ、アレを見ろと言わんばかりに転がっている大岩を指差した。


 大岩・・・・・大岩だろうか? 確かに大きくはあるがシオウの背丈より低い。

 なので大岩と言うより岩・・・いや、大きな石と言った方が適切のような気がする。

 そして砕いたと言っているが、何処が砕けているのだろう? 普通に丸っこい大きい石が埋まっている様にしか見えないのだけど・・・・。


『僅かにだけど角の所が少し欠けているわ。多分砕いたってアレのことを言っているんじゃないかしら?』

『え?・・・・・・・どれ?』

『あそこよあそこ。右の所。他とは違って少し白くなってるでしょ?』

『ん~~~?? ダメ。わかんないよ』

『まぁ・・・そうよね』


 注意深く見てもよくわからない。

 それほどの変化だ。

 というか、そんな大きな石を見せられて凄いだろと言われてもどう反応して良いのかわからず、視線が石と兵士を行き来する。


「わかったらさっさと寄越しな。痛い目みたくないだろ?」


 その行動が狼狽えているとでも思ったのか、兵士が得意げになりつつ優しく脅してきた。


 どうしよう・・・失礼だとは思うけど、この人頭大丈夫かと本気で心配になる。

 だって、騎士達を思い出すとあの程度の石なんて遊び半分で砕いてそうなのに、この兵士は欠片ほど削った程度で得意げになってるんだもん。

 それでどう怖がればいいのかわからないよ。


『もう面倒だから無視して街に入っちゃったら?』

『そうしたいけどこういう人達って、無視したら後で絶対嫌がらせしてくるよ。ご飯食べてるとき邪魔してきそうで僕ヤダよ・・・』


 こういう人種はとにかくしつこい。

 イヤな事をいつもしてくるのだ。

 だから関わり合いになりたくないのだが、今回は運が悪いことに関わってしまった。

 なんかそう考えると街に入らなくていいかなとも思えてしまう。

 別に今の所問題なく街の外で暮らせているし・・・。


『確かに、せっかくまともな生活が送れそうなのに邪魔されるのはイヤね・・・・あっ、そう言えばこの国は強者が優遇されるはずよね。ならあの石を砕いて・・・いえ、それよりもアレを使って・・・・・そして・・・・ぶつぶつ』


 行き成りブツブツと独り言を発しだした女の人にシオウは首を傾げながら、金を寄越せと手を突き出してくる兵士に視線を向けつつ距離をとった。

 距離をとったシオウに兵士達は逃げ出すつもりなのかと思い、逃がさぬために腰に差している剣を掴む。

 そしてこんな人達にやっぱり関わっていられないと思い、シオウは逃げ出そうと足に力を込めるが、逃げ出す前に女の人から指示が飛んできた。


『逃げる必要なんてないわ。シオウ。まずお金を兵士に渡しなさい。次にあの石を持ち上げるのよ。勿論片手でね』

『ん? お姉ちゃん今僕の名前・・・・』


 何気に初めてシオウと名前を呼ばれた。

 いつもは貴方としか呼ばれないのに。


『あら? ごめんなさい。少し気持ちが高ぶってしまったわ』

『う、ううん! いいよ! シオウって呼んでいいよ! 僕そっちのほうがいい!』

『そう? ならそうさせてもらうわ』

『うん!』


 名前を呼ばれただけだが、凄く嬉しい!

 なんか一気に仲良くなれた気がする!


