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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第二章 強くなり・・・そして
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お遊びが終わる階層


 夕日に照らされたいっぱいの秘密基地

 五階層にたどり着いてシオウが最初に思ったことはそれだった。


 その昔、人々は枝と枝を組み合わせ、大量の葉を壁や屋根代わりにして暮らしていた。

 地球で言えば原始人の人達がそう言った家を作っていた住み家が、今シオウの目の前にはいくつもそう言った家が広がっていた。


「・・・・・・・・」


 家があるのだから誰かが住んでいるのかもしれないと、シオウは家の中を覗き込むが、そこには誰もいない。

 ところ狭しと家が並んではいるが、どの家には誰も住んではいなかった。

 独特な匂いの発する変色した果物が置いてあったり、腐った肉がぶら下がっていたりと、一応生活している形跡はあるのが、どの家を覗いても生活している生物を見つけることができなかった。


「・・・・・・・・・・」


 村を進んでも、家をいくつも覗いても何もいない。

 もしやこの階層には魔物がいないのだろうか? と考えそうなほどだが、生憎とシオウはそんな考えには至らない。

 それはなぜかと言うと、先程から何かいるのは確実だからだ。


 クリッカーのおかげで身体能力だけでなく、五感まで鋭くなったシオウだからこそすぐに気付けたのだろう。

 この階層に足を踏み入れ、家を覗き込みだしてから僅かに草木をかき分ける音を聞こえてきた。

 風も吹いていないのに茂みが僅かに揺れた。

 何かがいるのは確実で、その何かが何なのかわからないが、シオウの隙を伺っているのは火を見るより明らか。


「・・・・・・・・・」


 シオウは揺れた茂み近くの家を覗いた後、ワザと物音をたてながら家の中を漁り始めた。

 勿論入り口に背を向けながら。


「・・・・・・・・・・」


 ただ黙々と家探しをする。

 ものが壊れることなど気にせず、家を荒らしていった。


 ザッ!


 入り口から差し込む陽の光が陰り、土を勢いよく蹴り上げる足音を耳にした。

 その瞬間シオウは何も考えずただ一心不乱に横に飛び退く。

 飛び退いた後、こん棒を抜き構えた。


「お前知ってる。ママとパパが教えてくれた怖い魔物の一つ・・・・・・・コボルトだろ」

「グルルルッ」


 人型ではあるが獣人ではない野蛮で残忍な魔物。

 牙と爪は野生の獣と同じで脅威であり、更に知能の高いコボルトは武器を持ち、鎧を纏う。


 幸いシオウが対峙しているコボルトは知能が低いのか武器や鎧を身に着けておらず、己の肉体を武器として戦うコボルトだった。

 コボルトという種族の中でも最下級に位置する魔物のようであるが、それでもシオウにとっては油断できる魔物ではなかった。


 道具は使えないが、それでも人の様に二足歩行で戦うことができる魔物。

 純粋な殴り合いもさることながら、掴まればあの鋭い爪が肌を食いこみ傷付ける。

 組みつかれれば、あの鋭い牙に噛みつかれ食い千切られる。


『コボルトか~、コイツ等の上位種は結構面倒・・・・・いやいや、違う。こわ~い相手だったぞ。こういう四足歩行の獣種から人型種に変異した魔物は一番あぶねぇんだ。コイツ等俺達人族と同じように二足歩行できるばかりか、四足歩行での攻撃方法まで持ち合わせてるからな。しかも力も結構強い。だからもしもシオウがコボルトと戦うことになったらまともにやり合おうなんて思っちゃダメだぞ』

