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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第二章 強くなり・・・そして
60/411

君は大海原へ・・・・・僕は


 あれからしばらく悩んでいたシオウであったが、いい考えが浮かび、今は必死に壁の穴を広げていた。

 ぶっちゃけ嵐が直撃したらこの船沈没するのではないかと懸念を抱くほどデカい穴を開けている。


 そして子供が数人並んでも通れるくらいの大きな穴を開けた後、今度は倉庫の端っこで積み上げられ、縄で固定されていた樽や、入り口を塞いでいた木箱を持ってくると、中身をすべて捨てた。

 そして空になった木箱と樽を今度は縄で固定する。


「よし! シェミちゃん! これに乗って帰ろ!」


 ひとまとめになった樽と木箱で即席のイカダを作ったシオウ。

 ぶっちゃけ縄の結びが甘く、イカダと言っていい代物か微妙だが、まあ水には浮くのでどうにかなるだろう。


 流石に全員乗ると沈みそうだが、子供達の中には泳げる子もいるし、最悪しがみ付けば溺れることは無いので問題ないはずだ。

 仮にバラバラになってしまっても、浮き輪代わりになる・・・はずだ。


「え・・えぇ~・・・・」


 いい考えだと思っているシオウとは裏腹に、シェミは乗り気ではない。

 まあ、普通に考えて子供が工作で作った沈没寸前の船で大海原を横断しようぜ! と言っているようなものなのだから、その反応は当然である。


「ほら行こう! ここにいても悪い人達が来ちゃうだけだし、どんどんお家から離れて行っちゃうよ! ミラさん達もシェミちゃんが帰ってこなかったら心配しちゃうよっ!」

「う・・・・・」

「それにあれ見てよ! あの船って街の兵士達が使う軍艦ってやつでしょ! 追っかけてきているみたいだし、あの船までいければ帰れるよ!」

「・・・・うん・・・・・わかったよ」


 流石に親の名前を出され、助けまで来ていると希望の光を見せられれば、無謀とはいえ頷くほかなかった。

 シェミだってお家には帰りたいのだ。


「それじゃあ皆もいいね! イカダを降ろしたら皆木の板持って飛び降りてね! 泳げる子はちゃんと泳げない子を助けるんだよっ!」


 壁を壊す際、船の壁を引っぺがした板を子供達全員に渡したシオウ。

 船に使われている木材は水に浮きやすい素材を使っているので、樽や木箱よりその木を大量に抱える方が浮きやすいのだが・・・・まあ、そこら辺は気にしなくてもいいだろう。


「やだよ~、高いのこわいよ~」

「おうち帰りたい。おうち帰りたいよ~」


 未だに泣き喚いている子もいるので、シオウの話が全員に届いている訳ではない。

 中には渡した板を投げ捨てて泣いている子もいるし、座り込んでいる子もいる。

 だがシオウはそんな子達を放っておいてイカダを海へと降ろそうと引きずり始めた。


 流石にこれ以上知らない子達の面倒は見切れないし、逃げないと言うなら好きにすればいいと思っているからだ。

 この船に乗り込んだのはあくまでシェミを助けるため。

 シェミが助けてあげようよと言われなくても檻から出したし、できるだけ助けようとはするが、逃げるために力を合わせず泣いているだけならばそれ以上世話を焼くつもりはない。

 それにできるだけのことはやったし、これ以上を求められても答えられない。

 なので、もう放っておいてシオウはシェミとシオウの指示を聞いてついて来てくれる子達だけを引き連れて逃げ出そうとした。


「随分と好き勝手してくれたな」

「え? うぎゃっ!?」


 だが、そううまく事は運ばなかった。

 いくら波の音が騒がしいとはいえ、船をここまで派手に壊していれば流石に誰かが気が付くものだ。

 そして船を壊していることに気付いた男達は、甲板から縄を使いシオウが開けた穴から入って来ると、そのまま背を向けてイカダモドキを引きずるシオウに斬りかかった。


「ばかすか壊しやがって、こりゃあ応急でも修理するのは手間がかかるぞ」


「そんな事よりなんで騎士の俺達がガキ共を檻に戻す仕事なんざしなくちゃいけねぇんだ? 貧民区のクソ共にでもやらせておけよ。こっちは碌な殺し合いできなく暇してるってのによぉ・・・・・て、何だこりゃあ、檻がひん曲げられてるぞ」


「魔力を使った痕跡は見当たらないな。まるで猛獣が力任せに曲げたように見えるが・・・・・もしやこの中に当たりがいるのか? てっきり当たりとは無縁の場所に送られてきたと思ったのだがな」


