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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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三兄弟


(新しい寝床探さなきゃ)


 先日奥様達の話で聞いた貧民区の大掃除。

 その内と言っていたので、今日明日の話ではないと思うが、できるだけ早く貧民区から離れた場所で寝床を探さなければならない。

 でなければなんの犯罪を犯していない子供まで皆斬り殺されるか、追い出されるか、人買いに売られてしまう。

 早急に貧民区以外で身を潜められる場所を探さなければ、シオウの未来は禄でもない暗闇に落とされることとなる。

 そう危機感を覚えつつも、今日も今日とて腹を満たすためにゴミ捨て場へと向かった。

 お腹が減っていては何もできないし、まずは今日を生きないといけないからね。


 ふとゴミ山に向かうシオウの頬を風が撫でた。

 肌にベタツク嫌な風だが、その風はシオウにとってなじみ深い風であるため嫌な気分にはならない。


「・・・・・・あそこにいけば、いっぱいご飯が食べられるんだけどなぁ」


 シオウが見ていたのは、光り輝く青い海だった。


 この街は港町。

 海の幸が豊富に取れる港町だ。

 できれば海で食料を調達したいが、貧民であるシオウが海に向かうと、決まって誰かに絡まれる。


 海の物は誰の物でもない。

 だが、それが適用されるのは税を納めている平民の話であり、それ以下の身分の者には適用されない。


 海は税を納めている平民達や平民以上の貴族達の物。

 身分を持たないシオウが訪れる事を許されない場所だ。


 それでも行くと言うならば、闇夜に紛れていくしかない。

 それならば誰にも見つからずに食べ物を得られるだろう。


 ただし、夜の海は昼間の海と比べ物にならないほど危険だ。

 波に攫われる危険を冒しつつ、たいまつを付けずに手探りで食料を探すことになる。

 しかも毒のある貝や魚に気付かず触れて死ぬ恐れもある。

 真っ暗な海は、それこそダンジョンに入ることと同じくらい危険だと言われているのだ。


 なので、夜の海に行くのは最後の手段。

 どうしてもお腹が空いて死にそうになったときに、探しに行くべき場所。

 誰かに見つかれば最悪殺されるかもしれないが、それでも餓死するよりマシと考え向かうべき最後の砦だ。

 そう思いつつ、いつか誰にも虐められない身分になって海のご飯を取ってやるとシオウは決意すると、一度だけ海に向かって鼻息荒く胸を張り、ゴミ捨て場へと向かった。






「ついた「「やいやいやいやいっ! 何しに来やがったシオウ!」」・・・・・・・」


 目的のゴミ捨て場へ着いたシオウは早速物色しようとゴミ山に近づいていったのだが、そのゴミ山の頂から複数の子供達の声が木霊し、足を止める事となった。

 ゴミ山を見上げればそこには三人の男の子が腕を組んでふんぞり返っている。


「お前なんでここにきてんだよ! ここは俺達の縄張りだぞ!!」

「そうだそうだ!」

「兄貴の言う通りだぜ!」

「・・・・・・・・」


 三人の男の子達は、シオウと同じく貧民区に住む子供達。

 背の高い順から長男のパルマ、次男のウード、三男のダアである。

 まあ、三人の名前などシオウは覚えていないが。


「ここのは全部俺達家族のモンだぞ! お前はあっち行け!」

「そうだそうだ! あっち行け!」

「兄貴の言う通りだぜ!」

「・・・・・・・・・」


 一対三。

 歳の近い子達で、この前(河原の時)の状況と比べれば幾分マシな状況ではあるが、多勢無勢は変わりない。

 勝てる訳が無いと考えシオウは言われるがままに他のゴミ捨て場へ向かうことにした・・・が。


「おい! 何も言わねぇでどっか行こうとするな! 男ならなんか言い返せ!」

「そうだそうだ! 男ならなんか言え!」

「兄貴の言う通りだぜ!!」


 何も言わずに出て行くのが気に食わないのか、三人はゴミ山から下りると、シオウの行く手を阻んだ。


「ぼく、ここ以外の所でご飯探すからどいてよ」

「なにがどいてよ~だ! バッカじゃねぇの! 男ならもっと強く言い返して来いよ! じゃねぇと舐められるんだぞ!」

「そうだそうだ! 舐められるんだぞ!」

「兄貴の言う通りだぜ!」


 言い返すと、なぜか言い返し方が弱いとダメだしされる。

 いつも会うと、なぜか突っ掛かってくる三人兄弟にシオウは不満そうに口を尖らせる。


「なんだその顔は! このゴミ山のボスに向かってする顔じゃねぇぞ! もっとけんい(敬意)をもて!」

「けんい~??」

