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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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シェミ達は


 シオウが住んでいた港町は帝国の工作で所々家が焼け落ちてしまい、未だ復興が続けられていた。

 そんな復興場所の片隅でシオウに助けられたシェミとその家族はお弁当を売っていた。

 別にシェミ達の店が火事で焼け落ちた訳ではなく、復興場所でお弁当を売った方が稼げるから訪れただけだ。

 小さな店とはいえそこは商売人。

 稼げるときに稼ぐのは常識であった。


「ぱぱ! わたしが運ぶから無理しちゃめっ!!」

「いやいや、今の時間帯忙しくなってきただろ?」


 ただし、シェミ達は強欲なわけではなく、稼ぐ理由があった。

 店が焼かれることはなく無事ではあったが、流石に今回の襲撃でシェミの両親も無傷と言う訳にも行かなかった。


 シェミの父は、妻であるミラを守るために、そして連れ去られる娘を何とか奪い返そうと抵抗したため、怪我を負ってしまった。

 家族を守るための名誉の負傷ではあったが、その怪我を治すにもそれなり金がかかるため、こうして金を稼ぎに来ていると言うわけだ。


「シェミの言う通りよ。まったく、ついてくるだけだって言ったのに、あなたったらお仕事しようとしないでくださいよ。ほらほら、ここに座って安静にしてる!」

「わかった。わかったから。休む、休むから無理やり座らせようとしないでくれ」


 妻のミラに背を押され、椅子に座らせられるユクラン。

 もともとユクランは怪我をしているのだから家で待っていればいいのだが、数日前に娘を攫われ、妻が襲われかけたので一人家で待っていることなどできるわけもなかった。

 多くの兵士達が復興作業に参加し、シェミ達以外にも多くの商売人が行きかっているので何かが起こるとは考えづらいのだがそれでも心配だった。


「お買い上げありがとうございます」

「・・・・・ありがとうございます」


 弁当を買う客にミラは丁寧に頭を下げ、シェミもミラに倣って頭を下げた。 

 美しいミラの朗らかな笑みと、その遺伝子を継ぎながらおずおずと恥ずかしそうに頭を下げるシェミの姿に、客達は小さな笑みをこぼしながら短く挨拶を返して離れていく。

 中には気前よく釣りはいらないと言う客もいるくらいなので、やはり二人の容姿はそれだけ整っているということだ。

 なのでユクランの心配も仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。


「シェミ! 弁当買いに来てやったぞ! ありがたく思えよな!」

「そうだそうだ! ありがたくおもえよな!」

「兄貴の言う通りだぜ!」


 そして、そんなシェミの容姿に引かれて三人の男の子達が店へと訪れた。

 ボロボロの服を着た三兄弟。

 貧民区に住み、時々シオウと仲良くなりたくてちょっかいをかけていた三兄弟の長男のパルマ、次男のウード、三男のダアがそこにいた。

 どうやら三人はこの復興場所で仕事をし、小銭を稼いでいるようだ。


「・・・・・・・・」

「あっ! 何で隠れるんだよ!」

「そうだそうだ! 隠れるな!」

「兄貴の言う通りだぜ!」

「あらあら・・・いらっしゃいませ。お弁当は三つでいいのかしら?」

「一つだ! そんなに買ったら夜食えねぇからな!」

「そうだそうだ! そんなに金ないぞ!」

「兄貴の言う通りだぜ!」


 ミラは慣れた物で三兄弟の相手をするが、シェミは騒がしくする三兄弟が苦手なのかユクランの元へと行き、その背に隠れてしまう。


 別に貧民区の子供だから仲良くしたくないと言う訳ではなく、なんかこの三兄弟はシオウと違ってちょっと苦手なのだ。

 暴力を振るわれることも、バカにされたこともないが、いちいち上から目線でふんぞり返りながら言って来ることが嫌なのだ。

 要するに俺様系と言うのをどうやらシェミは苦手としているようだ。


「なんでここに薄汚い貧民区のガキ共がいるんだ? ここはテメェ等の来る場所じゃねぇだろ。さっさとゴミ山にでも帰れよ」

「う、うるせぇ! すぐ終わるってんだ! す、少し待ってろ!」

「そ、そうだそうだ! 終わるってん! 兄貴! 押すなよ!」

「あ、兄貴の言う通り! あ、兄貴! 押さないで! 押さないでほしいんだな!!」


 そして少し強面の大人に凄まれれば、弟達を盾にするのも好ましくないのだろう。

 弱気になることは仕方がないし、逃げることも仕方がないと思うが、その行動だけはシェミは好きになれなかった。


(シオウならそんなことしないのに・・・)


