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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第二章 強くなり・・・そして
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シオウ



 夢を見た。


 家族の夢をシオウは見た。


 父に甘やかされる夢を、母にあやされる夢を、二人に色々な話を聞かされる夢を見た。


 それはまだ生まれて間もない赤子だったシオウの記憶。

 

なんとなく覚えている暖かな日々の記憶でいつまでも見ていたいと切に願う大切な記憶だった。


 だが、夢であるからか、その暖かな記憶は消え、家族が死にゆく記憶に変わる。


 何故家族が死んだのかわからない。


 よく思い出せないが、ただ父と母が血を流して死んでいた。


 いや、病だっただろうか?


 ダメだ。覚えている記憶が本物かどうかすらわからない。


 ただ、父と母が死んだ記憶だけはある。


 悲しくて、怖くて、泣き叫びたくなる光景を、辛い記憶が流れ・・・そしてまた見る夢が変わる。





 暗く、冷たく、寂しい世界。


 それは一人貧民区で隠れ住んでいた記憶。


 一人でいるのが怖かった。


 けれど信用できない人といるのが怖かった。


 手を差し伸べようとして捕まえに来る人々が怖かった。


 昨日見かけた人が死んでいくのが怖かった。


 昨日見かけた人が連れ去られていくのが怖かった。


 逃げて、隠れて、潜む生活。


 そんな生活を続けることが怖くて、怖くて、イヤで、イヤで、イヤで・・・そして、ある時僕は死んだ。


 そう死んだはずだった。


 身体の大きな大人にお腹を蹴られて、僕の中の何かが壊れる音が聞こえた。


 痛みにこらえて、優しかった人達と笑顔で別れた。


 なんとなく最後だと思ったから、もう二度と会うことができないと思ったから。


 会いに行くと迷惑になるから僕は最後に笑ってお別れしたかったから、無理に笑顔を作ったんだ。


 そして、そのまま狭くて冷たい寂しい場所で死んだ。


 痛みが消えて、身体が重くなって、眠くなって、気が付いたら息が止まっていただけ、それだけの事で、それだけの事が起こっただけで、僕はママとパパの所に行ったはずだった。


 そう、やっと二人に会える場所に行けたはずなのに・・・・。





「・・・・・・・・」


 コシコシと目を擦りながら、周囲に視線を向ける。

 見慣れない木や葉で作られた小屋が遠くに建ち並んでいる。

 それが視界に入り込んだことで、ここがどこなのか理解したシオウは自分が寝ていたことに驚く。


 寝るつもりなどなかった。

 ここは危険な場所であると理解しているから、少し息を整えるつもりで寝るつもりなどなかったのだ。


 ここはダンジョンの五階層。

 危険な魔物のコボルトがいる階層だ。

 そんな所で一人意識を手放すなど自殺行為以外のなにものでもない。

 身を隠しているとはいえ、生きて目を覚ませたのは運がよかった。


「・・・帰ろう」


 今日は疲れた、これ以上の戦闘は避けてさっさと安全な一階層に戻ろうと視線を動かすと、帰り道にコボルト数匹いるのを見つけてしまった。

 木の上から見下ろしていたからすぐに気付けたが、もしも木の上に登っていなかったら気が付くのが遅れ複数相手に戦う羽目になっていたかもしれない。


「いなくなるまで待つ・・・・・・ううん、無理。動く気無さそう」


 シオウが逃げてくることを知っているかのように、入り口から全く動こうとしないコボルト達。

 なぜかわからないが、この階層に来てから魔物達の殺意が上がっているように思える。

 四階層までそこまで人を殺そうとしていなかったのに・・・・。


「・・・・・・一匹ずつやるしかない。大丈夫僕は強い子だもん」


 そういうとシオウは木々を伝いながらコボルトに奇襲を仕掛けていった。


 シオウは変わった。

 たった一度のコボルトの戦いを経て変わったのだろうか?

 それとも、彼の特殊能力『クリッカー』がステージ10になったときに、身体が作り替えられたときに、精神さえも変えられてしまったのだろうか?


 否


 切っ掛けではあったが、根本的に彼が変わったのは、一度死を味わったからだろう。

 無慈悲に振るわれた暴力に、命の灯が消えた瞬間を味わった故に、少しばかり価値観が変わった。


 可愛い魔物がいて、怖い魔物がいて、優しい人がいて、酷い人もいる。

 世界の半分に良い人がいて、半分悪い人がいて、その中でシオウに対して優しい人が一握りだけいて、他は悪意と蔑みと無関心な人ばかりだと理解したのだ。


 そんな世界で死なない為に生きるには、殺すしかない。

 死なない為に、生きるために、隠れて、潜んで、逃げて、殺すしかない。

 選べるのはこの四つだけ。


 シオウは一度死んだことで、頭で理解するだけでなくその身で理解した。

 逃げるだけではダメだと言うことを。

 怖くとも、身を守るだけではダメだと、命を奪いに来るならば、命を奪われる前に奪わなければいけないと言うことを。

 彼は幼いながらにそれを理解させられたのだ。


「夢みたいに死なないもん・・・・ん? 夢だから気にしなくていいのかな?・・・・・・けどなんか違うような・・・・・・ま・・・・いっか」


 夢の内容を思い浮かべながら、シオウは首を傾げつつ、物音をたてずにコボル達に忍び寄っていった。

 生きるためにその命を奪うために。




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