ちょっとのお勉強
ママとパパが生きていたときも軽い風邪を引いた時がある。
その時はママとパパが必死に看病してくれて何とか治ったけれど、それでも一週間近く身体のだるいのが抜けずに満足に動けなかった。
だがなぜか今回はそんな事にはならなかった。
ご飯をお腹いっぱい食べたおかげなのかわからないが、寝て起きた次の日にはいつも通り動けるようになっていた。
何でだろうと首を傾げるも、多分お腹いっぱい食べたからだろう、そうに違いないと結論づけそれ以上は考えないようにした。
そう結論づけているシオウであるが、今回風邪がすぐに治ったのは、食事が十分にとれたおかげだけではない。
暇つぶしにクリッカーで遊んでいたおかげであり、クリッカーのステージレベルが上がったおかげでシオウの全ての能力が上がったおかげであった。
クリッカーのステージをクリアしていけばシオウの能力。全ての身体能力が向上していく。
要するに肉体が頑丈になると言うことであり、それは風邪や毒などの抵抗力も強くなっていくと言うことに他ならない。
ただ栄養のある食料を取って寝ているだけでは良くなるわけないのだ。
そう普通なら違和感に気付くものなのだが、残念なことに幼い子供が気付くわけもない。
「キャロジ・・ポテイモ・・ん~?・・・!? リアンゴ!」
今シオウが何をしているかというと、裏路地から八百屋を覗き込みながら野菜を見て、それが何と言う野菜なのか当てるといった勉強をしていた。
シオウは亡き親から文字の読み書きを教わっているが、リアンゴと言う文字がどの食材を指しているのか理解していない。
なので、行きかう人の言葉を聞いては習った文字の単語と物を当てはめて少しずつ知識を高めていた。
「トビト・・ぴ・・ぴ~?・・・ピーマム! デンイコン!」
この貧民区から抜け出すためには頭が悪いままではいられない。
国が召し抱えたいと思うほど、頭のできが良いわけではないが、それでも一般市民と比べてもよい程度の知能を得る為に、シオウは数日に一度自主的に勉学に勤しんでいた。
文字の読み書き以外にも、数の数え方や算術も勉強しており、時々聞こえる謎の声からの助言というか、独り言が聞こえることで、今では二桁の足し算と引き算はお手のものであった。
今は掛け算と割り算を勉強している段階あり、それもそろそろ終わる頃だ。
算術を身に付けているだけでも商人達からかなり重宝される人材であるのだが、シオウがそのことに気が付く機会も無ければ、出会いもなかった。
「あそこのお店、小麦が高くなったわねよねぇ」
「そうね。先週の倍ほどの値段だもの。困っちゃうわ」
「??」
隠れながら、八百屋の野菜当て勉強をしていると不意にそんな話声が聞こえてきた。
どうやら近くで主婦達がおしゃべりしているようだ。
シオウが隠れている場所からは丁度死角になっている。
「なんでも東の街道で土砂崩れがおきたとかって話よ」
「あら怖い。だけど雨なんてここ最近降ってないのに土砂崩れなんて、なんでおきたのかしら?」
「それがあるお貴族様が盗賊に襲われたらしくて、そのお貴族様が連れていた護衛の魔法使い様の魔法が強すぎて、土砂崩れがおこったらしいわよ」
「なにそれ怖い。流石お貴族様がお連れする護衛ね。近づきたくないわ」
「ホントにね。下手に関わったら命がいくつあっても足りやしないよ。まあそろそろ土砂崩れの撤去作業も終わるらしいから、来週には小麦の値段も落ち着くかもしれないけどねぇ」
「そうなの? それならいいけど、そうじゃなかったら来週から夫の酒代を減らさなくちゃいけなくなるわ」
「ははっ、そりゃあ可哀想な事だね。それはそうともっといい話を教えてあげるわ。聞きたい?」
「もう、なによ。そんなに勿体つけて。それでなになに?」
「うふふ、それはね・・・お貴族様を襲った盗賊なんだけど、元々はこの街の貧民区で悪さをしていた者達らしいわよ」
「えぇ~、それって本当?」
「本当よ~。だから、その内貧民区の大掃除が始まるとかって話。最近物取りやスリが増えてきたから、これで少しは減るといいわね」
「そうね。この際だから貧民区の人達皆追い出してほしいわ」
「うふふ、そうね。出て行って欲しいわよね。じゃないと安心して暮らせないもの」
奥様方のそんな世間話を耳にしたシオウは、このままあの二人に見つかると碌な目に合わないと感じ、静かにその場から立ち去る。
そして一斉大掃除が始めると言う情報に、これからどうしようかと悩むシオウであった。