 そう口に出さずに、見守っていると、ミラがパンパンと手を叩き仲裁に入る。


「はいはい、お国のお達しで復興作業中は身分による差別をなくすように言われているですから、子供相手に法を犯そうとしないでくださいね」

「誰も害をなそうとなんざしてねぇっての。買うのがおせぇから文句言っているだけだ」

「それは申し訳ございません。ではすぐに清算しますね。はい、パルマ君、ウード君、ダア君、お弁当よ。ちゃんと仲良く分け合って食べなさいね」

「おう! そんなの当たり前だぜ!」

「そうだそう・・・・・あれ? 昨日俺は一番デケェから半分食おうと兄貴がしていたような?」

「兄貴の言う通りだぜ。兄貴の兄貴は色々理由つけていっぱい食おうとしてたぜ」

「な、なんのことかわかんねぇだ! ふかしこいてんじゃねぇべ!」

「兄貴! 口調が戻ってるぜ! カッコよくないんだぜ!」

「兄貴の言う通りだぜ!」

「うるへぇー! それよりさっさと食って仕事すんぞ! おら行くぞー! ま、またなシェミ! また買いに来てやっからな! ありがたく思えよな!」

「あぁ! おいてくなよ兄貴!」

「待つんだぜ兄貴―!」


 なんとも騒がしい一団が嵐の様に過ぎ去っていき、ミラは困った子達だと言いたげにため息を吐くと、次の客の対応をする。

 そして、シェミも三兄弟がいなくなったことでミラの元へと戻り、同じようにお弁当を売り出した。


「アンタも大変だなミラさん。いくら国からのお達しとはいえあんなクズ共でも商売しねぇといけないなんてよぉ」

「お上には逆らえませんし、これも商売ということで割り切っていますからどうってことありませんよ。それに皆さんが気にかけてくれるだけでとても心強いです」

「へへ、ミラさんにそう言われちゃあ悪い気がしねぇな。まぁ何かあればすぐに言いな。いくら今回の騒動で貧民区のクソ共が減ったとはいえ、碌でもない奴はどこにでもいるんだからな」

「ええ、ええ、気を付けますね」

「たく、ミラさんは人が良すぎるんだ。貧民区のガキ共になんざ蹴飛ばせばいいのによ」

「ダメですよお客さん。今それをすると最低でも一日牢屋に入れられてしまいますからね」

「それにしたってわざわざ名で呼んでやることもねぇだろ? あんなクソ共をよぉ」

「それくらいは大目に見てくださいよ。名を呼ぶだけで信頼して頂けて、早々悪さをしようとはしてこないはずですから」

「貧民のガキに信頼なんてあってないようなモノだぜ? アイツ等はこちらを利用できるかどうかでしか見て来ないのだからな」

「ええ、ええ、そこら辺も十分理解していおりますので、警戒も怠っていませんよ」

「ならいいけどマジで気を付けろよ。ユクランの旦那も怪我しちまってんだからよ」

「はい、ありがとうございます」

「・・・・・・・ありがとうございます」


 代わる代わる客達から心配の声をかけられる。

 そんな客達の言葉にミラは同調するように受け答えしていった。

 以前ならば、関係ない子供を非難する言葉に悲しそうに顔を顰めていたが、シオウの一件があっていらい少し変わった。

 この国では、この街ではこれが普通の事であり、いちいち気にしていられないと思うようになった。

 そして、いくら自分の意志を通そうとも歯向かっても意味がないので、そんな身分差別に凝り固まった人々の心を動かそうとは欠片も思わなくなった。


「身分無しのクソ共が我が物顔で街を歩くとはな。世も末だねぇ。国のお偉方は何考えてんだか」

「ええ、ええ、その通りですね」

「聞いたカミラさん。今回だって貧民区のクソ共が帝国に手を貸したって話だぜ。だから俺は貧民区なんて区画さっさと潰しておけばよかったんだって言ってたんだ」

「そうですね。お客さんの言う通りですよ」

「そもそも街にアイツ等がいること自体可笑しいよな。外にでも放り出しちまえばいいのによぉ」

「その通りですけれど、野に放つと山賊が増えてしまいますからそれができないんでしょうね」


 なのでミラは話半分で受け答えしながら、対応していく。

 張り付けられた笑みを浮かべながら。


「・・・・・・・・・・」


 そんなミラの姿と街の人達の言葉を聞いて、子供ながらにシェミは思う。

 この街の人は少し嫌いだなと。


 確かに貧民区の人は怖い人ばかりで、好きにはなれないのは事実だ。

 だが、自分を助けてくれたのはその貧民区に住んでいたシオウと言う男の子。

 少し見ない間に物凄く大きくなっていたので、あの人が本当にシオウだったのかと聞かれれば自信はないが、それでも最後に自分に見せた笑みはシェミが知っているシオウの笑顔だった。


 だからシェミにとってあの人はシオウだと思うことにしたし、命を助けられたことに感謝して、貧民区育ちだからと言って差別はしたくなかった。

 生まれや育ちだけで差別すると、シオウのことをバカにしている様に思えたからだ。

 だが、それを表ざたにすると、両親に迷惑がかかる。

 そう子供ながらに理解しているシェミは


「・・・・・・・イヤだなぁ」

「?? なにかいった?」

「ん~ん、何も言ってないよ。それよりこれおつり。あってる?」

「えぇ、あっているわよ。計算できるようになって偉いわねシェミ」

「うん」


 人知れずぼそりと呟くだけで、ミラの様に己の心の内をさらけ出すことは無かった。

 




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