「兄貴! よくわかねぇぜ!」

「バカ野郎! お前等ちゃんと勉強しねぇと探索者になれねぇぞ! もう少しで俺はダンジョンで稼いでくんだからな!」

「おぉー! 兄貴スゲェーー! 俺も行くぞー!」

「俺も! 俺も! 俺も行くぞ!」

「バッカ! お前等はまだまだバカだからまだ駄目だ! 俺くれぇに大きくて頭がスゲェ天才にならねぇとダンジョンに入れねぇんだからな!」

「「おおー! 兄貴天才ー!!」

「ウワハハハハハハッ! そう褒めるなってんだ!」

「・・・・・・・・・」


 シオウをそっちのけで話し始めた三人であるが、その間もシオウが逃げ出さないように通せんぼうする。

 何が何でも逃がす気はないようだ。


「ねぇ、ぼくご飯探しに行きたいんだけど・・」

「はん! 何がご飯だ! 今俺の話聞いていただろ! 俺はもう少しでダンジョンに行くんだぞ! すげぇーだろ!」


 そんなの知らないよ・・・。

 もう放っておいて欲しいと願うシオウだが、そんなことはお構いなしにパルマが自慢するように胸を張り語り出す。


 ぶっちゃけ「凄いね」とパルマに言ってあげるだけで、これ以上シオウの邪魔はしないし、下手したら少しばかりの食料を分けて貰えたのだが、シオウがそれに気が付くことは無い。


「俺はもう少しで8歳になるんだぞ! そしたらステータスってのが手に入って、ダンジョンに入る事ができるようになるんだぜ! イイだろ! 俺はダンジョンでいっぱい魔物ブッ飛ばしてうめぇもんいっぱい食うんだからな! 羨ましいだろ!」

「?? ダンジョンで魔物倒すとご飯食べられるの?」

「はぁ? ばっかだなお前! ダンジョンで魔物倒すと魔石ってのが手に入って、それをギルドってとこで金に換えられるんだぞ! んでもって金と食いもんと交換すんだ! お前そんな事も知らねぇの? ばっかじゃねぇの~」

「そうだそうだ! ば~か! ば~か!」

「兄貴の言う通りだぜ! ば~かだぜ!」

「・・・・・・・・・」


 バカ呼ばわりされて更に不機嫌になりながら、もう相手したくないと三人の横を無理に通ろうとしたのだが、そうはいかないと無理やり肩を押される。


「やめてよっ!」

「はっ! 何がやめてよだ! ば~か! 少しはやり返してみろ! ば~か!」

「うるさい! 邪魔しないでよっ!」

「はっ! お前みたいな弱虫じゃステータス貰っても弱いままなんだ! どうせ一人じゃ生きられないくらい弱いままなんだからいい加減俺の子分になれよな。そしたら、ここのゴミ山で食いもん探してもいいぞ!」

「そうだそう・・・そうなの? 俺達の飯減るんじゃねぇの?」

「兄貴の言う・・・確かに、飯減るのは俺もイヤだぞ」

「テメェ等! 俺に口答えするきか!」

「「しねぇです! 何でもねぇです! 兄貴の言う通りですっ!!」」

「よしっ!」

「・・・・・ねぇ、ぼく違うところ行きたいよ」

「テメェも口答えするでねぇ! エエからオラの子分になればいいんだ!」

「ヤダよ。子分なんて・・・ぼく一人で生きていけるもん」

「生意気抜かすでねぇ! エエから弱いアンタはオラの下さいろっ!」


 絶対ヤダと言わんばかりに、顔を顰めるシオウに対して、パルマは駄々をこねるように地団太を踏む。


「兄貴! 口調が戻ってるぜ! カッコよくないんだぜ!」

「あっ、わ、わかってるだ! ん、んん! 俺の子分になれ! わかったな!」

「・・・・・・・・・・」


 もう、付き合うのが疲れたシオウは小さくため息をつくと、不意に視線を上に向けた。

 そして、


「あっ! なにあれ!」

「ん? なんだ~?」

「「んん~??」」


 ただ指を空に差して三人の視線を己から切らせた瞬間、三人の横をすり抜け、その場から逃げ出した。

 なんだかんだと素直な三人兄弟である。


「あっ! お前まてぇぇ! まだ返事聞いていないぞー!!」

「アイツずっこい! 兄貴! アイツずっこいぞっ!」

「逃げ足はえぇ! ヤベェな! アイツヤベェぞっ!」

「感心してねぇで追え!」

「「えぇ~」」

「口答えするとカカアとチチに飯抜きだって言いつけんぞ!」

「「横暴だ! だけど口答えしねぇです! 兄貴の言う通りにするです! まぁてぇ~~!!」」


 それからシオウと三人兄弟達の追いかけっこが始まったのだが、すぐにシオウは表通りに逃げ込み人混みに紛れて姿をくらました為、三人がシオウを捕まえることはできずに見失うのだった。





 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 感想や評価を受け付けておりますので、良かった点や悪かった点などを教えてもらえればと思います。


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