「ただ可能性があるだけだろ。まっ、調べとかねぇと戻ったら隊長に怒られちまうかもしれねぇから、メンドクセェが確認だけはやっておくか。おい! ガキ共! これをやった奴はどこのどいつだ! 言わねぇとテメェ等の手足引き千切るぞっ!」


 ぞろぞろと四人の大人達がシオウが開けた穴から入って来る。

 言葉遣いは荒いのだが、この船に入る時に倒してきた大人達とはなんか違う感じがする・・そう思いながら、シオウは斬られた痛みに耐えながら立ち上がると、シェミを庇うようにしながら彼等と対峙する。


 斬られたところがとても痛いし血が出ているが、なんか知らないけどそこまで深く斬られてないからまだ動けそうだ。


「なんでこのガキ死んでねぇんだ? お前今斬り殺したはずだよな?」


「ああ、そのつもりで斬りつけたはずだったが・・・・・・・子供相手だと思って無意識に手加減しちまったか?」


「いや、手加減しているようには見えなかったぞ。というか、その当たりのガキってのがコイツのことなんじゃねぇのか?」


「コイツが?・・・・・・いや巫女ババアは今年中に八歳児になる子供が今回の寵愛を受けた者だとか言っていただろ。流石にコイツはデカすぎるから対象外だろ。どこからどう見ても八歳児には見えねぇよ」


 大人達が何を言っているのかわからないが、そんな事よりもシオウはこの場を逃げる為に何ができるのか周りを見回した。

 周りを見回してもここから逃げるには鉄の扉を何とかこじ開けるか、壊した壁から無理やり海に飛び込むかしか選択肢がない。


 そんな事は初めからわかっており、周りを見回すだけ時間の無駄だともわかっていたが、今のシオウにはそれくらいしかできなかった。

 なぜなら、シオウの前にいる彼等は今まで相手にしてきた大人達よりも強く、


「ほぉ、コイツまだ諦めずに逃げる気だぞ。当たりかどうかは知らんが、中々に面白い奴だな。よし気にいった! ハズレであってもコイツは連れ帰るぞ! 良い暇つぶしになりそうだ!」


「なんだよ生け捕りに変更か? 面倒この上ないな」


「面倒なわけあるかよ。軽く手足を斬り飛ばすだけで捕らえられるだろうが」


「それで生け捕りになるかは微妙だがな。まあ斬り飛ばすのではなく突き刺す程度にとどめておけ。それなら死なねぇだろ」


 己よりも遥かに強いことがなんとなくわかってしまったからだ。

 どうにかして逃げるしかない。

 逃げないと最悪殺される。

 それがわかってしまい、シオウの身体は恐怖で震えだす。


「・・・・だいじょうぶ?」


 シオウが怯えている事を知り、シェミは恐る恐ると言った風に声を掛ける。

 未だにシオウと名乗る少年を、自分が知るシオウと同じ人物とは思えないシェミだが、己を守ろうとしていることは理解しており、そんな彼の恐怖心を少しでも和らげられればと思い声を掛けたのだ。


「あっ・・・・・・・・・」


 そんなシェミの存在を忘れ、自分だけでもどうにかして逃げださないと、と考えていたシオウ。

 余裕がない状態であったとはいえ、助けに来たシェミを見捨てるつもりであったことに、シオウは無性に自分が恥ずかしくなる。


「こわくない・・・・・よ? 大丈夫だよ」

「・・・・・・うん」


 優しく傷を負っていない箇所の背中を撫で、慰めてくるシェミを見て思う。

 自分だって本当は怖いのに僕を気にかけてくれるシェミは絶対守らないといけないと。


『シオウ。守りたい人ができたら全力で守れよ』

『守りたい人を守れないよりも、守りたい人を守らず逃げる方が後悔するからね』

「・・・・・・・うん」


 不意に両親の言葉を思い出すと、シオウは力強く頷く。

 そして今己が何をするべきなのか、何ができるのか考え、そして理解したシオウはこん棒を捨て


「シェミちゃん!」


 右腕でシェミを脇に抱えながら、左手で一番デカい檻を掴んだ。

 そしてにっかり笑うと


「ばいばい!」

「・・・え?」


 床に転がっていたイカダモドキを男達に向かって蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたイカダモドキは男達にぶつかる前にバラバラに切り刻まれたり、砕かれたり、受け流されたりして海へと落ちていく。


