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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第二章 強くなり・・・そして
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カミナリおっさん


 コボルトは上を向くことが不得手なのか、上から飛び降りるように奇襲すると面白いほど簡単に倒すことができた。

 ただ、一度だけ攻撃をスカした時は物凄く危ない目に合った。

 コボルトってワンワン! ワンワン! 吠えて仲間を呼び寄せ囲んでくるんだもん。

 もしもコボルト達が木に登ることができれば逃げきれなかっただろう。


 そんなトラブルがありながらも、シオウは何とか住み家である一階層にたどり着き、いつものように人がこなそうな茂みの中で身を潜めながら眠りについた。


 そして次の日、シオウは昨日の疲れもあってか仮眠を取ったと言うのに昼頃まで眠り続け、目が覚めると袋の中に僅かに残っていたパンを齧りながらギルドへと向かった。

 そう、今日は昨日手に入れたコボルトの魔石を売りに行くのだ。

 小粒から中粒くらいになった魔石は多分今までにない稼ぎになるはずだ。

 もしかしたら初めて定食と言うのが食べれるかもしれない。

 そう思うと、シオウの足取りは軽くなり、ギルドに向かう速度が速まった。




「もってきた~」

「あん? なんだ坊主、昨日こねぇからくたばったのかと思ったぞ」


 手に入れた魔石を売りに来ると、挨拶代わりにそんな事を言われた。

 なんとも笑えない挨拶だが、シオウは特に気にすることは無く、「俺強いからくたばらない!」と言いながらに胸を張っていた。


「からかいがいのないガキだな。まあいい・・・・・」


 不満そうにしながら、シオウが持ってきた魔石を手に取るおっさん。

 いつもより大きい魔石を手に取り光にあてて調べていく。

 そして調べて行くうちにおっさんは徐々に眉間にシワを寄せ始めた。


「コイツはコボルトの・・・・おい、坊主。お前五階層に降りたな」

「うん、いったよ。コイツ等怖かった~」


 そんなシオウの回答にますますおっさんの眉間にシワが寄せると


「そうか、そうか・・・・・・このバカ野郎がっ!!」

「うひゃ!?」


 行き成り怒鳴られ、


「テメェちっとこっち来い!」

「うにゃぁあぁぁぁぁっ!?」


 子猫のように首根っこを掴まれると、ギルドの奥へと引きずられた。

 ずるずると部屋に引きずられ、椅子に座らされる。


「このバカガキが! テメェには常識ってはねぇのか!」

「な、なんで怒るの! 僕なにもしてないじゃん!」

「何もしてないじゃねぇ! このクソバカが! これだから貧民区上がりのガキはメンドクセェんだ」


 ガシガシと頭を掻きながらおっさんは悪態をつく。

 いつものようなからかうような言葉ではなく、つい本音が漏れてしまった。そんな感じの言葉であったため、ちょっと胸に刺さった。

 嫌われてはいないし、仲良くしてくれているし、親切にいろいろしてくれているのも理解している。

 意地悪をするけど、それでも心配くらいはしてくれている・・・・・・・そうおもっていたが、やっぱり貧民区で育ったという偏見の目で見ていたのだろう。

 こちらを蔑む心がどこかであったのだろうと嫌でも理解してしまった。


「・・・・・・・・・・」


 うるさい! と叫びたいシオウだが、口に出すことも態度に出すこともなく、いつも通り何を言っているのかわからないと言った風に惚け顔を作り反論しない。

 反論しても良い事なんてないし、おっさんが本音で貧民区上がりと口にされて、なんだかいつものようにお話しできなかったから・・・。


「クソタレが、いいかクソガキ! テメェには今ここでダンジョンの常識ってのを教えてやる。死ぬ気で理解しろ」


 おっさんはシオウの返事など待たずに、紙(羊皮紙)と羽ペンを用意するとダンジョンについて書き出しながら話し出した。


「本気のダンジョンに足を踏み入れた時一人につき一つの世界が与えられる」

「??」


 行き成り意味の分からないことを言い出したおっさんにシオウは首を傾げるも、おっさんはただ淡々と話を続けた。


「その為探索者同士が出会うことは無く、己以外の仲間とダンジョンで出会うには、四階層の魔石で作られた魔道具が必要となる」


 それがこれだと言わんばかりにおっさんは己の耳にぶら下がっているピアスを弾く。

 顔がデカくて怖いからピアスなんて目に入って無かったよ。


「このピアスの魔道具を付けてダンジョンに入れば、仲間とも他の探索者同士と合流することができ、付けていなければ誰とも出会えない効果がある・・・・まあ、それはいい、それよりもだ。この魔道具はギルドから無料で提供されている」

「え?・・・ぼく貰ってない!」

「たりめぇだバカ野郎! 本来は四階層の魔石持ってきた時に説明して、持ってきた魔石を素材にして作って渡すことになってんだ! それをテメェは勝手に五階層に降りちまったんだろうがボケが」