『それはそうと話を戻すわよ。さっき私が言ったようにまずお金を兵士に渡しなさい。そして渡し終えたらすぐに、あの石を片手で持ち上げなさい』

『えっ? お金を? それに石って・・・・・・・・・・・あれとっても重そうだよ』


 石はシオウほどの背丈もないとはいえ60㎝以上はある。

 重量計算の仕方はわからないがシオウだが、誰がどう見ても軽く1tは超えている。

 そんなモノを人力で持ち上げられるわけがない。


『大丈夫。今の貴方は・・・ううん、今のシオウはクリッカーのステージが30になっているのよ。あの程度の石ころ軽く持ち上げられるようになっているわ』

『う?・・・・ほんとう?』

『ええ、本当よ。それとも私の事が信じられない? それなら仕方がないから逃げていいわよ。けど信じてもらえないのはお姉ちゃんとっても悲しいなぁ』

『うえ!? そんな事無いよ! 僕お姉ちゃんの事信じてるぞ! すっごくすっっっごーーーーーーく信じてるぞっ!』

『そう、なら言う通りにして』

『いえっさ~!!』


 どっちが主人なのかわからなくなるやり取りをした後、シオウは言う通りに兵士に金が入った革袋を渡す。


「はっ、わかってるじゃねぇ・・・・・・・・・・か?」

「利口なのは長生きす・・・・・・る・・・・・・は?」


 そしてすぐに指示通り石を掴み持ち上げる。

 持ち上がるのかとか、持ちあがらなかったらどうしようとか一切考えず、ただ女の人の言葉を信じ、石を掴むと大根を引き抜くようにして持ち上げた。


『シオウ。石を掴んだまま、いつもの様にクリッカー画面を殴る時の様に振り回しなさい。人に当てないようにね』

『いえっさ~!』


 指示されるがままにシオウは石を掴んだまま振り回す。

 ブンブンと可愛らしい音ではなくゴウゴウとまるで嵐の風の様な音を奏つつ、風を巻き起こしながら周囲の木々を揺らす。


『最後は地面に思い切り叩きつけなさい。遠慮せず。むしろ石を壊すつもりで本気で叩きつけなさい』

「いえっさ~!! でぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 振り回すことに集中し過ぎたのか、女の人への向けた返事が口から言葉となって漏れてしまったが、それもすぐに気合の入った声で掻き消えたので問題ないだろう。


 そしてその気合の入った掛け声とともに振り下ろされた石は、地面を揺らし、轟音を響かせた。

 ホントに小さな地震ではあったが、街の住民がなんだなんだと騒ぐほどである。


『ご苦労様シオウ。けどまだやることがあるわ。今度は身体を動かすのではなく。私が言った通りに声を出してね。出来れば大きな声で』

『う? お姉ちゃんの代わりにおしゃべりすればいいの?』

『そうよ。お願いできる?』

『まっかせてよ!・・あっ、違った。いえっさ~!』

『それ気に入ってるの?』

「それ気に入ってるの!」

『あ、もう始めてるのね』

「あ、もう始めてるのね!」

『・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・」


 素直であり、言われた通り元気いっぱい言葉を発するシオウだが、なんとも融通の利かない子だと思う女の人。

 だが、その言葉はけっして口に出すことはなく、目的を達する為に言葉を伝えた。


「『物言わぬ石ころでは面白くないな! やはり悲鳴の一つもあげてもらえねば楽しめぬというもの! どこかに鎧を纏った良き重しはないものか!・・・・・ああ! そこにいたよな! 俺から金を受け取ったものがいたよな! さぁ対価を寄越せ! その身を俺に寄越』しぇ!!・・・あっ・・・噛んじゃった」


 慣れない口調と長いセリフのせいで、最後の方は失敗したが、おおむね女の人が言った通りに話せたので良しとしよう。

 女の人も怒ってないから多分セーフだ。


『シオウ。ここからは話さなくていいからね。いつも通り私とシオウの二人だけの秘密のお話をしましょうね』

『うあ? もういいの?』

『充分よ。ただもう少しだけ私の指示通りに動いてもらってもいい?』

『いいよ! 何すればいいの?』

『ありがとう。なら手を前に出しながら兵士達の元に歩いて行って。そして笑顔で・・・・・そうね。とっても美味しいパンが貰えると想像しながら兵士達の元へ歩いて行ってもらっていい?』

『う?? とっても美味しいパン?』

『ええ、想像を絶する程に柔らかくて甘くてモチモチしていてフワフワしていて頬っぺたが落ちちゃうくらい美味しいパンがタダで貰える。そんな想像できる?』

『う? 要するに美味しいパンが食べられる想像すればいいんでしょ? まかせてよ! じゃなかった! いえっさ~だよ! いえっさ~!!』


 その指示にどんな意味があるのか知らないが、お姉ちゃんの言われた通り、とっても美味しいパンが貰える想像をしながら兵士達の元へと歩み寄った。

 満面の笑みと垂れるよだれを啜る姿はどう見ても腹を空かせた子供。

 だがしかし、人外離れした力を目の当たりにした者が、よだれを垂らして近寄ってくるシオウの姿をどう見えるかなど、言わずとも想像できるであろう。





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