 男達の動きをその目で捉えることはできないほど速かったが、どうでもいい。

 やはりこの人達は強く、到底今のシオウでは手の届かない相手だと知ったが、そんなのどうでもいい。

 その動きだけで勝てないことを再認識されたが、心は折れず、諦める事をしないシオウは、全力で男達に向かって掴んでいた檻をぶん投げた。


 狙うは一番右端の男。

 その男だけを狙い檻をぶん投げると、シオウは檻を盾にするようにしながらシェミを抱えて突っ込んだ。

 初めから選択肢は一つだけしか選べなかった。

 他の子達を見捨てて、シェミを連れて穴から海へと逃げだす。この男達が現れてからそれ以外に選べる選択肢などなかった。


「ガッ!?」


 狙った右端の男は投げつけられる檻を避ける為、仲間達とは逆の方へと飛んで避けたが、投げつけられた檻の左側の男は、投げつけられた檻と己との距離を正確に測っており、そこから逃げ出そうとするシオウの顔面を正確に蹴りぬいた。


 シオウの考えなど読まれていたのだ。

 戦わずに逃げ出すことなど読まれていたのだ。

 そう読まれていた・・・・・・・読まれていたが、


「・・・へ・・・・へへっ」


 シオウとシェミが二人一緒に逃げだすと言うことしか読めていなかった。


「ひゅ~。いい根性してんねぇ~」


 顔面を蹴られる瞬間、シオウはシェミだけを海へと放り投げ逃がした。

 元からシオウは逃げるつもりなどなかったのだ。

 だから男達の手がシェミに届かないように敵の中央を突破するのではなく、右端の男を狙って突撃したのだ。

 男達がシェミを捕まえようとしても届かないようにするために。


 更にシェミを海に放る際、バラバラに壊されたイカダの残骸の中から比較的壊れていない樽に入る様に投げていた。

 少し痛いかも知れないが、あれならば泳げないシェミでもなんとかなるはずだ。

 それに


「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 万が一それが浮き輪の代わりにならなかったことを考えて、イカダ作りで使っていなかった木箱や樽、そして床の板など剥がして全力で外へと投げる。

 そんな事しても穴の前にいる男達の手でほとんど壊されて原形をとどめず海に落ちていくだけで、なんの意味もならないのだが、もしかしたらたった一枚の薄い板が、壊れた残骸が泳げないシェミの命綱になるかもしれない。


 可能性はゼロではない。

 そう思うとシオウは無駄かも知れないと行為であってもやめることはできなかった。

 何が正しい選択なのかわからないし、自分の行動は全て正しくない選択なのかもしれない。そう不安を覚えるもシオウは止まることができなかった。


 動かなければ目の前の男達が怖くて動けなくなってしまいそうだ。

 自分の考えなしの行動でもしかしたらシェミが溺れているかもしれない。

 そんな色々な不安や恐怖が押し寄せて心を保てなくなりそうだったから。


「煩わしいな」

「ぐぅっ!?」


 中央にいる男がそう言葉を発すると、投げつけられる木箱や樽を軽々と避けながら距離を詰めた。

 そして腰に差している細剣でシオウの肩を突き刺した。


「なんだコイツの身体。深くまで刺さらねぇぞ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 肩を突き刺された痛みを紛らわすように声をあげながら、シオウは近くの檻を掴みぶん回し始めた。