 それなら、貰えないのも仕方がないが、だからといってそんなに怒る意味がわからない。

 別に今から四階層の魔石を使って作って貰えばいいだけの話なのだから。


「何故五階層目から魔道具を渡すのか、その理由は、まずこれを読め」


 そういうと、おっさんが書き終えた紙をシオウに見せた。



訓練階層

一階層 銀の世界透銀虫

二階層 天地逆転の闇森ブラバド

三階層 回転拳骨森ウビ坊

四階層 熱帯泥道コヤッキー


駆けだし~中級探索者階層

五階層~十階層


中級上位探索者チーム~特級探索者階層

十一階層~二十階層


上級上位探索者チーム~特級探索者チーム階層

二十一階層~三十階層


特級上位探索者チーム階層

三十一階層~三十五階層


未知の階層

三十六階層~最終階層



 おっさんが紙に書いたのは、ダンジョンの階層とそれをギルドが判断した目安だった。


「一階層は観察眼を育て、二階層は視覚以外で魔物に気付くために作られ、三階層は空間把握能力を強化し、四階層は足場の悪い場所での足運びや地形の重要性やどこでどうやって戦うかを学ばせる訓練階層だ。一階層から四階層は人を育てるために、ダンジョンが用意した階層だ」


 なんでダンジョンがそんな人を育てる場所を用意したんだと思っていると、


「何でとか思うだろうが、そんなのしらねぇ。知りたきゃ勝手に調べろ」


 シオウの考えを読んだかのようにおっさんは答える。


「それより問題の五階層だ。五階層からダンジョンの意思や質が変わる。今まで探索者を育てていたダンジョンが、確実に殺しにくる」

「・・・・・そうだね」


 確かに五階層から魔物達の質も殺意も高くなったことを感じた。

 幸い両親からどうすればいいか聞いていたので、特にケガもなく対処できたし、二回目からの戦闘はほとんど奇襲がうまくいっていたので危なげなく勝てた。

 一回失敗したけどそれは気にしない。

 失敗は忘れないけど気にしない。

 次に生かせばいいだけだから。


「そして五階層に足を踏み入れた瞬間、ダンジョンはお前を明確な敵と認識し、攻略されないように動き出す。全世界のダンジョンがお前を敵と認識し、お前を孤立無援状態にするってことだ」

「??」

「要するにさっき言ったお前だけが入れる固有の世界を与えられるってことなっちまうんだ。誰も救援に行けない。誰も連れてはいけない世界にお前と言う存在は固定された」

「???」

「そうなる前に四階層で得られる特殊な魔石を使いお前の存在をダンジョンの外に固定する。そうすることで同じ世界に固定された探索者達が協力することができるようになる」

「・・・・・・・」

「だがお前は存在を外に固定する前に、ダンジョンに存在を固定しちまった。そうなっちまうとお前はダンジョンに囚われたことになり、ダンジョンは人のいない世界へ、誰も入って来ない世界へお前だけを連れて行く。周りはお前を殺そうとする魔物ばかりで誰の手も借りられずにダンジョン攻略を目指す無謀を強いられたってことだ。わかるか? お前は今後一人で戦わなくちゃいけねぇってことだぞ。これがどれだけヤベェことなのかわかるか!」

「・・・・・・・・・・・・・??」


 誰も入って来られない自分だけの世界が貰えるっていい事じゃね? と思うシオウ。

 シオウにとって魔物も怖いがそれ以上に人の方が怖いと思っているのだ。

 故におっさんが言っている事の重大さを全く理解していなかった。


「ああ、このバカガキが!」


 そんなシオウの態度にイラつきながら、頭をガシガシ掻く。


「今後はお前が一人で無数に生み出される魔物と戦わなけりゃいけなくなったってことなんだぞ。攻略なんて夢のまた夢になったってことなんだぞ!」

「??・・僕強いから負けない!」

「寝言ほざくな!」

「うひっ!?」


 一人の力で大量の魔物が蔓延るダンジョンを進められるのは最高で二十階層と言われている。

 それもただの探索者ではなく、探索者の中でも才能のある最上位に位置する特級探索者だけに限られた話だ。

 類まれなる才を持ち合わせていない普通の探索者では、個人で進めるのはせいぜい十階層まで。

 そして十階層以降から魔石などの買い取り金が跳ね上がると言うのに、進めないと言うことは探索者として長く続けることができないと言う事に繋がる。

 その日暮らしで良ければ十階層未満でも問題なく暮らせるが、いつか限界は来る。

 老いは誰にでも訪れるのだから。


 更に言えば十階層未満であっても、戦闘は苛烈を極め、装備の修繕も道具の消費も激しく、戦闘を楽にこなせることなどまずない。

 その為更なる出費が重なることになる。

 ならば上位の装備を整えればいいと考えるだろうが、そのためには金が必要で、金を稼ぐために、更に危険な魔物と戦う必要が出てくる。

 それが己の実力と見合わない相手だったとしてもだ。

 そして仲間のいない者が一度でもヘマをすればそこで終わり。

 誰の支援も受けられず、押し寄せる魔物から引きずって逃げてくれる仲間もいない。

 そのことにシオウは気が付いていなかった。


「寝てないぞー! ちゃんと聞いてるぞー!」

「寝てねぇのは知ってるわバカタレ! んなことで怒ってるわけじゃねぇって言ってんだよ! 俺が怒ってんのはテメェの探索者人生がおっちんじまったことに怒ってんだ!」

「ん~?? 僕はまだまだ生きてるぞーっ!!」

「そういうこと言ってねぇだろうがボケナス!」

「うひぃ!? なんで怒るのー!」

「テメェがバカだからだこのクソガキャ!!」


 シオウを心配しておっさんは怒っているのだが、そのことに全く気が付かないシオウである。

 シオウを貧民区上がりのガキと差別用語を口にし、僅かな蔑みは持ってはいるが、もしかしたらそれ以上に面倒見がよく優しいのかもしれない。

 もしくはただ口が悪く、無遠慮なだけで、差別用語をただの悪口としか認識していないのかもしれない。





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