「わかってるよ。パパ」


 目の前にいる魔物を見て、不意に亡き父から聞かされた寝物語を思い出す。

 その懐かしくも心が暖かくなる声に笑みを浮かばせながら返事を返すと、家探ししている間に袖の下に隠し持っていた変色した果物を投げつけた。


 投げつけた果物は、コボルトに煩わしそうに手で払われるだけで、何のダメージもあたえない。

 だが、シオウにとってはそれでよかった。

 一瞬だけ自分から意識を割いてくれるだけで良かったのだ。


「わぁぁぁぁぁっ!」


 一瞬の隙をついてシオウは入り口に向かって走り出す。

 目的は逃走。

 危険な相手には関わらない。

 命あっての物種である。

 故に全力で入り口に向かって駈け出した。

 弱者としてその判断は悪くはなかった、悪くはなかったが、


「ガアァッ!!」


 流石にそううまくいくいかなかった。

 一瞬意識を反らしたくらいで逃げられるほど甘くはない。

 すぐにコボルトはシオウを食い殺そうと四足歩行に切り替え追いかけると、野犬の様に喉元を食らいつこうとした。


『だからまずは逃げろ。相手に背を向けて自分は弱いんだって見せてやれば、二足歩行を覚えたとしても奴は獣だ。すぐに逃げる獲物を仕留めるために四足歩行に切り替え、ものの数秒で追いつかれる。そしたらすぐに振り返り』

「『距離を詰めろっ!!』」

「!?」


 逃げ出した獲物が行き成り己の方に体を向けてきたことにコボルトは驚く。


『犬の足は前に進むことに特化してるが後ろに飛び退くことを苦手としている。だからこっちから距離を詰めてしまえばいい。距離を詰めて思い切りぶん殴れ』


 その言葉に従うようにシオウはこん棒で殴りかかる。


『それとシオウ。これもちゃんと覚えておくのよ。逃げるときは私の様にか弱い女や子供を演じながら大声をあげるの。そして攻撃の時は喉が潰れるんじゃないかって程に声をあげてね。声をあげることで絶対それが貴方の力になってくれる。声をあげれば恐怖だって振り払えるんだから』

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 シオウは両親の言葉を思い出しながら、全力でこん棒を振り抜く。

 初めて怖い魔物がいると感じて僅かに強張っていた身体も、恐怖に飲まれそうになっていた心も全部叫んだ声と共に吐きだされ、恐怖が薄まったシオウの全力の攻撃はコボルトの顔面に直撃した。


「ウグアッァァ!?」


 顔が半分近く陥没したが、コボルトは煙のように消えることは無い。


『攻撃が当たれば相手は怯む』

『怯んだ隙を逃していいの?』

「ダメ! 逃さない! 力の限り全力で勝つ!」

『そう勝て!』『勝ちなさい』

「デヤアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 何処を狙うなど考えない。

 ただ今目の前にいる敵に向かって思い切り振り下ろすだけ。

 相手が煙になって消えるまで、何度も何度も振り下ろし続けた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 撲殺。

 その言葉が似あうほどに、コボルトの身体は赤く腫れあがり、所々グチャグチャに潰れていた。

 返り血も浴びたシオウだが、コボルトが煙のように消えると、こん棒や己の肌についていた血は綺麗に消えていった。

 そしてコボルトが消えたかわりに、今まで見た中で一番大きな魔石をシオウは手に入れた。

 とはいっても小石程度の大きさであるが。


「え、えへへ。パパとママの言う通りだ。怖かったけど勝ったもんね。僕は強いから勝ったもんね!」


 当然だぜと言わんばかりに、シオウは魔石を拾いあげようと手を伸ばした。

 だが、手が震えてうまく魔石を取ることができなかった。


 ここまで魔物を倒してきた。

 ブラバドもウビ坊もコヤッキーも倒してきた。

 だが・・・それでもこんな風に血を見ることも死体を見ることも無かった。

 いくら殴っても四階層までの魔物は血など流れなかった。

 血が流れる前に死んでいったのだから。


「ただ、ちょっと疲れちゃった。え、えへへ。ちょっと休もうっと」


 そう言うと何とか魔石を拾ったシオウはこん棒を腰に差しながら、木の上に登っていった。

 そして木々で身を隠すようにしながら目を閉じ、一息入れる。

 魔物が蔓延る場所で瞳を閉じる行為は危険だとわかっていたが、それでも初めて人型の魔物を倒し、尚且つ血を流す光景を目の当たりにして幼い心が休息を求めたのだ。


「少しだけ・・・少しだけ・・・・・・・・・くりっか~」


 心の休息を求めてシオウはスライムの画面を呼び出すと、目を閉じたままその画面に手を伸ばし掴んだ。

 そして、宝物を抱えるように、恐怖を紛らわせるように、一人と言う寂しさを紛らわせるように、ただただ平べったい画面のスライムを抱えて目を閉じ続けた。




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