 武器はこん棒ではなくそれなりに大きな檻。

 目の前の敵は僕に武器を突き刺した状態で動かない。

 これなら絶対攻撃が当たる。

 そう思ったのだが、檻が男にあたる前にシオウの身体から細剣がいつの間にか引き抜かれており、迫っていた檻がバラバラに斬られてしまった。

 鉄でできた檻がまるでバターを切るかのように・・・。


「魔力はいつも通り纏えているな。だがコイツの身体を貫けなかったか・・・・・・・やはりコイツが当たりなのか?」

「ただ守りに特化した性質の魔力持ちなんじゃねぇの? それか特異体質とかな。まぁどこまで耐久があるか試してみようぜ」

「えっ? イッッッッッダアァァァァァァッ!?」


 いつの間にか背後に回られ、今度はガントレットを付けた男に殴り飛ばされた。

 殴られる直前右腕を滑りこませガードはしたが、今の一撃で右腕が折れた。


「おい、海に落とす気か。気を付けろ」

「ガッ!? ギャッ!?」


 殴り飛ばされた先が丁度海へと落ちるコースで、あわよくばそのまま海に逃げられたのだが、残念なことに穴の前に陣取っていた男のせいでそれは叶わなかった。

 男は殴り飛ばされるシオウの頭を優しく掴むと勢いを殺さず力の角度を変え、床に叩きつけた。

 そしてついでと言わんばかりに軽い当て身をし、真横にシオウを吹き飛ばす。


「お前も検証に加われよ」

「そうしよう」


 吹き飛ばされた先には、シェミを逃がすために檻を投げ付けた男がおり、その男は意味ありげにコキコキと指の骨を鳴らしていた。

 何かされるにしても、このまま何もできずにただやられるのはイヤだ。そう思ったシオウは腰に差していたナイフを引き抜き男に向かって突き出した。


「ただの刃物が俺達に通るはずないだろ」

「イーーーーッァァァァァッ!!?」


 男が突き出す指先にナイフが触れた。

 するとナイフはまるでガラスの様に砕け、そのまま男の指はシオウの手にブスリと突き刺さった。

 先程の細剣とは違い、深々と掌に刺さる。


「これは凄い。かなり固いぞ」


「どう思う? あたりか? それともただ単に特異体質なだけか? それとも魔力が強化寄りの防御寄りなのか? どれだと思う?」


「流石にもう少し検証してみねぇとわからなくねぇか?」


「とはいってもこれ以上壊すのは得策じゃねぇな。この船には碌な薬品置いてねぇし、俺達は治療魔法が不得意だからな」


 男達が余裕ぶって会話をしている間に、シオウは未だに指を突き刺したままの男に向かって膝蹴りを繰り出す。

 膝ならば人体で一番硬い骨が密集した場所だ。

 だから掌の様に指が突き刺さることは無いと、そう思っての攻撃だったのだが、


「ウグゥゥゥゥゥァァァッ!?」


 シオウの予想とは裏腹に、男は難なくシオウの膝を指で貫いた。


「・・・当たりかハズレかはわからんが、コイツは持って帰った方がいいな。このガキ、生身で俺の指を折りやがった」


 いや、一応は男の指一本を道連れにできたようだ。

 ただ、指一本と膝の皿とでは割に合わな過ぎる。


「マジかよ! そんなガキいる「ガンッ!」く、クハハハハハッ! すっげぇぞこのガキ! ホントすげぇ根性してるぜ!」


 痛みで叫びながらも、男の両手を塞いだ。

 ならば今反撃しないでいつするのだと言わんばかりに、シオウは唯一自由な片足で床を蹴り男の顔面に頭突きをくらわせた。

 買取所のおっさんに石頭と言われた自慢の固い頭だ。

 だから少しくらいダメージを負わせられただろう。


「・・・・・・へ・・・・・へへ」


 男の鼻から鼻血が出ている。

 一矢報いることができたことにシオウは思わず笑みを浮かべる。

 その笑みが男の逆鱗にでも触れたのか、次の瞬間目の前の男が本気で攻撃してきた。


 手と膝に突き刺さっていた指が引き抜かれる。

 バランスを崩して床に倒れそうになるシオウだが、床に倒れる前にシオウの手足に男の指が何回も、いや、何本も深々と突き刺さった。

 まるでハチの巣。

 そう思う程の穴がシオウの手足にできあがる。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


「いくらなんでもやりすぎだ。壊れちまうだろうが」


「どうすんだよこれ。帝都に帰るまで治せねぇぞ」


「つか、コイツが当たりだった場合、ヤバくないか? 始末書で済まされねぇぞ。ただでさえこんなクソ面白くもない罰ゲームを押し付けられてんだからよぉ」


「弱い癖に粋がるこのガキが悪い。まっ、流石にこれ以上はやらねぇよ。死なれても困るからな」


 やはり目の前にいる男達は全員自分よりも強かった。

 戦っても勝てないし、逃げに徹しても逃げられなかっただろう。

 だから・・・・・・・・・・よかった。


「あ・・・・あははっ」


 だからよかったんだ。

 シェミちゃんを逃がすための時間稼ぎを選んで正解だったんだ。

 シェミちゃんだけを逃がす選択は間違っていなかったんだ。

 そう自分の選択が間違いじゃなかったことが嬉しくて、シオウは自然と笑みをこぼした。


「おいおい、ぶっ壊れちまったんじゃねぇだろな」


「せっかく面白いのを見つけたってのに、これでしまいとかやめてくれよ」


「おいテメェ、ぶっ壊した責任もってちゃんと治療しろよ。つか、テメェがぶっ壊しんだからテメェが責任持てよ。俺は始末書書かねぇからな!」


「責任もクソもテメェ等も同罪だろうが・・・・・・まあ、一応治療はしておく。壊れても困るからな」


 そんな男達の話声を聞きながら、痛みから逃げるようにシオウの意識は薄れていく。


(・・・パパ・・・・ママ・・・・・僕は誰かを守れるくらい強くなれたよ)


 そう心の中で亡き両親に自慢する。

 届くはずのない空の上にいる両親に向かって・・・・。


『『頑張ったな』』


 意識を失う直前そんな両親の声が聞こえた気がして、シオウはどこか満足そうに笑みを浮かべながら意識を失った。




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